表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/68

24.ハリス亭


 ・前回のあらすじです。

『キイムの町に、ユノとエバが到着とうちゃくする』




   〇



 キイキイ……


 『ハリスてい』の看板(かんばん)が夜風にれる。

 門前の街区(がいく)のきをかまえる宿やどである。食事処しょくじどころも兼ねているためか、暗くになったのに人の入りは多い。


 一階(いっかい)の食堂で、ユノたちは夕飯ゆうはんを摂っていた。

 (だい)テーブルは常連客じょうれんきゃくで埋まっているので、カウンターで食べている。


「不安定……ですか?」

「ああ」


 かちゃん。

 店主のハリスは、ドワーフのようにずんぐりとした男だった。

 彼はカウンター席に川魚かわざかなのムニエルとバゲットのスライスをく。

 突き出しのマカロニサラダを、エバがフォークで(ついば)んでいる。


自治区(じちく)内でかこっていた魔法使いが、なんでも統領(とうりょう)の座をねらっているらしくてな。今の元首(げんしゅ)直轄(ちょっかつ)の兵士だけじゃなく、領内の傭兵(ようへい)までつのって、のまわりを固めてるってよ」


 『統領』とは、自治領をおさめる『王様』のような存在である。『元首げんしゅ』もまたおなじような意味で使われていて、そこに意図(いと)的な区分はない。


「そうだぜ坊主ぼうず学都(がくと)はまさに、その主戦場しゅせんじょうさ」


 団体席でエールを飲んでいた偉丈夫(いじょうふ)が、店主の話に割ってはいる。

 武具をそなえたなり。冒険者(ぼうけんしゃ)だろう。

 男はユノに忠告した。


「巻きこまれたくなきゃ、よそに行ったほうがいいぜ」


 学都――レールノザは、現在、人間と魔法使いの(あいだ)で、権力(けんりょく)闘争が(おこな)われているということだった。

 魔王(まおう)き今、ディアボロス(ゆかり)の者として冷遇を受けてきた『の血を持つ人種』が、なおも疑いの目にさらされるのは不当として、(うった)えをこしたのだ。


 当初は早期の鎮静化(ちんせいか)が見込まれた小さなひずみだったが、人間の側にも魔法使いに賛同するものが続出。かつてのような、圧倒的(あっとうてき)大多数による抑止(よくし)かなわず、領内において、ほぼ五分(ごぶ)五分の勢力(せいりょく)に分裂した。


 ――状況はそれから目まぐるしく変わる。

 魔族(まぞく)(あつか)いが槍玉(やりだま)に挙げられ、(はなし)は彼らの解放に発展。ドレイ市が襲撃しゅうげきを受ける事件が相次(あいつ)いだ。


 魔族からの反撃はんげきについては、正確なことは分かっていない。が、魔法使いは、彼らを抱き込むことに成功――。

 怪物の血筋(ちすじ)への脅威きょうい冷めやらぬ現統領げんとうりょうは、これを反逆はんぎゃくとみなし、急ぎ鎮圧(ちんあつ)をはかった。


 結果、事態は自治(りょう)本拠地ほんきょち議会場ぎかいじょうのあるレールノザを筆頭に泥沼化(どろぬまか)。魔法使いを主権に置こうとする勢力(せいりょく)と、人間主権を踏襲(とうしゅう)しようとする、(きゅう)体制派とがぶつかり合い、領内各地で暴力(ぼうりょく)沙汰が横行(おうこう)する。


 そして、『犯罪者(はんざいしゃ)』の封じ込めのため、自治領への関所(せきしょ)に封鎖措置(そち)()かれたのだ。


(そんなトコに行けって言ったのか……。あのお姫様(ひめさま)たちは)


 見た目だけはすばらしいふたりの王女に、ユノは胸中きょうちゅうで毒づいた。


(知らなかった……ってだけかも知れないケドさ)


 もんもんとしながら、ユノは夕飯ゆうはんを食べ終えた。

 カウンター脇の調理場ちょうりばで、ほかの(きゃく)に炒めものを作っている店主に訊く。


「ボクたち、学都の先にある小島(こじま)に行きたいだけなんです。自治領じちりょうに、サン・クロト側からじゃ(はい)れないなら……べつの土地から迂回(うかい)していくルートとかありませんか」  

「ないね」

 店主はフライパンを返しながら言った。


「【シチリ(とう)】だろ、あんたが言ってるの。そこは学都からのびる大橋(おおはし)とおっていくしか道はない」

「どこかからふねを出してもらうとかは。あるいは、ジェムでワープとか」

しまのある海域は、途中で渦潮うずしおが発生するって話だ」

 店主てんしゅは太い首を振った。


「ベテランの漁師りょうしも、あそこには近付きたがらねえ。ワープも、領地りょうち一帯(いったい)に張られている装置が邪魔じゃまして、できないって聞く。もっとも、出力(しゅつりょく)に限界があるみたいで、特定のじゅつしか防げないみたいだけどな」


「装置ね。なあハリス、やっこさん、こっそりハーピーでも飼ってるのかもな」

 横合(よこあ)いからビールばらの男が店主に茶々(ちゃちゃ)を入れる。


 店主は料理の手を止めて、ビール腹の男につまみのチーズとクラッカーをやった。そして太い眉毛(まゆげ)の下から、銀色の(まなこ)をユノにける。


「つっても、あんな無人島(むじんとう)に、あんたたちなにしに行くんだ? 地元のもんもほとんど立ち入らない、なーんもないトコだって言うがね」

「……ちょっと、人探しを」

「『無人島』に?」


 ふしぎそうに、店主は吹き出した。




 読んでいただき、ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ