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敗者の行進  作者: 春獄
第一章 Bloody brother
20/33

継ぎ目【≪Birth≫Day】


 ピピピピ。


 なにかの起動音が響く。


「ごめんね。うるさかった?でも心拍数とらないと、魂と人形をくっつけられないから」


 恐ろしいことを言われたせいで、俺は起こしかけた体を元に戻した。


 真っ白い手術台に寝かせらられているこの状況。

タコの吸盤のような謎のものをペタペタとつけられて、いい気分はしない。そうなった前後はどうあれ、人体実験感は否めないからな。変な管も通され、さあいよいよ気分は大手術。心の緊張が心臓とリンクしているのが、心拍数によって表れ始める。なにもかもが数字で筒抜けというのも嫌なものだ。


 聞けばこの後に、概念を入れ込んだ人形を起動させて、俺という自意識をそこに移すという。言葉にすればわからなくもないが、やっていることはめちゃくちゃだ。

 そもそも、魂とはなんなのか?この体は土に埋められて本当に大丈夫なのか?聞きたいことは山ほど残っている中でのこの即・実証実験。過程をすっ飛ばし過ぎて、本当に傀儡(おれ)というパーツを欲していたのがわかる。


「そろそろ覚悟きめろよ。麻酔入れる」


 耳元で男の方のツギハギの声が聞こえる。意外にも、手術助手は彼のようだ。素早い手つきでよくわからない機械を弄っている。


「今からおねむかな?今からおねむなのかなぁ?」

 

 女の方は相変わらず頭が回っていない。ツギハギ男と顔は似ているっていうのに、どうしてこうもおつむが弱いのか。しばらくの間は使役される苦汁を味わうと思うが、こいつにだけは使われたくないな。


 ……………あれ?


 もうすぐ手術が始まる緊張状態だからなのか。唐突に舞い降りた気づきが、知識の欠如を訴えかけるために頭を起こさせる。


「そういえば。お前らの名前は?」 


「いっ!!」


 その言葉にいち早く反応したのはワールドだった。ガンッという音がした方向を見ると、涙目で膝をさすっている。


「……ちょ、もしかしてこの子達、自己紹介もしないまま連れてきたの!?」


 そうだ。思えば俺たちとツギハギの間には、自己紹介という名の和平交渉が一切ない。あったのは行き当たりばったりのコミュニケーションと、不平等で一方的な拉致だけ。世界が世界なら、そのままブタ箱直送の事案である。


 ワールドは真相を問い詰めるようにツギハギ達を見つめたが、…もう頭の中ではツギハギという名称が定着してしまっているな。彼らは口笛を吹く真似をして、古典的なしらばっくれをしている。


「だってこいつが興味ねーって言うからさー」

「言うからさーあ!」


「言ってねーよ」


 嘘だろ。

 なんだこいつらの果てしない記憶改ざん能力は。正体不明のツギハギ兄妹だぞ。気になるに決まっているだろ。気になってはいたが、それよりも気になることが多すぎる結果、後回しになっただけだ。

 こんな風に言われるならいっそ、出会いがしらに岩をぶつけて来たことを告げ口してやろうかとも思ったが、仕返しが怖いのでやめてしまった。今度は岩よりも酷いものをぶつけられるかもしれない。


 そうして勝手に恐れおののいている間に、男は渋々と、女は待ってましたとばかりに「自己紹介」を始める。


「あまりにも今更過ぎるな。えー、俺はケンケツ。《解体》の変質者で…ってそれは聞いたか。うーんと、とくにいう事はなんもないな。一応お前の先輩とかにあたるのか?まあとにかくよろしく」


「はいはぁ~い!私ユケツ!わからないことがあったら何でも聞いてね!わたしもわからないけどぉ!」


「ケンケツ、ユケツ…」


 献血。輸血。


 言いたいことがバレたのか、ツギハっ…ケンケツが耳打ちしてくる。


「あ~~~、ミスターの名づけセンスについては触れてやらないでくれ。頼む」


 ということは、こいつらの名づけ親はワールドということになる。初めからこいつらのワールドに対しての態度は、親に対する親愛のようだったが、やはり似た関係性なのだろう。ユケツと名乗った方も苦しい表情をしながら、「お願い!」と頼み込んできた。中々に涙ぐましい姿である。ネームセンス皆無の親を持つと苦労するな。


 ワールドはそんなケンケツ達の気遣いなど知らずに、あっ!と大きく声を漏らした。


「そうだ。名前といえば、人形の識別登録しとかなきゃ」


「識別登録?」


「うん。君が変質者になってるとき、しばらくは音声入力で動かすことになるんだけど、その時いちいち長ったらしい識別番号言ってられないでしょう?だからきみの名前、コードネームを登録しとかなきゃ」


「…そんないきなり言われてもな。」


「なんでもいいよ。でもあんまりこだわったやつは無しね。これからずっと呼ぶことになるんだし」


「…………………」


 ユケツ、ケンケツという名前はこだわりがなさすぎではないか、という追求は押し殺してやろう。今は名前を考えるのに忙しい。


「無ければ僕の方で―、」


「あっ」


 ふと。

 浮かんだ。


 たった三文字。


 名前。ワールドはそこまで気にしていないようだが、その存在意義はただの固有名詞にはとどまらない。

 名前はそいつにどうあってほしいか、どうあるべきかの願いだ。直感に頼るべきでもあるし、複雑な物事に揺らされて悩んでもいいもの。「考えた」という過程に抱かれて、初めて成り立つものだ。



 ならば。それならば俺は願う。俺は、この名前の俺であってほしいと。


 俺はあの暗闇から灯された小さな灯りと、人形に入れ込まれるはずであろう大きな光を思い返して、その名を呟く。


「カガチ」


「え?」

 

 それは憧れか。ただの回想か。

 俺が新しい俺として、新生したとき。いつかその時。最初に出くわしたあの化け物に、「気にしてくれて助かった」「ありがとう」というために。今は借りてみよう、この世界に生まれたばかりの俺が持つ、数少ない過去を。


 戒めとして。

 俺みたいなやつらが、全員この致命傷の世界でも明るくなれるように。

 俺はこの名前がいい。


「決めた。俺の名前はカガチにしてくれ」


 ほとんど遺言に近い。

 薬が血管に侵入し、脳味噌がとろとろにふやかされる。がくりがくりと眼球が瞼の重さに負けていく。


 ピピピピピ。


 ピ――――――――――――。














 

 あれ、俺は今どこに居る?



 麻酔の匂いに囚われて、俺は最後の声を願いに消費した。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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