58.思惑
・前回のあらすじです。
『ユノたちがエクスカリバーの鞘をほりあてる』
〇
ふたり分の椅子をエバがかかえて、ユノたちは納屋を出た。
短い道を、マーリンの屋敷に向かっていく。
暗い森のなか。冷たい夜気に当てられて、ユノはふと懐疑的になっていた。
(でも、どうしてマーリンさんはボクたちに協力的なんだろう)
夜闇にまぎれた雑木林。それを成す大木は、いずれも人を孕んだような造形。
悲鳴をあげる人物の表情や、裸身をなぞったような幹のねじくれは、かつてユノが対峙した、魔王ディアボロスの城にあった石像を彷彿とさせる。
(人、なんだろうな)
暗く、影に埋もれて輪郭だけをかろうじて認められる木々。
もといた世界の童話を唐突に思い出し、身体がぶるり震える。
(とっつかまえられて、魔法の材料とか。あるいは、食べられたりとかしなきゃいいけど)
「……」
屋敷の裏手についていた。横から、エバがきょとんとユノを見あげる。
「入らないんですか?」
彼女は棒立ちするユノに訊いた。ひょっとユノは飛びのく。
びっくり半分。邪魔をしていたことに、申しわけなさ半分……。
エバがドアを開けるのを、ユノはながめていた。
(マーリンさんに|啖呵《たんか切ったのはいいけど)
腕が元に戻っても、旅はつづく。エバとはここでお別れになるが、いずれ相まみえることになるかもしれない。
(なんとか、それを回避することってできないのかな)
ペンドラゴン王家の長女――第一王女、アテナ。彼女のすすめでユノは隻腕を治しにきたが、彼女がただの親切をはたらくとは思えない。
大方また“勇者”として王家の指示通りに動くことになるのだろう。
そうユノは予想を立てていた。
(マーリンさんなら、なにか知恵を貸してくれるのかな)
意図がどうあれ、マーリンは今、ユノとエバに好意的に接してくれている。
あれもこれもと欲張ると、手痛いしっぺ返しを食らいそうだが――
「ちょっとー、風入ってきてさむいんだけど」
マーリンの声がなかから飛んだ。
エバはもう屋敷に入っている。
ユノは駆け足でマーリンの家に帰宅した。ドアを閉じ、錠をかける。
彼が相談をするまえに、ダイニングでの夕食がはじまった。




