継ぎ目【Corpse Doll】
「もぉ~!ミスタ~?だめでしょ、そんな言葉使ったら!正直に言い過ぎだよ」
しょ、正直にって。
「え?…ああごめん!別に君が死ぬことは無いよ。ただちょっと体に死んでもらうだけというか…」
あわてて前言撤回しているところ申し訳ないが、前言撤回にすらなっていない。背筋に冷水がつーっと伝うような悪寒が走る。
体を死なせるってなんだ?サイコパスなのかこの男?もしや、”人間には心というものが存在していないから大丈夫”とか言い出すんじゃないだろうな。安い俳優が演じるマッドサイエンティストかなにかか?
「ああもう、現物持ってこないと説明がつかないよ!」
意味が分からないことを話しているクセに、理解がされないことにワールドは我慢がならないらしい。ぶんぶん頭を振って、俺が理解できていない現実に目を瞑っている。
「よし!どっちか試作品持ってきて。薬棚の横に置いてるやつ」
「りょうか~い!」
「どちらか」と言われたのにも関わらず、女の方だけが意気揚々と返事をする。男の方はまるでそれを理解していたかのようになにも言わない。そして女は、スキップをしながら、初めにワールドが現れた場所の奥、カーテンの向こうへと消えた。余りの行動の速さに、瞬間移動でもしたのかと感じる。
何を取りにいったんだ?
後ろ姿を目で追いかける。
「一旦、取りに行ってもらってる見てから、話を聞いてもらってもいいかな」
そう言ったワールドの顔は、さあ見ろというよりかは、これを見たところでどうかなという不安一色だ。俺もその顔につられて不安になる。いや、さっきから不安ばかりだ。不安を通り越して絶望ばかりだ。
…
「ミスター!」
お使いから帰ってきたツギハギ女の声が聞こえてくる。
戻ってくるまでにさほど時間はかからなかったが、あの女の存在感は重宝すべきものだったのかもしれない。野郎三人が大した話もせず、ただじっと帰りを待つだけの空間は二度と味わいたくないからな。時間が永遠のように感じる。
姿が見えると同時に、地面がなにかと擦れる音が聞こえてくる。女はうう~ん!と高く唸りながら、なにかを引きずってきていた。
「コレ重いぃ~!!」
俺はそんな様子を腕を組みながら眺める。そりゃそうだろう。そんなか細い腕で、人ひとりをどうやって運べるというのだ。
……ん?ひと一人?
改めてツギハギ女が持ってきたものがなんなのかを確認する。
人間だ。
人間。
しかも、上等な絹で織られたかのようなきめ細やかな肌。すらりと伸びた腕、足、胴体。なによりこの男か女か分からない、中世的な顔立ち。
…人間の中でも、かなり整っている顔と肉体を持つ人間だ。そんな奴が、手術痕で体を真っ二つに分けられた女に、首元を掴まれて、地面を擦っている。世も末だ。
そいつは俺の前まで持ってこられると、頭をそっと地面に置かれて、そのまま安置された。
「なんだこいつ。寝てるのか。いや、」
すぐに言葉を撤回するよう脳が働く。結構な運ばれ方をした割に、唸り一つあげないこの異常性。
「死んでる?」
よく見ると、そいつは寝息ひとつ立てず、呼吸による胸の膨らみもなかった。だが、生命が働いている素振りはまったくないのに、確かに流れる血潮が、うっすらと体全体に暖色を灯らせている。手首から覗く青緑の血管だけが、人外的な美しさを感じさせた。
「これは僕が作った人形、その試作品だ」
安いSF映画の台詞が飛んでくる。
「人、形」
眠っているようにそこに置いてあるモノを、まじまじとのぞき込んだ。まつ毛の一本から、指に食い込む爪のつきようまで、全てが”生”に満ち溢れている。見れば見るほど、人間である証拠ばかり。ならばと思って恐る恐る皮膚に触れてみても、それは皮膚であって、プラスチックでも鉄でもなんでもない。もちろん関節球がむき出しになったりもしていない。有機物の温かさだけが、言われたことの全てを否定する。
どう見ても、人間にしか見えない。
「ミスターはぁ~、天才だからぁ~、セイコーでサイコーな人形が出来ちゃったのぉ!」
いつも間にか隣で、ツギハギ女が人形の頬をぷにぷにと指でつついていた。
…なんだ?ワールドは天才だから、これくらい出来て当然ってことか?いやそれにしたって。
「天才すぎだろ…」
思わず漏らした声に、ツギハギ女は満足そうに頷いた。俺もその表情を見て、人形の精巧さにもう一度唸る。
だが。
瞼を閉じたままのお人形を目の前に、どうすればいいかわからず製作者様の顔を伺う。
一体この物体が、俺が死ぬこととどう関係するのだ。ワールドはその答えを人差し指で指し示した。
…地面?
彼の細い指は、床という文化のないこの建物の床、地面を指している。
「僕の計画に参加する場合ね、君にはこれからその体を土に埋めてもらって、精神だけをこの人形に”接続”してもらうことになるんだ」
「あ。あ、あ?」
ぽくぽくぽく。
チーーン。
なにを、いって、るんだ。こいつは。
「君が今持ってる概念をこの人形にダウンロードした後、君が人形に意識を移すことで初めて、変質者が完成するんだよ」
ヒュッ
トんでいた意識が体の中に戻ってくる。俺はその勢いのままに叫んだ。
「はあ!?死ねってことかよ!」
「だからそう言ってんだろーが!」
今度はツギハギ男の方が、人形をひょいと持ちあげて話しかけてくる。首根っこを掴まれている人形が、なんだか狩人に捕らえられた兎のように見えなくもない。男は兎を眺めながら、浅い溜息を洩らす。
「つっても、ただこの人形に接続してる状態じゃあ、厳密には変質者とは言えねえ。この人形を動かしてはもらうが、理論上は傀儡の骨粉という”繋ぎ”を通して土に埋まった体と元の体を合流させるのが目的だ。その際に変質が初めて行われて、元の体がお前の魂に反応して人形を強化してくれるから…おい話を聞け!」
「すまない。もう一回だ。話が入ってこない」
「こんにゃろ」
男が俺の頭を軽くチョップする。その力は甘噛みよりも優しく、ほとんど触れる程度の物に近かった。致命傷にならないための配慮だろう。なぜその配慮が出来るのに、情報量の手加減は出来ないのか。
…いや、煽るような言葉になったが、本当に話が入ってこないのだ。疲れている頭に、その事務的で機械的な説明は猛毒だろう。
「理解度ゼロのお前でもわかるように説明すると、『いい子だからこの綺麗なお洋服に着替えましょうね赤ちゃん~』ってことだ。概念も体も手に入れられて、一石二鳥だと俺は思うけどな」
「ちょっとぉ、そんな言い方ないんじゃなあい?いまのセツメイだとこの子、たぶん生き埋め想像してるよぉ~?」
ああ。そうだ。俺は頷く。
「だからなんだよ。魂引っこ抜かれるのなんて、手術前の麻酔みたいなもんだ。イケるイケる」
「いけねーよ!!」
人の…、傀儡の命を何だと思ってるんだこいつらは。
あまりの認識の違いに、そもそも、仮に手術前の麻酔だとしても怖いだろとツッコむのを忘れる。
「あの、ごめん。ちょっといい?問題はそれだけじゃなくってね」
「ああ!?」
恐る恐る手をあげるワールドに俺はすぐさま噛みついた。自分でも想像できないような、それこそ鬼の形相をしているだろう。
今にも掴みかかりそうな雰囲気の俺に、よくその話しかけ方ができたな。問題はそれだけじゃない?
「この人形、変質者ではない状態だと大丈夫なんだけど、肝心の変質者になった瞬間にね、その、大脳部分の命令回路が熱くなりすぎて危険なんだ。だから、他のヒトから命令をうけて貰わなきゃいけなくて…」
「命令?その命令ってのは誰が出すんだ」
「ぼ、僕とこの子たち…かな…」
シーン…という無言が沈黙を呼び、辺りを貫く。
「…とりあえず、”死ぬけど死なない”の意味は分かった気がする」
頭が痛い。非常に頭が痛い。知恵熱も出る勢いだ。
「だけど傀儡にとってこれは、”死んだも同然”だ。理由はわかるよな?」
ワールドは苦笑いを浮かべて返事をする。
「俺も今の話でよくわかった」
今までの会話で十分に学習はしている。こいつらには、はっきりといってやらなければ、自分の望んだ結果は返ってこない。そのことを踏まえながら、俺ははっきりと伝えてやった。
「つまりは奴隷になれってことだな?」
ここまでお読みくださりありがとうございます。
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更新が遅くなりまして申し訳ありません。これじゃ敗者の更新、なんつって。ははははは。
はーあ。




