おっさん、昇格する
「――はい、確認致しました。
経験点、貢献点共に基準値を大きく凌駕しており達成率も問題ございません」
精霊都市の冒険者ギルド、個室。
メイアとは違うが本日担当になった受付嬢は快活な口調でテキパキと告げる。
伝えられたその内容に俺はひとまず安堵した。
通常ギルドから要請されて行われる昇進審査を自ら申請し願い出た身としては、ここで評価点が足らずに落ちていたら、しまらないにも程があるところだ。
冒険者の格付けであるランクは主に三つで評価される。
一つ、経験点。
これは様々な経験を経てちゃんと実力に見合った依頼を受けてるかが問われる。
雑魚狩りをしても勿論評価はされるが、やはりランクに応じた討伐や採取能力が問われるので高い評価を受けたいなら常日頃から精進するしかない。
二つ、貢献点。
これは冒険者ギルドだけでなく、周囲への接し方や本人の人柄も含めた総合的な対人関係――世の中にどれだけ貢献したかという評価に繋がる。
強いだけの無法者を冒険者ギルドは必要としてない。
厳しいようだがランクに応じた高潔な振る舞いを求められるからだ。
高ランク冒険者とはそれだけで社会的信用を得られる。
これも先人が積み上げてきた血と汗と努力の賜物だ。
俺達に続く後輩たちの為にもギルドは世間に対する貢献点を重んじる。
力自慢の荒くれ者がなかなか昇格出来ないのもここがネックになっている。
そして最後――依頼に対する達成率。
これは文字通りの意味だ。
いくら人格者であろうが依頼内容を達成出来ないのでは意味がない。
ただこの達成率には落とし穴が潜んでいるので注意が必要だ。
きちんと依頼内容をクリアするのは当然として、その上で仕事内容に対する丁寧な気遣いなどが隠れた評価点としてある。
顧客というのは当然の事だが、同じ内容の依頼でも出来栄えが違えば勿論良い方を選んでくる。
報酬が割高になるが指名依頼という制度もあるくらいだ。
人はあまりに良い仕事振りを見ると笑い出す。
そして次も笑いたくなるのでまた依頼を頼んでくれる。
リピーター確保の為、ギルドは常にアンケートを図り評価を重ねるのだ。
では何故俺がギルド内でこんな審査を受けているかというと――
それは無論三人の為である。
二日前――俺はあいつらに自分なりの気持ちを打ち明け、ケジメを付けた。
拒否されるとは思わなかったが、それでも不安だったのは確かだ。
だがあいつらは受け入れてくれた。
こんな冴えないおっさんを肯定してくれた。
ならば今度は俺が報いる番だ。
冒険者ランクは上がれば上がる程、様々な優遇を受ける事が出来る。
これまでは自らのこだわりの為に昇格を固辞してきたが……
それはもう止めだ。
あいつらを護る――共に生きると決めた以上、使えるものは何でも使う。
それが俺が決めた覚悟だ。
「よって当冒険者ギルドは本人の申請により差し止めていた等級昇格を改め――
まことに異例ではありますが、D級冒険者ガリウス・ノーザンの三階級特進を、ここに認め――A級に叙する事とします。
おめでとうございます、ガリウス様!
今日から貴方はA級冒険者――そしてガリウス様の所属する【気紛れ明星】はSランクへと昇格致します!」
受付嬢から矢継ぎ早に告げられる内容に、理解が追い付かない。
俺がA級――辺境最優と称される冒険者に認められた?
しかも一足どころか三足飛びに?
自分達のパーティがSランクに昇格した事と併せて実感が湧かない。
ただ……何だろう?
じわりじわりと浮かび上がる熱い衝動がある。
そうか……これは歓喜か。
目標を達成した時に感じる特別な思いか。
師匠に褒められていた頃以来――20年近く忘れていた感情。
久しく味わったことのない制御不能な迸りに――俺は無言で拳を振り上げると、心の底から咆哮するのだった。
あけましておめでとうございます。
本年度もおっさんと三人娘を宜しくお願い致します。
さて、いよいよ第三部開始ですが……
せっかく書いた登場人物紹介を入れ忘れました^^:
次の更新はこっちになりますのでこの話の前に差し込みますね。




