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ロミ~魔法屋の娘~  作者: 大石次郎
9/21

第9話 蛇のパズル 中編

中編になってしまいましたが、岩宿の冒険です!

「皆さんお揃いですねぇ。黒板にちゅうもーく!」

気の抜ける話し方で、海鈴堂の作業部屋の1つにある黒板を前にアモッチがチョークを片手に解説する気満々の顔で振り返ってきた。黒板一面にわかり易くする為に描いたらしい画が描かれていたが下手過ぎるのと癖が強過ぎて解読困難だった・・。

作業部屋には、私、師匠、モリシ、ヌチ子さん、カラエモンがいる。師匠は普段は億劫がって余り使わない携帯水晶通信器で何とか呼び戻し、モリシは普通に家の水晶通信器で呼んだ。

農業組合のキャンペーンの仕事をしていたから農婦の格好をしているヌチ子さんと鉄鋼町の工場で働いていたから作業着姿のカラエモンも水晶通信で。厄介そうだからミツネにも来て欲しかったけど忙しくて無理だった・・。後で詳細は知らせるつもりだけど。

「今回の『魔女の試し』は島の中部の渓流地帯『龍の祭殿』にある『紫竜の岩宿』で行うことに内定しましたぁ」

「はい、いいですか?」

わざわざ手を上げて質問しだすモリシ。学校?

「今、梅雨ですよ? 龍の祭殿は増水してるんじゃないですか?」

「魔女は箒で飛べるから気にしませーん」

「いや、貴女達はそうでしょうけど・・」

「紫竜の岩宿は『イノヅチ』のねぐらでは?」

デート用の背広を着たままでお洒落な師匠が質問した。古竜イノヅチはあの辺りの主! 島の沖のだいぶ先をぐるっと囲ってる渦潮海域にいる『海龍王』の遠縁らしい。

「試しの間は、イノヅチさんとその眷族の皆さんは大人の魔女の皆さんが作っておいた、取って置きの『異界』で接待するそうでーす」

「接待・・まぁ確かに、イノヅチは色々脇の甘い所はあるが」

自分もその方面は大概だらしないと思うけど、上位竜の緩さに困惑する師匠。

「まずその魔女の試し、ってどんな試験内容?」

素材がいいから、農婦の格好でも何やらスタイリッシュに見えるヌチ子さん。因みに農業組合のキャンペーンはギャラが安いから毎回ヌチ子さんがピンで担当している・・。

「今回は『蛇のパズル』争奪戦です。岩宿の中のあちこちに蛇のパズルが1つから4つ入った『パズルキューブ』を配置しています。アモッチ達魔女見習いはパズル探知機は没収されてるけど、代わりに岩宿のマップとボトルを探知する『キューブレーダー』と脱出用の『ぬか喜びの指輪』を渡されてます。これを使ってパズルを10個集めると仮免合格なんで、指輪の力で岩宿の外に出る。という流れになりますねぇ」

「仮合格?」

「ええ、今回正式な魔女に昇格できるのは4人だけですからぁ。パズルを10個集めるのは基本で、プラスアルファも必要になってきますねぇ。大人の魔女の皆さんは使い魔や物見の玉で中の様子をずっと観てますし、若手中心の、岩宿の中に直接入って進行調整をする『試験官魔女』も何人かいます。実力、実績、運、面白さ。色々評価されまぁす」

「面白さまで評価されんの・・」

げんなり顔をするヌチ子さん。

「それからもう2つ! 厄介なルールもありまーす。1つは『午後7時を持ってタイムオーバーとし、岩宿内の蛇のパズルの封印が時限式で解かれる』2つ目は『イ・ドの再パズル化の魔法式を全員に教えておくので命知らずの者は直接イ・ドと戦って蛇のパズルを10個手に入れ仮合格することもできる』ですっ。一応救済ルールではあるんですけど、試験開始が午後4時半なんで時間設定的には微妙ですねぇ」

私達は顔を見合わせた。

「え? 回収できなかった分のイ・ド、復活させちゃうの??」

意味がわからないっ。

「当日使う蛇パズルは全部合わせても2割程度ですしぃ。タイムオーバー時、岩宿内に残ってる分は多分1割前後。それくらいならいけるんじゃないかなぁ? てことです」

「イ・ドには確か分体を発生させる力が強いはずでは?」

その性質を逆手に取ってバラバラのパズルに錬成して封印された。分体特性の魔物を『分割される』特性を持つ器物に錬成して封じる、ていうのは錬成術でよくやる手法だったりもする。

「そこで島の魔法業者さん達に協力してもらって、分体が岩宿の外に漏れちゃわないように結界を貼ってほしいんですよぉ。岩宿自体にイノヅチさんの結界があるんで、それを利用すればそんな負荷は無いはずですよぉ?」

「また勝手なことを・・」

師匠はため息をついた。

「魔法業者の協会への正式なオファーは大人の魔女の方々から今日中にもあると思いまーす。一応保険として、7時半になっても仕止め切れない時はアマリリス城のウイジャさんに出張ってもらうことにもなってるんで」

あ、来るんだ。ウイジャ様。

「あの方がそんな都合よく動いてくれるかの?」

「大丈夫でーす。最近鬱が治って『運動したい!』って張り切ってるみたいなんで!」

「運動・・」

絶句する師匠。

「『捕物係』ノ段取リハ?」

段々呆れ顔になってきたカラエモン。

「捕物係の人達にはアモッチ達より先に岩宿に入って、捕獲済みのデントヤ一味? だっけ? そのマフィアの皆さんを捕まえて支給された脱出用の『紫竜鏡』で外で待機してる警備局の人達にどんどんパスしちゃって下さい。アモッチ達は中にいるマフィアの皆さんを仕止めるとボーナスが入っちゃうんで、見付けたら殺らないワケにもゆかないんで」

そんなことになってんだ・・。

「趣味ガ悪イるーるダ」

「しょうがないじゃないですかぁ? この間の騒動の後もどんどん捕まえたんですけど、警備局の人達は引き渡せ。って言ってくるし、穏健派の魔女の人達もいちいち殺さなくていい。って言うし。マフィア狩りまで足されるとちょっと戦闘向きじゃない子達にチャンスが無さ過ぎる。て意見もあって、何だかんだでこうなったんですよぉ」

「フンッ・・俺達ぜんまい一味ハソコニ紛レ込ンデソノ双子ノ魔女ヲ狙ッテル連中ノ足止メヲスレバイインダナ?」

「はい。でも直接は戦わないで下さいよ? 物凄くしつこくて好戦的な子達だから。バレない所に岩宿の中に程々の力の使役モンスターの群れを呼ぶアイテムを仕込んでおくんで、それを指定の時間と場所で使っておいて下さい。後はこっちで上手いこと誘導します。連中はまず2階で襲うつもりみたいなんで、最初にそれを阻止できれば取り敢えずはOKでぇす」

「了解シタ。随分簡単ナ仕事ダナ」

「でしょう?」

「『救護係は』?」

「そうそれそれっ!」

私とヌチ子さんは捕物係とは別に投入される救護係、という役目に便乗して乗り込む手筈らしい。

「救護係はそのまんまですよ? アモッチ達より後から岩宿に入って、リタイアしたけど自力で脱出できない子達に応急手当てをして支給された紫竜鏡で外に逃がして上げて下さぁい」

「そこはわりとまともなんだ」

「何か変なことさせられるのかと思ったよ」

「まぁ収拾つかなくなっちゃいますからねぇ。2人は3階のホールの指定ポイントで待機していて下さい。そこは使い魔や物見の玉で見難いように細工しときました。必要な魔法道具も置いてあります。そこに午後5時45分にルキよりチョロいラキを誘導します」

ルキよりチョロいラキ、って!

「事前に1回失敗しているの前提ですけど、連中も残り時間と評価加点的に襲えるのはもうこのタイミングだけだと思うんで。ここで襲おうとするはずです。それを上手いこと阻止して下さい。これで暗殺阻止計画は完了です!」

私はちょっと考えた。いや最初から思ってたんだけど。

「これって、ルキとラキに前以て言っておいた方が確実に防げるんじゃない?」

「それはダメです!」

アモッチは両手を胸の前でクロスして『ダメ』ポーズをした。

「ラキは短気だから知らせたら自分からまともに突っ掛かっていって自滅しちゃいます。ルキはたぶん試験前に連中のリーダーを逆に暗殺しようとしだしたりして大事になっちゃいます! 大体」

「あのさ」

ヌチ子さんがアモッチの話を遮った。

「そもそもあんた、そのルキとラキって子達、ほんとに助けたいの? 何か回りくどいよね?」

アモッチは腕を組んで、少し長い前髪越しにヌチ子さんと視線を合わせていたが、フッと息を吐いた。

「残念ですがアモッチとルキとラキはお友達じゃありませーん。アモッチは2人と対立してる見習い魔女の『オビィー』が率いてるグループがこれ以上勢い付くのを危惧してるでぇす!」

お? ぶっちゃけた。

「オビィー派は凶暴でぇす。オビィーの師匠の『闇馬の魔女』は島の大人の魔女の中でもNo.3で、危険な魔女です。私達中立派の魔女としてはこれを機会にオビィー派と闇馬の魔女の勢力が強まるのを断固阻止したいのでーす!」

「・・何か、ややこしい話になってきたなぁ」

戸惑うヌチ子さん。

「諸々、裏を取らせてもらうがいいんだね?」

師匠の言葉にニヤリとするアモッチ。デジャビュだ!

「どうぞぉ。何なら私の師匠とも話しておきますかぁ? よいしょっと」

アモッチは箱型の自分のウワバミポーチから閉じられた糸で縫われた目と口のある気味の悪い帽子を取り出した。

「ほいっ」

奇妙な帽子を宙に放るアモッチ。すると帽子の下からポフっと、煙が出て髪と眉以外は毛がない犬の様なコボルト族の魔女があらわれた!

「ばぁっ! 久し振りだねゼイルッフ! 相変わらず疑り深い感じ? ヒヒヒッ」

「『帽子の魔女』・・。島に戻ってたのか」

「この間、蛙オババの『送り』をサボッたら他の魔女から突き上げが酷くてさぁ。それで今回のトラブルシュートをウチの弟子に振られたワケ! この子、自分の派閥が2人しかいないから『先生っ! あたち無理でちゅーっ、たちけてーっ!』て泣き付いてくるもんだからフォローが面倒で」

「変な物真似止めて下さい先生ぇ! アモッチそんなこと言ってませんからぁっ!」

真っ赤になって怒るアモッチ。

「報酬はワタシが払う。+2の帽子の魔法道具を10個上げるよ? それぞれの表向きの役割りにも魔女会から報酬は出るし、悪くない話だよ。勿論! 他の魔女に裏を取ってもらっていいよぉ? ヒヒっ」

師匠は少し考え、私をチラっと見てから帽子の魔女を改めて見た。

「3つ条件がある」

「3つ? 多くない?」

「1つ目は、ラッキーコインを何枚か売ってくれないか? 当日全員に1枚ずつ、いや特に危険度の高そうなロミとヌチ子さんには2枚ずつ持たせてやりたいが、ウチの店には今在庫が5枚しかない。錬成もできないではないが、開催まで日がないんだろう?」

「3日後だっけ?」

「ですねぇ」

事も無げにやり取りする帽子の魔女とアモッチ。師匠は目を丸くした。

「帽子の魔女! 何事も準備という物が」

「ああっ、お説教止めて! 今さら誰にも説教されたくないわっ。わかったわかった。貸しのある魔女の中にラッキーコイン集めてるヤツがいるから、そこからいくらか分けてもらうわ」

「ふむ・・2つ目は、イ・ド対策がちょっと甘いんじゃないかい? 確かアレは1ヶ所に集まると共鳴して封印が弱まる性質があったはず。やる気があるといってもウイジャ様は日が暮れるまでは来れまい。想定より早く復活してしまうんじゃないか?」

「そうねぇ・・『ライトヘッド』、どう思う?」

帽子の魔女は不意に被ってる気味の悪い帽子に話し掛けた。ライトヘッドと呼ばれた気味の悪い帽子は口が縫われているから少しフガフガしていたが、応えだした。

「・・ムググッ。まぁ早く復活するよね。魔女の子供達は8人死ぬよ? プシシシっ!」

ライトヘッドは不吉な事を言って嗤った。

「て、言ってるね。ライトヘッドの『運命演算』は別に確定じゃないけど、確かに対策取らないとちょっと死ぬ子の数が多いかなぁ」

あの帽子、ただの魔法道具か使い魔かと思ってたけど帽子の魔女が契約している悪魔なの??

「復活後なるべく早く弱体化できる様に、岩宿の外から遠距離攻撃できる者達を仕込んでおいた方がいい」

「まぁ、わかったわ。魔女会で通してみる。残り1つは?」

師匠は、じっと帽子の魔女の目を見た。

「一連の騒動とこの流れ、どこまで君達が仕組んだんだ? 確認しておきたい」

帽子の魔女はニッと笑った。

「ピクルスにされた魔女とデントヤ一味を唆したのはオビィーよ。騒動後にそのおチビちゃん、ロミちゃんが上手いことパズルの近くに来てくれたからちょっと拾わせてみたり、双子を近くに寄せてみたりはしたけどね」

なぬ? 頭に来た!

「私、死にかけましたよ?! ビンタされたしっ」

「マフィアは1回組織ごとやっつけたんでしょ? 準備してないからって、まさかそんなか弱いなんて思わないじゃん? ライトヘッドも『死なない! つまらない!』て言ってたし」

「う~っ」

死にはしなかったけどさっ。

「ロミ、落ち着きなさい。大体わかった。確認してから改めて引き受けるかどうか、今夜中にでも知らせる」

「そ。まぁよろしくね。アモッチ、後よろしく。じゃね~」

帽子の魔女は現れた時とは逆にポフンっと煙と共にライトヘッドの中に消え、アモッチが主が消えて大人しくなったライトヘッドをキャッチした。

「まぁ、その、怪我させたのはごめんね。でも実はずっと近くで見張ってたから、いざとなったらフォローするつもりだったよぉ?」

アモッチはバツが悪そうにした。

「・・もういいよ。ただもう2度と私を試す様なことはしないでっ」

「わかった。・・じゃ、そゆことでぇ。アモッチでしたぁ~っ」

殊勝な顔をしたのは一瞬で、すぐにフニャっとした調子に戻ったアモッチは、作業部屋の端の棚の引き出しにニュルっと入って消えてしまった。

「・・てきとーナやつラダ」

「警備局方面にも確認してみるよ」

「僕も参加することになってますよね?」

「大丈夫ですかね? 師匠」

「魔女はまぁこんなもんだ。取り敢えず、情報収集と準備だね」

なし崩しだけど、どうやら私達はこのクエストの発注を受けてしまったようだった。



翌日、事実確認後、結局本決まりとなった魔女の試しのクエストに向け、私と師匠とモリシは持ち道具を揃えたり、丸1日店を閉めることになるからその帳尻合わせをしたり、慌ただしくしていた。ラッキーコインはイ・ド対策要員として参加することになったミツネの分を含めて揃った。あとはあれとこれと・・・。

用事の出先の私は梅雨の雨の中、鴎柄のレインコート+1を着て考え事をしながら小走りで近くのバダーンの発着駅に急いでいた。雨天の移送魔法は危ないから雨対策の『蛙の守り』と視界確保の『水鏡の玉』を買って使わなきゃならないから、駅に着くと調整であれこれややこしい。私は進みながら考えるので忙しかった。

結果、どんっ。前方から来ていた魔法道具ではないが高そうな傘を差した女性に肩をぶつけてしまった。

「あっ」

「わっ? ごめんなさい。濡れましたよね?」

「いえ、お構い無く。それでは」

「あ、はい・・」

女性は会釈して去ってしまった。傘ではっきり顔は見えなかったけど、たぶん種族は人間で、十代中盤? 華奢で、いい匂いがした。いいとこのお嬢さんかなぁ。何でこんな下町を1人で? 何か、クエストの予感・・

「はっ? ダメだダメだっ。今は引き受けた仕事と準備に集中しないとっ」

何か風邪引いたような気もしてきた。ゾワゾワする。私は気を入れ直して駅へと急いだ。



その2日後、魔女の試し当日! 外は今日もやっぱり島特有の、ちょっと海の匂いがする雨がずっと降ってる。梅雨は晴れる日の方が珍しい。そんなワケだから・・

「床、水浸しじゃんっ!」

「1階はほとんど川と池になってたしなぁ」

魔女達が造ったコスプレじみた誇張された『看護服+1』を着た私とヌチ子さんは、試験会場の紫竜の岩宿に来ていた。中は魔工保冷庫並みに寒いので私はいつものボアジャケット+1も着ている。

もう3階まで上がってきたけど、試験官魔女以外は通信系魔法道具持ち込み禁止だから連絡がつかなくて、カラエモン達やアモッチ達の動きはサッパリ。この階はあちこちから流れ落ち湧き出る、私が大の苦手としている冷たい水で水場だらけになっていた。構造的に水捌けのいいっぽい2階より3階の方が酷かった。 あちこちに青白いカンテラの灯りが灯されていて、視界は悪くないけど・・。

岩宿にはイノヅチから眷族未満と判断された低級な竜族や竜以外の野生のエネミーもウロウロしていて油断はできなかった。もう2人で50体は撃退ていて、私の手持ちの魔法道具は既に半減っ。エアボードも鰐みたいなのに速攻ブッ壊されたしっ!

「間に合うかなこれ? 水でルートが変わってる。途中、救護があるかもしれないし」

ヌチ子さんは水を避け、岩場を身軽に跳びつつ、普段はチェンジ系アクセサリーを付けている左手首に付けた『魔女探知機』を眉をしかめながら見た。

看護服とセットで魔女達から支給された魔法道具で魔女見習いと試験官の魔女を区別して探知、表示する機能があるんだけど、誰が誰やらわからない。一応、生命力がどれ程残っているかも表示されるんだけど、とにかく誰が誰だかわからないっ。

「まだ40分はありますよ。行けるますよっ」

私はミツネに作り直してもらった『魔工懐中時計+1』で確認した。ハンターケースの蓋の内側に私は『超可愛いポーズのミツネの転写図』を貼ってとオーダーしたのに、実際渡されたハンターケースの蓋の内側には『超可愛いジンゴロちゃんの転写図』が貼れていた・・チッ。

「だといいけど、おっ? 蟹」

先行してくれているヌチ子さんが、岩場に潜んで待ち構えていた蟹型モンスターロックスラッシャーの甲羅が透けた亜種個体を見付けて躊躇無くドロップキックで吹っ飛ばし、岩に叩き付けてグシャッと潰して仕止めた。看護服姿でも、強っ。

「・・ベッカーのロール使い切っちやったのが痛かったですけど、あっビクっと、こんにゃろっ!」

私は襲撃を危機探知で察知して、水場から飛び出してきた骨っぽい魚系モンスター。スカルカラシン亜種2体の頭部を鋭い風の鉤爪を放つ『風獣のタクト』で叩き割って仕止めたっ。これは強い杖だから普段は持ち出し禁止だけど、ラッキーコイン2枚と一緒に師匠が持たせてくれた。

「ロミ、大丈夫?」

「うん、何とか。このタクト強過ぎて怖い。私じゃ手加減できないし」

「ああ、それなぁ」

岩場を抜け、通路ギリギリまで水場が迫った所まで来た。ちょっと魔女達から支給されたマップを確認する。私達、本来『壁』になってる部分の上を歩いちゃってる。増水した水場のせいで『高さ』の感覚がおかしくなってきた。

「何だかなぁ・・。魔女見習いの子達、面倒だよね? こんなアトラクションみたいな試験に命懸けちゃって。足引っ張り合って」

「アイドルも大変なんじゃないですか?」

苔だらけの所に差し掛かって足元滑り過ぎて焦るやらヌルヌルして気持ち悪いやら・・。

「アイドル業界の方がまだあっさりしてるよ。私、先に辞めていった子達の顔、一人も覚えてないよっ」

それもちょっとどうなのかな??

「辞めるヤツってさ、『辞める切っ掛け待ち』の顔してんだよっ」

「え~っ?」

そこから一転、『アイドル業界の闇』の話になっちゃったけど、私達は話しながら時折現れる野生のモンスターを退け、3人程、気絶したり他の魔女に魔法を掛けられて混乱したり、重傷を負って助かるかどうか私達じゃ判断つかない脱落見習い魔女達のケアを手早くしたりしながら、目的地の『3階・フロアD・2番ホール』にたどり着いた。

「こっちダ、ろみっ! ぬち子っ!」

「早クっ!」

指定の場所の岩陰になぜかゼンマイ一味の

ニビーとキュエスがいた。2人とも魔女達が作った誇張された警官風のコスチューム『捕物服+1』を着ていた。

「何で2人が? 2階は上手くいったの?」

「カラエモン達はどうしたんだよ?」

「親分達ハ取リ溢シノまふぃあヲ取ッ捕マエニ上階ニ行ッタワ」

「2階ハもんすたー放ッテオクダケダカラ何テコトナカッタヨ。一応遠クカラ確認シタケド、ノコノコヤッテ来タソレラシイ魔女見習イ達ガもんすたーノ群レニカチ合ッテわーわーヤッテタヨ?」

どうやら2階の1回目の暗殺妨害は上手くいったっぽい。でも、カラエモン達はまだ撤収しないんだ??

「何で皆、まだ残ってるの? クエスト完了でしょ? 捕物係の仕事、最後までやるつもり?」

捕物係には紫竜鏡が20枚支給されている。18枚使うか午後6時になったら撤収していいことになっていた。

「のるまの18枚ハトックニ使ッタ。私達ハ自前デ紫竜鏡ヲタクサン持チ込ンデル。他ノ捕物係ハ余リヤル気ガ無イミタイダシ、ナルベク捕マエテヤルコトニシタ」

「マァ、ソッチハ親分達ニ任セタケドネ。ぼくラハ2人ヲふぉろーシニ来タンダ」

「そりゃありがたいけど」

「随分改心してるな。どうしたんだよ?」

「失礼ネ」

「心外ダヨ」

とにかくニビーとキュエスと合流できた。

「あもっちガココニ仕込ンデイタノハコレダヨ」

ニビーが小箱を差し出してきた。中には透明化範囲化仕様の潜入魔法『シーヌのロール』が1本と、詠唱魔法無効化魔法道具『吊られた男のメダリオン』だった。

「これ?! 強力なの用意してるよっ」

「どれ? このメダル??」

「れあダネ」

「『魔法使イ殺シ』ダヨ」

私達はレアアイテムの吊られた男のメダリオンに色めき立った。

「あ、でも、シーヌの範囲化2人までだよコレ? ニビーとキュエスはどうすんの?」

「問題無イ。今回ノみっしょんノ性質カラ考エテ私達ハ全員身体ヲ改造シテすてるす機能ヲ実装シテキタ」

「からくりダカラネ」

自慢気なニビーとキュエス! 岩陰の狭い所に皆で隠れてちょっと楽しくなってきた私達は暫くわちゃわちゃしていたけど、午後5時40分を越えた。

「そろそろ時間だね」

「おふざけしてられないか」

「私達ハ別ノぽいんとカラ一度ダケふぉろースル。ソノママスグニ撤退スルカラソノツモリデネ」

「コレハ脱出ニ使ウトイイヨ」

キュエスは『ゼンマイ爆弾・凶』を渡してきた。

「わかった。2人ともありがと」

ニビーとキュエスは頷くと、ステルスモードになって姿を消し、どこかへ気配も消えていった。

「ロールの持続時間は20分ってとこだね。私らも使っちゃおう。場所がわからなくなるからちょっと掴んどくね」

ヌチ子さんは言うなり私の首根っこをガッと掴んだ。犬とか猫じゃないんだからっ。

「じゃ、じゃあシーヌのロール使うよ? このメダリオンも私が管理するね」

「任せた!」

任されたっ。私はシーヌのロールを解放した。私達は姿を消した! そのまま数分経ち・・魔女探知機に反応有り!

「コイツっ! 待てっ」

ラキの声だっ。私達の岩陰から見下ろす形になるホールへの3つある入口の1つから響いてくるっ。

「待てっ! ちょっとっ、待ってってっ!」

ホールにクラウンゴーレムが踊る様に飛び出してきた。クラウンゴーレムは案山子と道化の中間の姿をしたゴーレム。動きが敏捷な特性! それに続いてヘトヘトになった様子のラキが走ってホールに現れた。手にした箒の柄をポッキリ折り目を入れられて曲がって使い物にならない様子だった。

「あたしのパズル返せっ! あと2枚で仮合格なのに・・メナっ! ジガっ!」

ラキは半泣きで激流魔法と電撃魔法をクラウンゴーレムに放ったが直撃する前に掻き消されてしまっていた。耐性があるんだ。

「ラキ、もういいわ。誰かの罠にハマったのよ。盗られたパズルは諦めるべきよ」

ラキの後ろから声がして、箒に乗った心底うんざり顔のルキが現れた。

「でもコイツっ!」

クラウンゴーレムは挑発するように踊ったり、わざわざラキから盗ったらしいパズルを取り出して見せ付けたりした。悔しがって地団駄を踏むラキ。

ルキはマグネットタクトで自分のウワバミポーチから蛇のパズルを3つ取り出すとそのまま操ってラキに渡した。

「後は自分で考えて。私は1人で残りを探すわ。貴女は私と『魔女の印』を分かつ者であることを忘れないでね・・」

「ルキ?!」

ルキは箒に乗ったまま反転し、通路を引き返してしまった。

「な、何だよ・・ううっ」

ラキはその場にヘタり込んで泣きだしてしまった。何か可哀想になってきたんだけどっ。

気まずい状態のまま、挑発を止めないクラウンゴーレムに何もできないまま使い魔のサンショウウオに心配されながら泣き続けるラキを見守っていたけど、暫くすると、

「っ?!」

私に向けられたモノじゃないけど、ビクッときた! 凄い悪意っ。

「フフフっ」

「泣いてるよっ」

「カッコ悪ぅ」

「ルキがいないと役立たずっ!」

ホールにラキを嘲笑う声が響き、花の花弁が舞ってその中から魔女見習いの女の子達が十数名現れた! 探知機に反応が無かった。誰かの固有魔法?

「あらぁ? 誰かと思ったらラキじゃなぁいっ?」

魔女見習い達の先頭に物凄い巻き毛の女の子が出てきた。この子が噂のオビィーだねっ。

ラキが反応して曲がった箒を支えに立ち上がろうとしたら柄が完全に折れて、バランスを崩して派手にずっ転けるラキっ。オビィー達は爆笑した。

「ちょっと、あんまり笑わせないでよラキっ。決心が鈍りそう。ふふふっ」

「・・笑うな、オビィーっ」

ラキが拳を握り締めて言うとその『オビィー』という言葉に反応して、ずっと挑発を止めずにいたクラウンゴーレムが両手から鎌の様な刃物を出して突然オビィーに襲い掛かったっ! しかしオビィーは余裕の表情を崩さなかった。

クラウンゴーレムの攻撃が届く前に3人の取り巻き魔女が立ちはだかり、1人の魔女見習いが詠唱もなく中空に盾を出現させ、クラウンゴーレムの刃物を防ぎ、もう1人の魔女見習いがやはり詠唱も無く金属の輪を3つ発生させクラウンゴーレムを縛り上げた。

最後の止めに3人目の魔女見習いが不気味な泡を宙に発生させたが、対象の距離が近過ぎて上手くコントロールが難しいらしく、すぐ攻撃できずにあたふたした。その隙をクラウンゴーレムは逃さなかったっ。ゴーレムは口から矢をオビィーに向かって放った!

「いっ?!」

オビィーはギョッとして至近距離からの射撃を首を捻ってかわしたが、左の頬を斬り裂かれた!

「きゃああーっ! 痛いっ痛いっ!!」

出血して転げ回るオビィーっ。取り巻き達は大慌てした。

「回復しなさいっ。毒は?! 毒は使われてないっ?!」

取り巻き達は必死に回復させたが、大した怪我じゃなかったし、毒も使われてなかったようだった。先に立ち上がったラキは冷笑していた。

「そのゴーレムの魔法耐性を解除してっ! 早くっ」

指示された通り4人掛かりで捕獲されたクラウンゴーレムの魔法耐性を解除する取り巻き達。

「よくもコケにしてくれたねっ。このデク人形っ! エル・ボレアっ!!」

オビィーは火炎系上位魔法を唱え、炎の巨人の上半身を発生させるとその燃え盛る拳の一撃でクラウンゴーレムを粉砕した。と、同時にゴーレムが持っていたパズルもホールに散らばった。7枚はある。

「フーっ、フーっ・・思い知った? このオビィーに逆らったらどうなるか?! 貴女達っ。パズルの所持数が少ない子達は拾いなよっ?!」

「あ、ありがとうオビィーちゃん」

「オビィーちゃんありがとう」

「ありがとうオビィーちゃん・・」

取り巻き達は恐る恐る言われた通り、散らばったパズルを拾い出してうっかり素手で触った者は熱せられたパズルで火傷したりしていた。

ラキはもう動かず、据わった目でオビィーを睨んでいたけど、オビィーはそれを無視して、ずっと青ざめて立ちすくんでいた泡の魔法に失敗したイタチザメ系海魔人の魔女見習いの子の前にずんずん歩み寄ると、前触れ無く、その子の顔面を蹴り飛ばしたっ! 顔っ?! え? 待ってっ、オビィーが色々するからいつ介入したらいいかタイミングがわからないっ。というか首を掴んでるヌチ子さんの手汗が凄いことになってるよ?!

「カテオっ! また貴女なの?! どうしていつもミスするの?! 私を殺す気か?! この魚っ! 魚っ! お魚がよぉおおっ?!!」

オビィーが倒れて鼻血まみれになったカテオと呼ばれた見習い魔女に猛烈な蹴りの連打を打ち込み始めた! 他の取り巻きはゾッとした顔で視線をそらしている。

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! 私の『消える泡』が他の子に当たっちゃいそうでっ、ごめんなさいっ!」

「言い訳してるの?!! オビィーに対して?! お友達でも間違いを正してあげるのが本当の友情でしょっ?! 貴女はさぁっ!!!」

より蹴りが激しくなり、しまいに白目を剥いて泡を吹き出すカテオっ。ちょっとコレっ、この子、ラキ達を殺しに来たんだよね?! 私はもう見てられなくて、今じゃないかもしれないけれど、吊られた男のメダリオンを使おうとした。その時、

「いい加減にしろっ。リーマ」

ラキがカテオに回復魔法を掛け、自分のマグネットタクトで倒れたままのカテオを持ち上げ、オビィーから離れた所に放り投げた。

「オビィー、お前に『お友達』なんていねぇよっ。ばーかっ!」

「あらぁっ。気が変わったから不合格にするだけで見逃してあげようかと思ったのに、また私に決心させてくれるなんて・・ラキ。ありがとう」

オビィーは自分のウワバミポーチから『首狩りワンド+2』を引っ張り出した。遠巻きにしていたカテオ以外の取り巻き達も戦闘体勢を取った。

「貴女達姉妹がずっと目障りだったの。特にルキ! せっかくっっ、この私がっ! このオビィーがっ!! お友達になってあげようとしたのにっ!!!」

ハーフエルフらしいオビィーが美麗な顔中の血管が切れる勢いで怒っている様子をラキは嗤った。

「気持ちが不細工なヤツは、隠し切れない。ルキはその辺、面食いなんだよ?」

「っ! ・・不出来な姉の首が転がったらその面食いさんはどんな顔するかしら?」

「やってみろよ、ブ・サ・イ・クっ!」

「っっ?!!!」

いやいやいやっ! 勘弁してっ。自分のこと煽り属性持ちと思っていたけど、全然初級者でしたぁあっ! 私はもう聞いてられなくなったし、首を掴んでるヌチ子さんの手汗も滝の様になってきたから、この状況早く終われっ! と願いを込めて吊られた男のメダリオンをホールに投げ付けた!


キィイイーーーンっ!


メダリオンは砕け散り、ホール内の全ての魔女達の詠唱魔法を封じた!!

「なっ?!」

驚愕する魔女見習い達っ! と同時に私達が潜んでいたのとは別の、2ヶ所の岩陰から『トリモチ爆弾+2』がホールに投げ込まれた! トリモチ爆弾+2は宙で炸裂すると無数のトリモチをホールに巻き散らしたっ!

「きゃああーっ?!」

「ちょっとっ?!」

「髪がイタタっ?!」

粘り付くトリモチを喰らった魔女見習い達は大混乱になった。

「・・っ?! あれ? 詠唱できないっ??」

すぐに詠唱魔法が使えなくなっているのに気が付く魔女見習い達っ。ラキはスカートにトリモチが付いただけだったけど、オビィーは顔面にトリモチを喰らって窒息しそうになって大騒ぎしていた。

「もうこれで十分だよっ。抱えるよっ!」

ヌチ子さんは小声で鋭く言って、小柄は私をヒョイっと抱えると、加速魔法でも使ったかの様な速さでその場を離れた。

「落ち着いて紫竜鏡を使える所まで行ったらすぐ脱出しようっ。焦って石の中に飛んだら最悪だしね。リタイアした魔女も20人は助けたし、救護係の表向きの仕事もやり切ったっ! ウチらバッチリじゃん?」

「そうですねぇ。最後は何か小荷物みたいになってすいません」

「ロミがチビで楽できたっ!」

「そりゃどうも・・」

ヌチ子さんは私を抱えたまま、増水で水路の様になった所まで走ってきた。

「ここを渡った向こうの大岩の陰で鏡使おう」

「はい、よろしくお願いします」

小荷物の私は成すがまま。ヌチ子さんは倒れた長い岩柱が橋になった所を回って水路を渡り切ろうとした。と、探知した!

「っ?! いますっ。水の中!」

「っ!」

水路から象並みサイズのワニの様な下位竜『カイマンサウルス亜種』が大口を開けて迫ってきた。口や顔に傷がある。一回でエアボードを口に突っ込んで撃退したヤツだっ。3階まで追ってきた?! というか私達、透明化してるのにわかった?? 視覚以外が発達している?

「ゴォアアァッ!!!」

カイマンサウルスの噛み付きをヌチ子さんは私を抱えたまま跳んで器用に回避した。しかし、ヤツはその巨体で岩柱に勢いよく乗り上げてきて、岩柱は砂糖細工みたいに簡単に折れ、私達は水路の中に投げ出された! 冷たいっ。まただっ、心臓がキュっとさせらる!!

「ロミっ!」

ヌチ子さんはいち早く岸にしがみ付いていた。

「だ、大丈夫です! いい魔法道具持ってます! 先に脱出をっ!」

そんな道具持ってたっけ? と思いつつ、私は必死で水面に顔を出しながら叫び、流されていった。カイマンサウルスは私とヌチ子さん、どちらを追うべきか?崩れた岩柱の辺りで水面から顔を出して迷っている様子だった。よし、まだ時間ある。

私はちゃんと学習してるっ。

「リーマっ!」

冷水のショックですぐ口が回らなくなる。

そうなる前に一回『冷水ショック』から回復させる。それから取り落とさないように注意しながらタクトでポーチから万一に備え用意していた。火属性媒介の『火雀の羽』を取り出す。これを媒介に・・

「リーマっ!」

もう一度、火属性を持たせた回復魔法を自分に掛けた! 一時的に火の属性を宿し、カッと全身が熱くなる。

「よしっ、ゴーノ!」

流されて岩等に激突した時に備え、物理耐性魔法を掛け、さらにタクトでポーチから何とか水中呼吸できる魔法道具『人魚ドロップ』を取り出し、口に入れた。甘っ。これで暫くは水中で呼吸できる! あとはタクトに念力魔法のユ・リックを上乗せして、タイミングを見て自分を操って岸に・・と思っていたらっ、

「えっ?」

水路の先がトンネルになっていた!

「ちょっ?!、ユ・リック!」

取り敢えず水中で身体をコントロールする為に念力魔法は使っておく! トンネルの先に灯りが見えて、長々続くわけではなさそうなのがせめても救い。さっきのカイマンサウルスも追ってきてないようだし、何とか岸に上がって早く脱出しないとっ。

私は最大限前向きに考えていたんだけど、魔法を重ね掛けし過ぎたのか、思ったより時間が経っていたのか? シーヌの透明化の効力が切れ、加えてトンネルの出口近くで水流が急に早くなってユ・リックでもコントロールが難しくなってきた! ヤバいっ、これって!

トンネルを抜けると、滝だった。

「やっぱりぃーーっ!!」

空中に投げ出された私! さらに眼下の滝壺には身体が透けた大型の蛙型モンスター『スナイプフロッグ亜種』の群れがいた!! もう、ビクッとくるどころじゃないっ! 全身ビリビリしたっ。でもまだユ・リックの念力は有効っ。浮遊して安全圏に行けばっ。

と取り敢えず落下をコントロールしに掛かったら、スナイプフロッグ達が舌を槍の一撃の様に延ばして次々攻撃してきたっ。

「わわわっ?!」

避けるのが精一杯で逃げ切れないっ。それどころか、余計な動きをするから落下も完全に止められなくて、滝壺に近付いて行ってしまい、スナイプフロッグ達の攻撃精度が上がってゆくっ。

カシャンっ! 舌の一撃が私のポーチを掠めるように当たって何かが壊れる音がしたっ。

「何だよもうっ」

くそっ、コレじゃ道具を取り出す隙もっ。いっそ下に素早く降りて戦うべきか? 風獣タクトなら勝てそう。でも滝壺だから水中戦?! さすがに厳しいか・・

「取り敢えず魔法で遠距離攻撃を」

「見てらんねーな」

「え?」

急に首元で声がして、私の親指くらいの蜘蛛がモソモソっと濡れたボアジャケットかの襟の辺りから這い出てきた!

「げっ?!」

「敵じゃねぇ。と言っても信用してもらえねぇだろうから行動するっ」

蜘蛛はその小さな身体から想像もつかない程の両の糸で作った網をお尻の辺りから滝壺に向かって放った !特技『大捕り網』だ。スナイプフロッグ達は一発で動きを封じられた。捕獲系攻撃って実践で有利過ぎるっ。

「凄っ」

「別に倒してねーよ。水中にもいるし、何ならまだまだ仲間を呼んでる」

「ええ?」

蜘蛛は私を無視して糸を使って宙に凧みたいな物を作り、凧と繋がった縄をスルスルと私の肩や腕に掛けて持たせてきた。

「ロアを加減して使って推進力にしろ。ユ・リック何かより速い」

「君、賢いっ。ロアっ!」

私は烈風魔法を弱め持続化させて風を起こし、糸の凧を帆にして一気に飛んで、その場を離脱した!



マップで確認して安全そうなポイントに着地し、また火雀な羽を媒介に回復魔法を使って身体を乾かし、体力も回復させた。ただ呼吸できるからって大量に水を飲んでいたから結構ガッツリ吐いてしまった。

「大丈夫かよ?」

吐いたばかりだけど、ポーション+1を飲む。体力持たないからっ。

「まぁ、何とか・・君は、誰かの使い魔?」

「御明察。俺は魔女見習いのウキ・オリの使い魔、ギマ。場合によってあんたを助け、事態を見届けるよう言われてた」

「いつからくっついてたの? あっ! ひょっとして肩ぶつけたっ」

「それだ」

あのお嬢さんか・・。

「何かゾワゾワする、って思ってたら君だったんだね」

「ゾワゾワ? 気配は消していたんだが、やっぱ探知系のヤツには敵わねーな。へへっ」

蜘蛛過ぎて表情がわからないが笑ってるらしい。

「見届けるって言っていたけど、私もう帰る所なんだよ。アモッチのクエストはたぶん上手くいったし」

「帰るってその鏡でか?」

「うっ」

ポーチから取り出して確認してみたら私の残りの紫竜鏡は全て砕け散っていた・・。この岩宿、結界のせいで通常のテレポート系の魔法道具が上手く使えないのにっ。

「よければ俺が引き続き付いてゆこうか?」

「ホントに?! あ、でも何で?」

「純粋な善意、じゃねーな、ウキ・オリのグループは見習い魔女達の中では最大派閥。あんたが凝らしめた好戦的なオビィー派と違い、全体の秩序を重んじてる」

「アモッチ達とは違うの?」

「あいつらはニッチだ」

酷いこと言ってるっ。

「脱出まで付き合えるが、最後にラキの生存確認とオビィー派の顛末を確認させてくれ。もう午後6時も過ぎてるから、そう長居はしない。まぁあんたは魔女ではないから復活してもイ・ドに積極的に狙われたりはしないだろうがな」

何か、勝手なこと言い出した!

「ここ2階だし、ちょっと時間掛かるんじゃない?」

「俺は加速魔法のベッカーを使えるし・・」

ボフンっ! 煙と共にギマは牛くらいの大きさになった。

「おおっ」

「攻撃じゃないからな」

ギマは糸を使って私の腰に糸の帯を付け、自分の背に乗せた。

「この状態で加速して糸で素早く動けばあっという間だ。マップは把握してる。ラキとオビィーの臭いも覚えてる」

「それ私、必要かな? 君だけでいいんじゃない」

「俺は所詮使い魔で主体性に欠ける。主と離れた状態だしな。あんたの判断が必要な場面があるはずだ。ここまで見た感じ、あんたの考え方は俺の主、ウキ・オリも好む考え方であるように思う。俺の考えよりあんたの考えの方が、主の判断に叶うはずだ」

そう言われてもなぁ。

「・・まぁ、途中で別れたヌチ子さんが無事逃げられたか確認したい。それも有りなら付き合ってもいいよ?」

「決まりだな。固定はしたが、しっかり掴まれよ? ベッカー」

ギマは加速魔法を唱え、弾丸の様な速さで岩宿の天井に糸を繋ぐとすぐにあり得ない高速で移動を始めた!

「嘘ぉっ?!」

「舌を噛むぞ? ハハっ!!!」

ギマは絶好調だったけど、私は物凄い風圧に、ゴーグル付けてないことを心の底から後悔した。

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