31.グール
・前回のあらすじです。
『ユノたちが、【オッツの根跡】というダンジョンを下りていく』
いくつ目かの横穴に入ると、そこからは地下への階段が刻まれていた。
動物が掘ったものか、地下水でも流れていたのか。
不揃いにけずれた段々に足をのせ、ユノたちは最下層に出る。
空は遠い。
薄もやに曇って、すっかり隠れてしまっている。
なけなしの日差を受けて、地底には植物園が出来ていた。
不思議な色合いの艶を持つハーブが、湿った大地のそこかしこに緑の群れをつくっている。
「ユノさん、あれ」
エバが後から、薬草園を指さした。
灰色の肌をした、毛むくじゃらの怪物たちがいる。
木の棒を振りまわして、ギャあギャあ雄叫びをあげている。
【屍食鬼】だ。
(――モルガンは)
剣を鞘ばしらせると同時、ユノは彼を目で探した。
グールから離れたところに、【魔石】をはめた短杖がころがっている。
一体のグールがこちらに気づく。
血肉で汚れた牙を剥いて、灰色の化け物は吼えた。
「エバっ、援護をおねがい」
「はいっ」
剣を振りぬいてユノは駆けた。
後方ではエバが詠唱をはじめる。
「主は焔の雨を降らせた。罪の町を雪ぐために」
もやで淀んだ頭上から、煌く粉末がふりそそぐ。
前方のグールたちに触れたそれは、彼らの体毛と硬質な皮膚を溶かしていく。
『ガああッ!』
憤慨したグールが、上段からの一撃をふたりに見舞う。
ユノは逆袈裟に剣で打撃をはじく。
返す刀で、毛のはげたグールの胸部を貫く。
赤錆色の液体が跳んで、剣と手を汚した。
怪物たちがひとり、またひとりと、ユノに襲いかかる。
ひょろりとした体格のすきまに、ドーム状の障壁がチラついた。
透明な防御壁のなかに、整った見目の少年がいる。
血みどろになっているモルガンの姿を想像していたユノは、軽く息をついた。
(な、なんだ……。平気だったのか)




