覚悟
「結構混んでるね」
「そうですね」
窮屈な電車の中で周りに聞こえないような小さな声で話す。
わざとドア側を選び降りやすい位置にしておいたが南萌さんとの距離は一メートルあるかわからないほど近い。
だから気を抜けば南萌さんの吐息が聞こえるかもしれない。
「さっきのことで疑問があるんですが」
「なに?」
「なんで私は否定をしなかったんでしょうか?」
たしかにその通りだ。普通の人なら急に手を引っ張られ大人しく駅まで走っていくということにはならないはずだ。知らない人にそんなことをされてしまうと誰だって身の危険を感じて拒否するはずだ。
なぜ南萌さんがそう思わなかったのか?
「わかんない」
これについては考えていても時間の無駄だ。どうせ今考えたところでわかるわけがない。後で冷静になって考えた方がいい。
ガタンッ!
急に電車は揺れる。
人が混んでいるので耐えきれず俺は南萌さんの方へより一層近づいてしまう。
「ごめん」
俺はドアを使い体を支えたが腕の位置が悪くて南萌さんの顔の横にあった。
「いえ」
南萌さんは恥ずかしかったようで顔を傾けた。
そこから見える顔は赤いように思えた。
俺は揺れは一瞬だったためすぐに腕を戻す。
お互いなんともいえない空気になる。
「次は〜近鉄奈良」
アナウンスがかかる。
「この駅だから、降りようか」
「はい」
そうして一緒に降りた。
「とりあいず話をするから近くの喫茶店でも入る?」
「そうですね」
俺と南萌さんは喫茶店に入り話をする。
「そういうことで」
「はい」
二人は喫茶店を出た。
目的地へ向かうことにする。
「夕日が綺麗だなー」
「?」
「思ったから言ってみただけ」
ここから見える夕日は一時間もしないうちにに消えるだろう。
「そうですか」
なにも知らなくてよかったことはあるが、それを知るにも覚悟は必要だと俺は思っている。
しかし南萌さんにはない。だって南萌さんは流されているだけなのだから。
本心を隠しているんだ。今の現代にあったことをしているが隠し続けていては壊れてしまう。
だから俺はその本心を聞く。
「向かうまで数分あるし、なにか話していい?」
「ええ、いいですけど?」
「なんで疑問系なんだ、まぁいいか、南萌さんはよく覚悟はする方?」
「全くないですよ」
それなのに強いんだ、無意識の覚悟なのか?きっとそうだろう。でなければ意識的な覚悟なんて持てるはずがない。
人は表向きには自信や覚悟なくとも無意識的には自信はなにかしらある。ただ隠しているだけ、気づいていないだけ。
「下手したら犯人とあってしまうかもしれないから、覚悟、しておいた方がいいよ」
「そんなこと承知の上ですよ」
軽々しい足取りに向かっていくがそんな二人を追ってくる人がいた。