36.門番
・再開します。
・前回までのあらすじです。
『魔王をたおし、異世界【メルクリウス】にかりそめの平和をもたらした、勇者【ユノ】。彼は、旅のとちゅうに犯した罪を問われ、ギロチンにかけられるものの、王女のはからいにより放免された。
一方で。来たる混乱にそなえて、王族はユノのちからを使うことを計画。そのため、戦いの過程で隻腕になったユノを完治するために、【マーリン】という魔法使いをたずねることを提案する。
ユノはマーリンのいる小島にいくため、管轄地である都市・【レールノザ】をめざす。目的地をおなじくする、魔法使いの少女【エバ】とパーティを組んだユノは、封鎖された関所をこえるべく、窮地のなかで、魔法の薬草【ミミル草】を食べるのだが。
それはミミル草とよくにた毒草【ルルル草】であるかもしれなかった』
※モブキャラクターの視点から開始します。
空に光が奔った。
昼日中の晴天である。
学都レールノザの市門で番をしていた青年が、軍帽の庇をクイッと上げる。
「またか」
ちっ。と舌を打って、青年――シャルルは【マジックアイテム】を解放した。
【飛翔のベルト】。統領がわに寝がえった魔法研究者が、いそぎ開発した最先端の装置である。
より年わかい、もうひとりの門番フランツが、けむりたつ都市のほうを見やる。
スレートの屋根と尖塔群。
初等学校から大学までの、あらゆる学術施設が集中した大都市。
【魔石】をもちいた冒険者用アイテムの生産・研究が盛んで、市街にたなびく煙のほとんどは、実験室の煙突からのぼるもの。ほかは町の裏手でおこなわれる火刑によるものである。
混乱をきわめる自治領【カデイア】を出ようとするものは多い。
魔の血の政権を推す反乱分子と、その支持者に亡命の動きは顕著だった。
勝利の気色が人間側にかたむいているのだ。
ともあれ。内乱は今しばらくつづくだろう。
小さな打ち合いは日ごとに減っているものの、いちど燃えあがった憎悪の熱は、燎原の火のごとく領土の全域に伝染し、もはやだれの手にも負えない。
ひゅん。
すその長い軍衣をつけた青年が、空からもどってくる。
彼の腕にはつかまえた【魔族】が抱えられていた。
九十代ほどの、トカゲの尾を持つ老人。
「こんな昼間っから飛んで亡命なんざ、『見つけてくれ』って言ってるようなもんだぜ。じいさん」
小柄でやせさらばえた老人を、かわいた地面に投げだす。
老爺の荷物は、小さなずだ袋がひとつきりだった。身につけているのは、ぼろのローブ一枚きり。
「たっ、たすけてください」
ぼけっと門のまえで待っていたフランツに、ほうほうの体で、老人はしがみつく。
「わしは反乱には無関係です。現在の統領の慈悲あらばこそ、今まで安穏と過ごすことができました。それに、楯突こうなどと……」
けりっ。
フランツは哀願する老人を足で突き放した。
「『魔の血とそれに与する連中は皆殺し』というのが、その統領の御こころだよ」
「そ……、」
ぐいっ。
フードをつかまれ、老人の言葉はつっかえた。
「すまんねじいさん。あんたの相手ばかりはしてられないんだよ」
町から出てきた警邏の兵士に、シャルルは老人を引きわたす。
なにごとかを喚きながら連行されていく魔族を尻目に、門番のふたりはふたつの光点が学都へと迫るのを見あげた。
「今度はねずみの相手をしなきゃなんないんでな」




