17.生計
・前回のあらすじです。
『ユノが、パーティを組んだ少女エバに、いろいろ訊く』
「ゴミなんか漁っちゃだめだよ」
ユノはとりあえず少女に注意した。
少女――エバは肩を怒らせる。
「それは豊かな人の言い分ですよ。こっちはそうでもして金目のものを探したり、物乞いをするのが生計なんですから」
「ねえ、でもキミは」
ユノは客室の窓から、手前の椅子に移動した。
座ってエバをのぞきこむ。
大人になったら、さぞや目のさめる美女になるだろう、きれいな面差し。
「賢いよね。喋りかたがしっかりしてるし、本も読める。ひょっとすると、誰かに雇われてたとか? 探せば召し抱えてもらえる、とかは」
エバは首を横に振った。
「私はまだ子どもだし。それに【魔法使い】だから」
「【魔族】の血が入ってるからってこと?」
エバは微笑んだ。
ユノは、これは訊くべきか迷ったが、結局はくちにした。
「両親は?」
「わかりません」
「じゃあ、ひとりになる前は? キミはどこで、なにをしていたの?」
詮索めいた問いかけに、ユノは自分自身ひるんだ。
彼女)の、未成熟だが確かな美貌にあてられたのか、相手のことがひどく気になった。
エバは考えこむようにしてうつむく。
「それも知らないんです」
「じゃあ、記憶喪失?」
それには肯じず、エバは話した。
「さあ。気がついたら、汚い路地裏にいて……その時は、」
きょろきょろ。
エバは入浴前まで着ていた襤褸をさがした。それは宿の世話役がすでに回収したようで、部屋にはない。
「――あの服も、まだ普通だったんです。新品ではなかったけれど」
ユノは身を乗りだして問いただす。
「もしかしてキミは……キミも、転移してきたのかな。地球から」
「ちきゅう?」
「ボクがいたところ。エバは、例えばこっちにワープした時に、記憶が混乱しちゃったとか」
エバは胸の前で腕を組んだ。
気をまぎらわせるためか、彼女は分厚い本をあけて、ぱらぱらめくる。そこに答えがあるわけでもないのに。
「……。自分のことを知るために、私は学びに行きたいのかもしれないですね」
「適当だなあ」
ある種さとったように、ふっとエバはまぶたを伏せた。
「魔法使いとしての修業をしているあいだに、今はわからないことも、段々わかってくるかもしれないし。すくなくとも、エバっていう名前は、この本がぶつかったときに識ったから」
「そんなものなのかな」
ユノはエバの過去への追及をやめた。
「勉強するって聞いたけど。先生のめどは立ってるの?」
「はい。学校は、お金がないのでムリだけど。先生については、ちゃんと目星をつけてます」
むらさき色の瞳に、興奮の輝きを灯すエバに、ユノは「ちゃっかりしてるなあ」と言った。
「その人の住んでる場所もわかってるので。あとは、たのみこむだけ」
「うまくいくといいね」
ぬるくなった紅茶にユノはくちをつけた。
「そう、ですね。話しには気難しい人って聞いてますから……。有名人なんです。『選定の剣』や『神託の銅板』を作った人で」
カルブリヌスも神託の銅板も、ペンドラゴン王家が所有・保管する宝だった。
ユノが『勇者』として認められ、王から送り出されたのも、その国宝に選ばれたことによる。
(あれってちゃんと作った人がいたんだな)
思いつつ、ユノはエバの話を聞いていた。




