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ロミ~魔法屋の娘~  作者: 大石次郎


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14/21

第14話 魔女の印 1

最終エピの1回目です。導入回です。慎重に全5回くらいで終えられるようにやってみます。よろしくお願いします。

火口の魔女、魔女会には属さないカムヤエ島でもっとも強い力を持った魔女。自分が契約した悪魔ルスト・ハチェットを逆に喰って、その『魔法式破壊』の力を奪い全ての魔法が効かなくなった。

扱う固有魔法はその通り名のまま『火山との同化』。火口の魔女は島の北西部の火山であり罪を犯した魔女達の牢獄でもある監獄山と繋がっていて、監獄山が健在な限り火口の魔女は不死身だった。

彼女は監獄山の火口近くの祠に捨てられた赤子だったらしい。とてもまともな生き物が生きていられる環境ではないその場所で、火口の魔女は燃える様に紅い産着にくるまれて静かに眠り続けていた。

かつては島の竜族の主、紫竜イノヅチと激しく争っていたが、バンパイアロードのウイジャが島に現れると『三竦み』の状態となり、現在は監獄山深部の自分の館で殆んど沈黙している。

この100年余り、時折弟子を取っているが生きて育ったのは闇馬の魔女と帽子の魔女と蛙オババのみ。他の弟子達は一人残らず試練に耐えられないか火口の魔女の逆鱗に触れて命を落としている・・・。

「ダメじゃぁーんっ!!!」

私は『カムヤエ魔女百科』をテーブルに投げ出した。古い本だったから埃が舞ってじった。

「うわっ? ケホケホっ」

咳込んで、近くに転がしていた光鱗のタクトを遠隔操作で手元に取り寄せてタクトの力で海鈴堂の地下書庫の魔工換気扇のスイッチを入れて回した。

私は改めてルキの事が心配になってきて、ラキがお使いで店にいない隙に火口の魔女について調べ直しているところだった。

「もうっ、最悪。ちょっと目に入ったし。 ん~っ」

私は唸ってカムヤエ魔女百科の火口の魔女の項を見直した。精密なタッチの挿し絵はたぶん本人そっくりだと思う。さっき見た帽子の魔女の画も、だいぶ若い、というか幼い感じだったけどそっくりだ。蛙オババの画はちょっと若いオババ、って感じだったけど・・。

古い世代の魔女しか載っていない辞典だけど、師匠の蔵書だし確かな情報のはず。挿し絵の紅い衣を纏った燃える様な強い瞳の、竜の血を引いてるらしい火口の魔女は神話の中の人物みたい。実際持ってるエピソードが全部普通じゃない。たぶん『普通』と無縁の人なんだろうな。

「やっぱルキ、ヤバそうだなぁ・・。動かしてみよっかな? えいっ」

この時点は挿し絵に魔力を少し入れると画が動き出す仕組みになっていた。動画書、ってヤツ。音声も出るのもあって、モリシが密かにエッチなのを集めているのを私は知っている・・。と、

「消えろッ!」

「え?」

画の中の火口の魔女が鋭く言って腕を振るうと、辞典から炎が吹き出したっ!

「アチチチっ! 嘘ぉっ?!」

画はすぐに静止して元の図案に戻ったけど、酷い目にあったっ。辞典もちょっと焦げたし、私もパンチパーマにされた!

「何だよもうっ。こんなの、トラップじゃんか!」

私が抗議しても、画の中の火口の魔女は燃える様な強い瞳でただ私を見詰め返すだけだった。



「はははっ! その髪型っ。何だよロミっ。時間差で見てもまだ面白いっ! ははっ」

ヨッピーとお使いから帰ったラキはずっとバカ受けしていた。私は書庫で受けた軽い火傷は治したけどパンチにされた髪型が上手く戻せなくて、色々イジってる内に『全ての髪が真上に逆立った髪型』で固定されてしまった。

「ろみ様ァ、似合ッテルヨゥ。アハハーっ! なっつオ代ワリオ願イシマス!」

「ほんとよく食べるねぇ」

皿に盛ったカシューナッツのカレー粉煎りをあっという間に完食したヨッピーがネリィさんに催促した。この間、ミツネに嗅覚を付けてもらってからヨッピーの食欲は絶好調だった。

私、師匠、ラキ、ヨッピー、モリシは昼休み中だった。私は髪のせいで吊し上げ喰らってる気分だけどっ。

「ロミ、何か本気になって戦闘力が上がった! て感じだね。ふふっ」

山盛りミートパスタを食べながらイジってくるモリシ。

「何だよ戦闘力って。師匠~、これどうにかならないですか?」

「ん~、午後は明日の予約客用のクラスチェンジ素材の準備が済んだら抜けて、魔法医のサイナさんのとこに行って来なさい。他の作業は私とモリシウォード君とラキ君と、ヨッピーもか。でやっておくよ」

「サイナさんですかぁ? 大袈裟じゃないですか」

サイナさんは馴染みの魔法医さん。失敗した髪型を直しにゆくというのはちょっと気恥ずかしい。

「魔法が多重に重なってる。それ以上下手にイジらない方がいい」

「・・はい。行ってきます」

「私達が作業代わってやるんだから感謝しろよ? 大体何を失敗したらそんな頭になるんだよ?」

ラキには錬成に新しい魔法式と素材を使ったら失敗した、とか適当なことを言っていた。ルキが火口の魔女の弟子になったことをいつまでも隠してはいられないとは思ってる。ちょっとルキの今の様子を確認できないかなぁ。元気そうなら話せるんだけど・・。

「色々あるんだよっ」

ちょっとムッとして言ったら、この髪型で怒ったのが面白かったらしく、ラキとヨッピーにまた爆笑されてしまった。くっそぉっ。



サイナさんは魔法式の解除に特化した『リリースタクト』を器用に使って私の逆立った髪を解除してくれた。

「はい、できあがり」

「わぁ、ありがとうございます! 何かサラサラになった」

調子がよくなった髪を制帽を被り直す前に確認する私。ちょっと髪が伸びた気がするのは元々だっけな? 美容室には1ヶ月以上行ってない・・。

「ロミちゃんは大したことない、って思ってることで魔法が上手くゆかないと変な風に魔法を重ねて反って悪くする癖があるから気を付けてね」

「あ、はい・・師匠にもよく怒られます」

「そうね。お茶でも飲む?」

「お願いします」

サイナさんはおっとりした仕草で丸椅子から立ち上がって診察室のすぐ奥に繋がっている給湯室に歩いていった。

私と同じパタヤ族のサイナさん。中年世代で子供が2人いる。旦那さんは離宮詰めの文官で、サイナさん自身が魔法医なこともあって、去年の海賊騒動の時は大変だったらしい。

棚の1つの上にレースの敷物が掛けてあって、そこは立て掛けタイプのケースに入った転写図を置くスペースになっていた。家族や友人や仕事関係の物は勿論あるけど、私や師匠の物もあった。

昔の物は師匠が少し若く、私は完全に子供だ。今のラキよりチビ。陰気そうな子供・・。この頃の転写図には少し若いお腹の大きなサイナさんや、数年前亡くなったサイナさんの師匠で大伯母にも当たる。トゥイさんがいた。

大昔、人間の子供だった頃の私は海鈴堂に忍び込んで人を妖精族に変える『チェンジリングシード』を齧った挙げ句錬成陣を踏み荒らしてしまい、魔物になり掛けて、駆け付けた師匠に魔物ではなく『魔物の様な石』に応急処置で変えられた。

そのまま大人しく錬成解除処置に私が応じていればまぁ半年くらいで石の外に人間まま出られたはずなんだけど、当時の私は色々拗れていて、結局人間には戻りたくないと『パタヤ族の子供』として外に出てきたのは何と約40年後っ! 今から8年、いやもうすぐ9年前の話。

トゥイさんは師匠の学友の娘さんで、約40年間、石の中の私のケアや、石から出てきた私のケアもしてくれた人だった。よく「孫みたいなもんだね」と言ってくれた。

「お師匠、懐かしいですね」

サイナさんがジャスミンティーと小豆のマフィンを持ってきてくれた。

「美味しそう。ありがとうございます。・・トゥイさん。結構厳しいとこもありましたよね」

「そうね。でも貴女が石の中にいた頃は、どうにか外に出そうって、診療所の仕事の合間に色々大変だったのよ?」

「でしょうね・・」

パタヤ族は人間とそこまで寿命が違わない。最初に『石の私』が置かれている地下室にトゥイさんが来た時、彼女はまだ今のサイナさんと変わらない世代だった。

「私も大陸の病院を辞めてお師匠のとこに来て、石の中の貴女を見てびっくりしたわ」

「お騒がせしました」

私は恐縮するしかない。

「あっ、ロミだ!」

診察室の入り口からサイナさんの長男の子が顔を出した。制帽と初等学校の肩掛け鞄、学校から帰ってきたらしい。

これにサイナさんが眉を吊り上げた。

「ロミさんでしょ? それから診療所の入り口から入らないで、っていつも言ってるでしょ?」

「こっちの方が通りから近いじゃんっ。じゃな、ロミ! 浮気するなよっ」

「何それ」

長男の子はこれ以上母親にあれこれ言われる前に素早く退散した。診療所はサイナさんの家に併設されていて繋がってる構造だった。

「ごめんね。生意気で」

「いいですよ。大きくなりましたね」

「貴女が1度島を離れた時は寂しがっていたのよ?」

「ええ~っ?」

長男君が私のことを好きらしいのは何となく知っていた。しかし、知らん顔している。文字通り『10年早い』からっ!



帰り道、外は相変わらずの梅雨の雨だったけど、私の機嫌は好かった。

髪も直ったし、マフィンは美味しかったし、サイナさんと話すと落ち着くし、トゥイさんの転写図も見れた。長男君がまだ私のこと好きらしいことも確認できた。

この間、サイナさんと話した時は「学校で隣の席の女の子にちょっかいを掛けて先生によく怒られてる」と聞いていたから、そろそろ物心ついた頃から知っている私に『刷り込み』的な思慕を感じる時期が過ぎてしまったのかもしれない、と少し寂しく思っていたんだけど、まだまだ健在だったっ。

ふっふっふっ、私はまだ、君の夢の女、だね。

「ふんふ~ん」

鴎柄のレインコートを着て、鼻歌混じりに人気の無い夕方の通りを歩き、水路に掛かった小さな橋に差し掛かった。立ち止まって欄干に手を掛け、水量が増し、流れの早い水路を見下ろした。

「流れ早っ。岩宿で流された時の事を思い出すわ。怖っ」

思わず身震いした。

「俺が居て命拾いしたからな」

「え?」

隣で声がして、私は慌てて振り向いた。

10代後半くらいのパンプス、パンタロンに身体にピッタリ吸い付く様な黒い七分丈ニットに+3は有るネックレスを提げ、薄い色のサングラスをして金輪柄の紳士物の雨傘を差した華奢な人間の女性の肩に、仔犬くらいの大きさの少しデフォルメした様な姿の蜘蛛が1匹止まっていた。

ギマだ。魔女見習い、いや正規の魔女に格上げされた因果の糸を見る魔女ウキ・オリの使い魔!

「ギマっ!」

「よっ、久し振りだな、ロミ」

「う、うん。そうどけど・・その人って」

ギマを肩に乗せている華奢な女性は薄く笑みを見せた。

「改めまして、ウキ・オリです。以前は引っ掛ける様なことをしてすいませんでした」

と言いつつ悪びれる風でもないウキ・オリっ!

「あ、いや・・。昇格できた、様ですね。おめでとうございます」

「随分殊勝じゃねーか。ルキの事で八つ当たりしてくると思ったぜ」

「ギマ。止しなさい」

「おっとぉ」

嗜められたギマはおどける様な仕草をした。

「ギマは口が悪くて」

「いえ」

ウキ・オリは薄いサングラス越しに私の目を見た。私と種類は違うけど、この人も魔眼持ちだとわかった。

「ルキとラキの事、貴女が気に病むことじゃありません」

「気に病んでるか? 鼻歌歌ってたぜ?」

「黙ってなさい」

ウキ・オリが嗜めるまでがワンセットみたいになってんだ。私は少し笑ってしまった。

「ふふっ、私は魔女のルールや価値観は正直よくわかりません。でもラキはもう魔女じゃないから、そっとしておいてあげて下さい」

「ええ、・・でもね。ロミさん」

サングラスを取るウキ・オリ。彼女の魔眼が露わになり、周囲に無数の金の糸が張り巡らせられ、時間がゆっくり引き伸ばされた様になった! 雨粒がゆっくりと降り、水路の急流も遅い。

ウキ・オリとギマと私だけが元のままだった。

「あれから何度も、因果の糸を見てみました。やはりこの島に強い魔女が現れることは間違いないでしょう」

「それって、ルキのことでしょう? もう済んだ話じゃ」

「違います」

周囲の金の糸の多くが寄り合い、1つの綱になって遥か北西へと伸びていった。

「『強い魔女』とは最も強い魔女。・・火口の魔女を殺す魔女のことです」

「ええ?」

殺す? そんな物騒な話だったの??

「ルキは強くなりましたし、今は火口の魔女から厳しい指導を受けていることでしょう。いずれ火口の魔女を越える可能性は確かにあります。この事象に関する因果の糸もルキへと向かっている様です。しかし」

北西へと伸びた金の綱は遥か先で爆発する様に炎上し、途切れ、その炎は金の綱を伝ってこちらまで迫ってきた!

「余り刺激するのもどうかと思うぜ?」

ギマはそう言って、飛び上がり、鎌の様な前肢で斬撃を飛ばし、上空で金の綱を切断したっ。そこで炎上の伝播は止まったが、近くに迫ると凄い熱量だった。

「ルキの周囲は火口の魔女の力で上手く因果が読めませんが、感触として、違和感はあります」

「どう違うって言うんですか?」

少し口調が強くなってしまった。何か、予感している自分がいた。スワンプ・シーカーの言葉も気になる。「魔女の印を持つ者達の運命」とあの悪魔は言っていた。

「ルキもまた、この因果の一因に過ぎないのかもしれません」

ウキ・オリはサングラスを掛け直し、魔眼を解除した。周囲の金の糸が消え、時間の流れも元に戻った。雨も落ち、水路も流れだした。

「運命は不確定です。ロミ、少なくとも貴女はラキの因果に強く関わっている様です。私ももう少し調べてみますが、貴女は貴女で成し得ることを成して下さい」

「わかり易く言うと、こっちはこっちでやってみっから、テメェもガキのお守りをちゃんとやれ、ってことだ」

「ギマ、同じことを言い直す必要はありません」

「あるんだよ? そんな調子だから御神託とか言われんだよっ」

「くっ・・とにかく、気を付けて下さい」

「やるだけやってみます」

「・・・」

「・・?」

ん? なぜかフリーズしてこちら見続けるウキ・オリ。

「が」

「が?」

「頑張ってやってみましょーっ!」

急に元気よく言って片手を突き上げるウキ・オリっ! ええっ? 何? キャラ変??

「・・・」

「・・・」

片手を突き上げたまま凄い勢いで冷や汗をかくウキ・オリっ。ギマはため息を吐いた。

「オイっ、そういうことじゃねーよ。この間こっそり『ユーモア会話術』とかいう本買ってたけど、もっと自然な流れの会話で、て書いてあったろ? 大体、もがっ?」

「とにかくぅっ!」

赤面して片手でギマの顔面を押さえて黙らせ、大声を張るウキ・オリっ。

「心のままにすることです。因果も、大体それでアレしますからっ」

急に雑に纏めて、ギマと小声で「失敗よっ」「俺がスベったみたいじゃねーかっ」等と揉めつつ、ウキ・オリは足早に立ち去っていった。

「ラキ・・ルキ」

心臓の鼓動が早くなった。1度師匠に相談してみよう。私はタクトでポーチからゴーグルと買い直した、ちょっと物がいいエアボード+2を取り出し、ゴーグルを掛け、エアボードに乗って足を固定した。

「私、守るからっ」

魔力を込め、エアボードを浮かせ、私は少し塩気を感じる島特有の雨の中、海鈴堂へと走り出した。

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