48.月桂樹の乙女
・前回のあらすじです。
『ユノとエバが結界からぬけだす』
道は不自然に途切れていた。見えない刃物でけずったように、丸く切りとられた焦げ目
――刃物?
魔法使いにとっては、魔力の壁を展開した痕だと明瞭な、クッキリとした境目。
ユノは目を見張った。エバはくちを押さえて、悲鳴を殺す。
上半身を、枝のように迫りだした女がいた。
エバが見たオブジェクト――月桂樹だ。
巨大な、【宝石】でできた。
女は、まだ少女と呼べる若さだった。透明度の高い石と、全身が同化している。
胸のまえに両手をからめて、まるで、祈りをささげるしぐさのまま、彼女は虚空を見つめていた。
うつろな……眼窩で。
「彫像?」
その場からすすめずに、ユノは言った。エバも、足が動かない。
「これ、魔石でできてる? すごく大きな……」
――バシ!
地面からツタが伸びた。
するどい一撃がエバを打つ。
「なっ――」
土に倒れたエバを、ユノは片腕にかかえて跳んだ。
ふたりのいた地点を、今度は幾条もの根が伸びて、刺突する。
『強大な――【妖気】を検知』
声がする。
宝石の彫像から。
『モード――に移行。……い除、しまス』
(このオブジェクト……生きてる!?)
ユノは剣を抜いた。
愕然としかけた気持ちをふるい起こし、ふりそそぐツタや根の斬撃を、切りはらう。
【気術】で体力のいくばくかを持っていかれていた。
エバも魔法で消耗していて、動きがにぶい。
――ボゴン!
地面から更に追加された樹木のニードルが、頭上からふたりを鞭打つ。
理不尽な増援に、ユノの思考が止まる。
『……の、系譜を――』
不鮮明な声。
チャンネルのずれたラジオのような、ノイズだらけの音。
だが、彼女の命令は、同化した月桂樹には伝わっていて、それは絶対であるようだった。
少女の指示を受けた根が、ユノの腹を穿つ。
間一髪よけたものの、硬質な突きは脇腹をけずっていた。
赤い血と肉片が飛ぶ。
――深い。
「くっ、あ……!」
「いま回復を――」
ヒザをつき、血だまりを作るユノに、エバは背後から手を向けた。
魔法の浪費でグラグラするアタマに、構成を思い起こす。
ドッ!
――太い根が、小さなからだをつらぬいた。
魔法の構図が霧散する。
追いうちとばかりに、エバのこめかみを根が横殴りする。
「…………っ」
穴のあいたエバの体躯が、地面をはねた。
点々と、斑模様が土につく。
ユノのかすんだ視界で、彼女がケイレンする。
動かなくなる。
じわりと、エバの胴と頭から血がながれた。
赤い水溜まりをつくる。




