20.ロイヤルロード(近道)
・前回のあらすじです。
『サン・クロト街道で、ユノたちが魔物と戦う』
〇
エバの話しでは、魔法は流派によって呪文や詠唱が変わるという。
源流――魔法の発動の条件として、魔族のちからである【魔力】に呼びかけ、精神をふるい起こすことで、あらゆる事象をまねくというのはいずれも同じ。
だが、ちからをいざなう言葉――読み解ける『魔法書』には、向き不向きがある。
「こう……読んでみてイメージがまとまるかどうか、っていう感じなんですけど」
丘の道をのぼりながら、ユノはそんなエバの説明を聞いていた。
「じゃあイメージさえあれば、なんでもできるってこと?」
「それはちょっと……」
困ってエバは首をかたむける。
この世界には、剣士や魔法使いであることを問わず、強さを数値化する「レベル」という観念と、それを可視化する技術がある。
ユノの現在のレベルは高く、エバも彼とともに強いモンスターとの『戦闘経験』を積んでいるため、初心者にしては早熟な、レベル二十代にせまろうとしていた。
この世界……【メルクリウス】における魔法にうといユノは、強ささえ上がれば、いろんな術を習得できると思っていた。
「強くなれば、魔力も上がるんでしょ。だったら魔法使いとしての腕も、自然と鍛えられるんじゃないの?」
「だったら私、先生いらないですよね」
ひきつった表情でエバは返した。
「いくら強くなったって、魔法の能力はあがりませんよ。肉体は強化されますけど。地道な研究と練習。これだけが、魔法を培う方法なんです」
「学問に王道なしってこと?」
「そうですね。想像って言っても、『なんとなく』じゃなくて、『構成』に近いものがあって。その根拠を宗教におくか、実験科学におくか、アニミズム的な思想におくかで、流派――ひいては呪文や詠唱の違いが出てくるわけで」
ふんふん。
ユノはうなずく。
理解はもちろん、していない。
「【魔族】や【魔物】は、でも、そのへん自由ですよ。詠唱がいらない種族がほとんどで。もしスペルを使うにしても、ただ文句をおぼえるだけでオーケー。魔力も人とは比べものにならないほど膨大で……だから人間には恐れられてるのかなって思うんですけど」
「……ふぅん」
かつて、魔族の少女の呪歌をユノは目の当たりにした経験がある。
あの魔鳥の娘が紡ぐ呪いこそが、この世界で一般的な魔法なのだと決めこんでいたが。
「たぶんそれ、人間では使える人いないですよ」
ユノの話しにエバは落胆した。
町はまだ遠い。




