41.望遠鏡
・前回のあらすじです。
『エバのはたらきで、ユノが起きる』
荷物はユノたちと一緒に島に打ちあげられていた。
保存食は海水にやられてふやけていたが、瓶詰めにしていた薬類は無事である。
エバの長杖は流されてしまっていた。ユノの帯刀していた剣は、さらわれずに共にある。
「ここ、どこだろうね」
「たぶん町のちかくだと思います。レールノザの」
「じゃあ、シチリ島?」
ユノが訊くと、エバはゆっくり首肯した。
肩かけ鞄から、望遠鏡をユノは取り出す。念のため、対岸の都市を確認する。
たゆたう水面。
ザあン……。とおだやかに波うつ海に、長い橋がつづいている。
たなびく白と黒の煙。
くすぶった匂い。
大橋の果てにくちを閉ざす、大都市の北門。
巨大な門扉のうえに、『レールノザ』と、メルクリウス語で表記された看板がある。
「ユノさん、私も見たい」
両手を出してねだるエバに、ユノは望遠鏡を渡した。
嬉々として、彼女はあっちこっちにレンズを向ける。楽しそう。
「びしょびしょだー」
ユノは自分の服を改めて見下ろした。
うっすらと、この島に流されることになった経緯を思い出す。
「……そーだ。ボクたち、門番の人に追っかけられて、海に落ちたんだった」
「厳戒態勢って感じでしたね、町は。関所の封鎖もそうですけど……逃げるのはともかく、入るのを規制するのはなんでなんでしょう?」
「わからないけど、敵がわの応援が来るのにおびえてるとか?」
レンズを向けてくる少女にユノは答えた。
望遠鏡を受け取り、鞄になおす。立ちあがる。
「とにかく、ここにマーリンって人がいるんだよね」
はい。とエバはしっかり返事をした。
ユノも、彼女の快活な反応に元気が湧く。
「よし。じゃあ早くみつけて、お互いに目的を果たしちゃお」
エバはぶあつい本を抱きしめた。森のほうにくるりと向いたユノについていく。
――チカッ。
ユノの襟首についたままの鉤が輝く。
糸が引っぱられて、竿が動く。
「あ、ユノさん。釣り針ついたままですよ」
「えっ」
襟をたぐり寄せ、ユノは小さな金属の刺さっているのを見つけた。
布ごとちぎってはずす。
取った鉤と、釣り糸でつながった竿を交互に見る。
「ねえ。ここって、無人島って触れ込みじゃなかった?」
「ですね」
もとより信じてはいなかったが。
なんとなく胡乱な表情になって、目のまえに広がる大森林を、ユノたちは見据えた。




