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おっさん、哀愁を漂う

 

「マウザー……

 お前、自分のやっている事が何か分かってるのか?」

「ああ――これか?

 勿論、充分理解してるよ」

「魔神――

 人類の敵対種に与してるんだぞ?」

「それがどうした?

 オレにとっては金払いの良い最高のスポンサーだったよ。

 おまけにちょこっと手伝うだけで糞どもを薙ぎ払える。

 これほど痛快な事があるかい」

「お前……」


 言葉を尽くして説き伏せようとした俺だったが――狂気を孕んだマウザーの瞳を見て断念する。

 こいつは変わらない。

 その信念も、信条も――俺が会った時から何も変容していない。

 付き合いが長い俺にとって、それがどうしょうもなく悲しくて――

 どうしょうもなく嬉しかった。


「だいたいギルドの奴等は糞だ。

 規約だ上納金だとオレの事を縛りつけやがる。

 なら――オレだって好き勝手やってもいいだろう?」

「それがお前の選んだ選択か?」

「――ああ。

 後悔なんかしてないぜ」

「そうか……」

「ふふ、お喋りはもういいだろう。

 さあ殺せ、貴様ら!

 怨敵ガリウスを含む勇者共を皆殺しにしろ!」


 熱く語り合いながら絶好のポジションを探っていた俺達。

 関係を察したのか遮る様にラキソベロン――鏡像魔神の物騒な指令が飛ぶ。

 ふむ……残念だ。

 もう少し情報を整えたかったが――ならば仕方ない。


「茶番はここまでだ。

 いくぞ、ガリウス!」

「ああ、来い!」

「いいぞ、殺し合え!

 貴様らの絶望に沈む顔を、新しい貌にして――って、えっ?」


 理解出来ない、といった感じで硬直する司祭姿の鏡像魔神。

 その背にはマウザーが投げたダガーが深々と刺さっていた。

 ギルド特製……いかなる生命体も死に到らしめる猛毒の塗られた刃が。


「な、何故――

 標的はこいつらだと……」

「悪いな、司祭様。

 魔神だろうが何だろうがアンタは金払いが良かった。

 オレにとって最高の顧客だったよ。

 ただ――支払いは既に終えていた。

 契約主義のオレにとっては新しく継続中の契約が大事でね。

 ガリウスと交わした魔神探索の協力依頼は現在進行中だ」

「う、裏切りを――」

「逆に訊くが――裏切って何が悪い?

 オレはいつだって自分の心に正直だぞ。

 ああ、待機させて悪かったな。

 やれ――お前ら!」

 

 不敵な笑みを浮かべたマウザーの命令に応じる奴配下の暗殺者達。

 無言のままマウザー同様、猛毒の塗られたダガーを鏡像魔神へ一斉に投じる。

 必死に刃を払い除ける鏡像魔神だったが数が数だ。

 動揺した影響もあるのか何本が突き刺さる。


「どうだい、ギルド特製毒の味は?

 前大戦の成果を以て調合したから、アンタみたいな存在にも効くはずだが?」

「ぐっぐはっ……

 馬鹿な……完璧な策がこんな事で……」

「――完璧?

 違うな、それは」

「怨敵、ガリウス……

 どういう意味だ……」

「仕組まれた策は確かに巧妙。

 上手くいけば師匠ファノメネルを隷属させた様に事が運んだだろう。

 だが鏡像魔神――お前が駄目だ。

 お前の存在が全てをご破算にしてしまった」

「なん、だと……?」

「与えられた使命のみを遵守してれば良かった。

 しかしお前は誤ってしまった。

 成り代わった司祭が持っていた欲望と一体化し過ぎ、余計な事に手を出した。

 魔神が教団運営に手を出してどうする?

 大人しく領主との謁見を進めれば良かったものを。

 お前の行動は俺達が付け入る隙を与えてしまった。

 人の持つ狂気――欲望を見誤ったんだ、お前は。

 誰かに成り代われる筈のお前が逆に精神を染められた。

 自分が十三魔将と錯覚してしまうほどに」

「ば、馬鹿な……

 我は確かに十三魔将【千貌】の――」

「いいや――お前はただの鏡像魔神だ。

 十三魔将達の放つプレッシャーはこんなものの比じゃない。

 おそらく本物のラキソベロンは既に他の街へ去ったな。

 お前という、自己を喪った鏡像魔神のみを残して」

「ち、違う!

 我は、僕こそが、いや私は――」

「最早、自己の境界――アイデンティティすら無くし始めたか。

 せめてもの慈悲だ。

 毒で苦しまぬよう介錯してやる。

 魔現刃――【烈火】!」


 闇を斬り裂く紅蓮の刃は――自己の存在意義を喪い混乱しもがき苦しむ鏡像魔神を一刀両断する。

 抵抗する間もなく消滅していく名も無き憐れな鏡像魔神。

 奴は最後まで自分が十三魔将と思い込んでいたのかもしれない。

 下に恐るべきは奴に命じられた魔将の指示か――

 はたまた奴という強靭な個すら染め上げ侵した、人の持つ狂気サガか。

 何せよこれで決着はついた。

 解き放った剣を鞘に納めながら俺は深々と溜息をつく。

 こうして冒険者連続失踪を発端とする一連の魔神関与事件は幕を閉じた。

 裏に見え隠れする――

 本物の十三魔将【千貌】のラキソベロンの暗躍を感じながら。

 

 

 





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― 新着の感想 ―
[良い点]  魔神を上回る悪党…マウザー。  前回の感想撤回です。食えないおっさん。こちらに金さえあれば心強いヤツですね。
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