おっさん、迷宮に挑む①
「よし、転移陣は問題なく作用したな」
積層型魔法陣の発光後、俺達は瞬く間もなくダンジョン内部に移動していた。
ここのダンジョンはオーソドックスな迷宮型とは聞いていたが情報通りだ。
石造りの通路が延々とどこまでも伸びている。
その様はまるで地獄へ誘われるかのごとく陰鬱な印象を受ける。
まあテンションの上がる快活なダンジョンなどは存在しないか。
壁自体が薄く発光してる為か視界に問題ないのが救いだな。
ある程度マッピングは済んでるらしくギルドから自動更新される魔導具マップを購入しておいたが――この様子だとまだまだ未踏破の領域があるらしい。
そういった所は未知の妖魔が潜んでいたり罠があったりと危険がデンジャラスな地帯である。無論、未盗掘のお宝などが秘蔵されていたりと、リスクに応じたリターンもある為、進むか退くかはパーティのリーダー次第だ。
俺達【気紛れ明星】の名目上の頭目は勇者の称号を持つシアだ。
しかし実質上のリーダー役は俺が任されているので気が抜けない。
深呼吸を一つすると俺は三人へ声を掛ける。
「みんな、問題ないな?」
「うん、絶好調♪」
「ん。良好」
「万全ですわ」
「なら打ち合わせ通り――今日は軽く、ここらを周回しよう。
久々のダンジョンアタックだから気を抜くなよ。
リア、フィーナ。疲れない範囲で防御系の魔術と支援系の法術を頼む」
「了解した。
いつも通り恒常型の【魔術障壁】を展開する。
ヘタな鎧より強固なので直撃でも喰らわない限りはダメージがこない」
「それではわたくしは【常時回復】の祝祷を願いますね。
一瞬で傷を癒すほどではありませんが……探索で蓄積されていく疲労を緩やかに取り除き、身体のパフォーマンスを最高の状態に保てるようになります」
「ああ、頼む。
それとシア――気付いたか?」
「うん、おっさんも?」
「勿論だ。
今回の騒動で大分レベルが上がっていたしステータスも向上していた。
簡単で構わないので今の内に情報を共有しておこう」
「特技欄や装備欄はいいよね?」
「任意で表示のオンオフが出来るだろう?
今はレベルと基本情報だけでいい」
「ん~じゃあ、はい」
首から下げた冒険者証をシアが提示する。
そこに書かれているのは以下のデータだ。
ネーム:アレクシア・ライオット
レベル:39
ランク:AA
クラス:勇者
称 号:魔剣使い 飛竜を屠る者 希望の担い手
身 長:158
体 重:54
ステ表:筋力B 体力B 魔力B
敏捷A 器用B 精神C
……相変わらずバランスの良いステータスだ。
クラスチェンジは文字通り生まれ変わりを意味する。
だというのにステータス低下の弊害をまったく見せてない。
さすがは勇者、という事か。
「おっさんはおっさんは!」
「そう急くな。ほれ」
俺はシアに新しく更新された金色の冒険者証を見せる。
ネーム:ガリウス・ノーザン
レベル:78
ランク:A
クラス:戦士
称 号:魔神殺し 闇夜の燈火 死神に滅びを告げる者
身 長:182
体 重:78
ステ表:筋力A 体力A 魔力E
敏捷B 器用B 精神A
「おお~レベルが上がったのもあるけど……
相変わらずおっさんは凄いね」
「何がだ?」
「何ていうか――究極の努力の人、って感じ。
ステータスにそつがない」
「まあ自分に出来る限りの事はやってきたからな。
弛まぬ鍛錬の成果だ」
「あら? 面白い事をしてますわね」
「仲間外れは良くない」
「分かった分かった。
本来ステータスは秘匿するものだが――この機会だ。
久々にお前達のも見せてくれ」
「では僭越ながらわたくしから」
ネーム:フィーナ・ヴァレンシュア
レベル:65
ランク:AA
クラス:聖女
称 号:慈愛を齎す者 主神の寵愛児 憂鬱の貴腐人
身 長:166
体 重:51
ステ表:筋力D 体力C 魔力B
敏捷B 器用A 精神S
「うう、チート臭いステータスだぁ」
「確かに。でもまあリアには負けるな」
「ん。では御開帳」
ネーム:ミザリア・レインフィールド
レベル:72
ランク:AAA
クラス:賢者
称 号:真理の探究者 星々の招き手 境界を越えしもの
身 長:152
体 重:44
ステ表:筋力E 体力D 魔力SS
敏捷B 器用A 精神C
「ステータスだけなら既にS級だな、リアは」
「それに加えて高位魔術の使い手だもん。
本当に尊敬しちゃうよ」
「同じ時期にガリウス様に師事したのに――
随分差を付けられましたわ。悔しいです」
「気にすることは無い。
これは一点集中型の特徴。汎用性に欠ける。
通常ならお勧めできない伸ばし方。
けど――頼りになるパーティメンバーがいる。
なので安心してこの形にした」
「嬉しい事を言ってくれる。
さあ、準備はいいか?
この玄室を出たらそこはもうダンジョンの真っ只中だ。
俺が斥候を務めるが……油断するなよ?」
「「「はい!」」」
「いい返事だ。じゃあ気合いを入れて行こう」
索敵スキルを発動。
すると俺を中心に脳裏に円形状にセンサーが広がっていく。
どうやら近辺に妖魔はいない様だ。
俺は軽く指先で扉に触れると罠を確認。
ノブ部分や鍵穴に問題ない事を確かめると、そっと玄室を出て先行する。
その後を足音を消して追ってくる三人。
こうして俺達の精霊――迷宮都市ダンジョンの初アタックは開始された。




