27.夕食後
・前回のあらすじです。
『なぞの少年が、ユノたちのまえから去る』
〇
夕食後に客室にもどったユノは、明日の準備をはじめた。
ビンに入った回復薬や、解毒剤。緊急用の薬草。干し肉や乾パンなどの食糧に、【魔石】をまとめた袋……。
(あとは天命にまかせる、と)
人事を尽くしているかは不明だが。
テーブルにならべた旅の必需品を、ユノは鞄に詰めていった。ベルトのポーチには、臨時の際のジェムをいくつか入れている。
(使う機会がないのが一番いいけれど)
ベッドでごろ寝して、本を開いていたエバが言った。
「あの青い髪のひと、気になりますね」
ユノは片づけていた手を止めた。
しょんぼり。目元に影を落とす。
「そ……そうだね。カッコよかったし」
「そうなんですか?」
エバは身を起こした。
寝台から降りて、ユノを手伝う。フローリングの地べたに座って。
「えっと。『気になる』ってそういうコトじゃないの? エバだって――お年頃みたいだし」
十才ほどの少女は、アイテムを入れていきながら。
「魔法使いが一人旅って、なにかと危険が多い気がするんですよね。ところでおとしごろって?」
「ううん。忘れて」
ユノは色っぽい話をわきに追いやった。
エバが動物の骨をみがいた留具で鞄のフタを閉め、ユノに渡す。
「あの人、ひょっとしたら飛んで来たのかもしれないです」
「そんなことできるの?」
「はい。……私はまだできませんけど」
エバは立ってもじもじ言った。
伏目がちだが、語気には尊大さが滲んでいる。
彼女の言いたいことがユノには分かった。
「教えてもらえばエバにもできる?」
はにかんだように少女は笑った。「はい」と答えなかったのは、心の保険か。
しかし彼女の不安げな苦笑いの奥に、ユノは、自分では持ちえない自信のみなぎっているのを感じていた。
「じゃあ、明日早目に下におりてって、あの人を待ってみようか」
「はい」
エバは、これは本当に心配そうに肩を落とした。
「……教えてくれるといいですけど」
ユノに【魔法使い】のことはよく分からなかったが、彼らはだれにでも秘術を授けるほど気前のいい性格ではないという。
「それにあの人、いけずそうな目つきしてたし」
「こらこら……」
ぽつりとこぼしたエバの酷評に、ユノはあいまいに注意をした。