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ロミ~魔法屋の娘~  作者: 大石次郎
8/21

第8話 蛇のパズル 前編

蛇のパズルのクエストの前編です。後編に続きます! 魔女回です。

今月も色々あった5月の末、休暇が取れたからミツネと日を合わせて『雲の魚』のクエストで知り合ったタイゾウさんが入ってる養老院に行くことになった。

この間の『アマリリスの幻灯機』の修理も結局パーツのやり取りだけで会えなかったから、水晶通信の画面越しでしか見てなかったミツネのボブカットを間近で見れるのが楽しみだった。

しかも何とっ。今回ミツネは防護服姿ではなく、氷属性のアクセサリー『樹氷のピアス+1』を付けて熱中症対策をして普段着で来てくれたっ!

ノースリーブのスクエアネックカットソーに裾がワイドシルエットなデニム、ウェッジソールサンダル、白地に崩した図案の青い貝柄の日傘、ウワバミポーチはあんまり量が入らないけど竜型に変形できちゃう野性味ある物をチョイスっ、腰の後ろの鞘には一撃で西瓜を凍結粉砕できちゃう+2の氷属性マグネットタクトを装備! ボブカットも凄く涼しそうだし、控え目に言って最高っ。

一方、私は休暇だから油断して洗い過ぎて何か白っぽくなってきてる適当な六分丈ロングTシャツに適当な膝丈サロペットフレアスカートに適当なスニーカーを身に付け、制帽を被っていないから前髪を去年仕事で知り合ったワーラビットの冒険者に「おめぇ、女子力雑魚過ぎてワンパンだわっ」なんて言われながらもらった人参の装飾の、正直カッコ好くないけど+1が付いてやたら頑丈な髪止めで止めていた。

それから仕事の時は邪魔になるから掛けてないけど、何となく安心するから丸型の伊達眼鏡も掛けてる。+2マグネットタクトと普通のウワバミポーチは身に付けてるから機能的だとは思う・・。

「いいじゃんミツネっ。いつもそのアクセサリー付けて外に出なよ?」

待ち合わせた海鈴堂のある東部8番街の移送魔法バダーンの発着駅で興奮した私が冷たいミツネの腕をバシバシ叩いて言ったら、思い切り眉をしかめられた。ミツネは不意に直接触られるのが余り好きじゃない。

「日差しと湿度は余り防げないから。それに充填式で40時間しか利かない。まず基本的に外出は好きじゃないし、外気に長く晒されるのも苦手。喉が弱いんだ」

「のど飴あげる」

すかさず蜂蜜パインミントのやつを差し出した。経験上、ミツネとコミュニケーションを取るには『正解を模索しながら押す』しかない、と悟っている。

「・・ありがとう」

ミツネは素直に受け取ってくれて口に頬張るとしかめっ面も直ってくれた。

「タイゾウさん、元気かな? 今日、ピッキングエアボードで2人乗りでも良かったね」

「風の障壁無しで高度と速度が出る、ロミには寒いだろう。それに先月散々乗り回してもう飽きた」

「『散々乗り回して飽きた』って何か、悪い女みたいだね」

「・・下ネタか?」

「違うってーっ」

「ロミ、痛いっ。腕をバシバシ叩くのをやめてくれ」

等とじゃれつつ、改めて養老院のある島の奥南部1区のバダーン発着駅まで飛び、そこからタツノオトシゴ型の乗用獣ウェイブライダーが牽く竹を多く使った乗り合い車で養老院に向かった。

「いやぁ~、雪姫さん。防護服着てないとモデルさんみたいだねぇ」

初めて素の姿のミツネに会ったタイゾウさんは目を丸くしていた。私も鼻高々な気分だっ! 私の背が伸びてスタイルが良くなることは一生無いから、その方面はミツネに任せるっ。

「容姿が整っている自覚はあるが、両親の遺伝による物だ。よって私の実力とまでは思っていない」

「う~ん、まぁ、ねぇ・・」

独特な応え方をしてタイゾウさんを困らせるミツネ!

「タイゾウさん、これ私達から。蒸しパンの有名な所のヤツですよ? 皆さんで」

私はすかさずマグネットタクトでポーチから紙袋に入った高級蒸しパンを大量に出した。

蒸しパンならお年寄りでも食べられるし、バターと砂糖も控え目の物を買ったから、制限のある入所者も自力で食べられる人は大丈夫だと思う。オートミールみたいにして食べても美味しいしね!

それからイチホ少年の近況の話をしたり、先日飛行士のラスタも来て施設の水回りの設備を器用に修理してくれた話をしたり、最近のタイゾウさんの体調等のお喋りをした。

その後、事務所に寄って蒸しパンを渡して帰ろうと思ったんだけど、施設の魔工冷風機の調子が悪いのとそのせいで薬品庫の管理が上手くゆかなくて、いくらか薬をダメにしてしまった話を職員の人達から聞いた。

私達はこれから南部のビーチに行くつもりだったけど、予定を変更してミツネは魔工冷風機の修理を。私は間に合わせだけど安い素材を錬成して足りなくなった薬品を補充をすることにした。

作業は結局午後3時過ぎになって、もう南部のビーチにまで行ってられなくなっちゃったけど皆喜んでくれたし、放置するとほんとに危なそうだったし、ランチをタイゾウさんや職員の人達と食べるのも楽しかった。

「乗り合い車来るまで時間あるから、施設の花壇見に行こうよ?」

「ああ、まぁ・・」

気の無い返事だけどミツネはこれで平常運転。

私はミツネと養老院の花壇を見に行った。

「おおっ、サンパラソル咲いてんじゃん」

まだギリ5月だけど花壇にはもうカムヤエ島種の葉が大きく、濃い赤と青みのある白の2種類の花のサンパラソルが満開だった。カムヤエ島種は特に塩気と虫害と長雨に強い。ちょっと育ち過ぎるから楽に育てられるサンパラソルにしてはマメにケアが必要だけど。

「強い花だな。私と違う・・」

ハーフニンフのミツネが言うと実感が込もってる。精巧な氷の彫刻を思わせる横顔を見上げて、どう応えたら『正解』かな? と思って一旦下を向いて思案していたら、花壇の土と下草の陰に何かキラッと光る物を見付けた。

「何これ?」

マグネットタクトで持ち上げてみた。少し大きな服のボタンくらいの大きさ。パズルか何かの鱗みたいにも見える。微かに魔力を感じた。

「・・ロミ、それは『蛇のパズル』だ」

ミツネはやや警戒した声で言った。

「え?」

私はギョッとした。



・・蛇のパズル、島のあちこちに散らばる『誰かが拾わない限り』探知系の様々な手段に引っ掛からない厄介な性質の魔法道具。正体は大昔に島を荒らした魔女喰らいの大竜蛇イ・ドの破片。

イ・ドは元々は島の中部にある渓流地帯『龍の祭殿』にいた下位の水蛇系モンスターに過ぎなかったそうだが、ある時偶然傷付いて弱った魔女見習いを襲って食べたことで力を増し、以後次々と島の魔女達を食べて強大な魔物になり島の魔女達の天敵として恐れられた邪龍。

数十年に及ぶ争いの結果、イ・ドは魔女達に敗れ、その巨体をバラバラにされ霊石でできたパズルの中に封印された。しかし封じられて尚、イ・ドは抵抗を試みて島中に自分のパズルを散らばし拾われない限り見付けられない奇妙な制約を科し、それから100年以上経った現在も魔女達はそのパズルを拾い切れていない。それが蛇のパズル。



「発見したら魔法業者の協会に届けるヤツだよね? 賞金付き! 私、初めて拾ったよ。ラッキ~っ。山分けしようね。あ、この養老院資金難みたいだから半分は寄付しよっか?」

私はウキウキして手に取って改めて見てみた。中々シャレたデザインだ。

「・・見付けてタクトで持上げた時点で『拾い上げられた』と判断すべきだろうな」

「ん?」

私とミツネのテンションの温度差に困惑した。何?

「ロミ、普段ならそれで済むが今はたぶんマズい。一応守備魔法を掛けてから、ここから一番近い冒険者協会か警備局の支部にバダーンで飛ぼう。乗り合い車は無防備過ぎるし、他の客まで巻き込みかねない」

「ちょっ? そんな大袈裟な話?」

「カワン! ゴーノ!」

ミツネは有無を言わせず私と自分に魔力と物理の守備魔法を掛け、さらに自分の氷属性のマグネットタクトでポーチからマシンギミックブレスレッドを2つ引っ張り出し、『No.3』と記された物を私の左手首に、『No.5』と記された物はは自分の右手首に付け、日傘はポーチにしまった。

「詳しくはおいおい話すが、魔女だけでなくあるマフィア勢力もそれを集めている。しかも拾われたパズルを探知する魔工探知機と過去の目撃情報等の載った資料まで連中は持っている。それに呼応して魔女達も気が立っていて、個人でそれを持っているのは危険だ」

「ええ~?」

話しながらNo.5のブレスレットを起動させ、小さなマシンゴーレムの顔が付いた機械化された火器付きの大盾に変型させた!

「ちょっ?! ミツネっ」

いきなり本気過ぎっ。

「ロミ、お前に付けたNo.3は自立迎撃型のマシンゴーレムに変型する。自我の無い高度な兵器型だが一応ゴーレムの形式を取っている。『生物の機能』として神の文明禁忌摂理をすり抜けられる。操作はわからなくて大丈夫だ」

戦うの? いや、それよりも、

「じゃあどっか遠くにコレ捨てよっかっ?」

「ダメだ。マフィアには1つも渡したくない。一般人にも拾わせたくない。行こう」

ミツネは私を大盾を持っていない左腕で抱えた。急な危険? と低い体温と、ミツネは砂糖楓のニンフとのハーフだからパンケーキみたいな匂いがして私は少し混乱した。

「バダーンっ!」

私達は風に包まれ養老院の花壇の前から上空に飛び上がった! 掛けていた伊達の丸眼鏡が飛ばされた。

「あっ」

「すまない、弁償する!」

「ねぇ、パズルがヤバいって、そんな話、師匠からも聞いてないよ私?」

ミツネは苦々しい顔をした。

「・・まず、4日前にとある魔工師から精度の高い『パズル探知機』を島の魔女達が購入した。しかし魔女の中に浪費癖あって借金まみれなヤツがいてな、あろうことか、3日前にとある魔法道具工場にパズル探知機の『複製品』を大量を製造させ、それを2日前に島の魔女なら誰でも持ってる最新の『パズル調査書』の複写書と一緒に元々島外のコレクターに販路を持つマフィアにかなり吹っ掛けた値段で売ってしまったんだ」

「あちゃ~」

 負のドミノ倒し!

「その事が今朝、他の魔女にバレて件の魔女は吊し上げを喰らって生きたままピクルスされたそうだ」

「うげぇっ、何でピクルスっ?!」

ぞわぞわするっ。

「話の中の魔法道具工場というのは『有限会社ゼンマイ』だ」

「アイツら余計なことをっ!」

いかにも引き受けそうだけどっ。

「・・そして最初にオリジナルのパズル探知機を開発したのは、私だ」

「ミツネ?!」

「いや、私は島の魔女達から正式な依頼で開発しただけだっ。ゼンマイ一味の連中も複製品の量産を頼まれただけだしな」

「う~ん」

何か知り合いばかり話に出てきてお腹が痛くなってきた・・。

「私も話を聞いたのは今朝だ。だが、その時点で小競り合い程度の騒ぎしか起こっていないようだった。魔女達から自分達で島の魔法業者や警備局や冒険者協会に話すから半端に事情を広めないでくれ、と警告されてたいたしな」

なる程、おおよそ事情はわかった。

「マフィア自体はただのチンピラだが、金で用心棒を雇っていて手強いのもいるようだ。連中は組の頭が逮捕されたばかりで、アジトから持ち出したりした資金がそれなりにあるらしいのと、形振り構わなくなっている。やはり危険だと思う」

最近、島で頭が逮捕されたマフィア組織・・何か心当たりがあるような??

「そのマフィアは蛇魔人系で、デントヤ一味の残党なんだ」

「あ~っ、やっぱりぃ~っ!!」

あれ? 私のせいかな?? ゼンマイ一味も1枚噛んでるし、何かマッチポンプみたいにもなってない?!

「ロミ、お前のせいじゃない。島は狭い。1度大きなトラブルが起きると循環しがちだ」

「そ、そうだよね? 私悪くないよね?!」

そうだと信じたいっ。

「でも、今って・・っ?! ビクッときた!」

「っ?! 方角は? 指差しでいいっ!」

私は慌てて『敵意探知』で感じた地上の大体の場所を差し示した。ミツネはすぐそちらに大盾を構えたっ。その次の瞬間っ!


ズバァッ!


突然地上から細長く鋭い物が私達に飛んできてバダーンの風の障壁を貫いた! ガンっ!

私を庇いながら大盾でそれを弾くミツネ。バダーンの魔法は解けてしまったっ。

「わぁっ?!」

「ポーラ!」

ミツネは私を抱えて落下しながら、構わず照明魔法をかなり出力でたぶん目眩ましに20個くらい宙に放ち、狙撃? された地上のポイントに向けて大盾の火器を少し乱射して威嚇もした。

「ハナミっ! 変化して素早く私達を地上の森へ運べっ!」

ミツネのウワバミポーチが尾の長い牛くらいの大きさの少し植物のような奇妙な竜に変化すると、私とミツネに尾を巻き付けて物凄い勢いで地上へ降下しだした!

「あぁーーっ?!」

ハナミと呼ばれた竜が、荒っぽく森に着地すると、私は昼食べたお腹の物を戻しそうになった。

「うっっ」

「ハナミ、降ろしてくれ」

「キャウっ」

小型犬みたいな声で吠えて、竜のハナミは私達を地上に降ろした。

「かなりの距離から正確に物理で狙えるヤツがいる。ロミは相性が悪い。私が時間を稼ぐからロミはこのまま真っ直ぐ奥1区の警備局の支部に向かえっ!」

言いながら、ミツネは氷のマグネットタクトでハナミの口の亜空間からNo.4のマシンギミックブレスレットと戦闘用らしいボディバッグを取り出し、ブレスレットを左手首に付けて起動させ、7機のプロペラで飛ぶ小型のマシンゴーレムの頭部に小さな火器が付いた兵器に変型させて、ボディバックも身に付けた。

「私だけ?!」

「相手の人数もわからない、庇いながら戦う自信がないんだ」

足手まといになっちゃうか・・。

「わかった。これ、+は付いてないけど使って」

私はせめてもと、タクトで自分のポーチから加速魔法ベッカーのロールを取り出し渡した。

「ありがとう、使う」

ミツネは5機のプロペラゴーレムをさっき撃たれた相手がいた方角に放ち、自分にベッカーのロールを使うと1度こちらを見てニコッと笑ってから、残り2機のプロペラゴーレムを連れて素早く木々の向こうへ走り去って行った。

「・・キャウっ!」

私がそれを未練がましく見送っていると、非難するような鳴き方をするハナミ。

「わかってるよハナミ。私がこのパズルを持って離れた方がミツネは安全だもんね。乗せて」

ハナミは長い尻尾で私をまた抱え、背に乗せた。樹みたいだけど柔らかく生暖かい背中。

「このまま真っ直ぐ、奥南部1区の警備局支部まで低い高度で木に隠れて飛んで」

「キャウっ!」

ハナミは高速で森の中を高速飛行しだした!

「うわっ?! ちょっと、速っ」

私はハナミの首にしがみ付いた。ゴーグルを取り出したいけど、木を避けながらハナミが高速で飛ぶから余裕がないっ。

「あーっ、もうっ! せめて私もデニム穿いてくればよかったぁっ!!」

ハナミの背中は樹みたいだけどツルツルしている感じもあって、フレアスカートだと踏ん張りが利かないし、ズリ落ちてしまいそうだっ。

「う~っ、っ?! また? ビクっときたっ!」

前方に敵意が2つっ!

「 ハナミ、気を付けて! 前っ!」

「キャウ?」

私の警告にハナミが戸惑う素振りを見せた瞬間っ。ハナミを覆う程の大きな投網の様な物が私達の視界を塞いだ!

「いっ?!」

「っ!」

ハナミは私を尻尾で掴むと後ろに放ったっ。

「きゃあっ?!」

一気に高速低空飛行しているハナミの姿が小さくなったが、投網の様な物で捕らえられるのは見えた! ハナミの名を叫びたかったけど、錬成師の試験では戦闘の単位もある。私は落花の時に舌を噛んだりしない様に口を閉じ、身体を丸める姿勢を取った。その姿勢のまま地面に、木々に、めちゃくちゃに叩き付けられた。

「うっ、がっ、ぐぅっ!」

事前にミツネが簡易物理防御魔法のゴーノを掛けてくれたから致命的なダメージは避けられたけど、それなりにボロボロになった。

「ううっ」

何とか立ち上がる。まだパズルを手離してなかった。こんな物拾わかったら・・。せっかく楽しい休暇だったのにっ。でも、養老院の人達を巻き込まなくてよかった。

「リーマ」

自分に回復魔法を掛ける。少し落ち着いた。マグネットタクトを握り直す。魔眼を使うまでもない、敵意が2つ、茂みのすぐ向こうに迫っていた。

「おっ、威勢がいいな。へっへっへっ」

「気を付けろ、子供のようでも魔法使いだ。小型の竜まで使役していた」

曲刀と四角い魔工機械を持ったシマヘビ系蛇魔人と、肩掛け鞄を身に付け手槍を持ったカラスヘビ系蛇魔人が現れた。どう見てもデントヤ一味の残党だ。あの時は変化して見えていたはずだから私とは気付かないはず。あの場にいたかどうかはわからないけど。

「おい、チビ。持ってるパズルをよこせ。素人じゃないならわかるだろ? 他の持ち物も置いてくなら俺達は見逃してやるぜ? 優しいだろ? へへっ」

シマヘビの男は笑いながらジリジリ近付いてくる。カラスヘビの男ら近付かずいつでも肩掛けに手を入れられる様に構えてる。魔法道具使いだ。2人ともレベルは5程度だったけど蛇魔人は地力が人間より強い。何より暴力に慣れてる様子だった。

近接型のシマヘビにこれ以上近付かれるのはヤバいけど、厄介さは魔法道具使い。ミツネに借りたNo.3のブレスレットを起動させればたぶん勝てる。でもシマヘビの男が近い。話し掛けられたから思わず最後まで聞いてしまった。くそっ、初歩的なミスっ! 隙を作らないと・・。

「こんなのいらないっ」

私は蛇のパズルをシマヘビの男に投げ付けた!

「おっ?!」

慌ててパズルをキャッチしようとするシマヘビの男。後ろのカラスヘビの男はそれに構わず、火炎魔法エルのロールを鞄から取り出して私に使った。さっき渡したら見逃すって言ったのにっ。

私はその炎を避けずに目だけ思わず庇いながらそのまま受け、受けながらNo.3のブレスレットを起動させた!

「なっ?」

「おおっ?!」

ミツネにゴーノだけじゃなく魔力耐性のカワンも掛けてもらってた! 火傷しても即死はしないっ。我慢できるしっ!

マシンギミックブレスレットから質量を無視して私と同じくらいの大きさの腕は無いが頭、胴体、両足だけあるマシンゴーレムが出現した!

「えねみーヲ認識。排除スル」

「このっ」

シマヘビの男はマシンゴーレムに斬りかかったがゴーレムの強烈な足刀蹴りで曲刀を折られ、そのままの勢いで顎も砕かれ昏倒したっ。

「チッ」

カラスヘビの男は舌打ちしながらゴーレムではなく、火傷している私に今度は手槍を投げ付けようとした。しかし、ゴーレムは手槍が投げ付けられる前に回し蹴りで手槍をへし折り、続けて後ろ回し蹴りをカラスヘビの男の腹に打ち込んで昏倒させた!

「えねみー排除。ますたーノ生体反応ガ低下シテイマス。早期ノ回復ヲ」

「そだね。君、強いね・・」

私はタクトで昏倒したシマヘビの男から蛇のパズルを取り返し、ポーチからポーション+1も取り出して、それを対価にリーマを使って火傷と脱水症を治し、上がった体温も下げた。

「ああ~っ、服ボロボロ。あっ、アカネの髪留め無傷だ。凄いな」

思わず苦笑した。気力があまり残ってないけど、とにかくしのげた。

「ハナミを助けないと・・」

ちょっと頭がぼうっとするけど、まだデントヤの残党が近くにいるかもしれない。

「君、索敵とかできる?」

「可能デス・・っ! 上空ニ」

「ジガっ」

マシンゴーレムが上を見て背部から機銃を出すのと宙から電撃魔法を撃たれるのは同時だったっ。バリィっ! 感電し、機能停止させられるNo.3のゴーレム!

「知性の低い人形に物騒な物装備させてるのね」

「また雪姫から借りたんだろ? ダッセェ」

森の木々のより上に箒に乗った双子の魔女見習いのラキとルキがいた。蛙オババの元弟子・・。2人はゆっくり降下してきた。ラキはシマヘビの男が持っていた物によく似た四角い魔工機械を持っていた。これがオリジナルのパズル探知機だろね。

「酷い格好。戦災孤児みたい」

「例えなくていいよ」

妹の方のルキは私の全身をジロジロ見てきた。肩に乗せているイモリの使い魔も私を見てくる。何か、やり難いなコイツ。

「おいっ! ロミ。蛇のパズルよこせよっ。それは元々魔女の物だぞ?」

高圧的な物言い。肩に乗せている使い魔のサンショウウオまで私を見下してくる。何か、コイツに渡すのも、嫌だ。

「タダとは言わないわ」

ルキは+2の闇属性のマグネットタクトを使って、自分のウワバミポーチから小袋を取り出し、私の前に投げおいた。中からやや古い銀貨が溢れた。これになぜかラキが慌てた。

「ルキっ?! 金払うの? オババの遺産もうあんま残ってないよ?!」

「見苦しいこと言わないで。もう直ぐ『魔女の試し』がある。私達にはもう後ろ楯が無いの。少しでもいい条件で参加するには上の人達に認めさせないと・・」

魔女の試しは正式な魔女と認められる為の試験。これに合格しないといつまでも見習いのままで最悪、見捨てられて見習い魔女の力も剥奪させられてしまう。

「ロミ、合わせて80万ゼムになる。そのゴーレムの修理代を差し引いても、普通に組合に提出するより高値になる。どの道、提出するつもりだったんでしょ? 私達にはそれが必要なの。渡して」

 ルキと使い魔のイモリの視線は冷然としている。

「まだデントヤの残党は森にいくらかいるし、私達以外にも点数を稼ぎしたい魔女見習いや直に収集にきている物好きな魔女もいる。私達の様に交渉できる相手なんて、早々いないわ。冷静に考えて」

私は右手に持った蛇のパズルをもう1度見てみた。確かに、元々提出するつもりだったし、悪い話じゃないか・・

「・・わかったよ」

「はぁっ? 何で渋々みたいに言ってんだよっ。ほんと腹立つはコイツっ」

ラキは箒から降りてずんずんこちらに歩いてきた。と、

「待て・・っ」

「クソきゃっ、殺しゅっ!殺しゅっ!」

さっき顎を砕かれたりして昏倒させられた蛇魔人がもう起き上がってきた。潜入した時はカラエモンと特別に用意した魔法系タクトが強力だったのと、一度倒した後は構わずどんどん進んで行っていたけど、蛇魔人は生命力が強いっ。

「ディノっ」

ルキは全く迷わなかった。少なくとも私にはそう見えた。ルキはタクトを蛇魔人達に向け、爆破魔法をそれぞれ既に負傷している顎と腹に打ち込み、シマヘビの男は首を吹き飛ばされ、カラスヘビの男は胴に大穴を空けられ、絶命した。

返り血を頬に浴びたラキは真っ青になった。

「ひっ?! ルキっ、何も殺さなくても・・」

「相手はマフィアよ? 顔を見られた。私達は高度な記憶操作術なんて使えない。安全な隠れ家ももう無い。殺した方が安全だわ。ラキが殺せないから私が殺した。もう誰も、私達姉妹を脅かすことは許さない」

「そ、そうだけど・・」

青ざめたラキと目が合った。私も驚いたけど、あまりにも疲労し過ぎて、グロっ、とか何だか現実感の無い感想しか浮かばなかった。

「お前の始末が悪いからだぞ?! 早く渡せよっ。チビノロマっ!」

ラキは私の手から乱暴に蛇のパズルを奪った。取る時、ラキのやや長い爪が私の手を少し引っ掻いて少し血が出たから痛くて、私は思わずラキを睨んだ。ラキも私を睨んだ。

「何だよっ」

ラキは私の頬を強く張った。

「次、生意気な顔をしたらもう1回ひっぱたくからなっ!」

ラキは言うだけ言って、箒で上昇していった。ルキは先に上昇していた。

「ロミ、そのお金は恥じゃない。拾うといいわ。この男達の持ち物も持っていった方がいい。残しても、どうせ仲間のマフィアが悪事に使うだけ。お前ももっと、奪って盗んで、生きてゆくことを覚えた方がいい」

「ノロマはぬくぬくとジジイ達と家族ごっこでもやってろっ、バーカっ!」

ルキとラキは箒で飛び去っていった。私は猛烈に眠くなってきたけど、何とか壊れたNo.3のゴーレムをブレスレットに戻し、銀貨を拾い、先で投網の様な物で捕獲された状態でいるはずのハナミを助けに行った。

単に死体が怖かっただけかもしれないけど、蛇魔人達の持ち物を漁ることはできなかった。例えそれが間接的に悪事を助長しても、私にはもうどうしようもないことだった。



パズルを持っていないこともあって、その後はデントヤの残党にも魔女達にも遭遇せず、ハナミの背に乗って素早く奥南部1区の警備局支部にたどり着けた。

私がボロボロの格好で竜を連れて支部に入ったからちょっとした騒ぎになったけど、疲れ過ぎて回らない頭で何とか事情を話し、改めて支部付きの魔法医に検査や治療を受けたり、借りた毛布を羽織って温かいココアをもらったりした。

回復魔法は掛けたけど、ハナミは投網の様に見えたのは刃の縄でできた網で捕獲する魔法道具『ソリッドウェブ+1』だったからか、かなり消耗していて、私が警備局員達に保護されるのを見届けるとすぐにポーチの姿に戻って休眠してしまった。

程なく連絡を受けた師匠とモリシが慌ててやってきて、師匠からは1度頬に手を当てられて「無事だな?」と言われてから、後は状況の再確認。

モリシは、「着替え持ってきた!」「 ネリィさんに選んでもらってきたから僕はお前の部屋に入ってない!」「 またラキにイジメられたのか?」「 警備局の取り締まりが甘い!」「 魔女達も仕切りが悪い! 」「お前も普段からもっと武装して出歩くべきだ!」「危機感が足りない!」と1人でわーわー言っていた。

師匠はすぐに警備局支部長や魔法業者の協会や魔女達と話をしにゆき、モリシは自分が番をしてるから着替えてから寝た方がいいミツネさんもきっと無事、といった様なことを言っていたけど、眠くてぼんやりしてきたから余り頭に入ってこなくて、着替えないまま私は毛布にくるまって眠った。

・・・・私はカムヤエ島行きの飛翔船の三等客室の端っこの方に座っていた。身体が子供で、まだ人間。ああ夢だな、と思う。私は大体酷い目に遭うとすぐ昔の記憶に引き込もってしまうようだ。ラキの罵倒はいちいち的確で、上手く言い返せない所もある。

三等客室といっても当時は酷いもんで、小汚ない板間の大部屋に貧乏な客が詰め込まれているだけだ。客室付きのトイレも最低だった。私の近くには私を飛翔船に乗せてくれたお人好しの冒険者達もいた。私が奉公先でイジメられて島にいる母に会いにゆく、という口から出任せを信じてくれた。

下働きをしていた逃げた『店』からとにかく遠くに逃げなきゃならなかった。今、冷静に考えると離島何かに逃げたらそれこそ逃げ場が無いんだけど、子供だったから『船で遠くの島に逃げる』くらいしか思い付かなかったんだと思う。成り行きもあったけど。

追ってきた店の者達に捕まったら見せしめに酷い殺され方する。前に私より賢い子が私よりちゃんと準備して逃げたけど逃げ切れなくて酷いことになった。

どうせ死ぬ。捕まりそうになったら酷いことになる前に死のう、と思いながら、私は膝を抱えて座っていた。この頃の恐怖は、いつまでも私にこびり付いている。

・・次に目を覚ますと私はたぶんそのまま警備局支部の殺風景な空いた部屋の長椅子に寝かされていて、窓から夕日が射し込んでいた。そしてっ、ワーウルフのヒムロが私の顔を覗き込んでいた。凄い牙!

「わぁーっ?!」

慌てて長椅子の端の方に逃げたっ。

「起きたね。元気そうだ」

ヒムロは屈めていた鍛えぬいた長身を伸ばし、姿勢を正すと、砕けた様子から平常運転の鉄面皮の顔に戻った。

「え? 何で??」

部屋を見回すとモリシは部屋の端の方に椅子を置いて、ちょこーんっと座って冷や汗をかいていた。

「よっ、ロミ。起きた? 早く着替えた方がいいぜ? 更衣室、隣あるよ?」

「あるよ? じゃないよっ。番するとか言ってなかった?!」

「う~ん、まぁ、ヒムロさんいい人みたいだしっ。いいかなぁ? どうぞぉ、ロミ、寝てまーす、みたいな」

「あんたねぇっ」

ダメだっ、モリシセキュリティはザル過ぎだっ。

「まぁまぁ、私が勝手に来ただけなので。とんだ目に遭いましたね。チンピラの類いは荒事に慣れているので、無防備な時はもう少し危機意識を持って対応した方がいいですよ?」

「そう、ですね・・でも、何でヒムロさんが?」

「島の魔女達が騒がしいのと、滅多に動かないイ・ドの破片、蛇のパズルがたくさん動きだしたので主が興味を示しまして。城に出入りする魔女にも話を聞いたのですが、直にも調べるよう命じられましたので」

「そうだったんですか」

執事長のヒムロも動いてるんだ。というかアマリリス城の役職の基準ってどうなってるんだろ??

「どうも貴女に関わる人々に事情が重なっている様子ですね。どんなものかと来てみましたが」

「それは、お騒がせ? してしまって」

ヒムロは少し笑みを浮かべ、左手を胸の前に上げた。手首に『転移の腕輪+2』を付けていた。

「よかったらそのポーションをお使い下さい。それでは」

ヒムロはテレポートして消えていった。部屋のテーブルにはポーション+2もあった。モリシはホッとした様子だった。まぁ、部屋でどう見てもハチャメチャに強いワーウルフと私が起きるまで2人にされたらそうなるよね。

「ウイジャ様、海賊が攻めてきた時は無関心だったらしいけど、今回アクティブだね」

「旦那さんのことでここ数十年鬱だったっぽいしね」

「数十年って・・」

誰かに相談したらいいのに。と、ここで私は気が付いた!

「ミツネは?!」

忘れてた自分に腹が立った。

「ああ、一応水晶通信で連絡付いたよ。携帯型のヤツ持ってるみたいでさ。養老院近くでマフィアを撃退した後でロミが無事なのを通信で確認して、そのままゼンマイ一味と合流して他のエリアのパズル集めてるマフィアを狩りに行ったみたいだ。ぬっちんさんもライヴが終わったら参加するって」

「何それ~?! 何かスポーツみたいになってるじゃん? 私、死にかけたよ??」

「いや、あの人達はロミより武闘派だから。でも今日の昼過ぎくらいかな? 島のあちこちでパズル集めでトラブルが起こり始めてたみたいで、今はもう警備局と冒険者協会と魔法業者の協会が合同で対応してる。魔女達もウイジャ様が出てきてるならもう下手なことはしないでしょ? ロミは休んでていいよ」

「う~ん、モリシは?」

「えっ? ほら、僕はここの番があるしっ」

「番できてないじゃん?」

「いや、この文庫本もうすぐ読み終わるしっ」

「暇じゃん?」

何て言いあったりもしたけど、私は大人しくポーション+2を飲んでから、今度はぐっすり嫌な夢も見ずまたまた長椅子で眠りに落ちた。あー、また着替えるの忘れた。

・・・パンケーキみたいな匂いがした。

「ミツネっ!」

跳ね起きると部屋は夜になっていて、カンテラの火が幾つか灯っていた。モリシの姿はなく、長椅子の近くのテーブルを退けて、床に胡座で座って私が上手く操れなくてルキに壊されてしまったNo.3のゴーレムを修理していたらしいミツネが驚いてこちらを見上げていた。そばにハナミだったポーチも置いてあった。ミツネも大概ボロボロの様子だった。

「ああ、おはよう。大体片付いたけど、魔女達が」

「ミツネぇ~っ!!!」

私はミツネに飛び付いて抱き付いたっ。冷たい身体、砂糖楓の匂い。ミツネだ!

「無事でよかったぁっ」

「それはこちらがお前に言いたいよ、ロミ。事前にもう少しNo.3の使い方を説明しておくべきだったな。ごめん」

「いいよいいよぉ~っ、ううっ。心配したぁっ」

実は結構長い時間忘れちゃってたけどっ。

「ありがとう。だが、私から離れた方がいい、体温を下げてしまうぞ?」

「火傷したからちょうどいいっ」

「ロミ・・困ったな」

ほんとに困ってる気配を感じたが、暫く離れる気にならなかった。

「そういえばモリシは?」

「さっきお前が魔女からもらった銀貨の入った袋を持って先に帰ったよ」

「んんっ? 何でお金持ってくの?!」

あの報酬? を拾うまで私がどれだけ酷い目に遭ったことか! 打撲っ! 火傷っ! ビンタっ! 屈辱っ! 何か残酷ショーみたいなのも間近で見せられたし・・。改めて思い出すと当分肉料理食べられそうにないっ。

「No.3の修理代はもうモリシからもらった。金は大金だから取り敢えず店に持ってくと言っていた。どうもお前のウワバミポーチが少し破損しているようだしな」

「嘘ぉっ?」

見てみると確かにポーチがボロボロだ。

「ロミ、夜間のバダーンは危ないからここに泊まってゆくといいよ。私もマフィアに顔を見られたかもしれないから取り敢えずこの支部に泊まる」

「やったぁっ」

ミツネとお泊まり初めてだ!

「お風呂あるのかな? 一緒に入ろうよっ」

「私は冷水浴だが?」

「え~っ?!」

結局、お風呂は別々に入った・・・残念っ。

翌朝、警備局員から話を聞くと、デントヤ残党は7割方壊滅して残りの半数も島外に逃げたらしかった。ミツネや私の顔も割れてないそうだし、まずは一安心、かな?

水晶通信で師匠やヌチ子さんや、それから文句も言ってやったけどゼンマイ一味にも連絡した後、支部からミツネと2人で出た。 

 モリシが昨日持ってきてくれたミリィさんが選んでくれたという着替えがスポーツバッグとトレーナー上下とブルゾン、ペタッとした家の中庭とかで履くタイプのサンダルだったから、見た目が『姉が警備署に引き取りにきた不良少女A』みたいになってたっ。ミリィさん、夜は寝易かったよ・・。

 とにかく、私の範囲では今回の蛇のパズル騒動は一段落っ!



と、思ったんだけど・・数日後。6月に入っていた。熱帯のカムヤエ島の梅雨は雨が激しく、中々止まない。水の中にいるみたいな気になるくらい。

あの後、デントヤの残党の話も魔女や蛇のパズルの話もパタリ、と聞かなくなり、そんな騒ぎ夢だったんじゃないか? というくらいの音沙汰の無さだった。何か、やる気? を出していたらしいアマリリス城のウイジャも肩透かしだったんじゃないかな?

そんなことを思いつつ、今日は午前中モンスター種族の冒険者のクラスチェンジの仕事が多く、バタバタしていた。

それが一段落ついて結構収入になったから午後は思い切って店を閉めてしまうことになって、師匠は例によっておめかししてデートに出掛け、モリシは『無限に散らかってる自分の部屋をそろそろ片付けてみようと思う』と、宿命の敵と戦う、くらいの勢いで家に帰り、海鈴堂には私と、家事をするネリィさんだけになった。

私は最初はネリィさんの掃除を手伝ったりもしていたけど、「私はお給金を頂いて仕事でしていますから」と言われてしまい、大人しく自分の部屋で夕飯まで時間を潰すことにした。

「・・外、雨だし。ミツネは今日忙しいみたいだし、ヌチ子さんはオーディションあるとか言ってたし。あー、・・・私、友達少ないな」

チラっと机の上に置きっぱなしになっている件の銀貨の入った袋はミツネのゴーレムの修理代以外は手付かずで置きっぱなしだ。考えてみるとハナミの修理? 代も払うべきどけど、それは払いそびれていた。

いっそタイゾウさんの養老院に全部寄付しようかとも思ったけど、師匠にはこのお金を使って普段トラブルに巻き込まれても対処できる様に、普段から身に付ける物を強化したらいいと言われてもいた。

「今日、錬成しちゃおっかなぁ。でも、何か、思い付かないなぁ」

私は考えるのがめんどくさくなって制服のままベッドに寝転び、タクトが腰に当たってちょっと痛かったからタクトを鞘から抜いて右手に持ってぼんやりしていた。

「・・そういえば、ルキがもうすぐ魔女の試しとか言ってたな・・・」

魔女の試しなんて滅多にない。前に行われたのって確か私が石の中にいた頃だったと思う。

「ラキ、試験に落ちろっ」

私は思わず小者っぽいことを言って、自分で自分に苦笑してしまった。そのままベッドでうつらうつらしていた・・



ガタガタッ



どれくらい時間が経ったろう? 気が付くと私は眠っていたらしく、奇妙な物音で目覚めたっ。

「何? どこ??」

タクトを握り直し、制帽も被り直した。見ると、揺れて音を鳴らしているのは机の引き出しだった。

「誰?」

『誰?』って聞いちゃったけど、誰かいるのかな? 引き出しの中に? けどガタガタッ! 私の呼び掛けに呼応して、より大きく引き出しが揺れるようになった。

「ええ? 怖っ」

私はよっぽど魔眼を使って中を見ようと思ったけど、何か凄い物が入ってたらどうしようと思って踏ん切りがつかなかった。と、より激しく引き出しが揺れて、机の上の銀貨の袋が床に落ちてヂャリーンっ! と散らばってしまった。あ~あ。けどこの音に引き出しの『中』が反応した。

「何の音? 怖いっ。・・開けてっ! 私、アモッチっ」

癖の有る女の子の声がした。アモッチ??

「いや、アモッチとか知らない! 誰?!」

余計怖いっ。

「魔女見習いっ! ルキとかラキと一緒っ」

「魔女見習い?」

魔法で私の机の引き出しの中に??

「アモッチの固有魔法は『箱から箱に移動』っ。一度箱に入ったらその箱から出るまで別の箱には移動できないのっ。この引き出し鍵掛けてるよね?! もう1時間くらい出られないっ」

確かに揺れてる引き出しには日記とかが入ってるから鍵付きだ。でも何その魔法・・。

「ほんとソレ? 大体何で私の所に?」

「仕事の依頼っ。早く開けてっ! 中でオシッコするよ?!」

「やめてぇ~っ?! 日記とか入ってるしっ」

私はウワバミポーチから引き出しの鍵を取り出して、そのまま鍵を操って引き出しの鍵を開けた! 勿論警戒は崩さないっ。

「やっと開いたぁっ」


ニュルっっ。


引き出しが開いて、中から軟体動物みたいになった魔女見習いっぽい何かが抜け出してきて床に落ち、それがブルルっと揺れなごら、はっきりとした形の前髪長めで痩せた魔女見習いの女の子に変わった! 肩にクワガタ虫の使い魔を乗せ、手には箒も持っていたが、身に付いた全てを軟体化する力も持っているみたい。何この子??

「あ~、死ぬかと思った! アモッチ閉所恐怖症だから」

何で箱から箱への移動、の力を覚えたの?

「で、何? アモッチ、さん? 仕事の依頼?」

「そうっ! でもちょっと待って、喉渇いた。間接バキバキになっちゃったしっ」

中でどうなってたんだか。アモッチは自分の箱みたいな形のウワバミポーチかはポーションを取り出し3分の2ぐらい飲み干し、残りは肩のクワガタ虫の使い魔に飲ませた。

「クワ夫も喉渇いたねぇ」

使い魔とわりと友好的な関係を築くタイプか。

「うん、実はさっ。あれ? 凄いお金散らばってる。アモッチのせい?」

「もうそこはいいからっ」

「そう?」

アモッチは虎のヌイグルミの置いてある私の部屋の小さなソファに座った。

「はぁ~っ、リラックスっ」

「アモッチさん?!」

強めに言った。何かやり難い子っ。

「・・もうすぐ蛇のパズルを使って魔女の試しが行われるんだ」

「蛇のパズル使うの?」

魔女の試しは毎回やり方は違うそうだけで、何も天敵の破片を使わなくても・・。

「そ、アモッチ的には危ないと思うんだけど、この間の騒動でパズルが一杯集まったし、使っちゃおう、って上の人達が決めたみたい」

気紛れだなぁ。『上の人』達っ!

「でね。蛇のパズルはまぁ一旦こっちに置いといて」

『横に置くポーズ』をするアモッチ。

「魔女見習いの子達の中には色んな子達がいてね。グループがあったり、誰々のことが好きとか嫌いとかもあったり」

女学校的な?

「それで?」

「それで? だって! 高圧的ぃ~っ。ふふっ」

「もう何っ! 要領を得ないんですけど?!」

正式な依頼人か何なのかよくわからなくて敬語がふわふわするっ。

「アモッチに怒らないでよぉ?」

「怒ってませんからっ! 要件をお願いします! 具体的にっ」

「だからぁ」

アモッチは悪戯っぽく笑った。

「ルキとラキと仲の悪いグループの子達がさ、試験のどさくさにね」

「どさくさに?」

「ルキとラキを殺しちゃおうって決めたみたい」

軽い話みたいな口ぶり。

「・・それほんとに?」

「魔眼でアモッチを見てみたら?」

前髪の間から少し覗いた目で私を挑発する様に見てきた。

「見ますよ?」

「いいよぉ~」

私は両目の前に両手を人差し指と中指だけ開いたポーズで掲げた。

「変なのっ! フフっ」

「変じゃないっ」

私は『魔眼正体看破』を発動した! ・・虚言を吐く者には見えなかった。

「見えた?」

「見えたけど」

私は途方に暮れた。何で? 私にそんなこと報されても困るよ・・。

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