おっさん、尻を隠す
「なっ……
後ろを取られた、だと!?」
仕事柄、気配察知に関してはかなりのレベルに達しているつもりだ。
師匠に徹底的に鍛えられたのもあるが……冒険者稼業においてこれが出来ないと対象となる獲物を逃すだけでなく、致命的な不意打ちを受けるからである。
なので俺は常に自分を中心とした微魔力のセンサー網を張り巡らせている。
その精度は自慢じゃないが、姿の視えないインヴィジブルストーカーという妖魔の襲撃すら看破した事があるくらいだ。
そんな俺が背後を取られるまでまったく感知出来ない。
驚愕のあまり動揺を隠せず振り返る俺。
そこにいたのは俺と同年代――
白い髪に紫のメッシュが入った痩身の男だった。
身体にぴったりフィットしたスタイリッシュな服に短剣を所持している。
眼鼻の整った柔和そうな優男風。
しかしニコニコと笑う動きに付随するようにどこかクネクネと婀娜っぽい。
もしかしなくともこの男――
「――あらん。
や~ね、そんな怖い目をしないでほしいわ。
いきなり背後を取ったのは謝るから。
仲良くしましょうよ……ねっ?」
ウインク一つと共に飛んでくる絶妙に色っぽい流し目。
その瞬間、俺の男として生存本能が最大警鐘を奏でる。
いかん、この男――やはりそっち系か!?
戦場で幾度かこの手の性癖を持つ奴に絡まれた事があるが……正直慣れない。
俺は狂信的かつ熱烈な異性愛好者なのである。
別に同性愛についてどうもこうも思わない、当事者同士が納得なら別に構わないとは思うのだが……自分がその対象になるのは勘弁だ。
本能の命ずるままお尻を抑えて椅子ごと後ずさる俺。
その間に割って入る様にシア達が立ち塞がる。
「ちょっと、いったい何なの!?」
「用事があるならまず名乗るべき」
「ガリウス様の処女はわたくしのものですからね!」
喧々囂々。
いつでも戦闘態勢に入れるよう警戒しながらも思い思いに捲し立てる三人。
俺を護りたいというその気持ちは凄く嬉しいが……
フィー、俺の尻は俺のものだ。
三人の口撃に優男は諸手を上げて降参の意を示す。
「はいはい、ごめんなさいね。
都市で噂の貴方達を見かけたから声を掛けてみたくなったの。
他に他意はないから安心してちょうだい。
アタシはの名はヴィヴィ。
こう見えてS級の冒険者なんだけど……ご存知ないかしら?」
肩を竦めて名乗り上げライセンスを提示する優男――ヴィヴィ。
そのライセンスは金を超える白銀、プラチナに輝いていた。
知らない筈がない。
7人のEXランクを除けば世界最高の等級。
冒険者にとって頂点ともいうべき存在――S級。
中でも【隠形】の異名を持つ最高峰の冒険者の名を。
ごめんなさい。
今日は映画観賞(かぐや様は~)の為、短めです!




