おっさん、引き下がる
「これより先は祭事を司る領域。
資格無き者を通す訳には参りません。
どうかお引き取り願いたい」
「いや、俺達は――」
「お引き取りを、と告げた筈ですが?」
取り付く島もない――とは、このような事をいうのだろう。
教会内部へ通じる扉を守る門番は、交渉の余地どころか頑として動かない。
支部についてからの流れがこのままでは立ち消えである。
せっかく盗賊ギルドからの伝令で情報を手にしたというのに、このままでは間に合わなくなってしまう恐れが出てきた。
一応、こうならないよう事前にフィーたちを派遣していたのだが――
俺とリアは思わず顔を見合わせる。
精霊の力が強いここ精霊都市において、神の威光を示す教会の権威は低い。
だからこそ莫大な喜捨によって豪華な教会が建てられたのだが……
どうもそれが悪いように作用している気がする。
俺達が今いる礼拝堂も、高価なステンドグラスがふんだんに使われ、燭台の燈るシャンデリアもどうやらブランド品のようだ。
質素を尊ぶ教会に似つかわしくない内装。
無論高価な品に見合う高邁な精神があれば話は別だろうが――
だが教会の敷地に入った瞬間から感じるのだ。
権力に酔った者達特有の驕りと偏見に満ちた視線を。
さらに聞き耳を立てるまでもない。
「あのような薄汚れた者達が――」
「洗礼も受けずにおぞましい――」
「勇者の従者とはいえ、質も落ちたものよ――」
まるで俺達に当てつける様に囁き合い、噂をしている。
これは推測だが――他所同様の評価を受けれないここの支部の者たちは身内同士で結束を固めていったのだろう。
それは難事に立ち向かうには素晴らしい事だが、こういったネガティブな状況下においてはまったく逆ベクトルに働く。
余所者に対する排他的な拒絶を招きやすい。
本来そうならない為の、神の社な筈なのに――起きた事はまったく正反対だ。
以前俺が語ったように人は正しいことをする時こそ道を踏み外しやすい。
「自分達はこれだけ正しい事をしているのに――
何故正しい評価を受けれないのだろうか?
神のせいではないし神のせいには出来ない――
ならばそれは自分達を取り巻く者達が愚かに違いない。
自分達は選ばれた存在なのだから」
そういった選民思想に偏りやすくなる。
まあこれも俺の偏見なので全部が的中しているとは思わない。
しかし中らずとも遠からず――それに近い事は起きてる。
こうなると俺達だけでなくフィー達の存在も更に排他的行為に拍車を掛ける。
自分達の縄張りを土足で荒らすだけでなく余所でも栄光を浴びる者達。
支部の者達のコンプレックスを刺激するには十分な案件だ。
なのでここで粘っても埒が明かない。
このまま無理強いをすると実力行使に出てきそうですらある。
後れを取る様な俺達ではないが、教会に弓を引いたという事実は勇者パーティである俺達にとって非常にセンセーショナルな印象を与えてしまう。
仕方ない、ここはひとまず一旦引き下がり次の手を考えるか。
そう思った俺が踵を返した瞬間――
「何をしているのですか?」
威厳に満ちた美しい声が――煌びやかな礼拝堂に響き渡った。




