老ドラゴンの後継
老ドラゴンは後継を探していた。
当世の竜の巣には、雌ばかりが産まれ、このままでは種の存続の危機だった。
良質な強い雄を探す。
それを目的に、世界各地を旅した。
あいにくと、条件の合うドラゴンは、ドラゴン族の棲まう範囲内には見当たらず、老ドラゴンは焦った。
仕方なく、ドラゴンが住む山と、人間が住む地の境にある、鉱山まで翼を広げた。
その地は人間たちにより、かつて訪れたドラゴンの伝説が語り継がれ、鉱山の入口には、小さなドラゴンの像が飾られていた。
「まあ! ドラゴン様だよ、ドラゴン様!」
「おおい、みんなを呼べ! 祭りだぞ!」
宝石の山と呼ばれている鉱山では、紅玉、金剛石、水晶が採れた。
ドラゴン様のお力と信じられ、崇められていたのだ。
この鉱山なら、もしや、雄がいるやもしれぬ。
期待と共に、坑道の奥へと進む老ドラゴンは、入口を塞がれたことに気が付いた。
岩を使ったらしい。
人間の力で動かせる岩など、大したことではない。
不愉快ではあったが、仲間となる雄を探すことに専念した。
宝石のある場所は、人間で言う酒に酔うような匂いに溢れ、仲間の探索は、己の目に頼るのみだ。
しばらく奥へ進むと、鱗があった。
もう間も無くであろうか。
さらに下へ下へと降りると、やがてむわりと暑くなり、過ごしやすくなった。
だんだんと増える宝石の煌めきと匂いに、酔っ払った心持ちが楽しい。
ここは随分と暮らしやすそうだと、幾らか気分も良くなってきた頃、巨きな水晶の上に、ドラゴンの幼い雄が一頭、静かに眠っていた。
傍には、割れた卵があるが、親がいない。
また、他の仲間もいない。
どういうことかと思案していると、幼い雄が目を覚ました。
「ふわぁ〜あ、よく寝た。あれ? あなただれ?」
宝石の瞳、しなやかな体躯、虹色の鱗。
雌と言っても差し支えがないほどの、美しい、雄。
種の繁栄は間違い無いと、感慨に耽ると、幼い雄は翼を広げてこう言った。
「今度はあなたが、ボクの番になるの?」
ーー鉱山に来て、三年が過ぎた。
まさか、老いらくの身が、このようなことになるとは。
宝石の山のドラゴンは、力が強く、番った相手を宝石に変える。
釣り合った相手のみが、卵を産めるのだ。
「ふふ、もうすぐだねぇ。ボク達の卵♪」
老若雌雄孕ませられる、美しいドラゴンは、蠱惑的な笑みを浮かべた。
健全な作品です。