13敗【帰還】
核心を突くユケツの一言に、俺たちは考え込んでしまった。
ミスターの技術と能力は、真似したいと思って真似できるものではない。だが、よりにもよって一番真似されたくない奴になら、その芸当ができる。
「戦争ならやりそう、いややるな。なんなら、ミスターの武器をパクって今こうなってるわけだし」
「じゃあこの粉はなんなんだ?関係あるとは思うが…」
ケンケツの意見に賛成しながらも俺は言葉を濁らす。まだ手に残っている謎の粉末を見つめながら、俺はまた面倒くさい事になったなと思った。
毎度のことながら、アイツのやり方は手口がわからない。また手口が分かったところでそれも意味がない。こういうことで問い詰めても、「あぁやっとバレた?」なんて言う奴だ。銃に貼りついたカボチャからもお察しの通り、もう”お前がやったのか””こういうことをしてこうなったんだな”なんて裁判に奴は出席しない。
-解決策。これを見つけなければ、犯行のきっかけや動機や手口が知れたところで全てが無意味の、最悪な愉快犯なのだから。
「まだなにもわからないよ。調べてみない限りはね」
俺と似たような顔つきで、クリアが煮え切らない現状を口にする。
恐らく彼も戦争の餌食にあったことがあるのだろう。
「調べるって。この変なのを研究所に持って行けという事か」
「そう」
少し言葉に圧をかけたつもりだったが、努力虚しくたったの二文字で返されてしまった。この疑惑の粉付き装備品を集めたところから、元からそのつもりらしい。ただでさえ忙しいミスターの頭に、余計な仕事を与えたくはないんだがな。
「ちゃんと見てもらってね。またミスターの力が利用されたら、余計にめんどくさいよ」
俺の心が見透かされているのか、釘を刺すように言いつけてくる。
…この説教からは逃げられない。言っていることが最もだ。もしかしたら、このよくわからないものが傀儡を変質者にするのかもしれない。ユケツやケンケツ、もしくはその下位構造の俺たちのような。そう思うとミスターへの報告を怠るわけにもいかないだろう。俺は諦めて、その好意を受け取ることにした。
「え~!ありがとうクリアくん!大好き!」
「わあっ」
話が終わったかと思うと、ユケツが後ろからクリアに抱き着いてきた。
いきなりだからか、クリアも重心がとれず足をふらふら彷徨わせている。まるで大きいぬいぐるみのような扱いで、その抱き着き方は遠慮を知らない。余りみなぎっている親愛を表すための行動であることはすぐにわかる。クリアも別に、そういった感情なしに抱き返している。
だが。だが、男と女の友情は成立しない教に入信されている者がここに一人。
俺は恐る恐る、隣の兄貴の顔を見た。
うん。面倒くさい顔をしている。
「いや騙されるなユケツ。こいつ、ただ傀儡を追っ払うの面倒くさかっただけだぞ」
体を震わせながら、ロリコン兄貴はまたもや妹の友人(男)を引っぺがしにかかる。やめときゃいいのに。
「そんなことないもん!」
「くっ……っていうかお前それはいいからさあ!!帰り方を教えてくれって!!」
憐れ。ついに話の流れを無視する強行突破にかかるか。
だが、それはそれとして、路線変更のダシにされた内容は俺も気になる。だって帰れないからな。
「もう、うるさいなぁ。ここ僕のおうちだからね!言ったでしょ、戸締りはしっかりしてるって」
「戸締りったって、戸なんかないだろ此処!」
「ム。あるもん!」
クリアはそう言って腰をあげると、その辺にあった小石でなにかを描き始めた。
……なにをしているのか、クリア以外の全員が分かっていない。
しかも、特に複雑なものを描いているわけでもなさそうだ。最後にクリア自身が持ち込んできた装備品を何点かその周りに置くと、彼は手の土を払って、こちらを振り向く。
「はい。この上乗って」
え。
クリアが俺たちに指示したこと、それは。
なんの変哲もない、いたって凡庸な長方形の上に乗ることだった。
彼が描いた、少し歪んだ長方形。
「なんでだ?」
「いいから!」
なんの説明もないまま、彼は俺たちの背中をグイグイと押す。
「いや、そう言われても…」
「従うな!!」
ビクッ。
その大声に、流されそうになった体が固まる。
「おい思い出したぞ。お前その技、俺が気絶した時にも使って-」
「いい加減にしてよ!お兄ちゃん!」
「のわっ!?」
まだ喋っている途中のケンケツを、妹が突き飛ばす。
そこまではまだいいのだが、突き飛ばされたケンケツが、その勢いで俺を突き飛ばしてきた。やめろ。
「クリアくんが帰してくれるっていってるんだから、それに従うしかないでしょ!」
ドミノ倒しとも呼べない巻き込まれの結果、結局全員がクリアの描いた長方形の上に乗る形となった。
その瞬間、クリアが描いた長方形の輪郭が青白く光る。
え?
「よし、みんな乗ったね」
「ちげーよ!帰すっていうより、これミスターと同じで強制ワープさせられるんだって、」
「”開錠”」
長方形が、分厚い扉に変わる。
そして即座に扉は開く。
「「あっ」」
-そういう感じ?
重力に足がとられる。
「「ああああああああ!!」」
俺とユケツは、死ぬ前のような声をあげて落ちるしかなかった。謎の扉が生み出す、謎の空間に。
ケンケツも一緒に落ちていくが、目を見開いて絶叫を挙げている俺たちよりは、落ち着いているように見えた。
「いわんこっちゃない…」
「じゃあみんな、ミスターによろしく!」
上からクリアの声が降り注ぐが、よく聞こえない。鼓膜の前に、三半規管がイカれてしまうような激しい突風と回転が、垂直落下している俺たちに襲い掛かる。そのまま俺たちは、なにがなんだかわからないまま、ウォータースライダーよろしく異空間を尻から滑り落ちていく。
そう。尻から滑り落ちるという事は、明らかにこの空間はミスターの奇跡と違って、触れられる。しかしそんなことを考えている余裕はない。まったくない。尻が摩擦熱で燃えているような気がしているのに!
「「ああああああああ!!」」
叫んでも叫んでもこの絶叫アトラクションには終わりが見えない。進んでいる感覚だけが、落下している感覚だけが続いている。
「こ、れ…っ!どこまで続いて」
「おい喋るな。舌噛むぞ」
「お前はなんでそんなにっ、落ち着いてんだ!!」
瞼の裏の暗闇を見つめながら、俺はケンケツに問いかける。
しかしその答えを聞くよりも先に、待ち望んだはずの終わりが、俺たちに強い衝撃を与えてきたのだった。
-ドスン!!
少しの静寂。
……終わ、った…?
俺は精一杯に腕を伸ばして、手を下に向けて広げる。
ひたり。 冷たい感触。
ああ地面だ。固い土が、重力ジェットコースターをせき止めてくれた。
-そう安心したのも束の間。
すぐさま上から、血兄妹がワン・ツーフィニッシュでのしかかってくる。
「ぐえっ」
お、おも!!
嫌な圧迫感が背中を襲う。危うく中身が出かかった。
ユケツはまだ耐えられたが、ケンケツの体重はさすがにまずい。
「怖かったよぉ」「いって~……」
「ぐっ、俺の上に乗ったまま喋るな!」
くそっ。こいつら、俺の事をソファーかなにかと勘違いしている。俺がわめいても一向に退こうとしない。
「お、この音は。帰ってきたね」
「【悲しい】この叫びよう、墓場の出方を教えてあげなかったのね、ミスター」
あ。この声は。
俺はいつの間にか、嗅ぎなれた薬品の匂いに包まれていることに気が付く。
そして同じく、聞き覚えのある声を頼りに顔をあげる。
「おかえり、みんな」
そこには、地面なんかよりもよっぽど安心感のある俺たちのミスターが居た。
いつも通り、余裕たっぷりな微笑みを持って。それとは真逆の、争いなんかしたこともないような、弱者特有の居心地の良さを纏って。俺たちが帰ってくるのをわかっていたかのように、その瞳にこの不格好な姿を映し出す。
…ミスターに言いたいことは色々あるが。なにはともあれ。
「「「た、ただいま…」」」
挨拶は大事である。
俺たちは、疲弊しきった体と心でもなんとかその言葉を捻りだした。
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