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敗者の行進  作者: 春獄
第一章 Bloody brother
22/33

12敗【粉?】

 墓石の影から姿をあらわしたそいつは、頬をぷくーっと風船のように膨らませて不服そうにこちらを見つめている。ケンケツに軽んじられたことが効いたらしい。


「クリア!見かけないと思ったらなにやってたんだよ」


 ケンケツが、自分の挑発にまんまと出て来た少年めがけて歩み寄る。そして人差し指を折り曲げると、親指で力を溜めて、


「いてっ!」


 -まあまあ痛そうなデコピンを喰らわせた。


「お・ま・え!カガチとミズチが来たから舐めプで良かったものの、俺一人だったら普通にしんどかったんだからな!今度はちゃんと手伝ってもらうぞ!」


「今度って。また僕の家でドンパチやるつもり?喧嘩なら外でやってよ」


「屋根のない屋外を、俺は家とは認めねーよ!」


 クリアの随分な物言いに、ケンケツはその頭に拳をグリグリと押し込む。彼も負けじと爪を立てて反撃に出ているのが、どうも意外だ。クリアもケンケツも、割と穏やかな性格をしているはずなのだが、なぜ二人を会わせるとこうも意地悪くなってしまうのか。…ケンケツの方はそうでもないか。


 そんなことに思考を割いている俺を押しのけて、ユケツがクリアに訴えかける。


「ねぇクリアくん。教えて欲しいんだけど、ここから研究所まではどうやって帰ればいいの?」


 若干の焦りが瞳の中で滲む聞く彼女を見て、俺も具体的な対処法を考え始める。少なくとも、旧式でいいから可視化(ランタン)を貰わなければ、絶対に帰れないことは確かだ。道のりが長いにしろ短いにしろ、初めての帰路であることに変わりはない。クリアさえよければ、道案内がてら送ってくれるとありがたかったのだが、


 ―予想よりも現実は厳しい。彼はきょとんとした顔でこちらを見つめ、とんでもないことを言い放ってきた。


「え?帰り道なんてないけど」


「「「帰り道なんてないけど!?」」」


「それよりさ、」


「「「それよりさ!?」」」


 珍しく、俺と血兄妹が意気投合を果たす。


 は?は?嫌なアドレナリンがドバドバ出てきた。話が飛躍しすぎている。いや飛躍した出発点の内容も絶望的だ。しかし彼に、そんな泣き落としまがいの態度は通用しない。

 三人揃っての大声にも関わらず、聞こえていないのだろうか?彼は「えーとね」と言いながら、あっけらかんとドッヂボール会話を始める。いくらなんでも話が通じなさすぎだろうと苛立ちもしたが、目の前にガチャガチャと落とされたものを見て、意識は強制的にそちらに逸らされてしまった。


 軽い音からは想像が出来ないほど、重いものが転がっている。


「あのヒトたち、どこから来たのかなと思ってさあ。調べてたんだ」


「これ、は…」


 それは、簡単に命を奪うためのもの。肉を抉るために引く、鉄の弓だ。今しがた俺たちが向けられたであろう、アサルトライフルやランチャー、ハンドガン。なにからなにまで揃ってる。どの奴から奪い取ったのか、予備の弾倉や装備が入ったものまで置いてある。


「あのヒトたちって、さっきの襲撃犯のことか」


 俺は無造作に落とされた装備品の中から、何丁かを手に取って見てみる。だが、いつもとさほど変わったところはない。嘲笑うカボチャのイラストが刻まれているだけだ。何回見ても、人の腹を煮えくり返すセンスではあるが。


「結局、また傀儡があのカボチャに騙されたってことでしょぉ~?」


 ユケツが俺の心情を代弁する。


「そういうことになるな」


 ケンケツが弾を装填しながら相槌を打ったので、俺もそれに倣った。

 ジャコジャコ音を立てては弾丸をレールに乗せて、試しに構える。引き金を引くわけにはいかないが、正常に作動することは今までの経験上分かる。やはり仕組みも同じ。いつもの、()()()()()()()()兵器だ。


「クリア。特に変わったものなんてないぞ。銃もなにもかも、みんな研究所のモデルだ」


 一通りの機構を確認したところで、俺はその装備品の数々を手放す。


「うん。僕もそこは同意見なんだけど、ちょっと気になる事があるんだよね」


「気になること?」


「見てこれ」


 そう言ってクリアが差し出したものは、いつも傀儡たちが使っている兵器のひとつ、軽いのが売りの短機関銃(サブマシンガン)だった。しかし、こちらも特に変わったところは特にないように見える。

 俺は訝しみながらそれに触れた。すると、俺の指にほんのりと桜色のなにかが付着する。よく見れば、銃全体が、ピンク色の薄い膜のようなもので覆われている。


「なんだこれ。…粉?」


「骨粉じゃないんだよな?」


 ケンケツも、俺の後ろからその様子を盗み見る。


「うん。傀儡の骨は人間の骨と同じで白いから、骨粉も白いよ」


「じゃあなんなのぉ?花粉みたいにも見えるけど」


「僕にもわからない」


 クリアは自分の指についた謎の粉末をこすり合わせながら、眉をひそめて観察する。

 すると、その桜色に染まった指先を、突如口の中に差し込んでしまった。


「ちょっ、クリアくん!?」


「お前なにやってんだバッチい!ペッしろペッ!」


 血兄妹が堪らず騒ぎ出すが、その気持ちは分かる。得体のしれないものを口に入れるなど、やっていることが赤ん坊のそれだ。俺も慌ててクリアの手を引き抜きにかかる。


「おい!そんな体当たりで確認するものでもないだろう」 


 彼は強引に指を引き抜かれて、口から僅かな涎を垂らしていた。それでも、まだ舐めとった指を不思議そうに眺めている。


「ええ~?でも気にならない?ふつう、体が半分以上なくなったら、あんなに叫ぶ元気ないよ」


「なんの話だ?」


「ほらあ、ケンケツ君に右半身ぜーんぶふっとばされちゃった子。あの子、あの状態で意識があるんだよ。すごくない?」


 すごくない?と言われても。俺はその時俺じゃなくなってるんだが…。

 ユケツに目くばせをすると、彼女は声を少し抑えて、「クリアくん。カガチは今日音声入力(フル・オート)で戦ったから、その時の記憶ないの」と言い聞かせてくれた。


「あっ、そっか」


 クリアはその答えに納得して、俺が切り替わっている間の状況を話す。

 その中で、ミズチが喚ばれたことなどいくつか気になることはあったが、今問題になっているのはそこではない。クリアの言葉を引用すれば、「ケンケツ君が、傀儡の右がわをぽーんして、やられた子が大きい悲鳴をあげてた」の部分である。


「うわあ」


 考えていたことがバレたのか、ケンケツがそこで引くなよと言いたげな目でこちらを見てくる。

 すまない。その光景に慣れたは慣れたが、やっぱりケチャップグロシーンになったんだなという落胆は頭から消えないんだ。


「ね、ね?おかしくない?反射だったとしても、ふつうあんなに叫ぶ元気ないよ」


 クリアの話に戻ろう。


 話を聞く限り、確かに何らかの異常事態は起きていそうだ。ここは致命傷の世界。≪解体≫が埋め込まれたユケツやケンケツならまだしも、こんなのはおかしい。普通なら失血のショックから意識を失って、そのまま戦場におざなり。事実上の死が完成する。なのに今回襲撃してきた傀儡は、妙にタフというか、しぶといとは俺も思った。

 絶叫するという事は意識も痛覚もあるということ。むしろこれは、ケンケツの苛烈な攻撃を受けておいて、それだけの余裕があるとも言い換えられる。本来ならばあり得ないことだが、クリアが嘘をつく可能性は現状低い。


「もしかすると、どこかいじられてたんじゃないかなあ、って思ってさ。ユケツちゃんとかケンケツくんみたいに」


「弄られる?」


 それってつまり。


「研究所以外に、ジンコー的に変質者にしてる場所があるってことぉ?」

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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