33.ミミル草
・前回のあらすじです。
『薬草園の【グール】たちを追っぱらったユノたちが、モルガンに魔法を教えてくれるようおねがいする』
モルガンはしばらく黙考した。
切れながの目をエバに向け、ついで彼女の抱えている本をにらむ。
「生憎だけど。オレは他人に魔法を教えられるほど精通していないよ。感覚的に使ってるだけだし……流派も多分ちがう」
「あなたの使ってた呪文は、結構スタンダードなものだって思いましたけど」
エバが反論した。
モルガンはおもしろくなさそうにそっぽを向く。
しんとした、岩窟の薬草園。
灰色のもやが幾層にも重なって、空につづく吹き抜けにフタをしている。
脆弱な陽光の下に、ユノとエバ、モルガンの三人はいた。
飛行の魔法を教えてもらうため、ユノたちはモルガンに交渉したのだが、彼は渋っていた。
(いじわるで拒んでるワケじゃなさそうだけど)
魔法の習得は諦めたほうがいい。
ユノがエバにそう促そうとすると、モルガンのアゴ先がクイと動いた。
「キケンな方法だけど、薬草を使うって手がある」
エバがパアッと顔を明るくする。
ユノは懐疑的に、
「あぶないんですか?」
ふくみのある笑顔をやって、モルガンは淡く光る草地に歩いていった。
「ああ。そのかわり、魔法使いじゃなくても術を獲得できるってメリットがある。一時的にだけどな」
手招きされて、ユノたちも傍に寄る。
モルガンは薄紅色の花々に手を振った。
「ここらにある植物は、おそらく【ミミル草】だ。飲んだら日のある時間だけ、服用者の望む魔法を与えてくれる」
今は朝だった。
日没までは、あと半日はある。
「それだけの時間があれば、じゅうぶんだと思います」
ぺこっ、と頭をさげてユノはさっそくしゃがんだ。
サクラソウに似たピンクの――【ミミル草】を摘もうと、手をのばす。
「待った。『おそらく』って言ったろ。ミミル草によく似た植物に、【ルルル草】ってのがあるんだ」
「るるる……」
ユノは胡乱な目でモルガンを見た。
大まじめに、モルガンは頷く。
「毒草だよ。飲んだら頭がサイっコーにハイになって、死ぬ。ゾウだって五分で殺せるキケンな草だ」
「そっ、それがミミル草に似てるんですか……見わけるコツとかは?」
モルガンは肩をすくめた。
「生えてるところもほとんど一緒だし、よっぽどの博物じゃなきゃ区別するのは難しい。オレだって、植物にはあんまり詳しいほうじゃないんだ。悪いな」
ミミル草とルルル草の繁茂している床に、ユノはヒザをついた。
ジッと凝視するも、違いはわからない。




