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敗者の行進  作者: 春獄
第一章 Bloody brother
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継ぎ目【PERVENT and PUPPET】

 言葉の端から端までまったく意味が分からない。


「戦、争………」


 この一見なにもなさそうな闇の世界で、一体何が行われているというのだ?

 俺はもっと、この世界を単純に捉えていた時を思い返す。これならば、恐怖という言葉で片付いた方が良かったのかもしれない。


 ”戦争”という重く陳腐な二文字のせいで、脳内処理が済んでいない。というのに、ワールドは構わず俺に情報を浴びせてくる。


「君を振り回すようですまないけれど、こればっかりはきちんと話さないと。インフォ()ームド・()コンセント()のポリシーから外れるからね。説明義務は果たすよ」


 彼はそういって銀縁の丸眼鏡をわざとらしく持ち上げると、ポケットに手を突っ込んで医者のポーズをした。


「まず大前提として聞いてほしいのは、この世界は君と同じで生まれたてだということ。地獄で死ぬ人は珍しいから、この世界は生まれたのが遅かったんだ。……この生まれたての世界では、当然そこに付随する生命や概念も生まれたて。ほとんど混沌(カオス)状態にあるといっていい。ここには現世では当たり前にある概念が省略され、歪み、入り混じって、互いが互いを侵食しあっているんだ」


「概念が、浸食しあう……」


「そう。そして、ここでは肉体を形成する概念もこの例に漏れない。魂と体の繋がり、胴体四肢の充実、生物学上の一般論。そういったすべての事柄が処理しきれないままに生み出される。だから、君みたいに細胞組織がどろどろの生き物も誕生してしまうという訳だ」


「え、でもこいつらや、お前は」


 俺は今までの話を信じる根拠を見つめる。


「うん。当然、その疑問が出てくるよね。”じゃあなんで僕らは君と違って、こんなにも人間的な体を保てているのか”。ここからが重要だ。勝者と敗者については、もう嫌なくらいに理解できたよね?」


 頷きたくない意思を捻じ曲げて、大きく頷いた。

 勝者と敗者には記憶の有無という圧倒的な差があり、これは先天的なもので変えることは不可能。受け入れるしかないノンフィクションだ。


「実は敗者の中にも、敗者と勝者のようなものが存在する」


「なんだと?」


「地獄から堕ちて来た瞬間から、これもごく少数だけど、この世界の概念混濁についていけるよう体が変異した者が存在するんだ。彼らは強靭な肉体と、変異する際に飲み込んだ概念によるなんらかの特殊能力が与えられることで、この世界の第二の脅威になっている」


 ワールドはそう言うと、後ろの二人の肩を両腕で包み込む。


「例えばここのお二人は、≪解体≫という概念を飲み込んだ変質者だ。そのせいで、ある程度体を欠損しても痛みも支障もない」


「お二人だってぇ~、ふふふ」


「おいにやけるな、今ミスターが大事な話してんだから」


「お兄ちゃんだってにやけてるじゃん!」


 話の引き合いに出されたのがそんなに嬉しいのか、ツギハギの彼らは誇らしげに笑う。さっきまで黙りこくっていたくせに、どういうテンションの振り幅なんだ。


 ………本当にこいつらが?

 こいつらが、本当に概念とかいう超常を喰らった奴らなのか?


 俺はあからさまに不審がる様子を見せるが、そんなもの気にしてはいられまい。

 円陣を組むような姿勢のまま談笑する彼らを見て、並外れた常識だけを鵜吞みにしろと言われても、納得がいかないというのは当然の主張だろう。


 と、そんな態度に気づいて、気に入らないとばかりにツギハギ男の方が前に出てくる。

 中々の威圧感だ。傍に近づかれると背が高く、随分とガタイが良いのがわかる。だが。口を尖らせている「不貞腐れ」の仕草(アピール)は、青年ではなく少年のそれだ。俺はその表情を見定めた。こいつはタンクトップから大きくはみ出る筋肉に見合わない、素朴な繊細さを持ち合わせているように思える。


「なんだよ。ホントに俺たち、その変質者なんだぜー?パーツなくすのめんどくせーから見せてやんねーけど」


 ……言っていることは嘘をついている小学生だが。

 俺はより怪しんで男を見つめる。


 すると、


「えいっ」


 スポッと。


「お?」


 ―男の左半身が吹っ飛んだ。


「あー!!!お前、せっかくミスターが直してくれたところを」


「見せた方がはやいじゃん」


「俺を使うなよ!!」


 は………?


 そう言っている口は半分に分かれたまま、なんの変哲もなく動いている。皮膚という皮袋に包まれた内容物でさえ、一つも零れることなく、綺麗に分断されていた。吹っ飛ばされた左半身は、小刻みに蠢いて、小さな虫が群がっているかのように、ちびちびとした歩みで独りでに右半身に近づいた。まるで叩き落とされた百取り虫である。


「な、なんだこれは」


 あり得ないとか、気持ち悪い以前に、あり得ているし気持ちも悪くもならない。しいて言えば、虫が苦手な奴は見ない方がいいというくらいである。なんの違和感もない。そこに確かにある現実だと、脳が知らしめてくるのだ。なんなら、質の悪いギャグシーンのように思えてきたのは頭の病気か?


「ちょっと、こんなの初見殺しだよ。ショッキング過ぎるでしょ君たち」


 堪らずといった風にワールドが場をおさめにかかる。

 しかし彼も彼で、このCGのような光景が日常茶飯事であるかのような反応だ。平然とした顔で、ぱっくりと割れた左半身を拾ってきたことが、奴もまたこいつらのお仲間であることを示している。

 そして拾われた左半身はというと。右半身と無事合流を果たし、寄せ木細工のようにぴったりと収まって、何事もなかったかのように左半身と接着したのだった。


「はぁ~い。………怒られた!お兄ちゃんのせいで!」


 そんな姿を見ても、誰も何もツッコまない。


「おーいおいおい嘘だろお前」


 そんな姿になった男だけが、そんな姿にさせた女に対して文句を垂れている。


「まあちょっと証明の仕方が強引だったけど。これでわかったかな。概念を飲み込むって言うのがどういうことか。誰が言い始めたかは知らないけど、【変質者】と。そう彼ら、いや僕たちは呼ばれているよ」


 変質者。

 これが、己の体が致命傷の世界と適合した、人間。魂。

 概念を飲み込んで生まれた、超越者。


 ―イカれてる。


 俺はその非現実の現実に圧倒されながら、少しづつワールドの言葉の真実性に夢中になった。


「それに対して。君みたいに記憶も、この世界に対応する体も持たないものは”傀儡(くぐつ)”と呼ばれている。彼らはその生まれ持った脆弱性から、変質者や勝者のおもちゃの様に扱われることも多い。だから傀儡。カイライ。なにかに巻き込まれたり、操られるのが必至とされることからの名づけ。………君からしたら、失礼極まりないネーミングだね」


「そうだな」


 俺は可能な限り、ぶっきらぼうに答えてやった。”俺の置かれた状況がとても悪い”という事を、何回も、違うアプローチで叩きこまれるのにはもう飽き飽きだ。 

 しかしそこで、はたと思考が止まる。わずかな希望が頭をよぎった。


「待てよ。それじゃあ俺はどうなる?話を聞く限り、傀儡の体はそこの奴らよりよっぽど苦しんでいい見た目だ。なんでこれで平然と俺は動けるんだよ?これも概念を飲み込んだって奴じゃ―」


「うんうん。よく勘違いされるんだけど、それは概念混濁による麻痺状態。君だけじゃない、全ての傀儡に共通している事例だ。ずーっと効く麻酔を打たれてるようなもので、う~~~んと!」


 言葉だけでは説明しきれないと踏んだのか、ワールドはツギハギ男女が引っ張り出してきたホワイトボードに目をつける。そこに何かを書き込み始めたかと思うと………絵が上手いな。隣のツギハギ男が描いたふにゃふにゃの線が本当に汚く見えてくる。裸の人間に、蒸気に、タオルに………、


 いや?ん?

 いや絵は上手いが、なぜサウナ?


 困惑する俺の顔がちゃんと見えていないのか、彼はすごく良い例えが思いついたとばかりに、自信満々にホワイトボードをノックする。絵を見ろということだ。


「すんごく雑に言っちゃうと、君の体はサウナに入っている状態なんだ。ほらサウナって、やたらめったら動き回るとヒリヒリして痛いでしょ?」


「いや、知らないが」


「あ、あれ?」


 突然のサウナ知識に脊髄が勝手に反射して受け応えた。申し訳ないが、ほんとうにまったく知らん。

 俺がばっさりと切り捨てると、ワールドの後ろの方から笑い声が聞こえてくる。


「ぷっ。ミスター、自分がサウナ好きだからって」


「俺達にもよくその例えしてくるよな~」


「はいそこ静かにして!そうなの!ヒリヒリして痛いの!で!それがなんでかっていうと、……元々火傷している状態の体を、空気の層が守ってくれてるのに、動いたせいでその層を乱してしまうからなんだ。僕が説明したいのは、これとよく似た現象のこと」

 

 そんなにサウナを否定されたことがショックなのだろうか。

 初めて聞くような大声を張り上げながら、ワールドはやけくそ気味に話をまとめる。


「本当は正気を保っていられないほどの痛みを、この世界特有の【概念の入り混じり】が守ってくれているんだ。サウナでいうと空気の層だね。でも誤魔化してるだけで、実際はその絶妙な混濁状態(バランス)を大きな刺激で乱されたら元に戻る」


 ―ホワイトボードにもがき苦しんでいる人間が描かれた。


「ちょっとした切り傷とかならまだいいけど、殴られたぐらいからもうダメだ。死ぬよりつらい痛みから帰ってこれない。だからもし身体の欠損なんか経験したら、普通に痛みで意識が吹っ飛んじゃうよ………、」


 そこまで言って、彼は俺がさらなる疑問を抱いていることに気が付く。

 まるですべてを見透かしているかのような、その皮肉めいた頬のゆるみは、まだ何も言われていないはずの俺を苦しめた。


「ああ。意識を失ったらどうなるか。君はそれを心配しているんだね。大丈夫、安心して。そしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()から」


 ………、   ………、   ………。


「」   え?   「」


 言葉が出てこない。


 それって。


「此処は別名、ノーマンズ・ランド。致命傷の世界。たったの一撃が、自分を永遠に苦しませる毒になる。はたまた、()()()()()()()()毒かな。君たちにはそうやって、世界からあらかじめ呪いがかけられているんだ。多くの傀儡にとってここは、地獄以上の生き地獄だよ」


 暖かなサウナから一転、俺は冷たいトドメを刺される。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価、感想などを頂けると作者の励みになります。よろしくお願いいたします。


今回世界設定ごっちゃごちゃなんですけど、許してください。

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