35.ルルル草
・前回のあらすじです。
『ユノたちがモルガンにおいてけぼりをくらう』
〇
じっ。
とユノとエバは輝く植物たちと対峙していた。
ひとつ。ふたつ。
器用に片手で草を摘み、目のまえに持ってきてユノは見比べる。
「……これがミミル草かどうか。エバわかる?」
「魔法植物はあんまり……」
ユノは「そっか」と落胆する。
エバがフォローするように。
「あ、でもっ、ふつうの雑草とかならちょっとはわかりますよ。それが主食だったんで」
(かなしいなぁ……)
しゃがみこんだ姿勢でユノはさらにうなだれた。エバはもともと浮浪者である。
「あのー。洞窟の入り口で会った――妖精の」
「セレンさんのこと?」
エバは首を縦に振った。あちこちに咲く花を見わたして。
「彼女ならわかるんじゃないですか。魔法や植物で、妖精にまさる知恵者はいないんじゃあ」
セレンの薄っぺらな笑顔をユノは思いかえす。
(たしかに。賢さを鼻にかけてるって感じはある)
思いつつ、気持ちは呼ぶほうにかたむいていた。
洞窟の底から虚空をながめて、息をすいこむ――。
「……あ」
灰色の、かすみがかかった高い岩壁。
円形にめぐる壁面のそこかしこに、毛むくじゃらの動物が立っていた。
いくつもあいた洞穴。
深く、暗い巣穴からもどってきたのだろう。
野草を観察していた状態から腰をあげ、ユノは自分たちが植物園にきた通路にじりじり向かった。
足を止める。
グレーの肌と、まっ黒な体毛におおわれたヒト型の怪物が、入り口にもむらがっている。
ロッドにエバはしがみつき、ユノのそばについた。
「かこまれてる……」
少女の声はかすれていた。
手のなかのピンクの花々を、ユノは握りしめる。
(これがミミル草だっていう確証はない……)
手にしている植物の、どれかが、服用者に望む魔法をさずける薬草・ミミル草なのかもしれず、どれもそうであるのかもしれない。
そして逆に、どれも飲んだものを発狂させたのち、死なせる毒草・ルルル草である可能性も、多分にある。
目をつぶり、ユノはつばを呑みこんだ。足が震える。
「エバ、ボクにつかまって」
左腕のみのユノには、彼女を自分のもとに寄せることができない。
「ミミル草がどれかわかったんですか」
ユノはエバに返事をしなかった。
見あやまったら、ふたりともここでグールたちの餌食になる。しかし――
木の棒を振りあげて、灰色の毛むくじゃらたちが走ってくる。
(――ままよ――!)
ぱくっ。
持っていた草を自分のくちにユノは押し込んだ。
化けものたちがふたりに殺到する。
こぼれた薄紅色の花びらが、洞窟の底に飛び散った。
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