2敗【骨粉】
「あれ?うわごめん!居たの全然気づかなかった」
「いやお前らの視界が極端に狭いのはこの際どうでもいいんだが」
「酷いよぉ!」
ユケツが嘘で濁り切った血液を瞳から垂らす。えーん、という古典的な擬音が似合う仕草だが、残念ながら可愛げは皆無である。
「なんだ?本当にこんな茶番のために呼ばれたのか?」
本当にそうは思っていないが、不満が口からこぼれる。
するとユケツは出血をピタッとやめ、心外とばかりに目を丸くした。
「そんなわけないでしょ!カガチ喚ぶ分の骨粉もったいないじゃん。この騒ぎとは別のことで呼んだの!」
「じゃあなんだ」
するとユケツはいきなりもじもじとし出した。嫌な予感がする。ボロ布を胸と腰にだけ巻いた、痴女のような格好をしている女がもじもじしだすとは、一体どういう了見なのだ。
「...なの」
「あ?」
なんだって?
「その”骨粉”、失くしちゃったのっ!!!」
なんだって?
...なん、......。
「...帰る」
「いやーっ!!!待って待って!今帰られたらカガチが呼べないよ〜!!これが最後のお話になっちゃうよ!」
「大袈裟だな。別に俺は研究所に来ればいつでもお前らに会えるんだよ」
「私から干渉できないの!」
「お前は今までプライベートのカケラもない召喚方法を取り扱ってきたことを悔いろ。今のやり方、突然土に埋まって突然土から出てきて気がついたらお前が俺を見下してる構図だぞ。この労働環境でよくやってこれたな。骨粉がなくなった?ようやくホワイトまでいかずともグレーにはなるんだろうな。おめでとう」
「うっ、うわ〜ん!!急に早口!酷い!カガチ、血も涙もないよぉ!ついでに友達もいないよぉ!プライベートなんてなくたっていいいじゃん!友達いないし!」
「おいカガチ、流石の俺もここまで妹をいじめられちゃうとやっちゃうぞ?」
「何をだよ。そこの人畜有害な女の発言をもう一回聞いてから言ってもらえるか」
このイカれ兄妹が…。
あまりのストレスに歯を強く擦り合わせる。
ストレスの原因は理不尽な陰キャ偏見などではない。単にユケツの管理意識のなさにある。あれがどれほど重要なものか分かっていながら、この有様であることに無性に腹が立つのだ。
骨粉を失くした?ふざけんな。
あれがなきゃ俺は…、俺たちは…。
ユケツの貴重品管理体制にうんざりしながら、黙って踵を返す。
「待ってよカガチ!ホントのホントに!やばいの!このままじゃ」
「やばいのは百も承知だ。お前これからどうすんだ。唯一のアイデンティティーを失って生きて…いけそうだな」
「生きていけるけど無理!無理無理!(寂しくて)死んじゃうー!!」
「ああ?じゃあ自力で探せよ」
俺はすっかり兄妹喧嘩の仲裁も忘れ、ユケツとの口論に没頭した。
カガチがどーだの、お前がどーだの。
ハイテンションな嘆きとローテンションの説教とで、気付けば場はすっかり兄妹喧嘩以前の…、元の混乱状態に逆戻りしていた。
それでも俺は、こいつには一度灸をすえてやらねばと思い、次の言葉を装填したその時。
口火を切ったのは、
「骨粉?墓場にいって貰えばいいよ」
_ミスターだった。
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