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おっさん、懺悔する


「おっさん、これなんかどう?」

「ガリウス、これもきっと売れ筋になる」

「おいおい、待て待て二人とも!

 別に急ぎじゃないんだからゆっくり見させろ!」


 翌朝。

 盗賊ギルドを出た俺達は精霊都市名物の朝市の中にいた。

 さすがに密度の濃い二日間だったので、数日は観光と休息に当てようという話になったからである。

 あとは開拓村で何でも屋を営む都合上、仕入れも行わなくてはならない。

 俺達が入村してからも順調に村民の数は増え続けており、需要はうなぎ登りだ。

 ただ零細商売の悲しさで様々な要望が寄せられている。

 今日は三人にも協力してもらい新しい商品の入荷を検討しているところだ。

 これに気を良くしたのがシアとリアの二人である。

 朝市を縦横無尽に駆け回っては色々な品々を見つけてくる。

 自分の選んだ物が商品棚に並ぶというのは思った以上に自尊心を刺激する様だ。


「石鹸、香油――最新の化粧品。

 女子力を高めるなら、ここら辺は外せないよ」

「――ん。

 調理器具や調味料一式の方も捨てがたい。

 村のおばさま方は実用性を第一に重んじる筈」

「リアは食べ物関係ばっかじゃん!」

「シアもお洒落関係ばっかり。

 それではお腹は満たされない」

「食い気より色気でしょ!?」

「それは浅はか。

 衣食足りて礼節を知る――食事は暮らしの上で最も重要な出来事。

 疎かにするなんてとんでもない」

「お前ら……」


 獲物を前に睨み合う竜虎のように討論をし始める二人。

 どちらも間違ってないだけに甲乙つけがたい。


「ならば――まずはどちらもお店に置いてみるのはいかがです?

 もし売れなければウチで引き取れば良いのですし」

「おお、ナイスなアイデア!」

「ん。さすがフィー。

 それなら角が立たない。

 ならば――更なる偵察を実行」

「あ、待ってよリア!

 ボクも一緒に回るんだから!」


 先程までのいがみ合いはどこへ行ったのか?

 仲良く連れ立つと、またも朝市へと特攻するシアとリア。

 なんで最初からああいう風に出来ないんだか。

 離れても賑やかな声を聞きながら、俺は二人に渡された品を手に溜息をもらす。

 そんな俺の様子を見ながらフィーは苦笑する。

 買い物に付き合わされる冴えない中年男。

 傍から見れば滑稽な光景だろう。


「酷いな、笑う事はないだろう?」

「すみません、ガリウス様。

 でも――よくお似合いでしてよ?」

「間抜けな姿が、か?」

「いいえ。

 家庭を持った様な姿が――ですわ。

 冒険者こんな稼業をしてるんですもの。

 死は身近な存在で、退屈な日常を感じさせる人は稀です。

 でもガリウス様は何というか自然体なのですね。

 生き死に対し毅然と抗うも、その結果についてはただあるがまま受け入れようとしている風に見受けられます」

「そんな恰好が良いものじゃない。

 けど俺も若い頃には色々あって経験してきたからな。

 常在戦場――自然と身についた死生観なんだろう」

「なるほど……それでですのね。

 時折ガリウス様から高司祭様みたいな徳を感じるのは」

「婆さんのことか?

 まあ婆さんも言ってたけど……きっと行き着く先は一緒なんだろうよ。

 人に優しく道を説くのも。

 自らを厳しく律し枷を課すのも。

 究極的には人間という器を磨いていく事に変わりない」

「あら? 夢がございませんわ」

「現実に生きてるからな、みんな」


 呆れた様に言うフィーに俺は真顔で返す。

 彼女は昨夜の事を何も気に懸けた様子がない仕草で接してくれる。

 それは俺にとって嬉しい事だがやはり言及しておかねばなるまい。

 深呼吸を一つすると俺はフィーに告げる。


「昨日はありがとう、フィー。

 溜まっていた澱を全て吐き出せたよ。

 お陰でこれからも何とかやっていける」

「わたくしには何の事だかさっぱり。

 ただ――ガリウス様が懺悔したいというのなら聞きます。

 迷える子羊の罪を許すのも、神の地上代行者たる聖女の役目ですもの。

 貴方の罪はわたくしも共に背負いましょう――だから前を向きなさい」


 厳かに告げるフィー。

 それは威厳に満ちていてそれでいながら慈愛に満ちたまさに聖女の姿。

 彼女が役職でなく本当の意味での聖女だと俺は改めて思い知らされる。


「はい、これで貴方の罪は清められ赦されました。

 贖罪は十分に為されたのです。

 なので――今度はこちらの食材を宜しくお願い致しますね」


 朗らかに微笑みながら俺の持つ籠へ見知らぬ果物を入れるフィー。

 冗談を交えながらも有耶無耶にするのでなく適切に心の重荷を取り除く。

 こういったところは年下ながら敵わないな、と思う。

 俺は晴れ晴れとした笑みを彼女に返すと、共に連れ立ち二人の後を追う。

 動き始めた未来に向かって。

 

 


 




一ヶ月で10万PV達成で、もう40万PV到達です。

いつも応援ありがとうございます。

明日で本年度の更新も終了ですね。

来年も是非ともよろしくお願い致します。

次回、第二部最終話「おっさん、決断する」をお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  一見すると四人が何だかんだと言いながら買い物をしているのんびりとした風景なんだけど…… ガリウスにとっては懺悔と回心という一生のうちの大きな出来事が起こっている。とんでもない二重構造で、…
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