54.サービス
・前回のあらすじです。
『マーリンがエバを生きかえらせる』
〇
森の奥の屋敷。
離れに納屋のある、こぢんまりした住まいだ。
そのリビングのソファでエバは目をさました。
むくりとちいさな身を起こす。
毛布がすべり落ちる。あたまがぼんやりする。
「エバ!」
ユノは対面の席からとびあがった。手にしていた本を取り落とす。ローテーブルを迂回する。
「ユノさん。私、ずっとねてた?」
ぼけっと見つめる少女に、ユノはためらいつつもうなずいた。
本当のことは黙っておく。
リビングとひとつづきのダイニングから声がする。
「感謝してよね。この私が出血大サービスで、回復させてやったんだから」
ぎょっとエバは振りかえった。ソファの背もたれにしがみつく。
テーブルに長い脚を投げだして、椅子をアンバランスな姿勢でゆらゆらさせた女がいる。長い金髪の若いひとで、手には魔法書を開いていた。
「あっ、私のグリモワール」
エバはすぐとソファからおりた。病みあがりとは思えない元気で、女――マーリンに取りすがる。
「かえしてください!」
べちっ。
エバの顔をマーリンは手で押しとどめた。グリモワールを遠ざける。
「こいつはせめてもの授業料。あなた。私に弟子入りしたいんだってね。そこのおつれさんから聞いたわよ」
「私はマーリンさんに入門したいのであって。おねえさんみたいなあたまよわそうな人に用はありません」
ほっぺをぎぎぎと押しかえされながらも、エバ。
(容赦ないなあ)
ユノも思っていた印象を言う彼女に、ユノは心のなかで称賛した。
マーリンはデコピンをする。
魔力はこもってないだろうが――エバが後方にふきとぶ。
ころんと、床にひっくりかえる。




