14.シャムシール
・前回のあらすじです。
『冒険者ギルドで、子どもが保護者を求める』
・モブキャラクターの視点から始まります。
角刈りの黒い頭を抱えて、ジョージは子どもに訊いた。
「学都なんかに行って、なにしようってんだ?」
「べんきょう」
襤褸をまとった子どもが答える。男たちは開いたくちが塞がらない。
「学校に行ってか? 入学テストがあるって聞いたがな。難しいらしいぜ――いやおれも実はよく知らんが」
「難関みたいだぜ、ジョージ」
仲間の弓使いの男ヨーゼフが、横からリーダーに助け舟を出す。
「うちのいとこのセイランが、家庭教師雇って猛勉強したけど、四回落ちたって」
居心地悪そうに、もじもじと子どもは立ちつくす。
「お願いします、おじさんたち。あのあたりに連れて行ってくれるだけで良いんです。ガッコには行けなくても……先生を見つけられれば」
「だめだ」
間髪いれずにジョージが断り、
「けちっ」
子どもも遠慮がなくなってブウ垂れた。
〇
ギルドへの再登録が終わった。
元死刑囚なので受け付けを拒否されるかと心配したが、冒険者稼業は、元より脛に傷のある者が集まりやすい。
『あんた【英雄】だったんだってね』
と突っこまれはしたが、ユノが返事に困っていると、『あれ? 人違いだったのかな』と、相手は鼻白んで事務的な対応にもどった。
強さが数値化される、ギルドのバングルを、職員に手伝ってもらって左の手首に嵌める。
最初に発行されたものは破損してしまって、受け付けの人が回収していった。
待合い席の隅に設置された、杯状の大きなオブジェにユノは向かう。
神秘の水を湛えた水鏡に腕輪をかざす。
飾りの宝石が輝いて、中の数字が動いた。
戦闘の経験が、この世界ではそのまま肉体を鍛える。全身に刻まれた戦いの記録が、神聖な水面に照らすことで計測され、ギルドの石に映される。
あくまで目安としての数値化なので、更新はしなくても、肉体的な変化は起こっているのだが。
「おい、そこの坊主」
ぎょっとしてユノは辺りを見回した。
待合い用の団体席に、いくつかのグループがある。
スタンダードな木の椅子に掛けている三人のパーティから、曲刀――シャムシールをベルトに挿した二十代後半ほどの男が手を挙げていた。
おそるおそるユノは自分を指差す。
「ボクですか?」
ちょっと赤ら顔の、酒の皮袋をたずさえた男が、大きな手をもどかしそうに動かして、「来いっ!」と振った。




