17. 5敗【妖精?】
数時間前.
ーーーー研究所にて.
「囲め囲め!壁になるぞ!」
目の前を多くの傀儡が取り囲む。奴ら全員が武装していて、銃口をこちらに向けている。「俺たちは凶悪犯かなにかか?」と聞きたくなるが、ミズチが居る手前否定はできない。こんな火力装備を使っている以上、俺たちは凶悪犯かなにかだ。
だが、そりゃお前らも同じだろう。他人の家に爆発物もって侵入してきて?やることが拉致?犯罪も犯罪だ。人様の身内を連れ去っておいて、よくそんな怯えたツラで俺らを邪魔できるなと感心さえする。
「おいどうした!チンタラやってないでかかってこいよ!こちとら時間が無いせいで、お前らの頭をいかに早く潰すかで忙しいんだ!!」
余裕のなくなったような顔を作りながら、傀儡相手に発破をかける。しかし相手はこういった脅迫に怯える気はないらしく、各々覚悟を決めるように息を吸い直すだけに留まった。
だが、ここで大きな勘違いがある。覚悟を決めるっていうのは別にカッコいいことじゃない。覚悟を決めてこなかったやつの言い訳に過ぎないんだ。
肉。
膏。
飛び散ったそれらに付随してまとわりつく体液。
いつもの感触が拳を覆った。
「ヒィッ」
目の前で仲間が一匹、芋虫がトラックに轢かれたように二次元化する。それだけで現実問題、「逃げていい理由」が完成した。腐臭が辺りを包み込み、奴らが必死に蓋をしていた恐怖が溢れだす。
そして俺が一歩踏み込めば、さっき「覚悟を決めた」奴らが瓦解していく。足をもたつかせながら、徐々に俺から遠ざかる。
これだ、これだろ。
集団戦闘の最適解。
見せしめという手法は、過剰な戦力差においてはこうもシンプルに効果を発揮する。同じような境遇で、同じような性能の彼らは、目の前で”ほぼ自分”の奴が中身をぶちまけて倒れていくのを見て、ある種の臨死を体験するのだ。その衝撃は脳に深く刻まれ、後の無駄な戦闘を避けられる。
俺はミスターの言いつけ通り、感情という大きな支配構造を利用して物事を早めた。
「そっちどんな感じ?」
後ろで乾いた発砲音を出しながら、ミズチがこちらを見ずに問う。さっきまで銃剣構えてたのに、気付かないうちにハンドガンに切り替えたようだ。
どんな感じか説明するのがムズイので、俺は適当に肉片を視界隅まで投げ飛ばした。
「ありゃりゃ~、グロ~」
「お前も人のこと言えねーだろ」
軽口を叩きながら、ちらりとユケツの方を見る。
…心配する必要ないってのは分かっちゃいるが、どうにも兄の性分が抜けないな。ミズチの守備範囲にしっかりいるようだ。
「よし、目標タイムでカガチ追っかけられそうだ。ミスター後ろにしてこのまま突っ切っちまおう」
穏やかな顔で傀儡をぶん殴るミスターを尻目に、俺は号令をかける。はたして俺と同じく、拳だけで防弾装備を貫通するヒトを後衛にするのは正しいのか?という疑問が浮上するが、いや正しい。こういうのは一番偉い人が後ろでただ戦闘を見物していると相場が決まっている。
え?殿が一番危ない?…いやまあ、だって後ろは一番頼れる人に任せた方がいいだろ。
自分でもよくわからない矛盾編成を提案したところで、それを了承したミスターが指示を出す。
「じゃあC練の通路から行こう。整備途中だけど、予備の燃焼馬が―」
そこまでいうと、彼は大きく目を見開いた。
「ケンケツ後ろ!」
……?
後ろにもう敵はいなかったはずだ。
俺はミスターの注意を、ほんのごく僅かな時間でも無視してしまったことを後悔した。
ドスッ
刺音。
ドス、なんていかにもな音はしなかったが、この時俺は確かにそう聞こえた。
刺される経験なんてあまりないから、夢みたいに、自分が経験していないことを固定概念で補っているんだろう。
「え!?お兄ちゃん!?」
「ちょっとなにやってんの!?」
刺された脇腹からとっぷりと血液が流れ出る。
それはいい。違う。
刺された事実なんてどうでも良い。
俺は後ろを振り返る。
そこには。
「は、はは!やった、やったぞ!血兄妹を刺してやった!」
―俺がさっき潰したはずの傀儡が、銃剣片手に立っていた。
「キャハハハハ!!!」
「はっ、声?どっから…」
クソ。落ち着いて考える暇もない。
「解体!」
脇腹がぱかりと欠ける。刺された部分が、ちぎりパンみたいに裂かれてなくなった。
はー、ダメだ俺。なにやってんだ。
とりあえず≪解体≫の力で傷をなかったことにしたが、それが腹なのは結構やばい。
俺やユケツの≪解体≫の概念能力には、明確な弱点がある。が、今は弱点なんて気にしていられる時間的余裕もなければ、精神的余裕もない。
「お兄ちゃん!今の…」
「ああ」
なんだ?さっきの笑い声……声色からするに女の声だ。声の出どころはたぶん…俺を刺したことで現在有頂天状態の傀儡どもじゃない。
嫌な高笑いを聞いたせいで、鼓膜に振動がまだ張り付いている。
妹とは大違いの随分下卑た笑い方だったな。
「バーカ!!!」
「いっ」
俺の心情を窘めるように、さっきの声が今度はかなりの音量で耳に届く。
「ギャハハ!!狼狽えすぎだろ!!」
「なん、なんなんだよ!?」
俺は耳を抑えながら自分の顔周りを見渡す。しかしそこに声の主は居ない。
「わ!お兄ちゃん、あそこ!」
そう言われて、俺は初めて自分の頭を越した空中に目を向ける。ユケツが指さす方向には、可視化の光を浴びながらチカチカと光る浮遊体があった。いや、四肢の先に五本指があって、その体を直立させているんだから、あれは浮遊体ではなく人型と呼ばなきゃならない。
「は?なんだよあれ…」
確かにそこには生意気そうに俺らを見下ろす奴が居たが、問題はその大きさにある。
恐らく直径15センチぐらいだろう。小さな小さな、”人型の”浮遊体。
「うわ~!!ちっこ!お嬢あんなのよく見えるね」
ミズチが目を細めて、ようやくその姿を捉える。その目が、俺よりも明瞭にその生態を映しているのかは知らない。俺には背中から大きな羽が二枚、パタパタと蝶や蛾のようにはためいているように見える。あれで飛んでるように思えるが、どーだろ。
「お兄ちゃん」
「ああ」
まるで妖精のような風貌に、思わず顔が歪む。もしかするともしかするからだ。
しかもなんだ…頭のアレ。司教冠ってやつ?他にも聖職者が身につけるようなのを着ちゃいるが、ノーマンズ・ランドでそんな恰好してる奴なんかまず頭がおかしい。
「おいお前、さては五匹目じゃないよな?」
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