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おっさん、呆れ返る


「いや~どうにかなったろう?

 これもひとえにオレのお陰ってヤツだな。

 感謝してもいいぞ」


 美味そうにエールを飲み干しながらとんでもない感想を述べるマウザー。

 傲岸不遜を地でいくその考えに、俺は呆れを通り越し寧ろ感心してしまう。

 こいつは本当に昔からブレないな。

 キンキンに冷えた新しいエールを注いでやりながら思わず述懐する。

 伯爵に対し一連の事後報告後――

 俺達は協力し合い各部署への伝達に明け暮れた。

 何せ都市を支える主要機関の重要人物に魔神が成りすましていたのだ。

 可能性は低いとはいえ何処かに魔神が潜り込んでいるか分からない。

 俺が師匠から学んでいた鏡像魔神の判別方法と併せ、この後の各機関内では徹底した身元の洗い直しが行われる事は確かだ。

 更なる面倒に巻き込まれる前に盗賊ギルドに逃げ込んで正解だった。

 さすがに動きずくめだったのでシア達には別室で休んで貰っている。

 ギルド内にはそういう用途にも使える部屋があるらしく、案内されたあいつらは何故か赤面していたが……これも社会勉強だ。しっかり学んでくるがいい。

 

「ん? どうしたガリウス?

 全然飲んでねえじゃないか。

 別に毒は入ってないぞ……今は」

「今は――か。

 怖いな、相変わらず。

 知己でも何でもお構いなしか」

「当たり前だ。

 こちとら都市の暗部を司る長だぞ。

 知人だろうが親類だろうが関係ねえ。

 等しく利用できるかどうかが重要だ。

 逆にオレが無償の善意なんてもんを持ちだしたら、お前だって引くだろう?」

「まあ確かに否定はしないが……

 今回で確信した。

 やっぱりお前は信頼できない。

 だが――信用することは出来る、とな」

「それは嬉しい評価だ。

 オレなんかを信頼する奴は見る目がねえ。

 あの腐れ魔神もそこが分かってなかったな。

 しかし――オレは契約は守る。

 悪党を自認するオレの、そこだけは譲れない矜持ってやつだ」


 ニヤリ、と嗤ったマウザーは酒杯を呷る。

 信頼とは過去の実績や業績――あるいはその人物の立振る舞いを見た上で、その人物の未来の行動を期待する行為や感情のことを指す。

 これに対し、信用は何らかの実績やその出来栄えに対しての評価だ。

 それが故に信用する為には、実績が必要不可欠である。

 いうなれば積み上げてきた過去に対して信用するのだ。

 これらを踏まえると――

 マウザーはとても信頼できない人物だ。

 契約中でなければ今にも裏切られる可能性すらある。

 裏切れる時に裏切る。 

 必要以上の枷を背負わない。

 それがこいつの本性であり――残念ながら変わらない生き方だ。

 俺が哀しくなった一因である。

 ただ――契約至上主義であるマウザーは金を貰うまでは絶対裏切らない。

 俺が前金のみで依頼を完了するまで支払いを控えていたのもその為である。

 自分を十三魔将だと思い込んでいた鏡像魔神の前での会話も確認の一環だ。

 マウザーにとっては契約者が人間だろうが魔神だろうが関係がない。

 支払いが完結してるか否かだ。

 なので自分のやっている事が何か分かってるのか(料金はどうした)という俺の問いに、マウザーはオレにとっては金払いの良い最高のスポンサーだったと過去形で答えた。つまり魔神との契約は終了していたと告げた。

 ならば話は簡単だ。

 俺との契約が継続中である以上、まずはそれが優先される。

 更にシア達には伏せて秘密裏に申請していた『魔神の正体によっては討伐に手を貸せ。追加報酬は弾む』も無事に受理されていた。

 間抜けなことに鏡像魔神は、俺達を殺害するつもりでギルドに暗殺を依頼した筈なのに却って獅子身中の虫を抱え、自らの首を絞める結果となったのだ。

 俺が嬉しくなった要因である。

 気の置けない――でなく、決して気を許せない隣人。

 それこそがこの男に対する正当な評価だろう。

 愚痴を零しながらも大笑いをするマウザーに対し複雑な思いを抱きながらも――俺は偽りのない笑みを以て返すのだった。

 



 


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