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敗者の行進  作者: 春獄
第一章 Bloody brother
31/33

21敗【再生産】

 なんだ?何が起きた?


 視界の隅で光がチカチカと漂う。閃光に意識が奪われるのはもうウンザリだ。

 鮮明になっていく輪郭をなんとか辿りながら、俺は目の前の状況を理解する。理解して、唖然とする。

 チューシャさんが数メートル吹き飛ばされて、地面にうずくまっている様子が飛び込んできたからだ。


「だっ、大丈夫ですか!?」


 思わず彼女に声をかける。しかし聞こえてくるのは、痛みを漏らす呻きだけ。よく見ると、彼女の体の至るところに光が走っている。火花が各関節の球体に散っていて、素人目にはなんらかの短絡(ショート)が起こっているようにも思えた。

 しかし何よりも驚くべきなのは、研究所で一番頑丈なはずの彼女が地に伏せていること。

 明らかに異常事態だった。こんな姿、今まで一度も見たことがない。


 痺れ?熱?一体なにが彼女をそこまで苦しめるのだろう。いや、俺には雷のような光で拉致された経験はあっても、雷そのものに撃たれた経験はないのだ。こんなこと考えたところでどうしようもない。考える前にまず、こんなことになっている彼女を助けにも行いけない、この状況を打破するべきだ。

 それに―…


「【悲しい】くっ……う」

 

「僕は、僕が!僕だけがミスターになる資格がある!!昔の彼に…それを邪魔するな!僕は裏切り者なんかじゃない!!」


「ガガガ。ピピ。ガシャン。ジャマスルナ、邪魔するナ。カルテの邪魔スルな」


 ―なんだこいつは?


 冷静さを欠いたカルテの横から、四角い鉄の、……?ロボット玩具のようなものが現れる。このロボット玩具には戦車のようなキャタピラが雑に取り付けられていて、移動するたびにその振動で体を震わせている。そしてなにより奇妙なのは、頭部。胴体までが玩具のような材質でできているのに、頭部だけは、妙にリアルな女の生首が突き刺さっている。無理やり鉄のハコと接続された女の顔は死んでいて、その表層に生気は一切感じられない。

 ”気味が悪い”といった表現は、ここまでの印象全てを台無しにしてしまうかもしれないが、それ以外に使う言葉が無いだろう。


 状況を見るに、先ほどの雷はコイツが引き起こしたのだろうか?しかしそれにしては、なんというか…


「ボロい」


 そう。反射的に口にしてしまったものが答えだ。

 先ほどの高出力の電圧と電力に耐えうる構造、装備がまるでない。見たままの機能を信じていいなら、本当に子供が繋ぎ合わせて作ったような図工作品だ。


 だが、俺は何回も思う。何回でも考える。


 致命傷の世界(ノーマンズ・ランド)では、そんなことは関係ない。

 此処ではただ、どれだけ不格好だろうが、ただそこに形として存在していれば強者なのだ。それ以外の、数多の形なき生命体は、ただすぐにでも訪れる致命傷に震えるしかない。その当たり前の”非常識”を理解しているだけで、コイツがどれだけ危険なのかが把握できる。


「【悲しい】これ、は………」


「ふん。口だけ達者でも、ミスターがいなければ所詮あなたはただの産廃(ゴミ)。そこで大人しくしててください」


「【悲しい】貴方、まさか、私のでさえ………」


()()()()()?僕の能力を知ってるくせに、今更被害者ぶらないでくださいよ。こんなの予想できたことでしょう」


「【悲しい】……そうね、いつかこういう日が来るとは思っていたわ。でも、………………【楽しい】貴方こそ忘れてるんじゃないかしら?ミスターが居なくても、私は研究所員の中で一番タフよ。たかが腕一本オトしたくらいで調子に乗らないで。これでやっとお互い様でしょう」


 そう言われたカルテは、彼女に撃たれた横腹を邪魔そうに見つめる。


「ハ、言ってくれる。耐久実験ってわけですか。いいでしょう、リマスタ!」


「ガ、ピーーー/戦闘/光ル、ひかル!」


 ロボット玩具が青白く発光し始める。その瞬間、先ほどのビームまがいの電光が彼女に向かって突進していく。嫌な予想的中だ。俺たちがみた雷は、やはりコイツのものだった。まさか、それがただの()()()()だったとは思わなかったが。


 しかし、彼女がただやられっぱなしの訳が無い。


 チューシャさんは先ほどとは別次元の動きで飛び上がると、そのまま空中で回転し、勢いのままに自分に向かってくる雷に踵を落とした。彼女の一撃、その衝撃は、落雷を上回っているように感じる。

  現に謎のロボット玩具は、生首の部分を苦しそうに震わせていた。


 よし!


 俺は心の中で拳を握った。チューシャさんの剛力さは、ケンケツのそれと同じ水準を誇る。攻撃が通った時点で、相手は絹豆腐同然なのだ。耐えられるわけがない。


「いて、イテて!」


 耐えられる、訳が、


「【悲しい】…っ!?硬い」


「イタイよ!!!」


 ?


 なんで?なんでだ。

 なぜ攻撃が通らない?

 

 明らかに決定的な一打が振り下ろされたはずなのに、なぜこいつは動ける?しかも他でもない、チューシャさんの打撃だぞ。

 もちろん奴も無傷ではない。衝撃が体全体に響いていた様子を見るに、確かにダメージは通っている。だが、その装甲は予想よりも遥かに厚く、堅く、強靭だ。あり得ないほどに。


 俺はまだメスを通されていない脳をフル回転させて思考する。そして思い返す。一度目の、雷に似た体当たり。そしてさきほどの二度目。どちらもカルテからの「リマスタ」という呼びかけの下に行われた。

 そして、極めつけはあの不気味ロボットが飛んできた際にカルテが放った言葉だ。


 ”起動(セット)”。


 俺は自分の開かれた内部から、正体が浮かび上がってくる痛みを感じた。


「【悲しい】死骸人形(デージーズ)…!」


 俺は唇を噛む。


 そうだ。こんなのフォーマットが同じとしか思えない。

 …心のどこかで、舐め切っていたのだろう。この世界でミスターに並ぶ知者はいないと。彼に並ぶ発明など、この文明を捨てた世界に存在しないと。しかしどうだ?結果がこれだ!

 俺は予測するべきだった。そして確信するべきだったんだ。俺という試行品が生まれた以上、死骸人形という技術はもう存在する。0から1を生み出すことにどれだけの才能と知識が必要だろうと、そんなの「2番目」には関係ない。1が作られてしまえば、あとはただそれを真似ればいいんだ。そんなのもう、()()()がいる時点でわかっていたはずなのに。俺はまだ、ミスターの技術を真似るなんて芸当ができるのは、アイツだけだと高を括ってしまっていた!


 この世界にミスターに並ぶ知者はいない。だが、その知識は脳から外に出た時点で利用される。

 その事実を視界にたっぷりと塗りたくって、奴は満足そうに嗤う。


「あは。わかりますか?そうです、そうなんですよ。1号がその反応を見せたということは、やはり僕の見立ては間違っていませんでした!」


「【悲しい】なんてこと、…っ!!」


「どうですか、結構動けるでしょうこのゴミは!!ミスターの処女作がカガチくんなら、僕の処女作はこの再生産(リマスタ)です。生憎材料が枯渇しているせいで、だいぶ不格好な姿になってしまいましたが、まあ別にいいです。まだミスターになりきれていない僕如きに作られたんですから」


「【許せない】…造ってもらった身で悪いけれど、貴方のそういうところが嫌いよ」


「僕もですよ。いい加減部品をぶちまけて、ミスターと僕の前から消えてください。リマスタ!」


「ガギゴガ!!リョーカイ!光ル!」


「【悲しい】…っ、姉妹機で争わせるなんて、最低の父親ね!」


 チューシャさんは声色に最大限の憐憫を乗せながら、歪に動く機械に相対する。


 クソ、勝てるか?


 目の前で繰り広げられる中、俺はこの戦いの勝敗、そのパーセンテージを見積もる。

 結論。正直に言って、かなり怪しい。先ほどまでは圧倒できない方がおかしいほどの戦力差で 死骸人形レベルでは話が違う。いくらチューシャさんと言えど、同じ死骸人形規格を相手にすれば、勝てる勝てないは五分五分だ。あとはなんといっても彼女の場合、ミスターがこの場にいないことが大きい。普段は過剰な戦力となる機能も、今この場では必要な火力だ。


「【許せない】ふっ!」


「イたイ!」


 俺の勝敗予測など置いて、チューシャさんがロボットの胴体を吹っ飛ばす。

 その時、戦闘によって起こった風に紛れて、なにか軽い、埃のようなものが俺の鼻先に下りてくる。俺はむずがゆくなって、こんな状況なのに呑気にもくしゃみが出た。軽いなにかは目の前でキラキラと舞った。


 これは、ピンクの…粉?


―…『じゃあこの粉はなんなんだ?関係あるとは思うが…』


 俺は、即座にクリアとの会話を思い出す。

 粉、粉。

 脆弱(ぜいじゃく)な傀儡を、ケンケツの攻撃を喰らっても意識が保てるほどに強化する、粉。そして今チューシャさんと戦っている、電光石火のロボット。こいつはチューシャさんの攻撃を喰らっても耐える、死骸人形(デージーズ)もどき。しかし、その能力は雷のような超高電圧の電流を帯びることにある。


 『最近不可解な傀儡が増えたとかで』


 ――――……


 まずい。

 これは、()()()()!!!!


「チューシャさん!!」


 最悪だ。

 もう一人だ。


「もう一人、カルテに協力している変質者がいる!!」


「キャハハハ!!気付いても遅せーよ!!」

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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