第5話 ゼンマイ盗賊団
ロミの過去とゼンマイ盗賊団との遭遇です。
ブロッサムの花もすっかり散った5月の始め、私は風邪で寝込んでいた。蛙オババの魔女の送りの後からずっと体調が悪かったんだけど、自分で色々試した治癒魔法も秘薬の類いも効かなくて、何だろな? と思いつつ、島の砂浜で錬成素材に使える物をちょこちょこ採集していたら急にフワッとして目の前が暗くなって倒れてしまった。
波打ち際からは離れていたけれど、観光客は立ち入り禁止の野生のモンスターがたまに陸に上がってくるポイントだったから、いつも釣りに来ている師匠の友達のヒラメ系怪魔人のタクアンさんがすぐに見付けてくれなかったらそのまま美味しく食べられていたかもしれない。
私のパタヤ族としての種族クラスが不安定なところがあるから、師匠がわざわざ魔法医を呼んでくれた。結果、『風邪と過労と属性の不安定化傾向、及び心臓への負担蓄積。加えて治療魔法と秘薬類の安易な多重使用の拒絶反応』と診断されて、特に多重使用云々に関しては師匠と魔法医の先生の両方にこってり叱られた。うう・・具合悪いのに怒られるとはっ。私は泣いたよ。そして部屋にからかいに来たモリシに「な、なんかゴメンな・・」とめっちゃ気を遣わせたし。最悪だっ。ミツネに連絡したいけど、起きて水晶通信機のある部屋まで行く気力がない。最悪だ・・。
私はベッドで眠るしかなかった。
・・・・・・・砂を多くはらんだ風が鳴っている。砂の中によく小石が混ざっていて、ゴツゴツと家々を打つ。小石で目の怪我をするから、この土地では外を出歩く時にゴーグルを付けなきゃならなくて、家畜を飼うのも随分手間をかけなきゃならなかった。私が今でも几帳面にゴーグルを付けたり外したりするのは魔眼持ちだからだけじゃなくて、もしかしたらこの頃の暮らしが今でも私の中に残っているからかもしれない。
「目が潰れたら治す金なんてない。養えもしない。お前なんか、街に売られるんだよ。そこで這いつくばってそのまま年を取って死んでゆくんだよ。そんな運の悪いヤツ、何人もいた。お前の母親も」
私の継母は私に何度もそう言った。しかし、父が鉱山の事故で死んで保険金が少しだけ手に入ると、私は目も潰れてないのにあっさり街に売られた。
まだ子供過ぎたから、夜の女達の身の回りの世話や店の雑用をしていた。犬っころみたいな扱いだったけど、失敗しなければ特にぶたれたり強く罵られたりもしないし、食事も日に1度はもらえたし、客商売だから清潔な格好で過ごせた。街は私が産まれた村のような小石混じりの強い風が吹くようなことも滅多になかった。楽なもんだと思っていた。
だけどある時、私は街で店ですら働けず縁無く死んだ女達の共同墓地に行った時、墓の管理者に私の母のことを訊ねたら、「そんな女は最初からいない。お前もここか、ここより少しマシな墓場で消える。消えるだけだ。お前達など最初からいない」と言われて、私はその翌日の明け方に店から逃げた。頭の中では故郷の小石混じりの風が吹き荒んでいた。「目が潰れる。目が潰れる。目が潰れる・・」そう呟きながら走っていた。8歳くらいだったと思う。まだ私が人間だった頃。
・・私は私の部屋のベッドで起きた。涙も流していたが慌てて目が潰れていないか確認する。当然何ともない。ただの悪い夢だ。昔の夢。ホッとした途端、胃がキリキリと痛んできた。
「痛タタタ・・っ」
まだ熱も下がってない。喉が痛く、悪寒と吐き気と頭痛もした。鼻水も出てきた。たぶんトイレに行ったらお腹を下す自信がある。
「・・虚弱かっ」
私は誰でもなく、私に怒りを感じてベッドで拳を握り締めていた。
それから2日後、私はケロっと回復した。正直まだ少し筋力何かは戻っていなかったけど体調は至って健康。私は海鈴堂の業務に戻った。
「ロミ、ちょっとバラック庵に使いに行ってくれないかい? 病み上がりだからこれを使うといい」
棚の整理をしていると師匠が小包と移送魔法バダーンを補助する魔法道具『燕の宝珠』を2つ手に言ってきた。
「いいんですか? 今日、店は」
「お前の体調が戻るまで、もう暫くモリシウォード君がシフト多めに入れてくれてね。午後から来てくれる。それまではハニワゴーレム達と私で問題無いよ。ミツネ君も心配していたし、顔を見せてくるといい。彼女は今、人手が足りないとも言っていた。何なら今日は1日向こうを手伝ってきていいよ」
「え~っ」
何か凄いゴマメ扱いだ。取り敢えず小包と燕の宝珠は受け取っちゃったけど。師匠は私の不満顔に少し苦笑してから、私が被る制帽にしているマリーナ帽を手でポンポン、と犬か猫にするみたいに軽く置くように2度叩いた。
「暫く振りに悲しい顔をしている。昔のことを思い出したんだろう。今日は友達の所に行ってきなさい」
「・・はい」
ここまでストレートに言われて反抗する程、私はひねくれてはなかった。それより知らん顔していた夢に泣かされたことを引き摺っているのをあっさり見破られたことが、小っ恥ずかしかった。
確かに今の私のバダーンの魔法は不安定な物だった。けど燕の宝珠のお陰で何なら普段よりスムーズに鉄鋼町の外れにあるバラック庵まで飛行できた。帰りもありがたく残り1つを使わせてもらおう。
ゴーグルをヘルメットの上に上げてバダーンの発着所の台座から降りると放し飼いにしているバラック庵のマシンミニゴーレム達がいつものようにワラワラ寄ってきた。
「ろみガ来タ! ちびガ来タ!」
「こいつ、久シ振リダナ!」
「ろりばばあ! ンン? ろみノ体重ガ減っッテルゾ? オヨソ1,5きろっ!」
「計るなよ。あとロリババア言うな」
足元に群がるから歩き難くてしょうがない。
「ちびニ栄養ヲ摂取サセロ! 死ンデシマウゾ?!」
「ヨシ、アレヲ喰ワセロ。栄養価ガ高イ!」
「任セロ。ろみ、コレヲ食ベロ!」
ミニゴーレムの1体がアームを伸ばして私の口元に野生のケムシーノ族の幼体を押し付けてきた。ケムシーノ族は名前はケムシーノだけど芋虫とダンゴムシとぬいぐるみの中間みたいな種族。成体の雄はモヒカン状の鋭い毛質の髪を生やすが幼体だから雄でも雌でも丸っこいばかりで甲羅も柔らかく、蹴球スポーツに使うゴムボールをグリグリ押し付けられた感じ。何かちょっとカブト虫系の臭いがするしっ!
「やーめーろっ。食べないしっ! どっから連れてきたのこの子? 親に返してやんな!」
「エエ~?」
「セッカク捕獲シタノニ・・」
「捕獲すんなっ」
「食ベナイノカァ」
とにかく幼体のケムシーノを敷地内の茂みに戻させて、これ以上ワーワー絡まれたらいつまでもバラック庵に入れないので私はさっさと機械化呼び鈴と一体化した伝声機で来たことを伝えて、建物の中に入っていった。
「・・病み上がりはアイスよりチョコレートの方がいいだろう」
冷温を保たれたミツネの私室の1番ラボで、中身は+2の良い物ではあったけどわざわざ直に届ける程でもなかった属性ジェム類等だった小包みを渡すと、ミツネは支払いもそこそこにチョコレートを出してくれた。例によってちょっと高い物だけど冷え冷えで凄い硬くなっていて、チョコ味の岩の欠片を口に入れたみたいだった。美味しいことは美味しい・・。私は自前の水筒から温かいコーヒーを出して何とかカチカチのチョコレートの攻略に掛かった。
今日のミツネは4分丈カットソーにストレッチタイプのパンタロンという服装で、髪は後ろで纏めていた。美人だなぁ。よく見ると毛先の方の変わった位置に花飾り・・いやっ、木の枝のようになっている毛先部位に花が幾つか咲いている!
「ミツネ、お花畑みたいになってるよ?」
「気付いたか。春先に手入れを怠ったから先日咲いてしまった。無用に特性未分化の花粉を飛ばしてしまうから余り近付かないように。このまま狭苦しい防護服を着ると自分も自分の花粉にやられてしまうんだ。お前の見舞いにゆくのも諦めた」
「そうだったんだ。ふふっ、大変だね。・・お?」
冷たいソファの背にもたれると、足元を何かひんやりした柔らかい物が触れてきた。見ればカラクリ幽霊猫のジンゴロちゃんだった。実体が無かったはずなのに私の足に身体をスリスリと擦り寄せている??
「ちょっと! ミツネっ。何かジンゴロちゃん実体はっきりしてない?」
「うにゃ~ご」
機嫌好いジンゴロちゃん。そういえば前より姿が濃くみえるっ。
「お前が寝込んでいる間にお前の師匠のゼイルッフに種族クラスを整理してもらったんだ。今のジンゴロのクラスは『ゴーストキャット・亜種カラクリ型』だ。クラスが安定したら身体もはっきりしてきた。その気がある時は魔法道具無しでとわりと触れるぞ?」
「凄いねぇ、良かったねぇジンゴロちゃん」
私が素手で冷たい、どこか空気を触るような不思議な感触の身体を撫でてやるとジンゴロちゃんはゴロゴロと喉をならした。ミツネはそれを目を細めて見ていたが、不意にコホン、と咳払いした。うん?
「ロミ、和んでいるところを悪いが、1つ仕事を引き受けてくれないか? 一応ゼイルッフにも断ってはいるのだが」
確かに師匠もそんなようなことを言っていた。
「何?」
「実はな・・また出たんだ」
「鉄喰い虫?!」
「いや違う違う。アレは専門業者も呼んで完全に駆除した。また別件だ。鉄鋼町の組合から頼まれてな」
ミツネはうんざり気味な顔をした。
「何? 何?」
「活動を再開したんだよ、ヤツら『ゼンマイ盗賊団』がっ!」
ミツネはそう言い放った。
ゼンマイ盗賊団は私と師匠が島を離れている間に島に居着いた、鉄鋼町を根城に愉快犯的な悪ふざけを繰り返している厄介な4人組! 種族は『カラクリ兵』。大きさは私と変わらないくらい小柄だけど、機械の身体を持つマシンゴーレムとは似て非なる種族として確立した機械生命体。『黒箱』と呼ばれる生命のコアを持っていて、これを破壊しない限り何度倒してもわりと簡単に復活してしまう。仮に壊しても残った仲間に黒箱の残骸を回収されると修理されてしまう。
連中はこれまで何度も島の警備局や冒険者達、或いは毎回いい迷惑な鉄鋼町の魔工師の組合によって撃退されてきたが、ほとぼりが覚めるとまた復活する。ということを繰り返してきた。昨年の暮れにも出現して止せばいいのにバラック庵にちょっかいを出してミツネを怒らせて撃退されたらしいが、全く懲りてなかったようだ。
私は詳しい話を聞く為、助っ人のミツネのマシンミニゴーレム3体と共に鉄鋼町の組合事務所に向かった。
残念ながら戦力の高い悪霊倒す君と武装換装しやすいヨッピーはメンテナンス中で連れてこれなかったが、凶悪さでいったらそこまででもないみたいだからたぶん大丈夫、かな?
「いや、実際酷いもんですよ。これを見て下さい」
担当の組合員は事務所のテーブルに奇妙なガラクタを幾つも置いた。何これ??
「例えばこれは『食品加熱機の様な感電装置』これは『自動食器洗い機の様な食器粉砕機』これは『電動炊飯装置の様な爆弾』これは『手持ち電灯の様な無属性剣展開器』です」
「?? どういう意味ですか? 形と性能があべこべですが??」
「ちびニ同意スル! 形態ノ必然性ガ無イ?」
「ダガ性能ハ良イヨウダゾ?」
「ダガ無駄ニ質量ガアル。ぽんこつダ!」
案外冷静にガラクタを鑑定するミニゴーレム達。
「御覧の通り、最近のヤツらは元々陳列したり倉庫に置いていた商品を盗んで代わりにあべこべなガラクタを置いてゆくのです!」
私は目が点になった。
「え? 何でそんなことしてるんですか?」
「たぶんそれがヤツらの中で今流行ってる遊びなんでしょう・・」
「ええ~?」
「不可解ナ」
「ごーれむノ我々ノ方ガ高等ダゾ」
「困ッタモンダ!」
組合員の人もうんうん頷いた。
「とにかく! 雪姫さんからの増援も来たことですし、我々も反撃しようと思いますっ。準備はよろしいですか?」
組合員の人は眼鏡をグイっと持ち上げて確認してきたっ。
「も、勿論です! 海鈴堂2級錬成師、このロミにお任せ下さいっ」
「ちびニ同ジク!」
「ぼこぼこニシテヤルゾ!」
「賞金ヲますたーニ持ッテ帰ルノダ!」
ミツネに色々道具を借りて来たし、元々持ってる私の魔法道具でも対処可能だと思う。問題は私の体力が本調子じゃないとこだな・・。
作戦は至ってシンプル。まず、鉄鋼町の客入りのいい食堂で昼に『4つの店で珍しい魔工商品を入荷ないし、開発した』という偽情報の噂話を大袈裟にする。これまでの行動パターンからすると鉄鋼町のあちこちで『面白そうなネタ』をリサーチしているはずのヤツらは確実に食い付く!
取り敢えずは盗賊団は4体バラバラに調査活動を始めるはず。連中の調査能力は高いのでここで時間を掛けるとブラフだとすぐバレちゃう。だからバレない内に速攻で居場所を突き止め、各個撃破する! それだけだ。魔工師の集まりである鉄鋼町の組合は既にある程度接近すればゼンマイ盗賊団の黒箱を探知できる『黒箱コンパス』を開発済み。
どの店の近くにどの個体が来るかはヤツらにもそれぞれ好みがあるから、商品ブラフの内容でコントロールできる。私とミツネのミニゴーレムのチームはゼンマイ盗賊団のNo.3の実力があるらしい『カラエモン』を担当することになった。他の3体はそれぞれ組合の魔工師チーム、島の警備局チーム、冒険者チームで対応する。
「緊張するなぁ。こんなんでほんとやっつけられるのかな?」
私はミツネに借りた電撃特性の『ショッキングピコピコハンマー+2』を素振りしてみた。軽くスパークする。他に借りたのは電撃吸収特性付きの『重力時計』だけ。あとは自前の+2の電撃魔法ジガのロールと、あまり強くない+の付かないロールや使えるかわからない錬成符が何枚かあるくらいだ。装備はヘルメットとゴーグルにホビットのマント。
ミニゴーレム達は全員『シバきハリセン+1』を装備している。この子達の固定武装は『ネイルガン』と『電撃スティック』だけ。ミツネの予測ではこれで十分らしい。
「チビ、任セロ!」
「余裕ダゾ?」
「賞金30万ぜむハ山分ケダ!」
ミニゴーレム達はノリノリだった。不安だ・・。でもどうしようもないから、取り敢えずブラフを昼に流してくれたはずの店の近くの物陰で待ち構えていた。この店のブラフは『何でも切れる最新電動包丁を入荷』だ。カラエモンは刃物系商品が好きらしい。
と、お腹がグ~っ、と鳴った。そういえば昼食を食べてない。ミツネのとこで硬いチョコレート食べただけだった。
「お腹空いたぁ」
ネリィさんのパエリアが食べたくなった。
「ちび、ダカラけむしーのヲ食ベテオケト」
「好キ嫌イハだめダゾ?」
「ろみハおオ子チャマダ!」
「はいはい、好きに言ってちょうだい」
めんどくさいなぁっ。
「・・・おっ?」
黒箱コンパスが反応した!
「こっち! あっ、待って、先に見とくっ」
接近してから使ったんじゃ遅過ぎる。私はゴーグル越しに両手の人差し指と中指を掲げ『魔眼・透過望遠』を発動させた! 黒箱コンパスの差した方に、視界が建物を通り抜けて拡がって飛んでゆく!!
「・・・見えた! 給水タンクのある建物の隣の青い屋根の所っ。手下のミニジャンクキャンサーも20数体いる!」
私は魔眼を解除した。
「ヨシ、行コウ!」
シバきハリセンでブンブン素振りするミニゴーレム達。
「待って、目薬さすから」
私はゴーグルを外して慌てて目薬を差した。魔眼使った後に目薬差さないと視力が一時的に落ちてしまう。
「ろみ、遅イっ!」
「時ハ金ナリ!」
「わかったってっ! もうっ。じゃあ行こうっ。カワン!」
自分とミニゴーレム達に魔力耐性魔法を掛け、私はホビットのマントのフードを被り加速と潜入特性を発揮させ、速足で進み出した。速足でも走るくらいの速度が出る。私の身体能力で加速しながら障害物を避けながら『走る』というのはちょっと無理だが、それなりの速さだ。ミニゴーレム達もそれに遅れずついてくる。
重力時計の使い方に不馴れだから心配だが、あまり難しいことをしようとしなければ問題ないはずっ。
「2人は雑魚よろしく! 残りの1人は私を守って!」
「ワカッタ!」
「了解ダゾ!」
「了解ダ!」
通行人や野良犬にびっくりされながら、青い屋根の建物の近くまで駆けてくるとマントの力で隠された私ではなくミニゴーレム達に気付いて、カラエモンは屋根の端までピョンっと跳んで確認してきた。これならミニゴーレム達と別行動した方が良かったのかな? まぁどっちにしろすぐ逃げるタイプじゃなくて助かった。
カラエモンはじっとこちらを見て、私を認識すると人形みたいな顔でニヤッと嗤った。
「ビクっとくるよねっ」
目が合ってても『敵意感知』は機能するっ。私はフードを取った。バレたのに魔力を消費しても意味無い。
「カラエモンっ、大人しくお縄をちょうだいしなっ!」
「同意スル!」
「ダゾ!」
「ダ!」
カラエモンは「カッカッカッ!」と声を出して嗤って背負っていた『放電十手』を抜き打ちで私達に振るった。電撃が降ってきた! バリィっ! しかし電撃は全て『重力時計』に吸収されたっ。
「あっぶなぁっ。」
防げるけどこれ怖過ぎるっ。
「何ダ?」
困惑するカラエモン。私は迷わず建物の壁を掛け上がり出した。マントの加速が利くなら行ける! ミニゴーレム達も足裏から風のエレメントを出して飛んで続いてくるっ。
「ヤレ!」
カラエモンも手下のミニジャンクキャンサー達を壁を登ってくる私達にけしかけてきた。ガラクタと蟹の中間の様なミニゴーレム達と同じサイズのジャンクキャンサーがワラワラと壁を降りてくる。キモいっ。
「任セロっ!」
「余裕ダ!」
ミニゴーレム2体がネイルガンを撃ちながら先行して、ジャンクキャンサー達に飛び掛かりシバきハリセンを振り回して道を開いてくれた。
「ありがとね!」
私は残り1体のミニゴーレムと壁を登り切った。直後! カラエモンが放電十手で打ち掛かってきたっ。すかさずショッキングピコピコハンマーで受ける。電気は重力時計で吸うっ。その隙にミニゴーレムが電撃スティックでカラエモンに放電したが放電十手に吸収されてしまったっ。向こうも電気吸えたっ。
「ロア!」
私は烈風魔法で相手を吹っ飛ばして一旦距離を取った。いやでもっ、何となく流れで引き受けたけどこれ討伐系のガチバトルクエストだ! 何で引き受けた私っ?冷や汗出てきた。
「カッカッカッ。中々ヤルデハナイカ? 拙者ノ相手ニ不足無シ!」
また打ち掛かってきたっ。ミニゴーレムがネイルガンで威嚇するが放電十手で弾かれてしまう。戦士じゃない私はピコハンで受けるので精一杯だっ。この十手が邪魔で電気がカラエモン本体に通らないし、重力時計の『充電』もまだ足りない。キツいけど暫く時間稼ぐか・・。
「アンタ達、何で商品取り替えたりしてんの?! 迷惑だよっ」
「偽物カ? 本物カ? 有用カ? 無用カ? 価値観ノ流動性ニツイテ思考シテミタ」
「はぁ??」
「意味ガワカラナイ」
私もミニゴーレムもよくわからなかったが、カラエモンも得意気だった。
「創作実験ダ。社会認識ニ打撃ヲ与エ、精神的いのべーしょんヲ起コスノダ!」
「何言ってんだかわかんないけど、どうせ仲間内で『それ面白そうっ、うぇーいっ』て盛り上がっただけでしょ?」
「グッ・・」
言葉に詰まるカラエモンっ。どうやら少なからず図星だったな?
「拙者達ノくりえいてぃぶナぶれいんすとーみんぐヲ侮辱スルナっ!」
カラエモン大振りの『落雷打ち』放ってきた! 凄い電力っ。だが重力時計の充電がフルになった。チラっと隣の建物の給水タンクを横目で確認する。
「ソノ魔法道具、無限ニハ吸エナイダロウ?」
嗤うカラエモン。確かにね。だけど、もう一手で詰み、だかんねっ。私はピコハンでメチャクチャに打ち掛かりながらミニゴーレムに叫んだ。
「十手をどうにかして!」
「無茶振リダっ」
ミニゴーレムは一生恨む、くらいの顔で1度私を睨んでからカラエモンの手元に組み付いたっ。
「離セ下等ナごーれむノ分際デッ」
「似タヨウナモンダロウ?」
隙有りっ。
「スパーダ!」
私は持続時間最短で圧縮した攻撃力強化魔法をピコハンに掛け、揉み合いになってるカラエモンの十手の根本辺りを思い切り打ち払ってやった。ピコォオオンっ! 電撃は十手に吸われたが、十手その物とついでにミニゴーレムまで遠くにぶっ飛ばしたっ。
「何デ俺マデェ~ちびノバカ~~っ!!」
「あれ? 勢い余っちゃった」
「笑止ッ!」
カラエモンは今度は『ドリル貫手』を撃ち込んできた。
「うわっ?!」
身をよじって避けると貫手で青い屋根に大穴を開けた! リーチは狭いけどむしろ攻撃力上がってるしっ。だけど私も避けつつ屋根を電撃特性のピコハンで打つとその電撃にカラエモンは少し仰け反った。よし、本体は電撃通る! 私自身への感電はまだどうにか吸えた重力時計のお陰で防げた。2撃目はないか・・。
私は相手が感電してる内に、給水タンクのある隣の建物の屋上に跳び移った。
「逃サヌッ」
追ってくるカラエモンにウワバミポーチから引っ張り出した火炎魔法エルや凍結魔法ヴァルの弱いロールを拡げて炎と吹雪を撃って足止めした。
「ばーかっ! ポンコツっ! コソドロっ!」
煽りつつ、給水タンクの近く、ポジション取りに注意しつつ左手にピコハンを持ったまま右手でマグネットタクトを腰裏の鞘から抜いた。
「許サンっ!」
跳び掛かってくるカラエモンにピコハンをマグネットタクトで操って投げ付けるっ。カラエモンは腕で思い切りそれを払った。織り込み済みらしく、感電しながら人形の様な顔でこちらを睨んでいた。
「怖っ」
と言いつつ、私はポーチから爆破魔法ディノのロールを引っ張り出し、給水塔に向かって発動させた。ドォンっ! 大した火力じゃないけど古びた給水タンクに穴を開けるには十分だった。
「ドォワっ??!」
まともに水を被るカラエモン。私は水を被らない位置を確認していた。カラエモンはすぐに反撃の構えを見せたがそれより速く、私は重力時計を構えた!
「解放っ!」
蓄えた電力が変換されカラエモンの頭上に重力球が発生した。ズンっ!! 水浸しの屋上にめり込む程押し付けられるカラエモン。
「オオオォっ?!」
「ユリック」
私はマグネットタクトに念力魔法を上乗せして自分を宙に浮かせた。そして、おもむろに切り札の+2の電撃魔法ジガのロールをウワバミポーチから引っ張り出した。
「建物の修理代とかはよろしくね」
ニッコリ笑い掛けてあげた。
「マ、待テッ! 今反省シタッ! 拙者ガ悪カッタ! 自首スルッ。盗ンダ商品モ帰スッ! サッキノ貫手トカモ寸止メスルツモリダッタヨ?!」
「・・寸止め? めっちゃ屋根、貫通してたよね?」
「イヤ、ソレハッ」
「無いよね~っ」
私は無慈悲に+2ジガのロールを開いた。
バリバリバリィイイイーーーーッッ!!!
「ぎゃあアァああーーッ!!!」
猛烈な電撃が身動き取れないカラエモンを襲った。水浸しだから良く通ること通ること。一撃で黒焦げにして昏倒させた。
「・・もう手札がないからダメ押ししたけど、ちょっとやり過ぎた? 黒箱回収できるかなぁ」
その後すぐに壁でジャンクキャンサー達の相手をしていたミニゴーレム2体とは合流できたけど、私が吹っ飛ばしてしまったもう1体は近くのゴミ捨て場にハマり込んでいて救出しなくてはならくて、助けた後で猛烈に抗議された・・。ま、思ったより危なかったけど、いいリハビリにはなったかな?
それから5日後、私は鉄鋼町の中心部にあるとある工場に招かれた。あちこち機械の作動音でうるさくて敵わなかった。
「ここか」
大きな工場の一角に『有限会社ゼンマイ』とヘタクソな字の看板を掲げられたボロボロの工房があった。中に入ると意外と機材にみっちり設置され、稼働していた。たった数日で、凄いな・・。
「オオイッ! コレ研磨ガ甘イゾッ?!『ぜんまいくおりてぃ』ヲ満タセッ!」
「スイマセン親分ッ!」
「からえもんッ! 親分ジャナクテ社長ダッ!」
「スイマセンッ! 社長ッ!」
例の討伐クエストでゼンマイ盗賊団は全員捕られられ、その後ミツネによって全員コアの黒箱にかなり離れていても検知可能な発信器と自爆装置を取り付けられ、更に組合と協議した結果『起業』させることになった。
まずこれまでの犯行による損失額が大き過ぎるのと、私のこと軽く殺そうとしたけどそこまで悪質性が無いと判断されたのと、何よりカラクリ兵種族は工業製品に関する神の禁忌制約を受け難いというから鉄鋼町の魔工師達としても使える、と見たみたい。まぁ本人達は『農業やりたい』とか斜め上のことを言ってたりもしたみたいだけど・・。
「ヤツらは気紛れだ。いつまで待つかな?」
防護服の下に自分の花粉対策にガスマスクまでして誰だかよくわからなくなったミツネと引き続きゼンマイ一味担当になったらしい眼鏡の組合員の人が工場の奥から現れた。
「ミツネ、何らかの組織の黒幕みたいになってるよ?」
「花粉がどうにもならないんだ・・」
「とにかく彼等にはこれまでの弁償をしてもらいますから。時々ガス抜きに鉄鋼町のトラブルシュートもさせることにしたんで、何とか続けさせてみせます!」
「大丈夫かなぁ。大体、アイツらどっから来た何者なの?」
元ゼンマイ盗賊団の者達は今は夢中で働いていた。
「よくわからないな。ヤツらのコアの黒箱を1から製造する技術は既に失われている。一体いつからこの世に居る者かもわからないが、私よりも永く生きているはずだ。ヤツら自身、何周目かの生涯のつもりなのかもな」
防護服の下のガスマスクの更に下でミツネは応えた。
「何周目か」
この間は殺され掛けたけど、せっせと働くヤツらに少しだけシンパシーを感じないでもなかった。
「私は2周で十分かな・・」
「ん? 何か言ったか? ちょっと聞き取り難くてな」
「何でもないよ」
笑って誤魔化した。私もとにかく、今の場所で頑張ろう。