53‐a.天は自ら助くる者を助く
・前回(『52.アイデンティティ』)のあらすじです。
『ユノがエバの蘇生について考える』
――はっ。
ユノは目を見開いた。
(ボクは、何を考えてたんだ?)
自分がぼんやりとしていたことに、気がついたのだ。
ユノはマーリンを見上げた。
――迷う必要なんて無かった。
(『打つ手』とか、どうしたらマーリンさんが『言うことを聞いてくれるか』とか……)
相手は信念のある人間で、攻略法など望むべくもない。
(エバを助けて欲しいんだ。それだけ……)
だめは承知で、ユノはくちを開いた。
「マーリンさん、あなたにエバを助ける理由が無いのはわかりました。ボクらの幸や不幸が、そっちになんの関係もないことも」
「光栄ね」
肩をすくめてマーリンは冷やかす。
ユノはつづけた。
「でも、ボクにも関係ないんだ。あなたが迷惑かどうかなんて」
妖艶な魔女のくちが、「わお」の形に動いた。
感情のままユノは訴える。
言葉は次から次へと出た。
「エバが、魔王ディアボロスに代わる存在だっていうのは知ってます。気づいてたんです、ボク。旅の途中から」
「んじゃあ、いないほうが都合いいんじゃないの。それとも、今はいるほうがよいんだっけかね」
『善』と『悪』のちからのバランス。善きちからは、やがて人を駆逐する。ならエバは、必要な邪神だった。
ユノは答える。
「あなたがなんて思っても、べつにいいです。でも、ボクにとってはエバはエバで……ここまで一緒に来た仲間なんです」
「それをいつか討つってオチだと思うけどー。セレンあたりに唆されて」
ユノは押し黙った。それは少し考えたことだし、彼女を手にかける未来はきてほしくなかった。――だが。
「じゃあ、その時にボクは、改めてエバを殺すんでしょう」
ぱちくり。
金の目が瞬いた。
ふーん。と生い茂る木々に隠れた天を、マーリンは仰ぐ。
(……駄目。か……)
退屈そうに鼻を鳴らす相手に、ユノは項垂れる。
「あんた、どっちかってーとこっちよりの人種だったのね」
そのまま帰ると思っていたユノは、飛んできたマーリンの声に頭を上げた。
「……こっち、寄り?」
「気にしなくていいわよ。弾みで言っただけだから」
マーリンは顔のまえで手を振った。ユノのほうに歩く。
――膝を折ってしゃがみ、エバの具合を見る。
おなかから胸にかけて穴があいている。ふたつの肺は破損。頭も頭蓋骨が割れて、脳がいくらか出ていた。
「いい言葉よね」
「は……?」
「神は自らを助くるものを助く、って」
金の瞳はクッと動いて、ユノに据えられていた。
マーリンは静かに微笑した。
「――つまり、自分は神ってことだから」
マーリンはユノにウインクした。
エバに手をかざし、魔法を展開する。
白い光が少女を包む。
エバの身体にできた傷が、塞がっていく。
エバの顔に、血の色がもどってくる。




