4敗【一寸先】
目を開けているのか閉じているのかわからない。
「ん?」
どうやら俺は目を閉じていたようだ。いつの間にか数多の光と闇は消え去り、「目を開ける」と、辺りは見慣れた暗夜と土の臭いで満たされていた。
「どこだここ…」
ミスターが言う墓地に着いたのか?
冷たい風が吹いている。外には違いない。
俺は反射で灯りをつけようとしたが、そこであることに気づいた。
「すまん、可視化持ってき忘れた」
致命的なミスだ。いつもならばあり得ない。研究所の純正品、しかも最新の可視化を持っているのに、これでは宝の持ち腐れだろう。
「もー!カガチはドジっ子なんだから!」
ユケツに呆れられるのはいただけないが、甘んじて受け入れよう。これに関しては俺が悪い。致命傷の世界を舐めすぎだ。慣れ過ぎたか?それともこの体のせいで危機感が薄くなっているのか。
大人しくユケツの可視化を待っていると、予想外の戸惑いが聞こえてきた。
「あれ?」
「どうしたユケツ」
返事がない。
「なんだ。ユケツもカガチも持ってきてないのか?そんなんじゃ生まれたてと変わらないぞ。俺が今…あ」
あ?
「どうしたケンケツ。なにが”あ”なんだ?」
返事がない。
沈黙。
三人とも、目は見えないが、お互いが動けなくなったことだけは分かった。
三人に共通した事実が共有される。
誰も灯りを持ってきていない。
もう一度確認したい。誰も灯りを持ってきていない?ははは。
この世界では自殺行為だ。漫才でも笑えない。
「ミっ、ミスター!ミスター帰して!今すぐ私たち家に戻して!これじゃ研究所に帰れないよ!」
状況に気づいたユケツが、いち早く騒ぎ始める。
だが、気付いたところでどうにもならない。
ここがどこかは知らないが、ミスターが奇跡を使うくらいだ。研究所から遠い場所か、中々たどり着けない場所だろう。ミスターの口ぶりからすれば後者か。聞こえる訳がない。
そのことはユケツもわかっているはずだが、あまりの不安に叫ばずにいられないのだろう。いつも叫んでいる気がしないでもないが、今は叫び時だとばかりにわんわん泣き叫んでいる。
「ていうか、お前ら今どこにいる?声の響き方からして、近くには居るよな?」
「おいこれ骨粉のお使いクエストこなしてる場合じゃありませんよ?カガチだけじゃなくて俺たちも行方不明END確定した?」
「えっ!?ちょっと、お兄ちゃんとカガチの声似ててあんまりわかんないかも!ちょっと!」
「今の声はケンケツだ。そして会話のドッジボールをやめろ。話を聞かない兄妹だな」
俺は兄妹との対話を諦め、手探りでここがどこか判断することを決めた。
「とりあえず、まずは周りがどうなってるか確認して―」
じゃり。
!!!!!
は?誰かいるのか?傀儡?
ざっ。ざり、じゃり。
「…おい。今どっちか動いたか?歩いたか?」
「う、うごいてなーい…」
「歩いてなーい…」
確定だ。この空間に、俺たち以外のやつがいる。
傀儡だろう。それは最悪なのか、最高なのか。
どうする?助けてもらうか?いや…
俺は自分が目覚めた頃の事を思い出す。
血兄妹は傀儡にとっては天敵みたいなもんだ。しかも、俺も最近顔を覚えられてきてる。そして傀儡は自衛能力が高い奴らが多いから、絶対に可視化は持ってるはず。
と、すれば。
相手が俺たちだとわかったら、逃げ出すどころかこの状況を利用して攻撃してくる可能性すらあるだろう。
長考していると、黙っていた二人が恐る恐る声を上げる。
「やーばい。俺エ、ゾンビのくせしてめーっちゃ怖いんだが?」
「お兄ちゃんだいじょうぶ!私もちびりそう!」
「お前らマジで黙ってろ。ホントに死ぬぞ」
せっかく足音が聞こえるのに、自分からかき消してどうするんだ。
問題の足音を見失わないようにしたいが、兄妹の声が邪魔過ぎる。足音の主がどこにいるのかわからない。冷汗が脇の下を通っていった。俺も相当不安になっている。
「おい。お前ら気をつけろ!相手は俺たちの事が見えてるんだから」
「ねえ」
「は?」
「きみ、だれ?」
突然背後からユケツでもケンケツでもない声が聞こえる。足音のやつか?
咄嗟に命令を貰おうとするが、その考えはこうなった原因により否定される。
―クソッ!骨粉がない!
目に見えない混乱が、久々の恐怖を呼び込み、背後の人物への警戒に変容する。
俺はどうすればいい?
今の俺は何もできない。
…俺はどうすればいい?
ここまでお読みくださりありがとうございます。
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