2.罪人
・前回のあらすじです。
『ペンドラゴン王国の王族が、明日の処刑について話す』
城の地下牢はジメッとしていた。
格子状の牢獄には、こそどろや強盗。違法な商取引でつかまった罪人が、やることもなく同室のものとダベッている。
奥のほうには重罪人が。
生存確認用のスリットと、食事を配給するための挿入口のついたスチールドアのむこうに、ひとりずつほうりこまれていた。
独房の突きあたり――死刑を待つ囚人の部屋にユノはいた。
広い――それゆえに寒さすら感じる薄暗い一間のすみっこに、ヒザをかかえて座っている。
(まあこうなるよね……)
すこし伸びた黒い短髪。
スネた子どもみたいに眦の吊った黒い目。
十七才にしては小柄な身体には、ケガの治療の際にあたえられた清潔な綿の長そでと、生地の薄いズボンをつけている。
彼に右腕はなかった。
人類に仇なすモンスターたちの頭――魔王【ディアボロス】を倒す際に食いちぎられたのだ。
妖精によってべつの世界より召喚され、彼女の要望――ひいてはこの世界の人々の希望どおりに魔の根源を討った救世の戦士。
だが彼は旅の途上で、巨大な功績をもってしても雪ぎきれない罪を犯した。
被害者のべ三十人にものぼる殺人。
三人以上屠れば死罪となるのが定石の、ここ【ペンドラゴン王国】の司法において、いかな英雄といえども、死を放免するほどの恩赦をあたえることはできなかった。
(刑は明日だっけ)
他人ごとのように、少年――ユノは思った。
ふと、かつて旅先で出会った少女が「なんとかしてやれる」と言ったのを思い出したが、あれは社交辞令か、単に元気づけるための方便だったのだろうと期待を捨てる。
足音がする。
カッ!
気のなかった見まわりの兵士たちが、踵をそろえて居住まいを正す。
アルトリウス陛下。
下りてきた足音の主を兵士たちがそう呼んだ。
老齢の、低く重いアルトリウス王の声が、見回りたちに退座を命じる。
ユノの部屋の前にいた番人もまた、駆け足で遠ざかっていった。
カタン。
ドアの上側のスリットが開く。
「王さま」
ユノは立ちあがろうとした。
王は手をちょっと動かして座らせる。
独房の外側から、彼は会釈でユノに挨拶をした。