おっさん、反省する
「大変申し訳ございませんでした……
甚く反省いたしますぅ」
シアとリアの懸命な説得(物理)により理性の暗黒面からフィーが復帰した。
とはいえ罰は必要だ。
なのでフィーだけが湯船の外で正座させられている。
だが――せめてもの情け、温情なのだろう。
時折二人が交代でお湯を掛けてやってるので風邪を引く事はあるまい。
かくいう俺は俺で湯船で拉致られている。
豊満と絶壁という違いはあるが、バスタオル越しに抱き着かれている。
抜け出す自由はなく、抗議の声も「可愛いは正義!」の前に黙殺。
誰だよ、こんな魔導具を考案した馬鹿は。
正直殺意すら覚えるんだが。
「それでさ、おっさん――ううん、ガー君。
話を戻すんだけど」
散々俺の身体を堪能(事実だ)した後――シアが口を開く。
その真剣さに俺は胡乱げな瞳を向ける。
「――あん?
何がどうしたって?」
「うわっ、ガー君がやさぐれている!
汚物を見る様な凄惨な瞳でボク達を睨んでいる!
あの素直そうで愛くるしい天使ちゃんは――いったいどこにいったの!?」
「死んだよ、先程な。
ここにいるのは……年頃の娘のおもちゃと化した憐れな少年だ。
アンタ、背中が煤けてるぜ?(ふっふっふ)」
「ガリウス――いや、ガーくん」
「なんだ?」
「おもちゃは人聞きが悪い。
業界用語で言う可愛がり――弄んだと言って欲しい(ドヤ)」
「尚更悪いわ!
っていうか、言葉の問題じゃねえよ!」
「ああ、羨ましい。
ガリウス君とのイチャイチャ……わたくしもまざりたい、まぐわいたい。
それが駄目ならせめて残り汁だけでも(ハアハア)」
「はい、ストップだよフィー。
そこまでいったら条例違反。
ボクだって抱き着いて臭いを嗅ぐだけにしてるんだから!」
「でも、でもぉ!」
「ん。我々は共にガーくんを愛でる者。
情け深いのでこのガーくんを洗ったタオルを進呈。
せめて布越しに天使を満喫するといい」
「ああ、ありがとうございます。
これでわたくしは生きていけます!」
粛々とした動作で俺の身体を拭ったタオルを下賜するリア。
有難く受け取るフィー。
もはや宗教である……邪教の方の。
「それでね、話を戻すと――」
「今のを見なかったようなその切り替えしは難しいんじゃないか?」
「それでね、話を戻すと――」
「強くなったな、シア」
「鍛えられたからw
っていうかさ、ボク達に遠慮しなくていいんだからね?」
「え? どういう意味――」
「どうせガリウスの事だからさ――
湯船の中でボク達に危害が及ぶかも……とか悩んでたんでしょ?」
「ん。探索に危険はつきもの。
それが初チャレンジなら尚更」
「水臭いですわ、ガリウス様。
わたくし達は一蓮托生――危険が待ち受けているからこそ、共に絆を育んで挑むべきではないでしょうか?」
「お前達……」
三者三様――三人の言葉に俺は自省する。
なんで俺はこいつらの保護者を気取っていたのだろう。
三人は既に立派な大人だ。
ならば頭目として提案はするが判断は三人と一緒に下すべきなのだ。
顔が上気するほど恥じ入った俺は三人に向き合うと、改めて謝る。
「すまない、三人とも。
俺が勝手に色々考えて自分だけで結論を出そうとしていた。
俺達はパーティである以前に――家族だ。
一家の行く末は家族で真摯に話し合うべきなのにそれを怠った。
浅はかな俺を許してほしい」
「許すもないもないよ、おっさん」
「ん。心はガリウスと一緒」
「でも互いに話し合う――許し合える関係は大切です。
なので共に挑みましょう、レイナ様の仰る【降魔の塔】とやらに。
確かに猶予はあまりありません。
けどあの話が本当なら、今の精霊都市で解決できるのはわたくし達だけです。
ならばこれは天啓――皆の天祐となるべくこの時この場所にいたのですわ」
「有難う、お前達。
お前達の様なパートナーを以て俺はしあわsrちゅいおp@」
「ど、どうしたのおっさん!
顔が真っ赤だよ!」
「呂律が回らないし――対光反射が無い?」
「の、のぼせたんですわ!
随分前からお風呂で悩んでましたし……
速く外に連れ出して!」
ドタバタ俺を介抱する三人の声をどこか遠くに聞きながら――
俺は湯当たりで酩酊したような思考の中、信じられる者達に囲まれた幸せを噛み締めるのだった。
「――大腿部と腋下のクーリングはしましたわね?
熱中症も湯当たりも初動が重要です。
では気道確保の後、急いで人工呼吸を――」
「いや、それはおかしい」
「おっさん、息はしてるから」
真剣な面差しで迫るフィーの顔と――再度、彼女を羽交い締めにしてツッコミを入れるシアとリア達の挙動に一抹の不安を覚えながら(涙)。




