23.キイム
・前回のあらすじです。
『エバの正体について、夜中にユノが、セレンと話しをする』
・・・・・・
「見えてきましたよ、ユノさんっ」
エバの指差す先に、小さな町がある。
赤茶けた瓦屋根が、塀の外からのぞいている。
キイムの町である。
南門に、番兵が立っていた。
ユノとエバは、身分証代わりにギルドの腕輪を見せ、なかに通してもらう。
朝も早い時間帯だが、往来にはすでに人通りがあった。
魚屋には、近くの河川から獲れた鮮魚が並んでいる。八百屋は仕入れた野菜をカゴに詰めて、軒先に出していく。
バターの匂がする。
パン屋にも、早くも人が集っていた。
固焼きパンや、長いバゲットを紙袋に入れて、若い娘や主夫が、店のドアから出ていく。
ユノは、あくびをかみ殺した。
安閑とした風景に、彼はなんら感じる余裕もない。
今朝――東の空が白むころにエバが起きてから、彼女に見張を代わってもらったものの、とった仮眠は、一時間ていど。
モンスターは日の高い間は活動的ではないため、出発してからここまで、遭遇は少なかったものの、たまにではあっても、命のやりとりは気力を激しく損耗する。
活気づき始める門前のストリートを、エバは子犬のようにふらふらした。
飲食店の風入れから出てきた、肉を焼く香気に彼女は鼻をひくつかせる。
「ユノさん」
なにか食べて行きましょう。と少女は振り返り、ぎょっとした。
「……大丈夫ですか」
半分ねていたユノがハッとする。鼻提灯が、パチンと割れる。
「うん、大丈夫……だい、じょうブ……」
「こんなトコで寝るのは、だめですよ」
店のまえから、年長の剣士のもとに駆け戻って、エバは彼の背中を押した。重い。
「掏摸やかっぱらいだって、いるんですからね」
「起きてる……おきてるよー」
「せめて目を開けてから、言ってください」
グイグイ。
両手で一生懸命ユノを押して、むりやりに歩かせる。
微睡みながら、ユノはちょっとずつ前にすすむ。
「どっかにすこし飲んだだけで、目がバチンッて覚める薬とかないかな?」
「それは絶対に手を出しちゃダメなタイプの薬物ですよね」
エバは大きく嘆息した。
ユノが少女にもたれるのをやめる。
宿を見つけて、吊り看板とエバを交互に見る。
「エバ、ボク、先に宿に入ってて良い? そのあとでいろいろ見てまわろう」
「うーん」
とエバは小さな顎に指を当てた。
「じゃあ、ユノさんは休んでて下さい。そのあいだに私が消耗品とかそろえてきますから」
ユノは了承した。
いくつかの魔石を、ギルドでの換金用に渡す。
本当はジェムを手放すのに抵抗があったが……冒険者の収入は、よほど実入りの良い仕事がない限り、ジェムの換金に依存する。
鞄から出した紙に、不足している道具を書いて、エバにたのんだ。
「気をつけてね。そのー、悪いけど、ボクは部屋でちょっと寝てるから……」
「はい」
頷いて、エバはストリートを走っていった。
「いってきます」
と、雑踏から、ユノに手を振る。
彼女が見えなくなるまで、ユノも手を振った。
――宿屋の扉をくぐる。




