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ロミ~魔法屋の娘~  作者: 大石次郎


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11/21

第11話 大公のハープ

ラキのその後と、ハープの修理のクエストです。

カムヤエ島の南部の海沿いの端っこにある魔法業者の協会で買い上げているビーチに来ている。今日はここ貸し切りっ!

で、パラソルの下のビーチチェアに雪の結晶の紋様の湿度耐性の持たせた『エレガンスな水着+1』で身を任せた大胆なミツネを、私は店から持ってきた『連撮型魔工転写機+1』で撮りまくることに夢中になっていた!

砂と強い日差し対策に、前に仕事の出先でノリで買った蟹をモチーフにしたサングラスを持ってきたけど、掛ける暇が無くておでこの上にずっと乗せたままだっ。

念入りに調整し直したミツネの耳を飾る『樹氷のピアス+2』は粉雪が積もった様な美しい肢体を6月でも厳しい南国の日差しと浜の熱気から守ってくれている。

「いいねぇ! いいよぉ!」

サングラス越しに困惑されてるのが思い切り伝わってくるけど、こんな機会はもう今年最後かもしれないっ。私の転写機撮影者魂に火が点いていた!

「ちょっとワイルドに・・そうそうそうっ。角度! 角度いいねっ。野生っ! もっと野生を見せてっ、ミツネっ!」

私が興奮して接写が多くなってくると、ミツネは無言で足元にいた耐日光仕様の『幽体猫スーツbis』を着たジンゴロちゃんを抱え上げて転写機のレンズに押し付けてきた。

「わーっ! 凄い野生っ。って違うからっ! もぅジンゴロちゃんはいいってミツネぇ~」

「・・私はもういい。他の人達を撮って。ヨッピーを連れてっていいから」

ミツネはジンゴロちゃんを抱えて背中を向けてしまった。鳥型マシンゴーレムのヨッピーはパラソルの近くの魔工保冷箱の上に止まって居眠りしていた。

「え~?」

しばらくミツネのうなじや背中やお尻や太股の後ろ何かを撮っていたけど、

「ロミっ。しつこい」

としまい怒られてしまったので退散することにした。ちぇっ、そんな怒らなくてもねぇ?

「ミツネのケチっ! ヨッピーっ、行こっ」

「ふぇ? ろみ様。ドチラニ??」

ヨッピーは余り飛ばず、砂浜をひょこひょこ歩いてついてきた。・・他の人を撮れって言われてもなぁ。

今日は、海鈴堂チームの魔女の試しの慰労会、ということで店を締めて海に来ていて。結構たくさん馴染みのメンバーが集まっていたけど、中には馴染みでも無い人もいた。

波打ち際の近くに三角座りで座っているカテオをパシャっと撮ってみる。カテオは天候操作の力の有る『バルタンハット』を被っていた。アモッチの師匠の帽子の魔女から報酬にもらった魔法の帽子の1つだ。

カテオはあの時ラッキーコインを持たせたのが効いたみたいで、魔女の資格や命までさ取られず代わりにエメラルドリーフヒルに有る魔女達の農園で50年、見習い魔女のまま働くことを命じられた。今日は帽子の魔女の取り成しで特別に休暇を取らせて来てもらっていた。

気晴らしと様子を見ようという話だったんだけど、カテオは心ここに有らずといった調子でこっちで用意した普通の水着を言われるまま着て、バルタンハットを被ってこの辺りの雨雲を晴らす役割を淡々こなしていた。

額と背中とお腹に魔物化の跡が少し残っていたけど本人はまるで目に入っていないようで、ただ黙って三角座りで海を見ていた。

師匠は「景色は目に入っているようだからそっとしておいてやればいい」と言ってたけど・・。

「暗イ鮫女ダネっ!」

「そういうこと言わないのっ。行こ」

改めて話し掛けるタイミングを逸してしまって私はその場を去った。

因みに魔物化したカテオにボコボコにされたオビィーの派閥は解体! 自身は闇馬の魔女の館の使用人の身分からやり直しとなったそうだ。溶かされた左目と左腕と顔の左半分の再生は許されず、義手義眼となって顔の傷痕もそのままらしい・・。

「ぽんこつ達ガ騒イデイルヨ?」

沖の方でゼンマイ一味のカラエモンとキュエスが「ヒーハーっ!」とか言いながら水飛沫を上げて爆走していた。二人ともわざわざ水上高速機動型に身体を改造してきていた。まぁ暇を潰す事に命懸けてる様な人達だからねぇ。

ニビーは1人で延々、浜の砂を使って『そこそこ美化した巨大自分像』を作っていた。リーダーのゴッチャンはモリシと師匠の友達のヒラメ系海魔人のタクアンさんと岩場の方で釣り中。それぞれ楽しんではいるっぽい。

「転写図は撮っとくけど、近付いたら一緒にやろう、って言われそうだから距離は保とう」

「そーしゃるでぃすたんす?」

「それそれ」

私はテキトーに応えてパシャパシャゼンマイ一味とモリシ、タクアンさんの転写図を撮った。

「後は・・あ、ヌチ子さん達」

結構攻めた水着のヌチ子さんとどうも正式に付き合うことになったらしいカジキ系海魔人の刑事官の人が並んで少し離れた波打ち際を歩いていた。

ヌチ子の足の骨折は上手く骨をくっ付けられたけどまだ本調子じゃないらしく、ダンス系の芸能活動は休止して、怪盗家業も休んでるそうだ。

少し歩き方がぎこちないヌチ子さんを刑事官の人が支えていい雰囲気だった。

「ろみ様。三流デモ一応芸能人ダヨ? ばっちり撮ッテ、ますこみニ売ッチャオウゼッ。アハハハーっ!」

この鳥、結構腹黒いね・・。

「ダメだって。最近、アイドル活動の進退考えてるみたいだし、横から変なことしなくていいのっ!」

「オ前ハ、くびダァーっテ、教エテヤロウヨっ!」

「ヨッピーっ。めっ、だよ?」

「怒ラレタァっ! アハハーっ!!」

ヌチ子さん達の転写図はよしとくことにした。

「師匠は・・あ~、いたっ。囲ってるねぇ。全然懲りないよね!」

パイルシャツ姿の師匠はビーチテーブル席で、4月の灰降りの魔女とパン屋のトリアの騒動の時にチョロチョロしていたトリアの元愛人コンビの『ワーキャット女』と『ワータヌキ女』を両サイドにはべらせてトロピカルカクテルを飲ませてもらったり、ピンチョスを食べさせてもらったりしてデレデレしていた!

な、情けないっ。というか最近結構稼いでいるはずなのにいまいち店の運営資金が貯まってゆかないのは絶対この獣人コンビのせいだっ! というかいつの間に師匠に取り入った?! と、猫と狸の2人と目が合ったっ。ニヤリと嗤ってきやがったっ! おのれぇ~っ!!

「撮ってやるっ」

私は転写図を撮りまくった。今度師匠に怒られた時の反論ネタにもするし、万一ある日師匠が多額の保険を掛けられて謎の薬物中毒死をしてしまった時、犯人を追い詰める材料になるかもだしっ?!

「ろみ様? 凄イ、闘争心ヲ探知シテイルヨ? アノ猫ト狸、排除スルカ? ねいるがんクライナラ装備シテイルヨ??」

ヨッピーはガチャンっと口から魔工ネイルガンの銃口を見せたけど、私はそっと、それを押し戻した。

「まだ、その時じゃないわ・・。あの2人、いつか決着を着けるからっ」

「了解ッ」

私は猫女と狸女はバチバチに睨み合いつつその場を離れた。師匠は素知らぬ顔でトロピカルカクテルを飲んでいた。このムッツリスケベ亀っ!

・・ ネリィさんは今日は休みで家族と過ごしているから、後は1人だけ。浜に降りる為の殆ど風化したような階段の近くにいた。今日の慰労会は元々この子の為に開いた様な物だった。

「ラキ」

呼び掛けたけど、完全無視だった。魔女の印をルキに盗られて子供の姿になってしまったラキは水着ではなく麦わら帽子に蛙マークのタンクトップ、スパッツという格好でしゃがんで何かを見ていた。

「何見てんの? 何か臭い・・うげぇーっ?!!」

私は思わず飛び退いた。

「ろみ様? およよ? ア~、これハじーざすダネ。アハハーっ!」

ラキが見ていたのは海鳥が落とした物なのか知らないけど、フナムシに集られた腐敗した大きな魚の死骸だった。

「ラキっ! 確かに生と死を哲学的に考察出来るかもしれないけど、今、ソレ見なくていいからっ。ユ・リックっ!」

私は水着を着ても身に付けてたウワバミポーチに簡易な鞘を取り付けて形態していたマグネットタクトに念力魔法を上乗せして、今は私より小柄なラキをヒョイっと持ち上げると階段の中段辺りに強制的に移動させた。

ラキはジトっとした目をするだけで無反応だった。先日、他にどうしようもないから、魔女ではなくなり追放されたラキを海鈴堂で引き取ってからずっとこんな感じ。一言も喋らない。

「ふうっ、上に屋台来てもらってるから、焼きトウモロコシ食べようラキ! ヨッピーもおいでっ」

「ろみ様、私ハおいるじゃーきーノ方ガ好キダヨ?」

「贅沢言わないっ。ほら、ラキ。立って」

元々細身だったけど、食事もロクに取らないから、腕を引っ張り上げるとちょっと怖くなるくらいラキは軽かった。

「バターソイソースとバターミント、ガーリックバーベキューで! ラコーも3つ下さい」

「あいよ~。合わせて540ゼムだよぉ」

私は階段を上がった近くの屋台で、手早く焼きトウモロコシとラコーを買って近くのラキとヨッピーを待たせてるテーブル席に急いだ。

ラコーはフルーティーな香料、糖蜜、カラメル、煎った豆の色素、ハーブエキス、炭酸、氷を合わせた黒いソフトドリンク。昔はヤバいドラッグを入れて売ってたそうだけど、今は健全。

「お待たせ。どれ食べる?」

「私ハ嗅覚ガ無イノデドレデモイイヨ!」

「ラキは? ソイソース?」

「・・・」

「ガーリック?」

「・・・」

「バターミント?」

ラキは無言で油紙に入ったバターミントの焼きトウモロコシを私から取ってガジガジ噛み付いて食べ出した。

「トウモロコシ、好きなんだ」

そういえば、ウチに来てから出された料理はほとんど残してネリィさんを困らせてたけど、コーンスープだけは綺麗に食べてたっけ。

「うん、良かった。ラコーと、後になっちゃったけど除菌シートもあるよ?」

「私ノ分モ?」

「ハイハイ、あるよ」

結局は私はソイソース。ヨッピーは匂いがわからないのにガーリックを食べることになった。ヨッピーは胸の辺りから補助用のパワーアームを出してトウモロコシを掴んで噛り付いていた。今度ミツネに嗅覚付けてもらわなくちゃね。

「ふぅ~っ、食べた食べた。ラキ、美味しかった?」

「・・普通」

おっ?! 喋ったっ。私はなるべく平静を装った。

「じゃ、『普通』記念に1枚撮っとこう」

私は転写機を構えまた。

「何の記念だよ。バカみてぇ」

「撮ルナラ私モ入ルヨォ」

「何だ? 近寄るな鳥っ。お前、ニンニク臭いっ」

「私、嗅覚アリマセン。アハハハーっ!」

「・・ウゼェ」

ラキはふて腐れたけど、何だか元の調子に戻ってきて、私は嬉しくなって何枚もラキとヨッピーを撮った。

「撮影完了っ! よしっ。ラコー飲み過ぎたからちょっと私、おしっこしてくるよ」

「いい歳しておしっことか言うなっ。子供かっ!」

「子供に子供って言われたぁ~」

「何?!」

「ヨッピー、ラキと待ってて」

「了解ッ!」

「じゃあね」

私はラキが本気で怒らない内に、さっさとトイレに向かった。



トイレ自体は無事、済まして個室から出てきたわけだけど、

「ハァ~、何でワンピース水着で来たんだろ私? トイレめんどくさいわぁ」

無駄にテンションを下げられてしまった。ま、いいや。洗面台でちゃんと備え付けの液体石鹸を付けて手洗い用のタンク式給水器の水で手を洗い、ポーチから出したハンカチで手を拭いた。

と、洗面台に置かれた花瓶の横に小さな鍵付きの玩具みたいな箱が置かれているのに気付いた。

「ん? これって・・」

まさかっ、と思っていると。ガチャンっ。箱の鍵が独りでに開き、小さな箱が開いて中からアモッチが顔だけニュルっと出してきたっ!

「え~っ? 怖っ」

「怖っ、とか言わないでぇっ。サプライズで登場しようと思ってあちこちに箱を仕掛けといたのにっ。ロミ全然気付かないじゃあんっ!」

「そんなこと言われても、私、敵意が無いとわかんないから」

何、サプライズて??

「もう~っ。トイレで登場したくなかったわぁ。ちょっと出るからねっ」

「ああっ。ソレ、中どうなってんの? 鍵は開けられないんじゃなかったっけ?」

「それはねぇ。にゅる~んっと」

肩にクワガタの使い魔を乗せていたアモッチが身体を軟体化して小さな箱から出てきた。ハイネックビキニ水着姿で浮き輪まで腰にハメてるっ! 慰労会に参加する気満々だっ。というか・・

「あれ? アモッチ。背が伸びてない?」

前は私よりちょっと高い153センチくらいだったけど、156センチくらいに微妙に伸びてる。相変わらず前髪長めだったけど、よく見ると顔つきも少しシャープになったような・・。クワガタも身体の突起が増えて何か強そう。

「当たり前だよぉ。アモッチは正式な魔女になったんだよ?」

胸を張るアモッチ。そう、アモッチは一連の暗殺防止や、私以外の救護係が逃げた後に『箱』を使った逃げ遅れた魔女見習いや負傷した救護係や捕り物係の救出に貢献した事が認められて4枠しかない『正規魔女昇格』の1人に選ばれていた。

まぁ、オビィーが試験に落ちたからそのおこぼれだったみたいだけど。

「正式な魔女ということは、魔女のパワーをめちゃくちゃUPさせる『金の果実』を食べる権利が貰えるの。そして食べてパワーUPしたら・・ボンッ! キュッ! ボンッ! と『大人の魔女』に近付けるワケ」

「全然、ボンッ! キュッ! ボンッ! にはなってないよ?」

背は確かにちょっと伸びたけど痩せっぽちな細い木みたいな体型は変わってなかった。

「いいのぉっ! イメージの話っ!! とにかくアモッチは魔法が強くなったから、『箱の魔法』も前より自在に扱える様になったんだよぉっ」

「閉所恐怖症も治ったの?」

「いや・・そこは・・」

膝を抱えて俯くアモッチ。

「中で空間を拡げたりは前より出来る様になったし、自分のサイズを調整すれば・・」

「ああ~。大体わかったし、もういいや。皆いるからアモッチも慰労会混ざったらいいよ。後でバーベキューもするから」

「ほんと?! いやぁ、そんなつもりじゃなかったんだけどぉ」

水着と浮き輪姿で何を言ってるんでしょうか? この人は。

「他の2人も呼んでいい?」

「他の2人?」

「トモダ! イノバーヤ! いいってっ」

自分が出てきた箱に呼び掛けるアモッチ。「あ、ほんとに? 会費払った方がよくない?」

「やっと出れるのか。無計画過ぎるぞアモッチ。うっ、何だ? トイレかよっ」

箱から殆ど普通の服みたいな水着を着たぽっちゃり体型の狸の使い魔を連れたドワーフのトモダと、セクシーなモノキニビキニを着た黒い肌の女が出てきた。モノキニビキニの人は腰の後ろの鞘に大振りなナイフを納めていた。

トモダの見た目の年齢は変わってない様子だったけど、もう1人の人は初対面で元の姿がわからない。グラマラスな体系だけど、人間で言ったら10代中盤だと思う。

「イノバーヤは初めてだよねぇ? 痴女みたいな格好してるけど」

「誰が痴女だっ」

「私の仲間の魔女見習い。2人とも今回評価が高くで『銀の果実』を貰えて魔力が増えてるから、次の試験で昇格できると思うんだぁ」

「私は正直そんなに昇格したくもないんだけど。悪魔と契約するのが嫌っ」

「私は前向きだぞ? アモッチを踏み台にして出世してやるっ」

「本人を前に踏み台とか言うのやめてぇ」

なるほど、このグループはこんなノリね。

「まぁ、いいや。皆来たらいいよ。ラキやカテオにはウチらのクエストの細かいことは秘密だからね」

浮かれてるから一応忠告しとく。

「バレてると思うけどぉ」

「2人とも今さら何もできないよ」

「トモダ。お前、キツいな」

小タヌキを肩に乗せたトモダさんを見ていて私はピン、ときた。

「トモダさん。使い魔が狸ならワータヌキを使役できない?」

「まぁ、他の獣人に比べたらやり易い、かな?」

「実は懲らしめてほしい女が・・」

「何何? 何の話ぃ?」

「痴情の縺れか?」

「経営問題だよっ」

私達はそのまま、ワイワイ言いながらトイレを出たけど、ふと思い出した。

「そう言えば、ルキ。どうしてるの?」

ラッキーコインも後見人も無く、イレギュラーな形で魔力を高めたルキは試験の後、島の北西にある魔女達が管理する『監獄山』に幽閉されて扱いを審議されることになって、それきりだった。

「あ~っ」

「ルキ、ねぇ」

「アイツかぁ」

3人とも微妙な顔をした。

「ラキには黙っておいた方がいいと思うんだけどぉ」

「処刑されたの?!」

「違うよ」

ツッコミが冷静なトモダ。

「ラキはねぇ、『火口の魔女』に引き取られたの」

「ええっ?」

火口の魔女。私でも知ってる島で1番強い力を持つ魔女。ただ確か気性が荒くて魔女達の集まり『魔女会』とも距離を取ってる、て聞いてたけど・・。

「火口の魔女はヤバいよ。滅多に弟子取らないし。取っても気に入らないとすぐ殺すし、闇馬の魔女も手出しできない」

なぜか腰の後ろの鞘からナイフを抜いて構えながら話すイノバーヤ。よく見るとナイフの刀身に顔があった。器物の使い魔か。

「うん。火口の魔女が引き取ったからにはもう誰も何も言えないよ。それにね。ここ120年くらい弟子は1人も育てられずに殺したり与えた試練で死なせたりしてるし、ルキもどうなるかわかんない、かも?」

「そう・・やっぱラキには黙っとこう」

「だねぇ」

「会いに行こうとしたら面倒になるしね」

「まず蛙オババが何のつもりだったか聞いてやりたいよ」

「イノバーヤ、生前のオババにビビりまくってたくせにぃ」

「ち、違う。いや普通無理だろ?」

「貴女の威勢がいいのはオッパイだけよね」

「はぁっ?」

3人のやり取りに笑ってしまったけど、何にしてもルキはもう遠くに行ってしまった感じだった。下手に心配するのもたぶん失礼だろうし、私は彼女と友達でもなかった。



それから皆と合流して、ビーチバレーしたりシュノーケリングしたりバーベキューしたりして、いい時間になったので解散となった。勿論抜かり無く、トモダにワータヌキ女に『数日間、語尾が『~ポコ』になる呪い』を掛けてもらい、半泣きしてやった。次は猫女だっ! クックックッ・・。

カテオはアモッチ達が合流してもノーリアクション。流されるままに、ビーチバレーの審判をし、シュノーケリングでは沖に流されかけ、バーベキューでは無限に無言で焼きソバを作っていた。

ラキはアモッチ達と距離を取り、バーベキューの『食べる係』以外は参加しなかったが、取り敢えずヨッピーとずっと一緒にいたし、多少は毒舌を吐いたりしていたから問題無し。と私達は判断した。

夕方、バルタンハットの効果が無いと普通に梅雨の雨が降り続く海鈴堂に私、師匠、モリシ、ラキ、暫く借りることになったヨッピーで帰ってきた。

モリシと店の前で「あばよ~」と別れ、師匠も「返って疲れたよ」とさっさと自室に引っ込んでしまい。ヨッピーを充電モードで眠らせると、ラキと店の受付の部屋で2人になった。

水着を着てなかったラキは浜にいた時と同じ格好だったけど、麦わら帽子は応接用のソファに適当投げて、自分もソファに座って腕と足を組んで神経質そうに太い眉を寄せていた。うん、ラキっぽい。

私は既に亀のマークのTシャツとハーフパンツに着替え、人参髪止めでピッチリ横分けにして、ミツネに買ってもらった新しい度無し丸眼鏡を掛けていた。

「・・・」

「・・・」

気まずっ。

「何か飲む? ダイニングいかない? あ、お風呂沸かさないと、今日ネリィさんいないから」

「ルキは生きてる?」

こちらを見ずに聞いてきた。私は頭の中で凄い勢いで『ベストアンサー』を探した。

「・・色々、あるみたいだけど、あの子も元気みたいだよ?」

「そう。ならいい。もし会うことがあったら、オババの墓の管理は私はもうできないから上手くやって、と伝えておいて」

ラキは麦わら帽子を置いたままソファから立ち上がった。

「う、うん。わかった。会ったら伝えとく」

会えるかな? とチラっと思ったけど、余計な事を言う前に何とか飲み込んだ。

「部屋にいるから。お風呂の番になったら呼んで。あたしはゼイルッフの次でいいわ」

それだけ言って、空き部屋を使った荷物が無い自分の部屋にラキは引っ込んで行った。

「・・師匠の次、ということは私より先に入るのね」

取り敢えず、家での私のヒエラルキーが下がったようだ・・・。



それから5日後、私は島の政務全般を司る『離宮』に仕事で来ていた。厳重な警備の勝手口の1つから中に入り、私は『ストレンジゴールドフィッシュ』という浮遊するグレープフルーツくらいの大きさの金魚の案内で、離宮のとある棟を目指している。

「今日も雨で良かったですね?」

「え? うん、まぁ・・」

魚系種族的にはそうなのかもしれない。私は制服の上に鴎柄のレインコートを着て、ちょっと重いレインシューズを履いていて、動き難いし、蒸れるし、顔と手と脛の辺りは濡れるし、正直うんざりしていた。

また島の雨は塩分がちょっとあるからベタベタするんだよっ。

「離宮の復旧作業もだいぶ落ち着きました」

金魚の言う通り、去年海賊騒動や海龍王が起こした地震の被害は随分直っていた。ここまで修復その物より資金難に苦しんだらしい。最近は大陸にある人魚達が所有するレインボージェムの採掘業が軌道に乗り出して随分楽になったらしいけど。

「亡くなった方も大勢いたんでしょ?」

当時は私と師匠は海底都市で暮らしていた。まぁ地震の前後は私達もややこしい状況になってたけど・・。

「ええ、それもあっての今回の依頼です」

「ふうん?」

事前に聞いた話からすると原因はともかく、直接的には関係無さそうだけど??

「あの棟の1室です」

東方風のデザインの建物に通された。

部屋の出入口には『観光局67分室』とパネル表示されていた。観光局? 分室多いね。金魚は機械化された呼び鈴のボタンを鰭で器用に鳴らした。

「マジミン様。ロミ様をお連れしました」

「入ってもらって」

分室のドアは薄いらしく、簡単に中と会話できていた。依頼人のマジミン、という人はかなり変わった声の持ち主でもあるようだった。

「ロミ様、引き戸を開けてもらえますか?」

「あ、はいはい。引き戸なんだ」

ドアかと思った。私は引き戸をガラっと開けた。分室は意外と狭く、戸を開けると作業机の前の椅子を半分こちらに向けていた、金魚系人魚の女性とバッチリ目が合ってギョっとした。

目が大きく、離れ目でもあって私とそう変わらないくらい小柄でもあった。たぶん海魔人の血も引いてると思う。人間なら30代くらいかな?

椅子に座って事務作業をする為に2本足になっていたようだけど、すぐに魚の下半身に変化してふわりと分室の宙に浮き上がった。

「いらっしゃい。私はマジミン。観光局67分室主任よ? といってもこの分室に詰めてるの私だけだけど。あっ! 追い出し部屋じゃないからねっ。私は最近、大公のリョーコ様の話し相手になってるからっ!」

「そ、そうですか・・」

リョーコ様は島を納める大公。海底にある人魚達の本国を納める女王の妹君でもある。

「チョコ、ありがと。休んでて」

「お言葉に甘えて」

チョコと呼ばれた金魚は分室の片隅にある水槽に入るとさらに水槽の中にある壺に中に入って見えなくなってしまった。

「えーっと、海鈴堂2級錬成師のロミです。今日はハープの修理の御依頼と伺って参りました」

私はレインコートのフードを上げて、畏まって切り出した。内心、濡れたレインコートを着たまま部屋に入っちゃった時のオフィシャルなマナーがどうだったか思い出せなくて、慌てていたりもした。

「うん、そう。待っててね。今、出すから」

マジミンさんはそう言って、金庫を開けて中から黒塗りの立派な箱を取り出して、私のちかくまで持ってきた。

「これなのよ。リョーコ様の私物なんだけど」

箱を開けるマジミンさん。中にはバキバキに壊れてしまった。元は+3はあったはずの小振りなライアーハープが入っていた。

「これを・・あ、ちょっと待って。濡れるとややこしいから」

「すいませんっ。今」

「大丈夫。チョコっ! 起きてっ。ロミさんの水気を払ってあげて!」

水槽に呼び掛けるマジミンさん。すぐにめんどくさそうにチョコが出てきた。

「・・寝る前に言って下さいよ。自律神経がおかしくなりますっ」

「ごめんごめんっ」

「じゃあ、ロミ様。水気を払いますんで」

「うん? よろしく・・」

え? どうするの? 私はどうしたら?? と思っていたら「よいしょっ」と、チョコは鰭を振り上げて私のレインコートや顔、脛、手、靴に付いていた雨の水分を全て引っぺがし、1つの水の玉にして部屋の掃除用バケツに捨てた。

かなり器用な『水操作』の力だ。私は全身綺麗に乾いていた!

「すご~い! チョコ、凄いねっ」

「それ程でもないです。じゃあ今度こそ眠るんで・・」

チョコはのそのそと水槽の壺に戻っていった。

「じゃ、改めて。このハープは『波間の竪琴』。大公リョーコ様の物だったんだけど、海賊達に壊されちゃってね。修理の予算も何とか作れたんで直そうとなって」

「そうですか。でも、ウチは魔法楽器専門ではありませんよ?」

「予算内なら仕上げは専門の所に回して大丈夫。海鈴堂はケム彦達に協力してたんでしょ?」

「ええ、まぁ」

ケム彦はあんまり強くないはずのケムシーノ族なのに海賊達を撃退した凄腕のモンスター冒険者チームのリーダー。海底や大陸の洞窟のクエストでは海鈴堂と関わることが多かった。

「私もリョーコ様もケム彦達はリスペクトしているから。海鈴堂に頼もうってなったのよ。4月の灰降りの魔女の騒動やこの間の蛇のパズル騒動でも活躍したんでしょ?」

「ええ、まぁ」

どっちもサポートしただけだし、蛇のパズルのクエストは正解がわからない感じもしてるんだけど・・。

「とにかく、そういうことだからコレよろしく! 濡らさないでね? 元々水の属性の魔法道具だけど壊れてるから、水分吸うと珊瑚礁を発生させたりして始末に負えなくなるよ?」

「ええ?」

受け取ることは受けとった。

「リョーコ様は波間の竪琴を使って離宮で亡くなった人達の為に鎮魂の呪歌を歌うつもりみたい。リョーコ様の大事な方も亡くなられたそうだから・・」

涙ぐむマジミンさん。

「わかりました。できる限り務めさせて頂きます!」

「よろしくね」

私はビックリする額の前金と波間の竪琴の生成レシピをもらい、竪琴の入った箱を慎重にウワバミポーチにしまい、離宮を後にした。



店に戻ると、さっそく師匠とモリシと私の3人で竪琴の修理計画を練った。

「やはり仕上げは専門店に任すべきだね。予算はある。問題無いよ」

「手は掛かりそうですが、殆んどの材料は買えそうですね。ただ、ゼイルッフさん。そのまま買うと予算オーバーしそうですよ? いくらかは問屋や製造元に行った方がいいですね」

「足りない材料は私が取ってくるよ。カラエモンとヌチ子さんに手伝ってもらえば何とかなる」

「ヌチ子さんの足はもういいのかい?」

「大丈夫ですよ。もうアイドル活動のライブにも出てるみたいですよ?」

「そういえば、古参のファンはあの刑事の彼氏のこと知ったらショックだろうな・・」

「唯一の1期メンバーだよ? もうやるだけやったじゃん? 腰掛けじゃなかったんだからここは受けいれないと」

「でもグループ卒業しちゃうだろ?」

「お局ポジなのに熱愛発覚でそのまま居座ったら変な感じになっちゃうじゃん? 自分のタイミングで決めさせてやりなよっ」

「でもさぁ」

「2人ともっ!」

珍しく声を張った師匠。

「ヌチ子さんの芸能活動については一旦置いておかないかい?」

「すいません・・」

「すいません。・・私が怒られたじゃんかっ」

と、ちょっと不穏な空気を醸し出したりもしたけど、おおよその修理計画は纏まった。今は簡単な在庫管理の手伝いをやってもらってるラキにも店番や買い出しを少し手伝ってもらうことにもなった。

彼女がこれからどうするつもりなのかはわからないけど、魔女ではなくなっても魔法の知識はある。少しは魔法も使えるみたいだし、アシスタントのアルバイトをしてもらって、自由に使えるお金を自分で貯めてもらいたくもあった。



2日後、買い出しや魔法楽器の専門店との打ち合わせは師匠とモリシとヨッピーを連れたラキに任せ、私は交際は伏せたまま所属する『煌めき渚シスターズ』からの卒業を発表してちょっとセンチメンタルな顔をしたヌチ子さんと共にゼンマイ一味の高速魔工船

『カラクリメガシャーク号』で強めの雨の中、島の西南部沖の目標座標に向かっていた。寒さに弱い私は風邪を引かない様に火属性触媒の火雀の羽を出港時点で使っていた。海底で購入困難なレア素材『ファントムアクアジェム』を入手する予定だっ。

「ヌチ子さん、足、大丈夫?」

「それ、何回聞くの?」

フィンもセットで『ウェットスーツ+1』を着込んだヌチ子さんは苦笑した。海魔人の血を引くヌチ子さんはこのスーツと水中呼吸効果の『マーメイドキャンディ』だけで、ダイビングOKらしい。

「俺達ハ最後マデ三流あいどるナ雑魚ト違ッテ準備万端ダゼ」

潜水仕様に身体を改造したカラエモンが同じく改造したゴッチャンと並んで毒を吐いたが、ヌチ子さんは言い返す元気が無いらしく力無く笑うだけだった。

「・・・」

変な空気になってしまい、ゴッチャンがカラエモンをブン殴った。機械のカラエモンの首が360度回ったっ。

「空気読メッ。ばかやろう」

「サ、サーセン・・」

怒られてやんの。

「ソロソロ着クヨ?」

魔工伝声管から操縦席のニビーの声がした。

「僕ハ船ヲ守ッテルカラ。通信ハ間ニイル親分トシカ通ジナイカラ気ヲ付ケテネ」

キュエスが両手持ちの連射型マシンボウガン+2を抱えて言った。

「俺様ハ船ト海底ノ中間デ待機シテイル。やばクナッタラスグ知ラセロヨ?」

「わかった。2人ともよろしくね。カラエモンも頼むよ?」

「アア・・」

ゴッチャンに怒られてヘコんでいるカラエモン。大丈夫かよ?

「後は私だね・・もう変化しとくか」

私は+1の『変化対応型ウェットスーツ』を着て、右手首に『泡の腕輪』左手首に『水勢支配の腕輪』を付けていた。

腰にはあまり物は入らないけど海中でも使える『海竜ウワバミポーチ』を付け、マグネットタクトも左腕の外側に付けた鞘にストラップで繋ぐ形で携帯していた。

ポーチの中身も水中で使える仕様の物ばかり。準備はできている。

「今? 変化すると浮くんでしょ? 手摺か何かに掴まったといた方がいいよ」

「わかった」

ヌチ子さんに言われるまま、私は船の適当な手摺に掴まり、泡の腕輪を使った。

「はわわわっ?!」

下半身と耳が泡まみれになって力が抜けると、あっという間に下半身が魚の尾の様になり、耳は鰭の様な形になった! 下半身はいい感じに変化きてくれたウェットスーツの生地でそこそこ守られてもいた。

だがそれよりもっ!

「危なっ?!」

急激に身体が浮き上がって船の速さについてゆけなくて後ろに吹っ飛ばされそうになり、私は必死で手摺にしがみついたっ。

「言ワレタ側カラっ!」

「大丈夫カ?」

「船、止まってから変化すればよかったね。ふふっ」

私は3人掛かりで身体を掴まえられて、『大物を釣り上げた』みたいな図になってしまった。面目無い・・。

とにかくっ! 人魚に変化したからにはダイビングも余裕だっ。目標座標に到着すると、私は魔法石の欠片を2つも使って思念化&範囲化した通話魔法ミーノを自分とヌチ子さんとカラエモン、ゴッチャンに掛け、4人で海へと飛び込んでいった! ゼンマイ一味同士は素で通信できるみたいだけどね。

「海流に気を付けよう。流されても冷静に」

「野生のモンスターや鮫とかは私が水勢支配の腕輪で追っ払うから」

「大物ニハ通用シナイゾ?」

「わかってるよっ」

「・・中間深度ダ。ココデ待ッテルゾ?」「親分モ気ヲ付ツケテ!」

「じゃ、あとでね!」

「お宝ゲットしてくるよっ」

私、ヌチ子さん、カラエモンのアタックチームはそのまま海底に向かった。

さっきの宣言通り、途中出くわした水中モンスターや鮫何かは水勢支配の腕輪で簡単に追い払えた。凄いねこの腕輪っ。さすがオババの遺産っ!

海底の岩影に珊瑚まみれになった難破船が見えた。結構亡くなったらしいけど、ここの遺体回収や鎮魂系のクエストは島の海運局や冒険者達何かがとっくに片付けていた。

だが、この環境は数年に1個くらいのサイクルだけどファントムアクアジェムを精製リポップ可能な条件を満たしている。

「ロミ、中の様子を魔眼で見て」

「わかった。ちょっと2人共、私の身体押さえてくれる。流されそう」

「いいよ」

「世話ガ焼ケル」

一応完全に海底に降りてから、2人に身体を固定してもらい、私は私史上初っ! 海中で魔眼を使った!

「・・見えたっ!! お宝も見えたよっ。モンスターもいるにはいるけど、腕輪の力で何とかなりそうっ」

「よしっ。ラッキーじゃんか」

「アマリ簡単ダトツマラン」

魔眼を使った後といえば・・私は海竜ポーチから目薬の入った小さな小瓶を取り出し、集中した。

「リーマっ!」

ミーノの効果で思念だけでも詠唱魔法は使える。目薬差すだけで大袈裟だけど、小瓶の目薬を触媒にした回復魔法の効果で私の眼はいつもの2倍くらいスッキリした!

「終ワッタカ? サッサト片付ケルゾ?」

「了解了解」

「難波船の破片、尖ってるから気を付けなよ?」

「はーい」

私達は難波船の中に入っていった。

「ポーラ」

中は海面からの明かりは殆んど届かないから照明魔法を使った。雨雲で光量足りないしね。船の中の鮫や海蛇、モンスターは全て腕輪の力で払えた。位置も大体把握できてるけど、まぁ、どうしても至近距離で遭遇する形になるからいちいちビビらされたりはした。

「あれじゃない?」

「ホゥ、+2ハアルゾ? 盗リ甲斐ガアル。ヒヒヒッ」

砕けた竜骨の先に妖しく光る+2のファントムアクアジェムがあった。

「ファントムアクアジェム、ゲットぉ~っ!」

「楽勝じゃん?」

「いーじーみっしょんダナッ」

私はファントムアクアジェムをポーチにしまった。

「さ、帰ろう。ゴッチャン! 聴こえる? お宝回収したよ?」

「ソウカ。こっちモ問題無イ。早ク戻レ。モタモタシテルト状況ガ変ワルゾ?」

「了解でーす」

一旦、通話を切って、私達は元来たルートを辿って難波船を出た。

それからしばらくは問題無く浮上して行ってたんだけど・・

「っ?! ビクッときた! 大物っ」

「くると思ったわ~」

「親分っ! ろみガやばソウナノ探知シマシタ!」

「スグ行ク! オ前ラモ相手セズ上ニ来イッ!」

「方角あっち!」

私は探知した『敵意』を指し示したけど、ヌチ子さんとカラエモンは2人掛かりで私の腕を取って上へ上へと浮上していった。

「あれカっ?! くそったれっ!」

カラエモンは海の闇の向こうからヌラっと現れた巨大な蛸型モンスター『船喰いダコラ』に右腕に仕込んだ『ダイバーライフル』を乱射したが分厚く弾力のある身体には効果が薄いようだった。

こりゃ水勢支配の腕輪でも無理だねっ。

「私の攻撃は利きそうにないね。ロミは私が連れてくからカラエモンは威嚇に専念して!」

「イイダロウ、ぬち子っ!」

カラエモンは私の腕を離し、射撃に集中したっ。

「私も何かするよ?!」

「いいから浮上に専念してっ! ゴッチャンと合流するのが先っ!」

「ううっ、わかったっ」

私は精一杯尾びれを動かした。人魚の身体に慣れないから独特の動きに腰が抜けそうだっ。

そうこうしているうちに船喰いダコラが迫ってきた! デカいっ。近付くと大き過ぎるっ。さっきの難波船と変わらないくらいだっ。8本足を伸ばしてきた!

「距離感ガ掴ミ難イっ!」

得意の斬撃が使えないカラエモンは水中射撃戦に手こずっていたっ。

「待タセタッ!」

ゴッチャンが高速で降下してきた! 両手の全指に針の様な物を出している。

「効ケヨッ?!」

ゴッチャンは両手を砲弾にして船喰いダコラに撃ち込んだ!!

「ッ??!!!」

船喰いダコラは身悶えしてから白眼を剥き、海底に沈んで行った。

「竜二モ効ク猛毒ダガ、水中デハ毒ガ傷口カラ抜ケテシマウカモシレン。サッサトずらカルゾ?!」

「了解デス親分っ!」

「賛成だねっ」

「私も『逃げる』に1票っ!」

私達は慌ててカラクリメガシャークに上がって、速攻でその海域から離脱した!!



翌日、ミツネに魔工師ルートでも素材集めに当たってもらったお陰で、思ったより軽めの総額で必要な材料を揃えられ、師匠の知り合いの魔法楽器店に修理を頼む段まで持ってゆくことができた。

ヌチ子さんやゼンマイ一味へのギャラを差し引いてもそれなりの儲けになりそうだ。後はタヌキ女と猫女をどうにかすれば・・フフフッ。

「何笑ってんだよ、キモいなっ」

ラキがパジャマで寝そべったまま動けない私の尻をぺちーんとはたいた。

「痛っ! やめろよぉ~っ。腰痛にも響くだろ?!」

私は半泣きで抗議したっ。ファントムアクアジェム回収の後で人魚化を解いてから、私は思い切りぎっくり腰になってしまっていた・・。

色々治療したけどすぐには治りきらなくてね。昨日はヌチ子さんとニビーに湿布貼って貰ったりマッサージして貰ったけど、今日はネリィさんは家事で忙しそうだったから、ラキしか湿布貼りを頼める相手がいなかった。

鏡とマグネットタクトを使えば1人でも貼れるんだけどね、『湿布くらい貼ってやるよ』と言ってきた結果、この扱いですよ?

東方の国の民族衣裳のジンベエという半袖前合わせ着物に膝丈パンツの涼しそうな上下の服を着たラキは、日に日に活発になってきていて最近ちょっと手に負えない感じ・・。

「相変わらず弱っちいなお前っ。ワンパンだぞ?!」

「うるさいなぁ~っ。ラキ、あんた明後日には波間の竪琴の再構築が済むそうだから。届けにゆく時連れてくからね?」

「はぁ~? 何で? 離宮とかめんどくせぇわっ」

「あんたね。一応、こっちの世界に戻って来たんだからそういう社会性? みたいなのを勉強する機会、大事にしなさいよ?」

「うっせぇわっ!」

またパチーンっ! と尻をはたかれたっ。

「だから腰痛に響くって言ってんじゃんかぁっ?!」

「マジ、雑っ魚ぉ~っ」

コイツっっ、とんだ悪童だわっ。捨てられた仔猫を拾ってきた的な幻想を1ミリでも抱いてた自分がもはや許せんっ! 私のバカっ。

・・・そんなこんなで2日後の午後、曇り空だが雨の止んだ離宮に私、モリシ、ラキは来ていた。ヨッピーは『騒ぎそう』というシンプルな理由で留守番。

モリシはいつも通りのモソっとしたローブを着ていたけど、ほぼ部屋着しかなかったラキは何と! 私と全く同じデザインでワンサイズ小さい色違いの海鈴堂の制服を着ていたっ!!「や~っ、何、どうしたのぉ~? 娘? 私の娘なの?? ママだよぉっ?!」と店で、猫なで声で迫ったら思い切りお腹にパンチされたから、それ以上イジるのは諦めていたけど・・。

「マジミンさん、だっけ? 観光局の人に届けるだけなら3人で来なくてもよかったんじゃないか?」

「そうだよお肉は大人しく店番しとけばよかったのさっ」

「え? 僕の呼称『お肉』になったの??」

「ありがたく思えよ? お肉っ!」

ラキはローブ越しにたっぷり有るモリシのお腹のお肉をムギュウゥっと掴み上げた。

「痛タタっ。ちょっとロミっ。何この小型肉食獣?!」

「知らなーい」

「・・今日はマジミン様だけでなく、大公リョーコ様にも会って頂きますよ?」

今日も案内してくれたチョコが振り返って何気無く言ってきた。私もモリシも虚を突かれた。

「えー?! 今日、大公様にも謁見できるんですか?」

「僕、普段の仕事着で来ちゃったよっ」

「どーでもいいわぁ・・」

ラキ以外はあたふたしたまま、私達は大公リョーコ様の私室の前まで案内された!

「チョコでーす。お連れしました。取り次ぎして下さい」

チョコは私室の前を守っていた屈強な人魚兵や海魔人兵に気楽な調子で言った。

「うむチョコか・・。よし、御三方、くれぐれも失礼の無いように」

番兵の長らしい人魚兵がそう忠告すると、ラキが即「うっせっ」と毒を吐こうとしたのでモリシと私の2人掛かりで口と身体を押さえて黙らせたっ。

「もごごっ!」

「ハハッ、ちょっとやんちゃな所がありまして、失礼しまーす」

「根はいい子・・かなぁ? ふふふっ」

私とモリシは冷や汗をかきながらラキを捕獲したままリョーコ様の私室へと入っていった。チョコは中までは入らないらしく、黙って見送っていた。急に真顔。

「よく、来てくれました」

イルカ系人魚のリョーコ様は現実感が無いくらい美形だったけど、柔和な表情だった。傍にマジミンさんと、レベル16はある手練れの女性の人魚兵が1人控えていた。

部屋の調度品は特級品ばかりではあったけど、さりげない温かみのあるデザインの物ばかりで、リョーコ様本人の雰囲気と合致していた。

「ロミと申します」

「モリシウォードと申しますっ」

「・・ラキ、だけど?」

私とモリシは右手を左胸に当てる正式な礼をしたけど私達の拘束から解放されたラキはやぶからぼうにリョーコ様を睨み付けた! マジミンが苦笑し、人魚兵の女性が眉を釣り上げるのがわかったっ。やめてラキっ。

「初めまして。ラキ。ロミさん。モリシウォードさん」

リョーコ様はあくまで柔らかく対応してくれた。むしろラキに大して母性的な眼差しを向けたから、ラキは赤面してそっぽを向いてしまった。やれやれ・・。

「波間の竪琴を直してくれたんですね?」

「はい。こちらに」

私はタクトでウワバミポーチから黒塗りの箱を引っ張り出し、モリシがタクトを使って蓋を開けて中を見せた。

波間の竪琴は完璧に直っていた。+3の強力な海と幽世の性質を持つ魔法楽器。

「失礼します」

マジミンが箱から竪琴を取り出し、リョーコ様に渡した。

「・・まだ1年も経たないのに、懐かしいですね」

リョーコ様は切な気に竪琴を抱えた。

「この離宮で、島で、亡くなった者達を慰めましょう・・」

リョーコはベッドに腰掛け、竪琴を弾く体勢を取った。鎮魂の呪歌だっけ? 私、モリシ、マジミン、人魚兵の女性は膝を突いて畏まった。ラキは私達の挙動に困惑して、周りを一瞬見回すとなぜか手近な椅子に座ってまたソッポを向いた。なぜ、椅子??

リョーコ様はそれが可笑しかったらしく、小さく楽しげに笑って、それから波間の竪琴を弾き出し、鎮魂の呪歌を歌い出した。



「・・海辺の人の足跡、昨日の跡、明るい羽根の鳥の声聴いてる内に、満ち潮に洗われた、明日は真白な浜、私は画を描きにゆこう」



音色に合わせ、仄かに青白い御霊達が周囲に現れ、舞い、その1つはリョーコ様に寄り添った。



「海辺の人の足跡、今日の跡、冷たい空の雲の端見ている内に、西風に浚われた、いつかの真白な浜、あなたの画を描いていたの・・」



リョーコ様が歌い爪弾き終えると、御霊達は現れた時よりも涼やか様子で消えていった・・・。

「これから当分は毎夜奏でてみようと思います。私にはできることはこれくらいですから」

リョーコ様は少し涙ぐんでいた。私もうるっときたが、モリシとマジミンと人魚兵の女性は既に号泣。ラキは凄い酸っぱい物を食べた様な、怒った様な顔をしていた。感動したけど、断固認めないスタイルっ。

納品を終え、クエストを完了した私達は離宮から出て、離宮へ続く緩い坂道をぶらぶら歩いていた。

雲に晴れ間が少しあって、光が差していた。

「6月が終わったらまた暑くなるね」

誰ともなくモリシが言った。

「そんなの当たり前だぞ、お肉っ」

「当たり前のことを当たり前にお迎えできるのはハッピーなことだよ? また、海に行くのもいいね」

「暑い時に暑い場所に行くなんてバカみたいっ」

「バカになろうじゃないかっ、ラキちゃんよ?」

私は何だか抱き締めたくなったけど、また怒らせそうだから、代わりにラキの被ってる私とお揃いの制帽をポンポン、と叩いてみた。

「あたしの頭は呼び鈴じゃない」

「何その例えっ? ふふっ」

「発想がね。ハハハッ」

「はぁっ、別に何も面白くねーわっ!」

1番近い移送魔法バダーンの発着駅まで徒歩だと結構距離があったけど、私達はそのまま時間掛けて歩いてゆくことにした。

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