16敗【急襲2】
「けほっ…うっ、おい!ユケツ!カガチ!無事か!?」
返事が無い。
土と石灰が砕けた煙だけが、もくもくとあがっている。下手に吸い込むと喉がやられそうだ。
俺とユケツが必死になって可視化のことを誤魔化してる中、何が起こったか?
それを説明できるよう、一瞬の出来事を一瞬で振り返る。
一つ。闇の世界から光の世界へ、無理やり視界のフィルターが換えられた。
二つ。数少ない窓ガラスが吹き飛び、光と衝撃。両者が同時に襲い掛かってきたことが物理的にわかる。
三つ。俺たちはこの攻撃の予知をできていない。
俺がこれまで見てきた中で、この条件に合うものは?
3秒で考えろ。
1、光。これは単純に目潰し。
2、爆風と光がメインだ。威力はない。
3。反応できないってことは予備動作が少ない。
-閃光爆弾!
「っ…またミスターの盗作か!」
思考のピースが気持ちよくハマったはずなのに、胸がムカムカする。
くそっ!僅かな音もなくこんな真似ができるのは、ミスターの概念兵器しかあり得ない。
そうして嫌な現実が頭に思い浮かんだ瞬間に、答え合わせがやって来る。
「おい!今だ、突入!!」
研究所の誰の声でもない。焦りが籠ってる叫び。
複数人の足音が聞こえる。
あーハイハイ、またあいつに唆されたクチだ。
…しかし、どういうことだ?音が遠い。まるで入口から侵入してきているように感じる。正面突破?入口以外には対処できなかったのか?これじゃここまでくるのにも1分はかかる。
研究所の概念兵器に対応できないまま、奇襲?そんなバカがまだこの世界にいるのか?
そこまで考えてから、主題を変えなければいけないことに気づく。
-待て。閃光爆弾は投げ入れる以外の用途では誤爆の可能性が高かったはずだ。
ただでさえ模造品なんだ。そんなリスクを冒すはずがない。知らなかった?ハハ、ナイナイ。模造してんのに?
…っつーことは?この爆弾は、この検診室に直接投げ入れられたってことだ。じゃあ、投げ入れ役は一体誰だって話で。あー!めんどくせ!奇襲してきた集団の中に少なくとも一人以上、高純度の概念兵器から抜け出せる奴がいるじゃねえか!
「研究所が襲われるなんて、どういうことぉ?」
「ユケツ!」
「ごめんお兄ちゃん。ケホッ…煙であんまり声出せなくって」
頭の中も外も騒がしくなってきたときに、妹が煙から姿を現す。
やば、思考が止まった。うん。いつ見ても顔が良いな。
「カガチは?」
俺がそう聞くと、かわいい妹はぶんぶんとかわいく首を振る。
「ううん。見当たんない」
「ふーーーーん…」
まあ予想はできる。
あいつは奥の棚の可視化を取りに行ってた。棚の上には窓枠があったはずだ。爆風の方向から見て恐らくそこが衝撃の中心、閃光爆弾が投げ入れられた場所だろう。衝撃で多少吹き飛ばされていてもおかしくない。もしかしたら視界さえ奪われているかもしれない。
じゃあ…
…?
遅れてくるのが確定したカガチをさて置いたところで、急に足元で温かい感触がのさばる。それは足の甲でもぞもぞと動いて、消えた。
「うっ…チカチカする。みんな大丈夫?」
「おわっ、ミスター!大丈夫か」
細い体はのそりと起き上がって、頭を振る。眼鏡のズレを直すと、俺の顔を見つめて微笑んだ。
「うん、大丈夫大丈夫。僕は大丈夫だから、君たちは先に行って」
―!!
少しでも心配した俺は馬鹿だ。そんなのは時間の無駄。非効率。
散々考えて分かったことは一つだけ。墓場の時と同じ、相手の有利はスピード一点のみ。
なら即・反撃。これが綺麗に勝てる条件。爆風に煽られても、やっぱりミスターは冷静だ。これがすぐに出てくる。
「ユケツ!」
「もうやってる!」
ユケツも理解したのか、即座に骨粉を地面に振りかける。
「カガチ、再臨」
俺は心の中でひとまずの安息を得た。
死骸人形は本来反撃向きだ。近距離か遠距離か。最低このどちらかの判断がつけば、それに応じた作品を喚び出せる。ひとまず、これで研究所をこれ以上散らかさずに傀儡を鎮圧できる。
そうして俺の足は、もうここまでたどり着きそうな傀儡に向けて走り出す。
そのはずだった。
「あれ?なんで?」
隣の、なんの反応も起きていない召喚を見るまでは。
「ん?」
筋肉に急ブレーキがかかる。俺が見た光景は別に普通のことだ。
骨粉がただ落ちて、土に触れて、そのまま。それだけの至って平凡な現象。だが、普通が異常なのがこの世界の理。
俺は目を剥いた。
「カ、カガチ!再臨!再臨だってば!」
焦ったユケツは繰り返し骨粉を土にばら撒く。
しかし何度やっても、あいつは一向に出てこない。
「どういうことだ…?カガチが応答しない?」
「ウソ!?だってもう骨粉は大丈夫なはずなのに」
……………。
俺は思わず棚の方を見る。煙がまだ落ち着いてなくて、相変わらず付近の様子は見えない。
「…ユケツ。ミズチちゃんの方を喚んでみてくれる?」
「えっ?でも…」
うわ。ミスターの考えが分かったかもしれない。
ユケツの反応もわかる。こんなの初めての事態だからな。
だけど、研究所の中で誰よりも死骸人形に詳しいのは創造主を置いて他にいない。そしてそのミスターともし、俺が同じ考えに行きついていれば、この行動に意味はある。あってほしくないが!
多少の疑念を残しながらも、ユケツは命令した。
「…ミズチ、再臨」
すると、地面が当たり前のように蠢いて、影がそのまま人の形を成す。
軍服を身に纏いながら出てきた女は、いつも通り退屈そうな顔をしていた。
「死骸人形、名作ミズチ。再臨したよ」
奴は崩れかけた検診室を見回すと、いつも通りの顔を失くす。
そして俺も、いつも通りの顔を失くした。
-最悪だ!
「え?なんかヤバい感じ?」
「うん。ヤバいね」
俺の代わりにミスターが答える。
そう言って、笑った。わら…
わらって、ない。
目が据わってる。
悔しいんだ。
こんな顔のミスター、今まで見たことがない。
「やられた。相手の狙いはカガチだ」
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