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敗者の行進  作者: 春獄
第一章 Bloody brother
27/33

17敗【速攻】

「え!?カガチ!?」


 ユケツが手で口を覆い隠し、まるでドッキリでも仕掛けられたかのようなオーバーリアクションを披露する。


「うん。これもうダメだね。カガチくん連れて行かれちゃってるよ」


「はあ~!やっぱ?」


 慌てふためく妹を見下ろしながら、予想通りの展開に頭が痛くなる。

 妹はそんな俺を訝しげに見上げた。


「えっ、お兄ちゃん気づいてたの?」


「…うんまあ、俺も気づいたのさっきだけど」


「言ってよぉ!」


 -確証がなかったんだって!


 俺は心の中でそう言い訳しながら、次から次へと迫り来る悪い予感の波に耐えていた。


 やべ。やべやべやべ。

 カガチが連れ去られた?腐っても死骸人形(デージーズ)の統括機が?どんな冗談だよ。

 爆弾を投げ入れた奴と同一犯かはともかく、これかなりマズイ。今世紀どころか今世界最大にマズイ。


「で、どこに!?どこに連れてかれちゃったのカガチ!?」


「わかんない」


「えぇ~~!?」


「さっきからヘッドセットに通信してるんだけど、繋がらないんだよね」


 ミスターはそう言いながら、人差し指で眼鏡のフレームをカチカチ叩く。ミヅチのヘッドセットは問題なく作動しているのをみるに、今、偶然カガチのヘッドセットだけに不調が出たというのは無理があるだろう。カガチ単品狙いというのは確かだ。だとすると。それは暗に、相手がヘッドセットの通信妨害ができるということを示している。


「ミスターこれさあ…」


 俺は感情を抑えきれずにアイコンタクトを図る。


 死骸人形(デージーズ)はミスターの技術と概念の結晶。その一つ一つの部品とパーツは細胞レベルまで細かく分かれていて、それらを疑似神経で縫合しているミスターの腕はもはや芸術の域に入る。そんな超・超超超精密機械と繋がってるヘッドセットだって、もちろん並の機械オタクじゃ扱えない。なんなら通信コードまで盗み見て妨害してくるやつだ。


 何回も頭をよぎる。いや何度だって頭をよぎってきた。


 戦争。


 だけど。

 

「それは違うと思うよ」


 って言うんだもんなー!!


 せっかく口に出さずに済んだ言葉を、きっぱりと口で否定してくるミスター。

 

「いやでも、ここまでくるとあいつが珍しく自分でやってるとしか-」


「心当たりがあるんだ。一人だけ」


「そっ」


 そんな奴いたっけ、と。出しかけた言葉を引っ込める。

 レンズ越しに映るのは、有無を言わせない瞳。

 俺は思わず台詞を変える。


「そこまで言うんならいーけど」

 

 断言するミスターが何を考えているのかわからなかったが、「心当たりって?」とは聞けなかった。普段の俺なら絶対聞いてるのに。聞こうと考えた瞬間に、胃がムズムズしてきたもんだから…。

 ただの緊張状態といえばそれまでだが、本能的に触れちゃいけないことぐらい俺にも分かるってことだろう。


 勝手に気圧されている俺を気にせずに、ミスターは和やかに視線を外す。


「でも、チューシャの居場所もこれでわかったよ。燃焼馬(バイク)がなくなってるし、カガチくんを追いかけたんでしょう」


「あ!そういえば…」


 ユケツがきょろきょろと辺りを見回す。煙が落ち着きはじめているが、確かに。


「先輩いないな」


「うえ、チューシャさんの仕事早すぎ!?」


 ミズチがこれ見よがしに手で口を隠す。さっきのユケツの真似だ、違うのは無意識か意識的か。

 かわいくねーやつ。いつも音速で傀儡の頭ぶち抜くクセに。

 お前には言われたくないだろ、と抗議の念だけ頭で送る。


「え!先輩、だいじょうぶかなぁ…」


「大丈夫。彼女は強いから。カガチくんのことは任せて、僕たちは目の前に集中しようか?」


 白衣の袖をまくりながら、ミスターは戦闘態勢をとる。

 その瞬間に、奇襲班と思われる傀儡がなだれ込んできた。どいつもこいつも、一丁前に防弾チョッキみたいなのを着て、目が見えてるのかわからないほど厚いマスクを顔に張り付けている。自分の吐息で今にも窒息しそうだが、絶対に外さないというのが荒い息遣いからわかった。


 一撃で致命傷になる奴らにとって、俺たちと戦うってのはそういうことだ。それを自覚している奴らほど、銃を握る手がよく震える。


「ったく、臆病ってのはめんどくせーな」


 拳を握って構える。 

 背後から声が聞こえた。


「みんな聞いて。やることはいつもと変わらない。ミズチちゃんは全体のフォローお願いするね」


「承知!」


 素早く銃に手をかける狙撃手。銃剣が鈍く光っている、近距離戦闘の準備は万端らしい。

 その目はもう獲物を捉えるためだけに忙しなく働いていた。


「相手がもう目的を果たしている以上、この戦闘は時間稼ぎでしかない」


 ユケツと俺、それぞれの肩に生白い手がポンと置かれる。

 

「…できるかぎり()、ね」


 ふむ。


 なるほど相分かった。つまり…

 ―TA(タイムアタック)だな?


 お互いににっこりと笑い合う。


「「まかせろ/て!」」


 そういうのは俺たちの得意分野だ。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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