第6話 ベイビー怪盗団
怪盗ギルレディとゼンマイ盗賊団とロミが合体します?!
5月の中頃、カラッと晴れた日だったけど私とモリシは店の受け付けをハニワゴーレムの1号君と2号君に任せ、奥の作業部屋に籠って延々と『保冷水筒+0,5』を錬成していた。師匠は組合の寄り合いに出掛けると言ってたけど、キザな背広を着て行ったからたぶんデートだろう。何番目の彼女か知らないけど・・。
「保冷水筒ってこんな需要あるんだな」
仮置きの棚に並べられた結構な数の錬成済みの水筒をうらめしそうに見ながらボヤくモリシ。
「需要があるから仕事になってんだよ」
「だなぁ。でもロミ、こんな大量に作るなら工場でガッと作った方が効率良いんじゃないか?」
「ふふっ、しかしモリシよ、中小企業ではね・・」
私は作業しながら師匠の受け売りを得意気に語ってやったさ。
取り敢えず午前の作業のキリのいい所まで済ませ、材料の補充や場所が無いから仮置き品を別の部屋に移す作業はモリシに任せ、私は1号君達から午前中の来客対応の確認を取ったり、まだ受け付けにいた客への対応をちょっとしたりしてから一旦店を閉めて昼休みを取ることにした。
「はい、召し上がれ」
ダイニングでネリィさんがパエリヤ、ではなく蕎麦ヌードルの海鮮入り掻き野菜フライ乗せを出してくれた。モリシはそんなバカなという量の特盛りだ。当たり前になってるけど、コイツの身体は大丈夫なんだろうか??
「ありがとうネリィさん。美味しそう。あ、キュウリの紫蘇塩漬けもあるんだ。やったっ」
「いつも大盛悪いですね。頂きます」
大盛じゃなくて特盛ね。
「頂きまーす」
島では食事の前後に右手で左胸を覆う『食礼』の作法がある。ちょっと前まで住んでいた海底都市ではまた習慣が違ったから時々間違えそうになる。
「・・姉弟みたいねぇ」
食事する私達を見て目を細めるふっくらしたネリィさん。
「やめてくださーい」
「そこは僕も訂正せざるを得ないところですよ?」
「ふふ」
暫く、私達は食事しながら、ネリィさんは調理に使った器具等を洗いながら、長命種の人魚は育児期間が長くて大変だというネリィさんのお子さんの話や、亡くなった旦那さんの話。最近の保冷水筒のトレンド、モリシが応援しているアイドルグループの話何かをしていた。
そうして蕎麦ヌードルを食べ終わって、デザートのチョコミントソースと小豆の甘露煮を詰めたダイフックという餅菓子を食べ出した所でダイニングの棚に置いてある羊のブリキ人形が喚きだした。
「来客ダヨ! 来客ダヨ! 人間レベル6っ! 来客ダヨ!」
「レベル6? 一般人か冒険者か微妙だね? というか店閉めてるのにっ」
「ロミ、出てくれ。僕は今、ダイフックが自動的に吸い込まれるターンなんだ」
何だよそのダメターンっ。
「あんた、その内血糖値が逝っちゃうからね。ネリィさん、ちょっと対応してくるんで、私の分取っといて下さい。モリシから守って下さいね私のダイフック」
「はいはい」
苦笑するネリィさんだった。私は制帽を被ってテーブルに置いていたマグネットタクトを腰裏の鞘に差し、まだ騒いでいるブリキの羊を止めて受け付けに向かった。
「・・うん?」
受け付けまで出てゆくと『休憩中』の看板を無視して入ってきたらしい客が出入り口の所で仁王立ちしていた。羽根付き帽子を深めに被り大きめのサングラスを掛け、あまり特徴が無い観光慣れした観光客が着る様なラフな格好をしていた。そこそこ若い、たぶんブルーギル系海魔人ハーフの人間だ。背は162cmくらい、髪はセミロング。
これだけなら島では別に珍しくも無い見たままの『観光慣れして着飾らない、たぶん家がお金持ちの若い観光客の娘』としか思わなかっただろうけど、私は何だか戸惑ってしまった。全体的に華奢。頭が小さい。手足の造りも繊細で、肌や髪の質感も絹みたい。ミツネなんかは背が高くて、籠りがちなわりにはガッシリした体格の美人だけど、また違ったタイプの美形だ。
「あのハニワゴーレム達はただの飾りなの?」
特に頼む作業がないから停止モードで受け付けロビーの端のベンチに並んで座らせていた1号君達をビシッと指差すお客さん。声が素人じゃない。喋ることを訓練した出来上がった発声。それもこれはどうもエンタメ系の業種の声。古典系や、あるいは水商売の人の発声はまた違う。
「あ、すいませんね。今、休憩中で止めてました」
応えながら気付いたが、初見でゴーレムの中でもそんなにメジャーじゃないハニワゴーレムだと気付くのはやっぱり素人じゃないのかな? レベル6あるし。何か迫力ある。でも屈強な海魔人ベースでレベル6あったら素人であってもプロには敵わないけど本気で暴れたら石の壁をキックでひび割れさせるくらいはできて、凄みは素であったりもする。ゴーレムカタログを見てフィギュアとか集める人もいるし・・う~ん? 芸能? 冒険者??
「まぁいいわ、君が海鈴堂の錬成師ロミね?」
ニヤッと笑ってツカツカと結構ヒールのあるストラップサンダルで間近に近付いてくるお客さん。何か、どっかで見たことあるような? やっぱ芸能関係だよなぁ。意外と高い服や装飾品の類いは身に付けてないけど。誰だっけ??
「ええ、まぁ2級錬成師のロミ、ですが?」
私はヒールの無い靴だったし、青年期のパタヤ族だからこれくらいで普通なんだけど身長が153cmだから、見下ろされる形になった。というか距離近くない? 戸惑っているとお客さんはサングラスを取った。パッチリした目。そして絶対見たことある顔だけど絶妙に思い出せないっ! 誰?!
「私はヌチ子っ! 煌めき渚シスターズの1期生、『乱れる生態系っ、ブルーなギルっ!』の『ぬっちん』だよ?!」
決め台詞と決めポーズを至近距離でカマしてくるヌチ子さん! 近くで見ると意外と運動量があって武道の型みたいだ。
「あーっ! そうだっ。モリシ・・あの、同僚が持ってる雑誌とかグッズの転写図とかイラストで見たことありました。公開イベントを遠くから見たことも何度かありましたよっ」
「ふっ・・無理しなくていいんだよ?」
急にニヒルな顔で遠くを見るヌチ子さん。
「どうせ、『何か見たことあるけど誰かはわからない』くらいだったんでしょ?」
「いや、それはっ」
実際そうだったけどっ、しょうがないじゃん? 芸能全般あんま興味無いしっ。
「どうせ・・どうせ私はメンバー13人中序列13位だよっ! 1期生ももう私だけっ、最初は妹キャラだったのに追加オーディションで若い子ばっかり取るからいつの間にか姉御キャラっ。途中でキャラ変えるのしんどいっ。私服で現場にいるとマネージャーに間違われまくりっ。ファンが少ないのに活動歴が長いからちょっと親戚みたいになってきてるっ。最近新メンの教育係を飛び越えて新人マネージャーの教育係を任されたよっ?! 暗に裏方に回れと促されてるんだろうけど全力気付いてないフリしてるからぁ~っ! うわぁ~んっ!!」
床に突っ伏して泣きだしちゃったっ。こんな整った容姿なのに芸能界は皆整ってたり、面白かったり、表現力あったり、頭の回転良かったり、運持ってたり、コネあったり、競争得意だったりするだろうから厳しかったんだね・・。
「何の騒ぎ? ロミ、大丈夫か??」
店の奥から用心深く自分の水属性のマグネットタクト+1を構えてモリシがのそっと出てきた。そしてヌチ子さんと目が合い固まるモリシ。えっと、モリシって誰推しだっけ??
「ヌチ子さん・・ども、お疲れです」
「こんちは。君、ヨリちゃん推しだよね」
急に冷めた顔になるヌチ子さん。やっぱり別の人推しだったか、ヌチ子さん推しって聞いたことなかったし・・。
「はい、すいません・・。あ、でもヲタ友にぬっちんさん推しがいて投票会の時に2票、付き合いで投票しましたっ!」
必死でフォローを試みるモリシだったが、ヌチ子さんは取り合わなかった。
「哀れみは無用。それに総票の3割は運営が盛ってるから上位以外は誤差なのよ・・」
「そんなっ!」
「ビジネスだから。君、因みにヨリちゃん彼氏『3人』いるから」
「っ?! 嘘だぁーっ!!!」
「スタイリストと、代理店社員と、体格がいいそこら辺の居酒屋の店員をローテで」
「やめて~っ! せめて芸能界だけで完結させてぇっ!! 居酒屋てっ」
床に突っ伏して泣くモリシ。何なの? アイドル界隈って情緒不安定な人ばっかりなの??
「あの・・ヌチ子、さん? 何の御用で来店されたんですか?」
ラチが開かないのでこちらから切り出す。
「安心して、別に現場でよく見るけど一生自分のファンにならないお客さんの心をわざわざ折りにきたワケじゃないから」
真顔で言うヌチ子さんだが既にモリシの心は折ったよね?
「まずはこれを見て」
ヌチ子さんは右腕の腕輪を触った。
「っ?!」
次の瞬間、腕輪が淡く光り、続けてヌチ子さんの全身も淡い光に包まれた! レベルが7、8・・11に上がった!! パッと見た感じ『頑強』『剛力』『闘気纏い』の能力も持っている。闘気纏いは主に闘争心に基づく生命力を全身に宿して力の底上げを行うレア能力だ。
「それ、『ステータスセーブアクセサリー』だったんですか」
ステータスセーブアクセサリー類は力を押さえて隠しつつ、アクセサリーの中に押さえた力を蓄える魔法道具。泣いていたモリシも困惑している。
「そう、これは+2の品だけど強化した力の半分は耐久性、残り半分はステータスセーブアクセサリーであることを隠すことに振ってるんだ。私、闘気を抑えるの苦手で、芸能活動どころか日常生活送るのも難しいから」
「はぁ・・つまり、必需品のその腕輪をウチの店で整備してほしい、ということですか?」
「ああ、違う違う。ここまで前振りだから」
前振り??
「もう1つ、魔法道具身に付けてるんだ」
ヌチ子さんは今度は左腕に付けている腕輪を触った。するとさっきより強い光にヌチ子さんの全身を包み、ヌチ子さんの着衣が水にほどける薄紙のように崩れた。私もビックリしたけどモリシも慌てて自分の両手で自分の両目を覆った。お前、真面目だなっ。
「あ、カッコイイっ」
光が収まると、自慢気な顔のヌチ子さんの服装が変化していた。女子レスラー衣装っぽい。ドレスユニタードタイプ。シューズとグローブも身に付け、鼻から目元まで覆う半面マスクも付けていた。ただのコスプレではなく、たぶん+2くらい強化されていて防具としての効果もあるようだ。
「左の腕輪はトレードチェンジアクセサリー+2で、こっちも耐久性と効果を隠す仕様になってるんだよ」
トレードチェンジアクセサリーはアクセサリーの中に特定の品を収納し、任意でそれと外にある物を交換する力のある魔法道具。モリシはワケがわからな過ぎて目が点になっていた。私もずっと困惑してるけどっ。
「あ~、わかりました。実は趣味で素性を隠して格闘大会何かに出ているんですね? その大会にセコンドしてつけ、とか、そういうことですか?!」
これになぜかウケて大笑いするヌチ子さん。
「あははっ、そうだよねっ。普通、いきなりこの格好見せられたらそっち系の想像するよね。でも違うんだ。実は私・・」
レスラー衣装? のヌチ子さんはその場で身軽にムーンサルトを決め、軽やかに、それもかなり決め決めのポーズで着地した。
「怪盗ギルレディなんだ!」
「・・・」
「・・・」
今度こそ、私もモリシも2人して本格的に固まってしまった。
怪盗ギルレディ。ちょうど1年程前からこのカムヤエ島を中心に暗躍しだした謎の怪盗。狙うのは悪人ばかり、盗んだお宝はほとんど、或いは全部、困っている人々や本来の持ち主に返す義賊でもある。無闇に命を取ることはしないがわりと武闘派で、対峙した悪人を物理的に格闘技でコテンパンにする傾向もある。その正体は謎に包まれていた・・。
「それが私ってワケ」
「はぁ・・」
「ぬっちんさんが・・」
私達はいつ他に人が来るかわからない受け付けロビーから使ってない地下の作業部屋に移動していた。
「ここ、殺風景ねぇ。換気大丈夫?」
「問題無いです。それより、何でアイドルやってらっしゃる方が盗賊を?」
「盗賊じゃなくて怪盗ね」
「あ、はい。怪盗を、なぜ?」
そして、海鈴堂に何用??
「私が怪盗を始めた理由・・それは」
「それは?」
「・・・話、長くなるから省略っ!」
省略されたっ。
「そこは大して重要じゃないから」
いや、結構重要だと思うけど?
「コイツなんだけど、イガ国から盗まれた秘宝『オリハルコン手裏剣』を持ってるらしいんだよ」
ヌチ子さん、いや怪盗ギルレディは腰の後ろのウワバミポーチから転写図付きの貼り紙を取り出し、テーブルに拡げた。賞金首の貼り紙だ。凶悪な人相のアナコンダ系蛇魔人の男『デントヤ』が乗ってる。賞金額は4000万ゼムっ! 尚、100ゼム払えばちょっと美味しい食パンが買えますっ。
「え、この賞金首の人からその手裏剣の秘宝をぶんどるから協力しろ、ってことですか?」
「僕、荒っぽいことは・・泥棒だし」
魔法屋の仕事じゃないよ。
「まぁ最後まで聞いてよ。実はさ・・」
ギルレディは主旨を話し出した。要約すると、デントヤは今、島の西2番街の豪邸に潜伏している。豪邸にはオリハルコン手裏剣に加え、地下に誘拐されたり売られたパタヤ族等の子供達が多数拉致されている。さらに安価で依存性の強いソフトドラックと率はいいが猛悪なハードドラックの精製工場もある。豪邸はデントヤと内通している島の大物政治家の別邸で、確固たる証拠がないと島の警備局も冒険者協会も手を出し難い。
近々治安の悪い南4番街でブラックマーケットのオークションがあり、そこでオリハルコン手裏剣と子供達は売られ、薬の売買契約も済まされてしまう。デントヤはこれが片付くとすぐに高跳びする構え。時間は無い、しかし先日潜入捜査官が2名が殺害されてしまった。正攻法の摘発はもはや不可能。
「そこで私の所に話が来た、ってワケ」
「警備局とつるんでるんですか?」
「それはそれで汚職の臭いが・・」
「そんなんじゃないよ。私は元々デントヤと癒着している政治家を狙ってたからその筋で警備局の腐れ縁の刑事官と話す機会があってね。義賊、怪盗ギルレディとしてはほっとけないし、一肌脱ごうってなったんだよ。地下の子供達のピックアップとドラッグ工場の制圧、後はオリハルコン手裏剣を回収してイガ国との外交案件にすれば大物政治家のバックがあっても警備局で処理可能っ! ってワケ」
なる程、そういう流れか。でも、
「そのクエストに何で私達が関係するんですか?」
「僕は戦闘とか無理ですって! 魔法大学の寮でボッコボコにイジめられて退学したんですよ?!」
「あちゃ~、そりゃ大変だったね」
「いや、そこは、もう、昔の話なんで・・」
海鈴堂にちょっとずつ通い出してから、休憩の時に皆で一緒にご飯食べるようになるまで結構時間掛かったし、まだわりと大変だけどね。
「うん、ロミちゃん」
「はい?」
「この間、ゼンマイ盗賊団。懲らしめたでしょ?」
ニヤリとするギルレディ。まさか・・
「アイツら、使える?」
「ええ~?」
使える、というか結構気まずいんですけどっ?!
「ふふん、中々ノ警備ジャナイカ。腕ガ鳴ルゼ」
西2番街のデントヤが潜伏している豪邸を見下ろせる少し離れた位置にある高台の雑木林の陰から双眼鏡で豪邸を伺いながらほくそ笑むゼンマイ盗賊団リーダー『ゴッチャン』。体長は私より少し高いくらいだが、ボリュームが厚い。豪腕型カラクリ兵だ。
「カッカッカッ、暴レルノハ久シ振リダ」
放電十手の手入れに余念が無いゼンマイ盗賊団の斬り込み隊長カラエモン。侍型カラクリ兵。
「地下ノ子供達ノれすきゅーハ私ニ任セテ」
金属を編んだ鞭でピシャーンっと、地面を打つゼンマイ盗賊団の紅一点『ニビー』。女スパイ型カラクリ兵だ。
「どらっぐ施設ハ僕ガ制圧スル」
足に仕込んだ熱刃ナイフを確認するゼンマイ盗賊団の永遠のルーキー。少年型カラクリ兵の『キュエス』。
ゼンマイ盗賊団が全員揃っていた。普通の工場業務に退屈していた連中はギルレディの話にすぐ食い付いた。
「施設にはマシンゴーレムもいるけど、生きてる者はなるべく殺したらダメだよ?」
ステータスは既に解放しているが、まだギルレディのコスチュームに変身していないヌチ子さん。ついさっきまでアイドル活動のライブがあったらしく、アイドル衣装の上に適当な上着を羽織った格好でストレッチしていた。夕方までフル稼働で芸能活動してたのにタフだなぁ。
「ドウセくずシカイナインダロ? 面倒ダナ」
うんざり顔のカラエモン。コイツ、結構好戦的だからな・・。
「こんな派手な戦闘装甲車両、必要ですか? というか僕を巻き込まないで下さいよ?!」
雑木林にパーツを分解して運び込んだ装甲戦闘車両をモリシとミツネから借りたミニゴーレム達が組み上げ直していた。抗議が今さら過ぎるっ。
「騒ぎが起きると同時に空間転移や座標転送系の行為を封じる魔工装置を発動させられる。完全に別電源でこれをいちいち壊しに掛かると段取りが悪くなる。脱出に必要になんだ。巻き込んだことに関しては今度、君が推し変した4推しのタツミーヌのサイン入りTシャツ5着もらってきてあげるから」
「まぁ、そういうことなら後方支援くらいはしますけど・・」
渋々納得するモリシ。推し変先が『4推し』なのは2推しは不倫中の彼氏がおり、3推しは同棲中の彼女がいた為だそうだ・・。というか5着? ローテで着回すとか??
「ロミちゃん、似合ってるじゃん」
私を見て、ちょっと笑いを堪える感じで言ってくるヌチ子さん。私はヌチ子さんが怪盗活動を始めた初期に使っていたというコスチュームを個人報酬代わりにもらって、これを錬成術でサイズ調整して着込んでいた。『飛び猿半面』と『お銀装束』だ。
飛び猿半面は猿っぽい鼻から額まで覆うタイプの仮面で、事前に味方指定しておいた者以外が見ると半面をした獣人のワーエイプに見える効果のある魔法道具。例え今回のクエストをクリアできてもマフィアに特定されるのはまずいからね。お銀装束は素早さUP効果と指紋や身体から離れた髪等が存在しない別人の者にすり替わる効果のある魔法道具だ。ヌチ子さんのレスラーコスにも同じ効果があるらしい。ワーライオンに見えるんだっけな? ゼンマイ盗賊団とモリシとミニゴーレム達には目元だけ隠す簡単な覆面と、飛び猿半面と同じ仕様で鼠型獣人ワーラットに見える『二十日鼠のラピス』を持たせてある。
「仮装してるみたいで恥ずかしいですよ。ちょっと身体の線出過ぎじゃないですか?」
「そう? 動き易さ重視で作ったんだけど」
夜になったらあの豪邸に突入するのに気楽そうにしているヌチ子さん。ゼンマイ盗賊団もそうだけど、この非日常感が癖になってるんだと思う。
私は進んで引き受けたワケじゃなかったし、ゼンマイ盗賊団を紹介してミツネに戦闘車両整備用のミニゴーレムの手配を頼んだ時点で役割終わった様な物だったけど、スルーするのも目覚めが悪いし、何かいつの間にかモリシも参加することになってたし、師匠に相談したり、本当にまともな話か裏を取ってもらったりした結果、仕方なく引き受けることにした。人手が足りないみたいだしね。
ただ、師匠があらゆる致命的な不幸を1回だけ無効にしてくれる『ラッキーコイン』を2枚持たせてくれたので、1枚は自分のウワバミポーチに、もう1枚はこっそりモリシが持ってるウワバミポーチに仕込んでおいた。私達は素人だから保険くらい掛けさせてもらうよっ!
「皆、お宝頂いてちゃっちゃとズラかっちゃおうね!」
ヌチ子さんはゼンマイ一味に呼び掛けたが反応はいまいちで、肩を竦めていた。
「・・そういえばこのチーム、名前つけてなかったね。どうする?」
「俺様ハドウデモイイ」
「拙者モ同ジク」
「私モ気ニシナイワ」
「僕モ知ラナイ」
意外とテンション低いゼンマイ盗賊団っ!
「なら、そうね・・」
ヌチ子さんは私をチラっと見た。
「『ベイビー怪盗団』なんてどう?」
何っ?
「ブッハッハッ。イインジャナイカ?」
「拙者モ気ニ入イッタっ!」
「ウフフ、イインジャナイ?」
「マァ、ソンナ感ジダヨネ」
「僕も賛成っ!」
「俺達モ異議無シッ!」
盛り上がる皆っ。
「断固反対っ! 私、ヌチ子さんよりだいぶ歳上ですよ?!」
猛抗議したが、チーム名はベイビー怪盗団に決まってしまった・・。
夜、決行の時刻。私とバディを組んだカラエモンは目的の豪邸近くの教会の屋根の上で、通信魔法ミーノを使った最後の通信をバックアップ担当のモリシとしていた。
「そろそろだからね。タイミングと途中で関係無い人に見付かるポカミス気を付けてくれよ」
「わかってる」
「拙者ヲ誰ダト思ッテル? べいびート一緒ニスルナ」
「ベイビー言うなっ」
と、教会とは逆方向の豪邸近くの一角から火の手と黒煙が上がった。警備局が手配した人為的な空き家の火事だ。風を操れる警官や協力者が念を入れて立ち上がった煙を豪邸の方に拡散させる。これでだいぶ撹乱できる。
「行クゾ?」
と言った側から駆けだすカラエモンっ。私は慌ててついていった。
「ちょっ、待ってっ!」
「・・これ以上近付くと通話魔法を探知されるらしいからっ。突入前の確認を忘れるなよ、ロミっ!」
これで通話を解除されちゃった。私とカラエモンは屋根から屋根へと夜の闇の中を疾走してゆく。カラエモンは素でいけるんだろうけど、私は夜目が利くパタヤ族の性質と充填式だから魔力消費が無いお銀装束の加速特性で何とか対応できていた。
「館ノ間近ダ。一旦物陰ニ入ッテ準備スルゾ?」
「わかった!」
私達は道路を挟んだ別の館の東屋に入り込んだ。この館の主は警備局の協力者だ。ここはフリーで入れる。脱税を見逃す代わりに協力させたらしい・・。
私はポーチから『脱臭剤』と持続化&範囲化仕様の『加速魔法ベッカーのロール』を取り出した。まず脱臭剤を自分とカラエモンにぶっかける。豪邸の内外に『ワニ犬』という鼻の利く番犬を配置していて要対策なんだ。
「拙者ニ脱臭剤ハ必要カ?」
「一応だよっ。じゃ、ベッカーのロールも使うからね」
本当は姿を隠す系の魔法道具を使いたいんだけど館の敷地面積が広く、中も決行入り組んでるみたいだからさらに加速しないと全然段取りに間に合わない。私はベッカーのロールの力を解放した! 加速の力が私達に付与された。
「〇〇〇ねっ」
勢いで凄い早口で話し掛けてしまった。
「口マデ加速サセルナ」
「間違えた。精神耐性アクセもちゃんと付けてね」
「付ケテイル」
懐からゴソっと『修道士の守り+1』を取り出して見せるカラエモン。私も『修道女の守り+1』を出して確認する。
「精神攻撃使イノ用心棒トイウノハがせジャナイダロウナ?」
「私に言われてもわかんないよ。準備できたし、行こう。ベッカーの持続時間がもったいない」
「言ワレルマデモナイ」
と言うなり素早く東屋を飛び出してゆくカラエモンっ。コイツ、いちいち置いてこうとするっ。1回とっちめたの根に持ってるよね?!
お銀装束の加速にベッカーの加速まで足されて、私はもうあちこち激突しそうでおっかなびっくりになってしまったが、何とかそのまま私達目的の豪邸を道路で挟んだ館から飛び出し、入手済みのマップでいうところの『Cの3』の勝手口にたどり着いた。
「コッチコッチっ!」
「遅イゾッ?!」
勝手口前のゴミ捨て場に隠れていたミニゴーレム2体がわちゃわちゃしている。同じゴミ捨て場の中で、見張りらしい蛇魔人のチンピラ2人がボコボコにされた状態で気絶していた。
「ごめんごめん、入れるの?」
「抜カリ無イナ?」
「当然ダッ!」
「ぱーふぇくとっ!」
ミニゴーレムの1体がアームを伸ばして勝手口の扉を一定のリズムでノックした。すぐに勝手口は開けられた。
「遅イゾっ?! 大体中ノ方ガ危ナイノニ何デ中ガ1人デ外ニ2人ナンダ? オカシイダロっ!」
敷地内で待っていた残り1体のミニゴーレムがいきなり怒った状態で顔を出してきたっ。
「クジ引キダロっ」
「オ前ノ負ケっ!」
「何オウっ?!」
「あ~喧嘩しないのっ!」
「サッサト行クゾ?」
カラエモンは揉めるミニゴーレムを無視して中に突入していった。私も続かないとっ。
「脱出の手引きよろしくねっ」
ミニゴーレム達の喧嘩は心配だけど構ってる時間がないよっ。
・・私とカラエモンの班のミッションは2つ。1つ目は『館の魔工送電網の要所にカラエモンの最大パワーの電撃技を打ち込んで施設の電気系をショートさせる』2つ目は『騒ぎに反応して出張ってきた用心棒で魔法使いのナムフーを片付ける』さっき精神耐性云々と言っていたのはこのナムフーが精神攻撃使いらしいから。
電気系が生きてると地下から潜入するニビー&キュエス班は警備装置を抜けるのが大変になるらしいし、上空から改造エアボードで突入してメインターゲットのオリハルコン手裏剣を狙うヌチ子さん・・じゃなかったギルレディとゴッチャンも対空警備装置が面倒らしい。だから最初に潜入する私達の班が特に1つ目の目的の電気系を潰すことをミスしないのが凄く大事。
「イル、騒グ前ニ仕止メルっ!」
私も達が駆けている裏庭の前方に火災の煙で興奮した鰐と大型犬の中間の様なワニ犬2匹にリードで引っ張り回されそうになった蛇魔人のチンピラ2人がいた。チンピラだけじゃなく、煙と興奮のせいでワニ犬2匹もこっちに気付いてないっ!
カラエモンは放電十手を振るい『落雷打ち』を放ってワニ犬2匹を1撃で昏倒させた。私も腰の後ろに3本分取り付けた鞘の1つに差した『渦巻きタクト』を抜いて構えた。渦巻きタクトは眠りの効果を高める魔法道具っ。
「タピオっ!」
私は睡眠魔法を電撃に度肝を抜かれているチンピラ2人に掛けた! 輝く砂の様な物に包まれたチンピラ達は深い眠りについた。
「雑魚ニ用ハ無イ。急グゾっ!」
「わかってるってっ」
私は加速効果のお陰でそこからあっという間に館の外壁まで走り寄れた。
「侵入口ハ2階ダガ、壁ガ高イ。オ前ハ排水管ヲ伝エ」
「え?」
戸惑ってると、カラエモンは素早く壁を走り登って2階の格子のある窓の1つに取り付いて作業を始めた。早っ。この間みたいに駆け上がるだけならあそこまでいけそうだけどあんな器用なこと私は無理だわ・・。私は素直に雨樋の排水管使ってカラエモンの所まで登った。加速効果で意外と早くいけた。
「格子、取れそう?」
「取レタ。きーぷシロ」
器用に窓枠に取り付いたまま、切除した元々錆びのあった格子を片手でこちらに向けるカラエモン。盗賊だなぁ。
「わかった」
私は3つある鞘の1つに差したいつものマグネットタクト+2を引き抜き、念力で格子を宙にキープした。カラエモンはすぐに職人の手捌きで小刀を使って窓のガラスを半円状に切り抜き、それをピンで刺して引き抜くと空いた穴から手を入れて鍵を開けた。
「もう悪さしたらダメだよ?」
「サアナ」
一応言っておいたけど、カラエモンは軽く受け流して慎重に開けた窓から中にスルリと入っていった。
「ユリック」
私にはカラエモンの様な身軽さは無いから、無理せず念力魔法をマグネットタクトに上乗せして自分で自分を念力で持ち上げて、開いた窓から中に入った。
そこは拷問道具がズラリと置かれた物置だった。
「うっげぇっ。悪趣味」
「やつラノ実用品ダロ?」
カラエモンは言いながら部屋の扉の鍵を開け、慎重に扉を開け、通路へ音も無く出ていった。私も続く。
「案外館ノ中マデ火災ノ煙ガ入リ込ンデイル。犬ハ大シタ脅威デナクナッタ。1階ノSノ7ポイントマデ急グゾ?」
「了解。ねぇ、タクトはシールドタクトに替えた方がいいかな?」
「好キニシロ」
カラエモンは取り合わず、さっさと進んで行ってしまった。
「愛想な~いっ」
私は結局3つの鞘の残り1つに差した『シールドタクト+1』に構え直した。屋内だといきなり1発もらうかもしれないし、防御特性特化でいこう。
予定では思い切って非常階段を駆け降りるはずだったけど、施設内の『音』を探知したカラエモンの判断で、吹き抜けのあるポイントから『飛び降りる』ことになった。飛び降りるんだ・・。
そこから遭遇したのは蛇魔人のチンピラは合わせて5人。ワニ犬は合わせて3匹。いずれも犬の嗅覚が利かずカラエモンの聴覚の鋭さは有効な条件だから、毎回先制を取れた。狭い屋内戦だから先制を取ればほぼつみにできる。私はシールドタクトの障壁発生特性で犬の爪や牙、チンピラの得物やヤケクソな突進をちょこちょこ弾いていればそれで十分だった。
この間はミニゴーレムもいたし、ハメ技で倒せたけど、素でカラエモンと戦ったらとてもじゃないね。
「・・カラエモン」
「ナンダ?」
「盗賊って楽しい?」
「・・・オ宝ヲ探シ、盗ム。コノ世ニ価値ガ有ル物ガアルト、一瞬ハ錯覚デキル」
はぁ??
「何それ? ひねくれ過ぎじゃないの?」
「カッカッカッ」
笑ってるよ。そうしている内に吹き抜けまできた。柵から下を見下ろしながら音を探知するカラエモン。
「1階ニハ中型ノましんごーれむモイル。ダガ加速効果ガ切れるレル前ニSノ7マデタドリ着キタイ。多少無理ヲ通ス」
「どの辺までが無理でどっからが無理じゃないか、あんたの基準がわからないよ」
「カッカッ」
また笑って、カラエモンは唐突に柵を越えて吹き抜けへと飛び降りていった!
「そういうとこっ。もう・・ユリック!」
左手でマグネットタクトを抜いて念力魔法唱え、落下制御して私も続いた。
着地すると通路の先でカラエモンはもう中型マシンゴーレムと交戦していた。左手がネイルガン、右手がパワークローになってるヤツだ。私もはマグネットタクトとシールドタクト二刀流のまま走って助太刀に入った。
「ほいっと」
私はシールドタクトでにカラエモンに振り下ろそうとパワーアームを打ち払い、反応して私に向けられたネイルガンの銃口をマグネットタクトでちょっとだけズラして検討違いの方向に撃たせた。その隙にカラエモンが落雷打ちをマシンゴーレムの頭部に打ち込んで機能停止させた。
「自我ノ無イからくりハ虚シイモノダ」
ポツリと言ったから、私はどう返そうか考えてしまったが、カラエモンがすぐに駆け出したから私も続くしかなく、うやむやになった。
Sの7ポイントまで、中型マシンゴーレムを合わせて3体、蛇魔人のチンピラ7人、ワニ犬4匹を片付け、私達は何とかベッカーの効果が切れる直前に到着できた。
「はぁはぁ・・あー疲れた。ちょっと休憩しない?」
私はアップルメロン味のポーションを飲み、魔法石の欠片を自分に使いながらカラエモンに訴えたが、カラエモンは淡々と自分に魔法石の欠片を2つ使うだけでノーリアクションだった。愛想0っ!
Sの7ポイントはてっきり魔工設備が集まっている部屋なのかと思ったら食品保存用の冷温庫だった。
「寒っ」
寒さは苦手っ。でも普段から着てる防寒ボアジャケットは着れないっ。
「ここであってんの?」
「真下ニ魔工送電線ガ集中スル場所ガアル。殺サレタ潜入捜査官ガ残シタ情報ラシイ・・ココダナ」
床を調べていたカラエモンが積み重なった玉葱の箱を全て退けると、露出した床に『幸運を!』と書き殴られていた。
「・・これは無駄にできないね」
「イイ仕事ダ」
呟いたカラエモンは背中から急に大きなゼンマイを露出させた!
「ええっ?!」
大き過ぎるっ。どうやってしまってた??
「ろみ、ぜんまいヲ巻ケ。素手デナ! 自分デハ巻ケ無イ制約ガ有ル。ぱわー出スノニ必要ダ」
「ああ、うん。なるほど、だから『ゼンマイ』盗賊団なんだ」
「早クシロっ!」
「はいはいっ。時計回りだよね? よーしっ、・・おっりゃっ!」
力一杯ゼンマイを巻いてみたっ。ギリギリギリギリっ! 巻ける限界まで巻いた。すると、カラエモンはバチバチとスパークしだしたっ。
「わちっ?! 危なっ」
慌てて離れる。
「ばりあヲ張ルカ、物陰ニイロっ!」
全身から突起の様な物を生やすカラエモンっ! レベルが9くらいから13くらいに上がり、放電十手も『雷撃ダンビラ』に変型した!
「フルパワーってそんな感じなんだ。取り敢えず、ドガラ!」
私は自分に鱗状の障壁魔法を掛けた。
「ぶっタ斬ルッ!!!」
カラエモンは雷撃ダンビラを上段に構え『真・落雷斬り』を床の目印に撃ち込んだっ! ズパーンッ!!! 床が叩き割れ、凄まじい電撃が裂け目に注がれるっ。
「うわわっ?!」
ドガラの障壁で何とか防げたけど、放電で冷温庫はめちゃくちゃになった。そして、部屋の魔工電灯が全て消えた。
「・・ヨシ、成功ダ」
「嘘? ほんと? やったっ!」
私はドガラの障壁を解除した。
「後ハ用心棒ノなむふーダケダ。コノ部屋はハ物陰ガ多イ。搦メ手ヲ使ウ相手ニ有利過ギル。ぜんまいガ切レル前ニ外デ迎エ撃ツゾ?」
「ゼンマイまた巻けばいいじゃん?」
「疲レル。無理ダ」
「あ~、そういう仕様かぁ」
一応魔法石でカラエモンの魔力を回復させつつ、私達は冷温庫の外に出た。魔工電灯が消え、暗くなった左右に通路があるだけだ。どう対策するか相談しようと思ったら、
「っ?! ビクっときたっ! 何かいるよっ」
私の『敵意感知』が働いたっ。
「フィネスっ!」
同時に天井裏から声が響き、私達に負の精神波が打ち込まれた! だが、事前に察知し、耐性アクセ持ちの私達には通用しなかった!
「ロアっ!」
烈風魔法で風の刃を作って声のした天井に撃つっ! 合わせてカラエモンが峰打ちの構えで雷撃ダンビラを持って天井に向かって飛び掛かった! 風の刃で天井に穴が空き、その向こうに褐色の肌のアオタイショウ系蛇魔人ハーフのたぶんエルフの姿が見えたが、すぐにカラエモンの電撃攻撃の爆発で見えなくなった!
「ディノっ!」
爆破魔法が使われ、天井が更に砕かれるっ!
「危ないってっ!」
私はシールドタクトを使いながら逃げ惑った。さっきの蛇魔人ハーフの男が天井から飛び降りてきた! それにカラエモンが続き連続攻撃を打ち込むが、男、間違いなく用心棒のナムフーは物理特化タイプの杖、エッジワンドを持っていて、器用に受けきっていた。
「シーヌ・・」
「?!」
ナムフーは潜入魔法で姿と男を消した! 相手を見失うカラエモンっ。早く場所を特定しないと主に私がヤバいっ! わりと紙装甲だしっ。
私は一応壁を背にしてから両目の前に両手の人差し指と中指だけ開いて構えた。カラエモンが一方的見えない相手に打ち込まれている。急がないとっ。魔力探知魔法のルッカーでもいける気もしたけどここは確実にゆこう。私は2種類持っている魔眼の第2の力『魔眼・正体看破』を使った!
姿が・・見えたっ!!
「ロアっ!」
私は再び風の刃を無防備なナムフーの背中に打ち込んでやったっ。
「ぐっ?!」
思わず姿を晒すナムフー! カラエモンはその隙を逃さず『落雷十字打ち』でエッジワンドを砕き、合わせてナムフーも一太刀打ち据えた!
「くっ、ミルっ!」
ナムフーは苦し紛れに魔弾操作魔法を使い、精度は低かったけど魔力弾を10個も同時に放って私とカラエモンを威嚇して飛び退いた。 私とカラエモンも何とか魔力弾は凌げた。目薬を早く差したいが、タイミングが無いっ。
と、地下からズズンっ! と爆発の振動が伝わり、それに重なるように上階からもズンっ! と爆発の振動が伝わってきた。
「地下か・・どうやらただの盗っ人じゃないようだな? 警備局の犬か?」
「ソウ言ウオ前ハ下衆ナまふぃあノ犬ノヨウダガ?」
私が言うのもなんだが、なぜに煽り返すのだカラエモンよ? 私は2人が睨みあってる内に素早く目薬を差した。危ない、視力を保てるギリギリだったっ。
「フッ、まぁいい。ここまで喰いつかれたらデントヤも先は無さそうだな。止めた止めた降参だ」
ナムフーは両手を上げた。ええ~?
「俺は一味を抜けるぜ? 義理立てする様な相手でもないしな。抜ける前にちょっとばっかし退職金を頂いてゆくがな?」
「・・勝手ニシロ。サッサト消エロっ」
雷撃ダンビラの構えを解かないカラエモン。
「俺はナムフー。またどこかで会うかもな。そっちの小猿のお嬢ちゃんもよろしくだぜ?」
「う、うるさいっ、バカっ!」
咄嗟に語彙が出てこなかったっ。ナムフーは苦笑してユリックの魔法で浮き上がると、天井の穴から逃げていった。
「あのまま、何食わぬ顔で不意打ちしてきたりしない?」
「あれハ素人ジャナイ。引キ際ハ知ッテイルダロウ。コッチモ時間切レダシナ」
変型が解けるカラエモン。ゼンマイも体内に戻り、雷撃ダンビラも元の放電十手に戻ってしまった。
「そう、お疲れ。私達は後は合流ポイントで待つだけだね」
「ソコマデ脱出スル必要ヲ忘レテイナイカ?」
「あ~、それね」
もうクタクタで加速も切れてるけど、私達はまた駆けだした。テレポートできる『脱出の鏡』使えたらなぁ。
それから10分後くらいかな? 私達は何度か交戦しつつも、中の電源落ちたり混乱していたこともあって、無事館から脱出し、合流ポイントの『Gの2』の茂みに隠れていた。おなじ裏庭だが入ってきた『Cの3』から大きく回り込んだポイントだ。ここには出入口も無いけど外壁が幅の有る大通りに面しているから都合がいい・・。
「来タゾ?! ニビー達ダっ」
「どれどれ?」
茂みから覗き見るとニビーとキュエスが並んで走って来ていた。ただし、
「この糞鼠どもっ! 殺すっ!!!! 野郎どもやっちまえっ!」
あり得ない程の巨体のデントヤとその手下の蛇魔人系チンピラ達とマシンゴーレムとワニ犬の大群に追われているっ。
「嘘ぉ」
「何ヤッテンダあいつラ?? 仕方ナイっ。ろみハ隠レテイロ」
カラエモンは茂みから飛び出していった。
「何それぇっ?」
カラエモンも参戦し、反転したニビーとキュエスの3人で迎え撃つ形になった。確かに予定より遅れてギルレディとゴッチャンがまだ来てないけど、数が違い過ぎるし、デントヤがデカ過ぎるっ!
「でんとやヲ連レテクル作戦デハナカッタハズダゾ?!」
「ぷらんBニ移行スル。きゃえすガみすシタ」
「チョットっ?! みすシタノにびーダヨっ! ぷらんBトカ無イシっ!」
何か揉めだしたしっ。
「ゴチャゴチャうるせぇっ!」
デントヤは左腕に義手の替わりに付けた巨大な鋏でカラエモン達を薙ぎ払ってきたっ。カラエモン達は身軽にかわしたが、周囲にいたデントヤの手下達少なからず巻き込まれて真っ二つにされた! 酷っ。
「避けるんじゃねぇっ!!」
ムチャクチャなことを叫びながら今度右手に持った巨大な棍棒でカラエモンを叩き潰しに掛かり、続けて毒のブレスをニビーとキュエスに吹き掛けた!
しかしカラエモンはまた避けつつ落雷打ちデントヤの右手に打ち、カラクリだから毒が効かないニビーとキュエスはそれぞれ鞭と熱刃ナイフでデントヤの右手を攻撃した。カラエモン達の攻撃はいずれも通らないが、デントヤを益々苛立たせた! 生き残りの手下達も3人取り囲みだすっ。
不味いな、ニビー達が地上に来てるってことは地下にはもう協力している冒険者達が雪崩れ込んで子供達の保護と証拠隠滅阻止の為に工場を押さえてくれているはずだけど、ギルレディ達がお宝を盗んで信号弾を撃たないと警備局の警官達もモリシも突入できないっ。やっぱり私も参戦した方が・・
と思っていたら館の方から信号弾が撃ち上がった! と同時に煌めきながら旋回する何かが館の方から飛来して、残りのマシンゴーレムの大半とデントヤの鋏の左腕をブチ抜いて私の真上を通り抜けて背後の外壁に突き刺さった! オリハルコン手裏剣だっ。というか、あっぶなっ! 今日一命の危機を感じたっ。
「・・・・ちょいちょいちょいっ! 待てぃっ!」
館の方からギルレディとゴッチャンが凄い勢いで走ってきたっ。
「はぁはぁっ・・思ったより館から遠いわ、ここ」
現れるなり、酸欠になり掛けているギルレディ。
「色々雑ダゾ? オ前」
若干呆れているゴッチャン。
「まだ仲間がいやがったのか?! よくも俺の鋏をっ」
「ウルサイ!」
ゴッチャンは口から『破壊光線』を放ち、デントヤの巨大棍棒を叩き割った。ゴッチャンの攻撃法も結構雑じゃない??
「よくも俺の棍棒をっ!」
「ヤルカ? 木偶ノ坊っ!」
ゴッチャンに『削岩拳』を打つデントヤ! これに『電気ビッグパンチ』で反撃するゴッチャン! 周囲では残りの手下達とカラエモン達が乱戦になりだして収集がつかなくなったきた!
「あ~もうっ、メチャクチャっ!」
私は諦めて茂みから立ち上がるとマグネットタクトで外壁に刺さったオリハルコン手裏剣を回収してポーチにしまい、入れ替わりにポーチから『風の錬成符』『土の錬成符』『火雀の羽』『魔法石の欠片』をタクトで引っ張り出した。
「錬成っ!」
魔法石の欠片の魔力を担保に、土の錬成符と火属性触媒の火雀の羽で裏庭から巻き上げた土を熱して大量の焼けた砂に変え、焼けた砂を風の錬成符で全て取り込んだっ!
「んん~っ、熱砂嵐だよっ!!」
私は焼けた砂の旋風を起こし、注意してギルレディを外しつつ、デントヤと手下達を包み込んだっ。カラエモン達もちょっと範囲に入るけど耐性ありそうだし、大丈夫でしょ?
「何だ?! くそっ!」
「アチチっ! ボスっ、助けっ」
「キャウウンっ!」
ワニ犬達は一目散に逃げてゆき、少しは範囲から外せたカラエモン達も何とか焼けた砂嵐から逃げ出した。
「おいっ! ろみっ。拙者達まで焼くつもりか?!」
「しょうがないじゃんっ!」
軽く口論になりそうになっていると、ドゴーンっ! 外壁がブチ破られ、ミニゴーレム達に先導された戦闘装甲車両が裏庭に突入してきた!
「お待たせっ! 大丈夫? うわっ、何か凄いね? 何したの??」
ハッチから窮屈そうに上半身を出すモリシ。
「まぁ、急ごしらえのチームだからちょっとグダグダになっちゃったけどこんなもんでしょ? 皆、引き上げようっ」
ギルレディは戦闘装甲車両に飛び乗り、私も続いて車両によじ登ったけど、カラエモン達が来ない。
「うん?」
振り返るとそろそろ効果が切れるデントヤ達を包んだ熱砂嵐の前に4人横1列に並んで、デントヤ達を見据えている。
「何してんの? もうすぐ警備局も来ちゃうから。一応、表向き協力者ではないことになってるからややこしくなるよ?」
「俺様ノ演算デハ、コノ嵐の効果ガ切レタ後、でんとやダケハ逃ゲノビル確率ガ48%アルっ!」
あ、結構高確率なんだ。でも、これ以上は・・
「オ前ラ、奥ノ手ヲ使ウゾっ!」
奥ノ手? ゼンマイはカラエモンはもう巻けないと思うけど??
「地下ノ子供達、酷イ様子ダッタ。私、許セナイっ!」
「女子供ヤ貧乏人ニ薬ヲばら撒クノハ僕モ気ニ入ラナイっ!」
「カッカッカッ! ドウデモイイガ、いきっタくずヲぶちノメスノハ拙者モ痛快ダッ!」
「ヨシっ、合体ダッ!!」
「了解っ!!!」
ゴッチャンがカラエモンを肩車し、更にゴッチャンの右腕にニビーがしがみ付き、左腕にキュエスがしがみ付いたっ!
「え? 何?!」
戸惑う私とギルレディとモリシっ。
ゴッチャン達が光り輝き・・・1体の覆面をした大型カラクリ兵になったっ!!!
「ええ~っ?!」
「定型錬成だね。生身じゃ真似できないよ」
冷静にコメントするモリシ!
「完成っ! ゼンマイ巨兵っ!!」
ゴッチャン達4人の声が重なるっ。
「今度は何だ?! 何なんだテメーら?? 何者だ?!!」
熱砂嵐の向こうに現れた自分と同じサイズの巨人に困惑するデントヤっ。巨大鼠に見えてるのかな??
「俺達ハ・・・べいびー怪盗団ダっ!!!! 電気解放っ!」
猛烈な電力を帯びるゼンマイ巨兵っ。危機を察し、熱砂嵐でもうほぼダウン状態の手下達を団子のように纏めて抱えて胸の前に出すデントヤ。
「野郎どもっ、俺を守れっ!」
「そ、そんなぁ・・」
酷っ。コイツ、一貫して酷っ!
「50倍っ! 電気ビッグパンチっ!!!!」
激しく放電する巨人の拳で、抱え上げられた手下達を素通りしてデントヤの腹にストレートパンチを撃ち込むゼンマイ巨兵っ!
「ギャアアアアアっ!!!」
手下達を手放し、ぶっ飛ばされ巨体を仰け反らせて感電させられたデントヤは昏倒したっ!
「完全勝利っ! カラクリ無敗っ!!!」
なぜか私達にキメボーズをしてから分離するゼンマイ盗賊団達! でも収まり出した熱砂嵐の向こうに警備局の警官達がわらわら現れてデントヤ一味を逮捕しだすと慌てて戦闘装甲車両に乗り込んできた。
去り際、焼ける砂嵐を挟んでちょっとシブい感じの中年のカジキ系海魔人の警官がこちら、というかギルレディに片手を上げて合図してきた。あの人がたぶんギルレディに話しを持ち掛けてきた警官なんだろう。ギルレディに確認しようと思ったら、ギルレディ、というかヌチ子さんは覆面の下でちょっと乙女の顔になっていたから敢えて何も聞かないことにした。なる程ねぇ・・・。
私達を乗せた戦闘装甲車両は用水路に侵入し、そのまま潜水モードに変型して見事脱出に成功した。夜明けまでにオリハルコン手裏剣も警備局に渡され、無事イガ国に返還されることになった。デントヤ一味の大捕物と大物政治家の失脚は派手に報道されたが、ベイビー怪盗団のことはどの報道媒体ま報じていなかった。警備局の配慮か面子の問題点か? それは判然としない。
因みにモリシのラッキーコインは何ともなかったが、私のラッキーコインはポーチの中で粉々になっていてぞっととした。どのタイミングだったんだろう??
数日後、招待された私とモリシと協力したミニゴーレム3体とゼンマイ盗賊団の4人と例のカジキ系警官は揃って『煌めき渚シスターズ』のライブを観にいった。警官の人、ヌチ子さんの正体知ってんだ。へぇ・・。
モリシは貰ったタツミーヌのTシャツは小さ過ぎるので『旗』にして振り回しているっ。凄い厄介ヲタだっ! 事務所の人、この人ですっ。
ライブはそれなりに盛り上がり、ヌチ子さんのソロ曲の初披露の段になった。
「この曲はヌチ子さんの初作詞らしいよ? どんな感じだろね?」
モリシが汗だくで爽やかに言ってくる。
「心を込めて、聞いて下さい。タイトルは『アナタは大泥棒』・・」
お? 攻めたタイトル付けたね。ヌチ子さんはアイドルソングらしからぬ切々とした調子で歌い上げた。
もう盗まないで・・私のぉおお~ハートを~あーーなーーたーーーっ!!!
凄いカジキ系警官の人を指差すヌチ子さんっ。白目になるカジキ系警官っ。直球過ぎるやろっ。
全体的にどっと疲れるライブだった・・。