55.コレクション
・前回のあらすじです。
『エバがマーリンの家で目をさます』
「おあいにくさま。私がそのマーリンさまよ」
短衣を押しあげる胸に手をあてて、彼女はほこらしげに名乗った。
エバがユノのほうを見る。
「ほんとうだよ。ボクたち、大きなジェムの女の子に襲われたでしょ? そこをこの人が、助けてくれたんだ」
「……ええー」
「いやならとっとこ帰んなさいよ。こっちだって弟子とる気はないんだから」
椅子の前脚を床におろして、マーリンはエバに半眼をむける。彼女があけているごわごわのページを、エバはうらみがましそうに見た。
「それ、なんて書いてあるかわかるんですか?」
「あんたが寝てるあいだに、ざっと目は通したわよ」
「どれくらい寝てたんですか、私」
「半日だよ」
ユノが答えた。
窓の外は暗くなっていた。
ほーほーと、みみずくの鳴く声がする。
マーリンが椅子から腰をあげる。
「この本はよその世界の聖典。創世の神話が書かれているバイブルね。一神教だから、”神話“ってーのは語弊があるけど」
エバも床から立ちあがった。
かるく打ったおしりを、キュロットのうえからたたく。
「マーリンさん」
「なによ」
エバはため息をついた。「なんなのよ」とマーリンはこめかみに青筋をうかべる。
「私、一人前の魔法使いになりたいんです。その本がないと」
「だーいじょうぶよ。素質はじゅーぶんだから。類型の魔法おしえてあげる。で、こっちは私の読む用にもらっといてあげるわ」
「よむよう?」
ユノが不審そうに眉をひそめた。エバも似た表情になる。
「そう。いま本棚にあるやつは保存用にまわすわ。こっちのが汚いんだもの」
「もう一冊持ってるなら返してくださいよ!」
とびつくエバを、マーリンはブーツの底で止めた。
顔をぐぐぐと押さえつけられながらも、エバは必死に手をのばす。
「んなことより、晩ごはんにしましょ。モルガーン、準備してちょうだい」
台所から、「へいへい」と青い髪の少年が出てきた。エプロンすがたに、おたまを片手に持っている。
ユノはすでに、彼がマーリンのもとで召し使いをしているのを知っていた。
ずっと眠っていたエバは、しばらくくちをぱくぱくした。




