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おっさん、抱擁される


「ねえ、ガリウス――

 永遠ってあると思う?」

「永遠?」

「――そう。

 不滅不朽の変わらないもの。

 そういった想いとかカタチのこと」

「考えるまでもない。

 ないだろう、そんなの。

 この世にあるものは全て――神や概念さえいつかは消え去る。

 滅びに向かい歩み進むこと。

 それは万物が免れない宿命だろう?」

「だよね。

 世界の摂理は、誰にも変えられない。

 よく理解してるつもりだよ。

 でも私は信じたいんだ――

 君と出会えた、この運命を。

 こうやって共に過ごすこの時間を。

 可能なら永遠にしたい……それが許されない事だとしても」


 俺の胸元で幸せそうに、はにかみながらも――

 溢れんばかりの幸福で嬉しそうに――

 けど、どこか憂いを秘めて彼女が微笑んでいたのを今でも鮮明に思い出せる。

 何が不安だったか当時の俺は訊けなかった。

 言葉にしたら、きっと何かを喪ってしまう気がして。

 今にして思えば優れたシャーマン系職業の才能――

 姫巫女である彼女の霊感じみた予感だったのだろう。

 そして――俺は彼女を喪った。

 永遠に。

 奇しくも――永遠はあったと、皮肉混じりに証明された。

 腐れ魔神共を封ずる為――

 足止めも満足に出来ぬ俺を救う為――

 彼女は文字通り人柱となった。

 魂を代償に魔神皇へ繋がる魔城を封印したのだ。

 自らの力の無さに絶望する、一人の少年の嘆きを残して。

 時が過ぎた今もあの時の俺が叫ぶ。

 魔神共を殺せ。

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ

 斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ斃せ

 一匹残さず――駆逐しろ!

 彼女の魂に報いる為に。

 呪詛にも似たその想いは、未だに俺を縛る。

 だからこそ青年――ハイドラントの口から彼女の事が出てきた時は心底驚いた。

 そうか……彼女の縁者か。

 どうりで懐かしさを感じる訳だ。


「ここです」


 先を進む彼が足を止めた場所――

 それは先日俺が三人に指輪を贈った場所の一角だ。

 大図書館中央棟最上階、空中庭園。

 様々な植物の群生――翠で出来たアーチがそこにはあった。

 しかし今更だが迂闊だったな。

 依頼の裏も取らずに、こんな場所までのこのこ付いていくなんて。

 我ながら甘いとしか言い様がない。

 昔の事とはいえ彼女が絡む案件とあり冷静さを失っていた。

 ただならぬ気配――とはいえ、依頼を受ける事を勝手に宣言したのに黙ったまま賛成を支持してくれた。

 無条件の信頼。

 三人には感謝をしてもし切れないだろう。

 だからこそ俺は進む事にする。

 過去に決別し――未来を共に歩む為に。

 決意を新たにする俺だったが、ハイドラントはアーチを前にすると懐から別の鈴を取り出しまたも鳴り響かせる。

 するとアーチ全体が仄かに発光――空間が歪み始めた。


「はい、ゲートが開きました。

 ここから先は我が主の住居。

 どうか御無礼が無いよう――」

「ああ、この精霊都市の龍脈を司るという姫巫女様だろう?

 無礼なんてしないさ」

「いえ、御無礼を働くのは我が主の方で――」

「――え?」


 何かを言い掛けたハイドラント。

 だが続きを聞くまでもなく俺達は広大な板間の部屋に転移していた。

 どうやらここは何かの祭場の様だ。

 中央奥――鏡の添えられた祭壇の前には一人の少女が瞑想していた。

 透き通る絹のごとく流れるような白髪。

 彼女によく似た可憐な容姿。

 巫女装束を纏い眼を伏せて座する姿に胸が痛くなる。

 やがて俺達の気配に気づいたのか彼女はゆっくりと眼を開け――


「え! 待って待って。

 めっちゃヤッバ。

 ちょーイケてるオジ様なんですけど!

 貴方が噂のガリウス!? 

 あっ、あーしはレイナ。

 これからもよろしくね☆」


 厳かな神秘さを吹っ飛ばす――無茶苦茶元気な挨拶と共に、何故か駆け寄ってきた少女に全力で抱き着かれるのだった。

 

 




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