25.ぬすみ聞き
・前回のあらすじです。
『宿屋でユノが学都の状況を知る』
(・サブ・キャラクターの視点に変わります)
〇
ぴくり。
丸い耳を少年は動かした。
黒味の強い青い髪に、同じ色の双眸を持つ美男子である。
悪魔種につらなる血の濃い【魔族】だが、今は主からもらった薬を使って完全に人化している。
(あいつら……無人島だって?)
宿屋ハリス亭一階のすみっこ。
隘路に面した窓辺の小卓で、ソーダ水を彼はチビチビやっていた。
連れの女の子から【ユノ】と呼ばれる剣士と、店主との会話……。
ぬすみ聞きするつもりはなかったが、耳に入った。
(そう思ってくれてた方が、都合はいいけどな)
斜にかまえた態度は生まれつき。
不遜な目元も生来のもの。
だが歳がまだ若すぎるせいか、その性格は身の丈に合っておらず、不必要に威張っているように見える。
(オレたちの島に何を――って。人探しつってたな)
グラスを傾ける。
料理はいまひとつだった。
自分の作ったもののほうが断然マシだが、この宿屋、食器のセンスだけはいい。
頭のなかで、少年は剣士の名前を反芻した。
(ユノ、ね。死刑になったんじゃなかったのか。それとも別人?)
遠く、レールノザ近郊から用事でキイムにで来ていた少年は、王都で罪人の処刑があったことを人伝に聞いていた。
しかし伝言は尾ひれはひれが付きやすい。
――ドレイに味方したやつが、ペンドラゴン王国で市中引きまわしに遭った。
――股裂きに処された。
短い旅程で得たのは、そんな話だったのだが。
(デマだったのかな? なんにせよ、やつらが島に行きたいっつっても、結界もあるし、そもそも自治領までが通行止めだから、むだな心配か)
と、このあたりで少年は懸念を打ち切る。いずれにしてもシチリ島に来てもらっては困るのだ。
ユノの隣を確かめる。
分厚い本を持った、おそらくは魔法使いの――。
(あれっ?)
少女がいない。
(あのチビどこ行った?)
ちょんと彼女が座っていた席は、すっからかんになっていた。