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ロミ~魔法屋の娘~  作者: 大石次郎


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第15話 魔女の印 2

アマリリス城再訪までです。コツコツ進めてゆきます。

海鈴堂に戻った私は、ラキが魔法使いのクラスの実技予習をヨッピーと地下室で始めた隙に、帰ろうとしていたモリシも掴まえて、滅多に入らない師匠の書斎に押し掛けた。

私物が少ない師匠の書斎はあっさりと片付いてるけど、奥の棚に置かれた+3の強固な護りを施されたケースの中で揺らめく朧気なシルエットの『蜃気楼の塔』が異彩を放っていた。

中に入れた物を含め伸縮自在で、大きさに応じた重さになるが実体の不確かな塔の魔法道具。魔力を膨大消費すれば塔ごとテレポートもできるとか。

働けど働けど、海鈴堂が金欠な要因でもあるっ!

じっくり観察したり中に入ったりもしたいけど、今はそれどころじゃなかった。私は手短にウキ・オリから聞いた話を師匠にした。

「・・ふーむ。一応、ルキが海鈴堂周辺に近付けないように結界は張っていたんだが」

いつの間に?!

「ただラキ君は思ったより早々にアクティブであちこち出掛けてしまうし、姉妹を会わせなければそれで済むというワケでもなさそうだね」

「会うだけでもマズいんですか?」

モリシは岩宿の件を直に見たワケじゃないし何なら魔女見習いだった頃のラキを知らないから、シンプルに『唯一の肉親らしい妹に会えない子供』という感覚があるようだった。

「ルキは本来魂と一体で、動かせない『魔女の印』をラキから奪って自分の力にしている。少なくとも彼女達の間では『融通が利く』とみるべきだろうね」

場合によっては奪った魔女の印をラキに『戻す』ことも可能?

「師匠、私は蛙オババの親心であんまり向いてなさそうなラキだけは魔女の運命から逃した、って思いたいです」

そもそも魔女って不幸なのか? というのもあるけど・・。蛙オババの最後、正直不幸とは思えなかったりもした。

「蛙オババは3人しかいない火口の魔女の弟子だ。何らかの実験に協力していた可能性はある。あの悪魔も不穏な事を言っていたんだろう?」

「そうですけど・・でも、それだとあんまりですよっ。帽子の魔女も、アモッチ達だって、皆グルってことになりかねないですよ?!」

「闇馬の魔女はともかく、帽子の魔女は火口の魔女に協力することはないと思うがね」

「だったら蛙オババだって!」

「オババは亡くなる前の20年程はあまり意識がハッキリとはしていなかった。5年程前にラキとルキを弟子に取ったと聞いた時は驚いたくらいだ。利用されたのかもしれない」

「う~ん」

私は頭を抱えたいくらいだった。

「もっと積極的に調べてみてはどうですか? ゼイルッフさん。僕も協力しますよ。ラキは以前のロミより口と態度が悪いけど豚骨ヌードルがわりと好きなんです。同じ豚骨ヌードル好きとしてほっておけません」

「私も同意見です! 今はもう後輩ですからっ」

師匠は柔らかく笑った。。

「・・そうだね。火口の魔女は非情だ。一方的に巻き込まれては命が幾つあっても足らない。危険もあるだろうが、ここは海鈴堂として色々当たってみよう。ミツネ君やゼンマイ一味にも協力してもらおう。ヌチ子さんは・・止しておいた方がいいだろうね」

「ですね。煌めき渚シスターズとしての輝かしい最後のコンサートがありますからねっ!」

凄い気合いを見せるモリシっ! 歌手側のテンションになってない?

「とにかく、皆でやれることはやりましょうっ」

私達はこのルキと場合によっては火口の魔女の思惑について積極的に調べてゆくことになった。



ミツネやゼンマイ一味とも話をつけ、取り敢えず明日は午後までに自分が担当する店の仕事の片付け、私はアマリリス城に行ってみることになった。

あそこも少しは慣れたけど魔物の巣窟であることに変わりはない! 夜中の自室で色々準備をしていた。ホビットの退魔鎧もしっかり手入れする。

ウイジャは島の『三竦み』の一角だから火口の魔女について聞けるかもしれない。ほんとはアモッチ達に確認を取りに行きたい。でももし『敵』だって場合、私じゃお手上げだから師匠に頼むことにした。

ラキには状況が明らかになったら話せる範囲で話す予定。上手くゆくといいけど・・

一通り準備を終えた私はふと思い立って、魔眼でラキの様子を見てみた。普段はこんなことしない。何だか心配だった。

私の勝手だけどここで、錬成師にならなくても、楽しく暮らしてほしかった。

「ん~・・見えた」

ラキは寝間着にしているらしいいつかのジンベエを着て、髪を左右に分けて纏めてすやすや眠っていた。ヨッピーは部屋の端で休眠中。ラキは寝方が思いの外、行儀が良かった。

「・・・カワっ」

萌えさせられただけだった。これ以上見てたらただの変態だ。私は魔眼を解除して、目薬を差して、大人しく自分も眠ることにした。



・・・・夢を見ている。また昔の夢だったけど、苦しい時期の夢じゃなくて『諦め期』の夢だった。ラキのことに加えてやっぱりトゥイさんの転写図を見たりしたからだと思う。

「初めまして、石の中の貴女」

その日、私の入った石が安置された当時の海鈴堂の地下室にトゥイさんが来た。師匠はその場にいなくて、変わりにハニワゴーレムの1号君がトゥイさんの案内で来ていた。

私が師匠の応急処置で『魔物の様な石』に変わってからたぶん3年後くらい。

その前にも1人鉱物錬成の専門家の人が私の奇妙な石化解除のサポートに来ていたけど、この人は解除より希少サンプルとしての私の研究に夢中で、師匠と大喧嘩になってある日を境に来なくなったていた。

「・・・何? 誰?」

私は石の中からテレパシーで応えた。当時はそんなこともできた。レベルも今より全然高く確か17くらいもあって、その気になればわりと色々できた。今でも使ってる魔眼もこの頃の『暇潰し』の延長だった。

「あら、話してくれるのね。私も得意じゃないけどテレパシー使ってみた方がいい? それとも通話魔法を」

「いらない。振動でわかる。普通に話したら。魔力の無駄」

当時の私の口調はこんなもん。というか、口の悪さは今でも完全に直ってないと思う。こうなるまで物心ついてからまともに穏便に、人と会話する機会がほぼなかったからどっか欠けてる。

「私はトゥイ。魔法医よ。前以て言っておくけど鉱物系の誤錬成治療の専門家ではないわ。私の父がゼイルッフさんの学友で、たまたま夫や私の仕事の関係でこの島に来たから、手伝うことになったのよ」

「あ、そ。勝手にしたら。私、出たくないから。ここがいい」

トゥイさんは苦笑した。

「まず、名前を教えてくれない? ゼイルッフさんは『石の中の子供』と言っていたけど」

「あの亀のオッサン、そんな風に呼んでたの?」

当時、私は師匠を『亀のオッサン』と呼んでいた。師匠は今より若かったし、海亀だし、いつも不機嫌そうで感じ悪かったし・・。

「あら? 普段何て呼ばれてるの?」

「・・普段は『君』とか、あんまりちゃんと呼ばれない」

何とも言えない顔をしたトゥイさん。

「ゼイルッフさんは気難しいところがあるからねぇ」

師匠は今よりとっつき難くて、大体ムスっとしていた。

最初に魔物になりかけた私を石の姿に仮封印した時は「子供が泣かなくてどうするっ!」って私の代わりに自分が泣いて説教してきたから熱血系なのかと思ったら、予期せぬ突然のトラブルに思わず素でリアクションしてしまっただけで、余程バツが悪いらしく、その時のことを蒸し返すと今でも不機嫌になるくらいだった。

「名前を教えてほしいの。石の中の貴女と話す時、とても不便だわ。ゼイルッフさんはちょっと意地になって自分からもう聞かないつもりみたいだけど」

めんどくさい当事の師匠! いや、その時はそれもどうでもよかった。新しい人が来て、新しい思考をしたら、私は酷く眠くなってきた。感覚でわかる。これは眠ったら当分起きれないヤツだ。

「・・・どうでもいいけど、私もう眠い。次起きるのどれくらい先がわからない」

トゥイさんは専門でなくてもプロの魔法医だ。目付きが変わった。『休眠』の兆候とすぐ察していた。

「なら教えて。名乗ることにも意味があるし、名を知っているかどうかで組める魔法式の質も全然違ってくるの。貴女の存在はとても不確かで・・風に舞う綿毛の様な物なのよ? お願い、貴女の名前を教えて」

「・・・」

秘密にしていたが、私はこの時、実はとっくに自分の名前を失っていた。名乗らないのではなく、名乗れなかった。

生い立ち等の印象的な出来事は覚えていたけど、父や継母や母の顔も思い出せないし、兄弟姉妹や親戚もわからない。故郷や売られた街の具体的な場所や名前もわからない。

もっと言ったら、この石の中の意識は『私』ではないかもしれなかった。私の記憶や性格の1部を引き継いだ『何か』なのかもしれなかった。

「お願いよ。貴女が眠ってしまう前に・・ゼイルッフさんの話では徐々に貴女の心が薄れてしまっているようだから、処置の魔法式を根本的に変える必要があるの。お願い、貴女の『名前』を教えて」

名前、名前、名前、名前、名前・・

こっちが聞きたいくらいだった。ダメだ。どんどん眠くなる。眠れば眠る程、思い出せることが減ってゆく。名前、名前・・・私が思い出せる名前。・・あった。たった1つ、怒りと共に唯一私の中に残っている名前。

「ロミ」

「っ! ロミ、ね。それが貴女の名前なのね?!」

母の名前だった。他の家族の名前はもう忘れた。墓守に消えると、最初からいないと言われた名前。私自身は確かにアイツの言った通りになった。

だが母の名前は私が奪った。

「私はロミ。それを、・・忘れない」

私は酷く消耗し、深い眠りに落ちた。だけど、それ以降、トゥイさんが魔法式を改善してくれたこともあって、2度と記憶が欠損してゆくことはなかった。

私は上手く私の偽物になれた。そのことは今でも誰にも言っていない。



翌日、霧雨の降る寒々としたアマリリス城に私とミツネが派遣してくれた倒す君は来ていた。青く発光するアマリリスがそこかしこに咲いている。

案内は執事長のワーウルフのヒムロではなく女のカンテラシェードだった。カンテラシェードはカンテラを持ったフード付きマントを着て仮面を付けた、影の様な人型のアンデッド。

このカンテラシェードは全く喋らないので私達は困惑していた。

「噂以上二あんでっどマミレダナ、イチイチ探知シテイタラぱんくシソウダ」

「私は『危機探知』を10パーセント探知にしてる。あんまり相手にしない方がいいよ?」

「ウーン・・」

毎度の事だがアンデッドやその他の魔物達が建物の影で蠢いていた。案内しているのがヒムロではないからか、これまでより距離が近く、敵意も強い気がした。

フェイスガードを下ろしたホビットの退魔鎧の下で冷や汗が止まらない。また倒す君は結構好戦的だから不用意に反撃して蜂の巣を突ついた様になってもマズい。

「倒す君、短気はダメだからね」

「ますたーニモ散々言ワレタ。気ヲ付ケルゼ」

といいつつ右腕の『光属性砲』を構えてる倒す君・・。と、

「ロミっ! 何をチンタラ歩いてるっ。さっさとウイジャの部屋に来いっ。来て『良し』と言ってやったのに中々こないとは何事じゃっ!」

城の中に熟女バージョンのロード・ウイジャの声が響いた。魔法か伝声管の様な物を使ったかわからなかったけど、取り敢えず周囲の魔物達はビビって物陰に引っ込んでいった。

「いや、そんな事言われましてもウイジャ様っ! この城毎回形が変わるし、ヒムロさんじゃないからあんまり近道も通れないみたいでっ」

城門から入ってから30分以上経っていたけど未だに私達は城に入る前の廃墟みたいな雨晒しのゾーンをウロウロしていた。

「ヒムロは今日はお使いじゃっ! シノブぅっ!!」

「・・はい」

「オッ? 喋ッタゾ、こいつ」

「倒す君、言い方っ」

シノブと呼ばれた女のカンテラシェードは緩慢な仕草で仮面の顔を上げた。

「今日は許可するっ! 23番のルートで来いっ 」

「・・主、23番は故障で通れません」

「何っ?! では、41番で来いっ」

「・・主、今の城の形態だと41番のルートはありません」

「ぐぬぅっ?! では7番で来いっ!」

「・・主、私ではあのルートの魔物は抑えられません」

「弱過ぎるぅぅっっ! 何でお前何かが案内しているっ?!」

「・・主、主のお部屋を掃除していたら「お前が行け」と御命じになられたので」

「う~~っっっ、もういいっ! そこを動くなっ」

「・・主、畏まりました」

何何? 私と倒す君は顔を見合わせた。が、次の瞬間っ! ドンっ!! 城の上階の方で爆発が起こり、逆巻く紫の雲の様な物が吹き出して物凄い勢いでこちらに飛来してきた。

「迎撃カ?!」

「ダメだってっ」

光属性砲で狙いをつけようとした倒す君を私は慌てて止めた。無数の蝙蝠型の霊体である紫の雲は私達の周囲を旋回し始めた。

「おっ?」

紫の雲の1部が舞い降りて寄り集まり、何となく蝙蝠っぽい東屋を作った。アマリリスの幻灯機を灯りとして、そこの椅子に継ぎはぎだらけのフレッシュゴーレムの少年の霊体が座っていた。柔和で老成した表情。ロード・ウイジャの『夫』ムイラーだった。

「やぁロミさん、久し振り」

「あ、ども。お久し振りです」

「こいつガじんごろト被ッテルやつカ?」

「猫とムイラーを一緒にするなぁーっ!!!」

紫の蝙蝠の雲の中から畳んだ蝙蝠傘を持ち、サングラスを掛けた熟女形態のロード・ウイジャが石畳を割る勢いで落ちてきた! ジンゴロちゃん、知ってるんだ。

これにカンテラシェードのシノブは朧気な下半身をしているけど跪き、私も右足を引き右手を鎧の左胸に当てて頭を少し下げる正式な礼の形を取った。

遠隔操作で腰の鞘から抜いた光鱗のタクトを左手に持ちフェイスガードも上げる。ふっふっふっ、この件、慣れた。

ウイジャは蝙蝠傘を差した。

「雪姫の所のそこのポンコツっ。わきまえよっ!」

「何イッ?」

「倒す君っ」

私はタクトを使って、膝カックンの要領で無理矢理倒す君を跪かせた。勿論めっちゃ睨まれたっ!

「ろみっ」

「クレームは後で聞くからっ」

「ふんっ」

鼻で息を吐いて蝙蝠の霊体を操り、紫のソファ状に蝙蝠達を集め、腰掛けるウイジャ。

「面倒になったからここで話を聞いてやるっ。申してみよ! ロミっ」

ソファからひっくり返る勢いでふんぞり反るウイジャっ。

「ごめんね、ウイジャは滅多に客なんて来ないから実はゼイルッフさんから連絡がきてからちょっと楽しみにしてたんだよ?」

「ムイラーっ! 余計な事は言わないぞっ?!」

「はいはい・・」

東屋で肩を竦めるムイラー。私はその隙に礼の姿勢を時、不満が爆発しそうだった倒す君の跪いた状態も解除した。倒す君はふて消されて胡座をかいてそっぽ向いてしまった・・。

「ウイジャ様、既に師匠から話はお聞きになっていられるとは思いますが実は・・」

私はウイジャの短気さも考慮してざっと状況を話した。

「というワケでして、火口の魔女について伺いたいのです」

「ふんっ・・あのファザコン女かっ」

めんどくさそうに言い放つウイジャ。

「ファザコン?」

「火口の魔女は紫龍イノヅチの娘だ。母は人間らしいがなっ。半竜だ」

「ええーっ??」

そんな関係?

「驚く程ではない、あの節操無くスケベな馬鹿竜には200人以上子供がいる」

「200・・」

めちゃくちゃだっ!

「火口の魔女はな・・」

ウイジャはカンテラシェードのシノブにどっからともなくドーナツを持ってこさせるとそれをモシャモシャ食べ始めた。吸血鬼でもドーナツいけるんだ。

「あまひに、ひからムグムグっ」

食べながら喋るから何言ってるかわからないっ。

「え? 何と?」

シノブにアイスコーヒーを持ってこさせ、傘を持たせ、コーヒーを飲んで一息つくウイジャ。わりと何でも飲み食いできるのね・・。

「あの女は多くの子の中でも余りに力が強過ぎた。正当な後継者達と比べてもダントツの才だ。生まれて『すぐ』わかった。よって、監獄山に捨てられた。争いの種にしかならないからな」

何か嫌な話。

「火口の魔女のお母さんは?」

「母親を焼き殺して産まれてきたそうだ」

「あちゃ~・・」

「他にも色々あるんだろうが、一連の経緯があって、あの女はイノヅチを凌駕し、殺すことに固執しておる。実際争っておったが、途中でこのウイジャが割って入ってきて、今は停滞しておる」

「アンタハいのづちと手ヲ組ンデイルンジャナイカ?」

倒す君が鋭く聞いた。アンタってっ。ヒヤヒヤするわっ。ウイジャは倒す君をギロっと睨んだが、特には咎めなかった。

「相互不可侵じゃ。ただヤツの手の者に招かれて島に移り住んだ。それも1つの事実じゃ」

そうだったんだ。でもそれって、

「正直助かったよね。当時の僕らは吸血鬼ハンターに追われて行き場がなかったし」

「別にあんな雑魚どもを恐れたワケではないぞっ。曾孫の代にもなってもしつこく襲ってくるからうんざりしただけじゃっ!」

「ウイジャ様」

「うん?」

「イノヅチは火口の魔女と争わない為にウイジャ様を島に招いた。そういうことですね?」

「まぁ・・な。気持ちはわかる。実の娘に延々ストーキングされて命を狙われ続けるのじゃ、地獄じゃろ? 自業自得じゃがなっ」

ウイジャはまたシノブからドーナツを受け取り、ムシャムシャ食べ始めた。熟女形態を取っても仕草は子供のままだ。

「ロミさん」

東屋のムイラーが話し掛けてきた。

「イノヅチは竜としても高齢です。進化を続けてゆく気概ももう無いようです。衰え始めているとも聞きます。火口の魔女は焦っているのでしょう」

「焦ル? ソノイカレタ女ハすけべ竜ヲ殺スツモリナンダロ? 好都合デハ?」

呼称が色々雑な倒す君っ。

「どういうことですか?」

「だからさっき言ったじゃろ? ファザコンと。ドーナツはもういい、後はシノブ、お前が食せっ」

「・・主よ、ありがたき幸せ」

シノブはおもむろに仮面を上げるとその下の口だけあった影の顔を見せ、片手に持っていた紙袋入りの残りのドーナツを紙袋ごと牙だらけの口に入れて1口で食べてしまったっ。恐っ。

「火口の魔女は『強い父』を越えたいのじゃ。ヨボヨボ爺さんになった役立たず等を殺しても面白くないのじゃろう。しかし、今もってあの女の力ではイノヅチを殺し切れん。イノヅチもこの島の竜の主じゃからなっ」

「結果彼女はここ数十年、色々画策していたようですね。まぁ僕は途中で死んでいた期間が長かったのでいまいち把握できていませんでしたが」

「今デモ死ンデルンダロ? イヤ、あんでっどダカラ元々死ンデルダロ?」

「そりゃそうかっ! 1本取られちゃった。フフフっ」

ウケるムイラー。微妙な顔をするウイジャ。

「ヤツの『画策』は多岐に及んだようだが、その中には『魔女の印』に細工する物もあったようじゃ、詳しくはわからんので今、ヒムロに調べさせておる」

やっぱり、ルキがラキか印を奪ったのは火口の魔女絡み??

「いずれにせよロミよ、お前如き小者が、あまり派手に動くとあの女にプチっと潰されることになる。精々気を付けることじゃ。・・シノブ、アイスコーヒーおかわりじゃ」

「・・主よ、アイスコーヒーは飲み干してしまいました。わたくしが」

中が氷だけになったガラスポットを見せるシノブ。

「飲み干すなっ、ドーナツしか許可してないぞっ?!」

「・・主よ、粉物を食べたら喉が渇いてしまい」

「お前、喉あるのか?! ただの影じゃろっ?!!」

「・・主よ、生前の記憶でついうっかり。死んでお詫びします」

「お前はもう死んでおるぞ?」

「ウフフっ」

「ウケるなっ!」

「もういいじゃないかウイジャ」

ウイジャ達は何だかわちゃわちゃしてきたけど、段々話は繋がってきた。どうすれば、火口の魔女の災いを回避できるんだろう?

私は倒す君の方を確認してみた。

「っ?!」

ちょこっとビクっときたっ! まだ結構怒ってたよっ、凄い睨んでるしっ。さっきはしょうがなくない? 取り敢えず私はウワバミポーチの中のオイルジャーキーの残数を確認した。もうっ、ややこしいなぁっ。

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