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敗者の行進  作者: 春獄
第一章 Bloody brother
25/33

15敗【大根】

「それって」


 ユケツが俺とケンケツの方を見やる。


 ああ、わかっている。


 言いたいことが一瞬にしてシンクロしてしまったため、誰が切り返すかわからず、少しの沈黙が通り過ぎる。

 結局、口を開いたのは自分だった。


「チューシャさん、同じようなことが墓場でも起こってる」


「【悲しい】え?」


 俺たちは、改めて墓場での戦闘について語った。今度は雑談のタネではなく、報告の義務として。特に体が真っ二つのまま意識を保った傀儡については、知っている限りを話し、クリアが見つけた謎の粉との関連性を挙げた。

 ミスターもチューシャさんも、俺たちが報告している最中は一切口を挟まないで、よく集中して話を聞いてくれたように思う。


「……なるほど。じゃあ君たちは、僕らが不審に思っている状態の傀儡にもう出会っていたんだね」


「それだけじゃないぞミスター。あいつら、俺たちの場所まで突き止めて奇襲してきやがったんだ」


 ケンケツが小バエを払うような仕草で語る。


「うーん。そんなことが起こらないように、奇跡で送ったんだけど。そんなのは関係なかったか」


「関係なぁし!」


「そっかそっか」


 …会話のテンポが若干ギャグテイストなのは見逃すとして。

 確かに、墓場での戦闘は何度思い返しても謎が多い。その一端にあるものがノーマンズランド全体で起こっているというなら、話はさらにややこしくなるだろう。俺は今更ながらにクリアが危惧していることの本質が見えた気がした。


「それで?クリアくんから貰ったものって?」


「ああ、それなんですが」


「ん!」


 ユケツは俺の持っていた銃を盗ると、ミスターに勢いよく手渡した。


「おい…」

「えへ、ごめん」


「おや。これは……なんだろう。粉?」


 ミスターは銃に触れると、先ほどの俺たちの様に手についた粉末を気にする。眼鏡をあげて指先を凝視するも、「うーん」と唸るばかりで、明確な答えが返ってこない。


「やっぱミスターでもわかんないのか」


「うん。わからないね、見ただけだと。でもわかることもあるよ。君たちにも、誰にでもわかることだけど」


 彼は至って自然にその名を呼んだ。


「戦争だね」


「っっっも~!ミスターいいよその話!あっちでさんざんしてきたから!」


 ユケツが俺たちの気持ちを代弁して項垂れる。

 いや、本当に。ミスターには申し訳ないが、本当に散々話題に挙げたので勘弁してほしい。わざわざ言葉にすると、どうしようもなく胃がムカムカしてならないから。


「あれ、そうなの?まったく、そんなに有名になっちゃって。他の三匹は割と大人しいっていうのにね……」


 ミスターはまるで問題児の担当教師にでもなったかのようにぼそぼそと小言を言いながら、「とにかく、この銃と粉末の関係性についてはこっちで調べておくよ」と言った。こういうのを”余裕”と呼ぶのだろうか。独特の空気の読めなさが、確かにミスターも勝者であることを示す。


「とりあえず君たちが無事で本当によかった。後は僕にまかせて」


「まかせてって…」


「君たちの元々の目的は骨粉でしょう?こんなのは含まれてないよ。これは僕の仕事だ。特にカガチは音声入力(フル・オート)のこともあるんだから、ゆっくり休んでなきゃ。お疲れ様」


 「なにか手伝えることはないんですか?」と、言いかけるの言葉だった。

 有無を言わさない喋り口。ミスターは本当に俺の事を心配しているのだろう。最後の「お疲れ様」という一言に、線引きさえ感じる。


「…まー、ミスターにここまで言われちゃしょうがないだろ」


 ケンケツが肩を叩く。


「でも」


「私はよくわかんないから全部ミスターにお願いするつもりだったよ!!」


「ほら、ユケツを見習え」


「…そうだな。じゃあ帰投を、」


 そこまで言いかけて言葉を詰まらせる。

 しまった。今日はユケツの骨粉ではない。徒歩ではるばる研究所まで来たのだ。

 となればもちろん、生き埋めダイブからの直帰ルートは使えない。


「今日俺、徒歩か……」


「僕の奇跡で飛ばしていく?」


 ミスターが自分の右手を見せびらかす。

 正直研究所から自宅までは厳しいから万々歳の申し出だったが、


「いやいいです。グロテスク側、戦争がまた何か仕掛けてきているのに、力を浪費させるべきじゃない」


 …今ミスターにやらせるべきことではない。


「そう。やっぱりカガチは真面目だね」


 彼はすこしつまらなそうにしながらも、俺を見送るために立ち上がった。

 俺も長い帰り道のために立ち上がる。

 そう、帰るために…


 

 あ。



「ミスター、その」


「ん?」


 俺は血兄妹とアイコンタクトを交わし、お互いに()()()()()()旨を共有した。


「「あっ」」


 血兄妹の方もピンときた。きてしまった。



 -そういえば俺たち、可視化(ランタン)持ってねえーっ!!!



 一斉に冷汗がだらだらと、滝のように流れてくる。


 なにが帰投だ。なにが”ミスターに力を浪費させるべきじゃない”だ。

 ここは致命傷の世界だぞ。暗闇でただ迷子になるだけの奴が、一体どうしてそんなに一丁前の台詞を吐ける?

 このまま「じゃあ帰りますねー」「またねー」トコトコトコ…「あれー?ここどこー?」(※想像なので、IQが著しく下がっている)となれば、可視化(ランタン)がないまま墓場に行ったことは明白!

 …バレる。バレたらどうなる?温厚が二足歩行で歩いているようなミスターの静かな怒りが見れる。


 俺は想像した。想像し-…


 ―死!


 どうにかしなければ。どうにかして、可視化(ランタン)を手に入れなければ。

 俺は瞼を忙しなく開閉し、いますぐこの緊急事態に対応するよう血兄弟に支援を要請した。

 

 奴らもこのことがバレれば同罪を被る立場。必死になってこの要請に応えてくれるだろうと考えたが、


「あっ、あ~~~!!ミスター、あそこ見て、あそこ!!ええっと、ワンちゃんが走り回ってるよ~??かわいいね~?????」


「ん?なにもないよ?」


「ばっかお前っ、あっ、あー!ミスターそれより、俺、えー、そう!最近スクラップ弄ってなかったから、久しぶりにやりたいなって!!なんか良いのない?」


「ん?いきなりだね?」


 …ダメだ。思わず顔を手で覆い隠してしまった。

 共感性羞恥という現象の恐ろしさが今身に染みて分かる。


 -この大根役者ども!見ていられない。


 ユケツはそもそもの話、こういったことには向いていない。期待できないとは思っていたが、やはり知能が足りないのだ。かわいそうに。かといって、ケンケツがそれよりマシというワケでもない。奴め、話題はいいくせに、提供するタイミングと話す態度が終わっている。典型的なコミュ障だ。

 どちらかがということではなく、それぞれがそれぞれに、下手。ド下手。ただその一言に尽きた。

 しかし協力してもらう側として、そんなことは言っていられない。俺は頼んだ以上、奴らがミスターを引き付けている間に可視化を手に入れる責任がある。……いけるか?


 俺は恐る恐る、されど大胆に。背後にある棚の二段目を引き出し、中にある可視化(ランタン)のスペアを盗…拝借しようと手を伸ばした。

 すると、陶器のように滑らかで固い肌が俺の手に重なる。


 しまった。そうだ、もうミスターだけではないんだ。


「チューシャさん…!」


 彼女は半透明のまつげを揺らして、ゆっくりとこちらを見つめてくる。

 可視化(ランタン)に触れるまであと一歩、というところで捕まった。現行犯だ、言い逃れなんてできない。


 やばい。これで【許せない】なんて表示されたら、結構心が折れる。

 俺は途端に説教に怯え、目を閉じる。

 しかし、彼女の口から発せられた言葉と表示は予想外のものだった。

 

「【悲しい】ミスターには内緒よ」


「えっ…」


「【悲しい】あなたたちのことだから、単に忘れたんでしょう。あり得ない話だけれど」


「【悲しい】ただ、今後は可視化(ランタン)があるかどうかきちんと確認して。これがなければ、後は一生彷徨うだけよ」


「はい。すみません、ありがとうございます…」


 優しさが、強靭な刃となって胸に差し込まれる。

 俺は呆気にとられて、言葉に感情が乗らないまま返答をしてしまった。


 そうか。

 それはそうだ。

 普通に叱られることより、罪悪感(こちら)の方が効くことを彼女もわかっているのだ。

 そしてその狙い通り、俺はとにかく申し訳なさが心の底から湧いてしまっている。


 情けない。恥ずかしい。


 そう思いながら、俺がチューシャさんから可視化(ランタン)を貰った瞬間だった。




 カッ!!!



「あっ?」



 光。

 次に音。


-唐突な光と爆風が、研究所を襲った。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価、感想などを頂けると作者の励みになります。よろしくお願いいたします。


更新が遅れて申し訳ありません。高頻度は厳しいですが、ここからまた少しづつ更新していけたらいいなと思います。


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