61.回復
・前回のあらすじです。
『ユノがマーリンに100点をもらう』
マーリンはソファにもどらずに、鞘をユノの肩にあてた。
二の腕から先のない、右のほうに。
「もうすぐうるさいのが上がるでしょうからね。さっさと済ましちゃいましょ」
「あの~。できれば、超越の仕方を教えてもらってからの方が、心強いんですけど」
「安心なさいよ。あんたはもう、その方法を知ってるわ。超越ってのは、善い生きかたを知ってるってだけの話だから」
マーリンはエクスカリバーの鞘に魔力を込めた。魔法の宝玉――魔石が反応し、黄緑の光と風を解き放つ。
「心当たりがないんですけど」
「じゃあ天然で出来てるってことでしょ。でなきゃ私がヒイキにする理由もないものね」
(やっぱり厚遇してくれてたんじゃないか)
――旋風がユノの肩口に取りついた。
しゅるしゅる。
布のように巻いて、少年の腕の形をつくる。
包帯を巻いたような造形。
ぱあんっ。
光がはじけて、風も止んだ。
砕けた魔法のつむじから、無くなっていた部分が出現する。
右のそでぐちから、掌が。
長そでをまくると、日にやけた肌に、うっすらと血管の浮いた腕がのぞく。
「これが、エクスカリバーの鞘の魔法なんですか」
ユノは光輝く鞘を、ソファに座ったまま見上げた。なんなら、そのままもらえたら今後の旅の助けになるのだが。
ばきいんっ。
――鞘は砕け散った。
「ありゃ。やっぱ寿命だったわね」
魔法の石から光沢が失せる。
こころなしか、革の外装を補強していた鉄部分も、急速に強さを失くしたように感じた。
ユノの目が点になる。
ザラザラと鞘は灰になり、やがて跡形もなく消えた。
「あの、マーリンさん」
「あん?」
「それと同じものを、もう一つ作ってもらうわけには……」
「むちゃ言わないでよ。これオリハルコン混ざってんのよ。おいそれと作れるワケないでしょうが」
「……そうですか……」
ユノはがっくりとうなだれた。
トトトー。
廊下のほうから、香草でつくった入浴剤の香りがする。
「お風呂いただきましたー。あ、」
髪留めをはずし、背中まで流した栗色の髪。お湯でほてった顔に、ぱっとエバは笑顔を浮かべた。
大きめのローブ状の寝間着すがたになった彼女が手をたたく。
「ユノさん、腕を治してもらったんですね」
「うん……まあね」
復活した腕――久しぶりの右手の、五本の指をワキワキとユノは動かした。
「なーんかイヤらしい手つきね」
(おっさんみたいなこと言うなあ……)
うしろから率直な意見をするマーリンに、ユノは心のなかで反抗した。
ジッ。
と右手に視線を落とす。




