30.下り坂
・前回のあらすじです。
『ユノたちがセレンから、【モルガン】という少年の来たことを知らされる』
〇
坂みちは岸壁に沿って下っていた。
ユノとエバは、ほそい足場をおりていく。
途中で道が無くなり、横穴に入る。
ワラの床と、新しい白骨。
なにかが棲んでいる様子だったが、襲われることはなかった。
洞窟内を、ふよふよ小さな虫が漂う。
粉雪のように輝くそれは、【ライトバグ】という羽虫の魔物だった。戦う力がほぼない種である。
ユノたちは、顔のまえに飛んできたそれら虫の一群を手ではらった。
奥に進む。
洞窟と、狭いくだり坂を順に使って、底に向かう。
「入れ違いになってないと良いですね」
エバが言った。
ユノはウッとうめく。
「そうだね。……待ってたほうがよかったかな」
冒険者のなかには、用事をすませたらそのまま町にもどらずに旅立つタイプが多い。
ユノたちが追っている少年は、勝手な想像だがその類の気がした。
ゴおおおン。
地底から轟音がする。
足場が震えた。エバがユノにしがみつく。
左手で彼女を支えながら、ユノは下を見た。
「地震?」
「魔法?」
前者はユノ、後者はエバが、同時に言葉を吐いた。
もうもうと、下のほうから白煙がのぼる。
砂塵をふくんだ煙に二人は咳こんだ。
ぎゅッと目を閉じて、視界をまもる。
「だれかが戦ってる?」
自分で言ってユノはヒヤリとした。
モルガン――青っぽい光沢のある、黒髪の少年の存在が脳裏をよぎる。
白煙が収まったのを見計らって、ユノは先へと急いだ。
エバも長杖で自分の身体を支え、ついて行く。




